行ってきた / 行っている研究
本研究室では、子どもの学習や教師の学習指導にかかわる教育心理学や教師教育に関する研究を行っています。
本研究室では、子どもの学習や教師の学習指導にかかわる教育心理学や教師教育に関する研究を行っています。
メタ認知の働きを高める学習方略の活用
近年、学校教育では、教科内容の習得に加え、様々な状況で活用できる汎用的な資質・能力の育成が目指されており、そうした資質・能力の一つとして、「メタ認知」が注目されています。
「認知」は頭の働き全般(何かを覚えたり、理解したり、問題を解いたりすること)を指し、「メタ」は「一段上の」という意味を持つ接頭辞です。つまり、メタ認知とは、自分の頭の働きを一段上からとらえ、調整する知的な機能を表します。例えば、「自分はこの文章をちゃんと理解できているか?」と自分の認知状態をチェックしたり、「よく分からなくなってきたから、もう一度文章を読み直そう」と方針や行動を変更したりするのが、まさにメタ認知の働きです。
これまでの研究において、学習をうまく進める人は、メタ認知を高い次元で活発に働かせていることが分かっています。例えば、メタ認知を上手に働かせるためには、アウトプットを活用することが効果的です。漢字を覚える際にひたすら書く、あるいは、文章を理解する際に繰り返し読んだりするといったことは、情報を頭に入力するインプットに偏っており、あまり効果的ではありません。覚えた漢字を本当に覚えられたか(ふりがなだけを見て)実際に書いてみる、読んだ文章を本当に理解できたか説明してみる(つまり、情報を頭から出力してアウトプットする)ことで、自分の記憶や理解の状態を明確にすることができます。
本研究室では、こうした効果的な学習方法(教育心理学では「学習方略」と呼ばれます)の有効性を実証したり、学習方略を児童生徒が身に付けられるような介入方法を開発しその効果を検証したり、学校の先生方と協働して学校で学習講座を実践したりする研究を行ってきました。また、近年では、学ぶべきことが明確に設定される教科の学習のみならず、学ぶべきこと自体を学習者が設定し追究する探究的な学習にも関心を広げ、研究を行っております。
関連する研究業績
Fukaya, T. (2013). Explanation generation, not explanation expectancy, improves metacomprehension accuracy. Metacognition and Learning, 8(1), 1-18. https://doi.org/10.1007/s11409-012-9093-0
深谷達史・植阪友理・田中瑛津子・篠ヶ谷圭太・西尾信一・市川伸一 (2016). 高等学校における教えあい講座の実践―教えあいの質と学習方略に対する効果― 教育心理学研究, 64(1), 88-104. https://doi.org/10.5926/jjep.64.88
深谷達史・三戸大輔 (2021). 課題の設定を支援する自由研究の授業実践とその効果検証. 日本教育工学会論文誌,45(2),213-224. https://doi.org/10.15077/jjet.44140
学校現場での学習方略指導のポイントを解説した資料
深谷達史 (2022). 学習方略の活用を通して学びの自己調整を促す. 教育研究(令和4年5月号), 28-31. https://researchmap.jp/fukaya/misc/37019376/attachment_file.pdf
認知心理学の理論を活用した授業づくり
子どもたちの学習をより豊かにしていくためには、個々の学習方略に特化した研究のみならず、先生方が学校で取り組む日々の授業の質を改善していくことが不可欠です。本研究室では、学校の先生方と協働し、こうした授業改善の取り組みを研究として行うことにも力を入れてきました。
例えば、「はじめ-なか-おわりに整理する」といった説明文をうまく読むコツは、自分が説明文を書く際にも有効なコツとなります。しかし、子どもの実態として、ある単元で学んだコツが他の単元でも使えるということに気がつかず、せっかく学習したことが活かされないということがあります。また、学校においては、国語科の中で「読むこと」と「書くこと」が別々の単元として扱われることもあって、読むことと書くことを結びつけて指導がされないこともあります。そこで、私は学校の先生と協働し、読むコツを書く場面でも活用する実践研究を行いました。
他に、市川伸一先生(東京大学名誉教授)が提唱された「教えて考えさせる授業」に関する研究も行ってきました。「教えて考えさせる授業」は、習得的な学習における授業スタイルの一つで、教師からの説明、理解確認、理解深化、自己評価という4つの活動を授業の枠組みとして、児童生徒の深い理解を促すとともに、自ら学ぶ力を向上させることをねらいとしたものです。学校現場での取り組みをもとにした実践研究と、実験授業を通じた実証的な研究から、「教えて考えさせる授業」が児童生徒の学力を高めるうえで有効な授業枠組みであることを報告しました。
関連する研究業績
深谷達史・戸部栄子・立見康彦 (2017). 説明スキーマに基づく読解と表現を促す授業実践―小学校4年生における説明的な文章の指導― 教育心理学研究,65(3),414-428. https://doi.org/10.5926/jjep.65.414
深谷達史・植阪友理・太田裕子・小泉一弘・市川伸一 (2017). 知識の習得・活用および学習方略に焦点をあてた授業改善の取り組み―算数の「教えて考えさせる授業」を軸に― 教育心理学研究,65(4),512-525. https://doi.org/10.5926/jjep.65.512
Fukaya, T., Uesaka, Y., & Ichikawa, S. (2018). Investigating the effects of Thinking after Instruction approach: An experimental study of science class. Educational Technology Research, 41, 1-11. https://doi.org/10.15077/etr.42105
認知カウンセリングによる教師教育
広島大学で行っている個別学習相談(にこにこルーム)の活動は、学術的には認知カウンセリングと呼ばれています。認知カウンセリングは、「〇〇が分からない」といった認知的な問題に対して、認知心理学の発想や知見を活かし学習相談を行うことに特徴があります。
認知カウンセリングに取り組むことは、教師を目指す学生にとっては、子どもと実際にかかわる機会になるだけでなく、子どもの学習のつまずきを認知心理学という専門的な視点から把握し、支援する経験にもなります。認知カウンセリングは、教師にとって重要な指導力を養うことにつながると考え、その効果を実証的に検討する研究を行っています。
そもそも教師の指導力を実証的に検討すること自体が難しいため、このテーマに基づく研究の一環として、教師としての指導力を客観的に測定できるツールを開発することもあわせて行っております。具体的には、効果的な学習指導に必要とされる教師の専門的知識を測定するテストや、実際に行われた授業の映像を視聴してもらいコメントを求めるオンラインフォームを開発したりしてきました。
本格的にこのテーマに着手し始めたのは、私が広島大学に着任した2018年度以降で、成果はまだ形としてはあらわれていない部分も多いですが、現在力を入れているテーマの一つとなっています。関心を持った方は、ぜひお気軽にお問合せください。
関連する研究業績
深谷達史・植阪友理 (2017). 個別支援の実践体験を取り入れた教員養成課程の授業実践. 日本教育工学会論文誌,41(2),157-168. https://doi.org/10.15077/jjet.41007
Fukaya, T., Fukuda, M., & Suzuki, M. (2024). Relationship between mathematical pedagogical content knowledge, beliefs, and motivation of elementary school teachers. Frontiers in Education, 8, 1-15. https://doi.org/10.3389/feduc.2023.1276439
認知カウンセリングの特徴や事例を紹介した資料
深谷達史 (2023). 認知カウンセリングに基づく学習支援. 日本学校心理士会年報, 15, 46-56. https://doi.org/10.60181/arjasp.15.0_46