この論文では,コンテンツ配信ネットワーク(CDN)のフラッシュクラウド問題について取り扱っています.フラッシュクラウドとは,CDNのエッジサーバに対して多数の配信要求が集中したときに発生する一時的な性能劣化現象のことであり,論文では,性能劣化期間を最小化するようなP2P支援手法の提案を行なっています.
P2Pシステムにおけるアップロード容量とダウンロード要求は参加ピア数に比例して増加します.したがって,もし各参加ピアが自分が受けたのと同等以上のサービスを他ピアに与えるようにシステム全体をうまく構成できれば,外部からわずかなサービスを与えてやるだけで,システム内にサービスが溢れた状況を作り出すことができるはずです(善意の連鎖,あるいは悪意の連鎖).BitTorrentが大容量ファイルの高速なダウンロードを実現できているのも同様の理由からです.ただしビデオストリーミングの場合,ダウンローダとして参加したピアがアップローダとして機能するようになるまでには一定の時間が必要であり,この部分の遅延が,フラッシュクラウド発生時の性能劣化の原因となっています.もちろんアップロード容量は少しずつ追いついてくるため,配信性能はしばらく経てば回復しますが,ユーザビリティを保つには,性能劣化期間はできるだけ短くしたいです.
そのために本論文で着目したのは,ダウンローダがアップローダになるまでの遅延時間を短縮することです.具体的には,到着する配信要求の数に応じて動的に成長するオーバーレイ構造(フラッシュクラウドアブソーバー.以下,FCAと略記)を用意し,このオーバーレイでフラッシュクラウドを適宜吸収すると言うアプローチをとっています.FCAの成長は,メディアサーバ,もしくはその代理サーバによって集中的に管理されます(フラッシュクラウドのような非常時には,ある程度強めに統率をしたほうが破綻は起きづらくなる).
論文の位置付けとしては,チャンクストリームの配信に関する従来手法(論文J15aとJ18)を,ピア集合が急速に大きくなっていく状況に拡張したものになっています.ただし,単純に拡張したのではうまくいかなかったので,アンプリファイアと名付けられた機能を持つピア群とターミネータと呼ばれる機能を持ったピア群に明示的に役割分担をし,その有機的な組み合わせによって所望の機能を実現することにしました(機能による分化を組み込んだ方が,系としても安定するのだと思う).FCAの具体的な形状は,各ピアのアップロード容量とその時点での参加ピア数によって決まりますが,任意の時刻において,その時点の参加ピア数への(ほぼ)最小の転送回数でのチャンクストリーム配信がなされるように設計されています.
この手法で作られるオーバーレイ(FCA)はあくまでも緊急避難的なものなので,ダウンロード要求の増加がある程度落ち着いた時点で定常的なオーバーレイに移行すると言うやり方は,実用的には十分あり得えます.また転送回数の最小化に拘らなければ,配信方法はずっと簡単になると思います(この研究は,与えられた条件のもとで転送回数を最小化する手法を極めると言う一連の研究の一部です).