この論文ではP2P支援型コンテンツ配信ネットワーク(P2P-assisted CDN)に着目し,メディアサーバ(CDNのエッジサーバ)の配信負荷が,P2P支援を併用することでどの程度下がるのかを理論的に明らかにしています.
結果の概要は以下の通りです.与えられたビデオストリームがa個の均一なサブストリーム(ストライプ)に分割されており,各ピアのアップロード容量は,a個のストライプを他のピアに転送できるだけの(ギリギリの)大きさであると仮定します.このとき,サーバの容量がN/a以上あれば,N台のピアにa個のストライプを2ホップ以内に届けることができます.1ホップ配信に必要なエッジサーバのアップロード負荷は自明にN以上ですから,1)ストライプへの分割と,2)配信ホップ数の(1ホップから2ホップへの)緩和を許すことによって,サーバコストはa分の1へと劇的に下がることになります.数値例として56Mbpsでエンコードされている4K動画の配信を考えてみましょう.上記の結果が意味するのは,200名の視聴者に1ホップで配信するときのエッジサーバのアップロード負荷が1.12Gbpsとなるのに対し,32個のストライプに分割して2ホップで配信する際の負荷は(オーバーヘッドを無視すれば)350Mbpsにまで減らせると言うことです.システム全体のアップロード容量は視聴者の分だけ増えているので,配信のP2P化によってサーバ負荷の増加が抑えられると言う現象自体は不思議なことではありませんが,2ホップに制限した場合にも十分な効果があると言う事実は(少なくとも私には)衝撃的でした.
論文として個人的に気に入っている箇所は,各ピアのアップロード容量が「均一にaである」と言う強い仮定のもとで得られた上記の結果を「平均でaである」と言う弱い仮定のもとでの結果に拡張している部分です.結論から言うと,そのように仮定を弱めた場合にも,サーバコストは高々3N/aで抑えられることが証明できました(均一な場合の高々3倍です).客観的に見て,この拡張がないと論文としての価値は半減すると思います.
最近,テレビ放送のネットでの同時配信が何かと話題になっています(放送法の改正は終わったはずですが,どこかでストップがかかったと記憶しています).ただし数万台規模であればともかく,数千万台規模のストリーム配信を従来型のCDNでサポートするのは技術的にかなり無理があるので(やるとすればAkamaiが請け負うのだろうか,それともGoogle?),P2P支援型の配信はいずれ何らかの形で導入せざるを得ず,本論文の結果は,そのような場合に効果的に使えると考えています.