秦真二さん (北九州在宅)より
ALSの確定診断をうけて、ほとんどの人は奈落の底に落とされた様な感覚に陥ると思います。今までの生活が一変、当たり前のことが日々当たり前でなくなってくる恐怖心から、生きるか、死ぬかの選択を考える事もあるとおもいます。ALSが進行すると、個人差はあるものの、最終的には人工呼吸器をつけないと生きていけない状態になります。まず自分がその状態になった時のことをイメージ出来て受け入れることができるかどうかが、最初の山場です。私の場合は、診断をうけてから一か月たったころにALSの患者会に参加して、直接人工呼吸器をつけた患者さんと、その介護をしている奥さんにお会い出来た事が、大きかったとおもいます。その方は、40代で発症して30年経過していましたが、顔の表情も生き生きしていました。
奥様には、「大変なこともいっぱいあったけど、開き直ったらこっちのものよ」と言っていただきました。人は誰とご縁があるかによって、その時々の選択肢が変わるものだと思います。私のALSの受け入れ方と考え方は、日々の当たり前のことが当たり前で無くなって来た時に、出来なくなったことを嘆くより、まだ出来ることを探して喜びに変えることを心がけることが大事ということです。在宅生活を自分の思ったようにする為には、国と自治体にどんな社会保障制度があるかを調べて、そのサービスを受けるために何が必要でどうしないといけないかを熟知することが大切です。具体的には、ケアマネの選択、訪問医、訪問看護師、リハビリの作業療法士や理学療法士、他、 関わってくれる支援者にどんな生活をしていきたいか自分の意志を伝えたうえで、介護認定調査の受け答え、障害認定を受けるためのADL検査の意味を理解して協力者になってもらう。ALSに関しては、自分にしか解らない事がいっぱいあります。まれに医療関係者の中で、自分達の経験と知識で患者を図ろうとする人たちもいます。その時々で必要なことは素直に聞くようにしてますが、基本的には自分の状態に必要な処置は自分で判断してから相談するようにしてます。当事者は症状が進行していくなかで、「家族に迷惑をかけるから、人の手を借りて生活を送らないといけない」とか、考えることがあるかもしれません。でも私は家族が理解者になってくれたらそれでいいと思います。
話は前後しますが、進行の度合いによって必用なサービスが変わっていきます。私の場合、進行の度合いを三つのステージに分けて考えています。 一つ目のステージは、2018年 12月から2019年 9月までの、「歩行器を使ってトイレに行き自力で用を足し、 自分でどうにかして食べることができていた時期」で介護保険の生活援助のサービスで生活していました。
二つ目のステージは、 2019年 10月から2020年10月で、「自力で立つことが出来なくなり、食事も介助がないと出来無くなって、介護保険の生活援助と身体介助、障害福祉サービス60時間の支給で、2時間ルールの隙間を訪問看護に入ってもらいながら生活していた時期」で、関係者各位に大変感謝しています。問題は夜間帯の過ごし方です。それからが、三つ目のステージの始まりでした。ナイトケアのヘルパーさんに20時に来てもらった時、ベットに移乗しオムツを付けて、翌朝8時にヘルパーさんが来てくれるまで、痰を出したくても口の中に貯めたままにしていました。喉が渇いても我慢する事が多くなっていました。酸素飽和度が下がるようになって、鼻呼吸器のバイパップ装着が必用になれば、既に手が使えないから、誰かがいてくれる環境を整えないといけなくなるので、重度訪問介護が必要だと思いました。ここが在宅生活を続けていけるかどうかの、ターニングポイントだったと思います。重度訪問介護は、特定の難病を患った障がい者が、在宅で生活するための制度です。最終的には24時間365日の見守りを含めた、あらゆる介助、入院付き添い、外出の付き添い等。ALSの進行は先読みが出来るため、この支援体制を早い時期に整える事で、次に必用になることを含めた計画を立てやすくなります。例えば、胃漏を造る、気管切開をする、レスパイト入院をする、病院との予定調整など、ヘルパー付き添いも可能になります。付き添いの目的はコミュニケーション支援です。私はALSは、乗り越えられる病気だと思っています。昨年の三月に気管切開して、八月に咽頭分離手術をしました。三月は痰がおおすぎて、排痰が苦しくなり、救急搬送で切開しました。
八月は、食べることを目的に咽頭分離をしました。これでALSの医療的処置は一応全部終わりました。ALS当事者は、みんな、年齢も、進行の状態、家族構成も、境遇は違いますが、自分が自分らしく生きていくために、その個人の尊厳は守られないといけないと思います。
ALS患者にとって、最大の選択は気管切開をするかしないかのはんだんだと思います。結論から言えばして良かったです。声をうしなう不安、人工呼吸器を24時間付けておかないといけなくなる生活、それらは想像していた時は不安でしたが、やってみたら別に何ともない事でした。私は口頭分離術をする予定で、半年に一度九大病院で診察をうけていました。その目的は食べ続けるためです。 いまおもえば、もう少し早い時期にしておけば良かったと思います。 痰が増えて排たんが苦しくなり、救急搬送で気管切開をしました。その後は、まだ誤嚥のリスクがあるため、分離術をするまで飲食をやめていました。この間に嚥下機能がさがりました。はじめは気管切開したら必ず人工呼吸器をつけるものと思い込んでました。でも自発呼吸が出来るので、 人工呼吸器にたよらずに生活できています。ただ、寝るときは念の為呼吸器をつけてます。 痰の吸引は、自動痰吸引器「アモレ」を使っているので、夜間の吸引は、ほぼありません。
在宅生活を楽しくするためには、まずALSとどう向き合うか? が重要だと思います。人間誰しも避けて通れない、「生」、「老」、 「病」、 「死」、という4つの苦しみがあります。それでも、生きていく中で起こるさまざまな悩み苦しみを楽しむかのように、乗り越える人もいます。年老いても若々しく元気な人もいます。 重い病気でも、人を励ましていきいきしている人もいます。 余命を告げられても所願満足に生きようとする人もいます。心はどう思おうが自由です。 前向きに楽しく生きていこうと思えるようになりました。 これまでの選択と体験したことがお役に立てれば嬉しく思います。