Dr. Fumitaka Ishiwari
Research

このページでは石割が現在行っている研究のうち、既に論文化され、公開して差し支えない研究内容について紹介しています。このページの内容以外にも、様々なチャレンジングな研究を行っておりますので、興味のある方は是非一度研究室にお越しください(お問い合わせはこちらまで)。

柔軟性と対称性を併せ持つDACO含有ラダーポリマーの開発

主鎖に沿って二本以上の化学結合を有するラダーポリマーは、多重の化学結合に由来する優れた熱安定性・力学特性を示すと期待されています。これまでに合成されてきたラダーポリマーは極めて剛直な主鎖構造を持つものばかりですが、もし柔軟なラダーポリマーが合成できればこれらの性質に加えて制限された二次元的なコンフォメーション挙動に基づく特異な物性発現が期待できます。これまでに、Tröger’s base骨格を主鎖に持つ剛直なラダーポリマー中のTröger’s base骨格のアミナール部位を開裂させ、環反転可能な1,5-ジアザシクロオクタン(DACO)骨格へと変換し、柔軟性ラダーポリマーを合成する新手法を見出しました(ACS Macro Lett. 2017, 6, 775)。この変換反応に伴い主鎖面に沿った構造等価性(対称性)も獲得できます。一連の反応は水・酸素存在下、貧溶媒を反応溶媒として用いても進行するため、自立膜の状態でも反応前の形状を保ったまま簡便に目的のラダーポリマーが得られます。また、反応後に生成する二級アミン部位に種々の官能基を導入することも可能です。この合成手法は構造明確な柔軟性ラダーポリマーを合成する初の手法として、Synfacts誌にて「Mission Accomplished: Synthesis of ‘Flexible’ Ladder Polymers」としてハイライトされるなど、国際的にも高く評価されました。

また、得られたDACO含有ラダーポリマーはルイス酸の配位と脱離に基づき、配座柔軟性が大きく変化する刺激応答性を持つ事も見出しました。DACO類にBPh2Clというルイス酸を作用させると、DACOの二つの窒素原子がホウ素で架橋され、Tröger’s baseのアミナール炭素がホウ素で置換された構造を持つ、Bora Tröger’s base構造が形成される事を見出しました。さらに、このBora Tröger’s base構造は配座変化を起こさない剛直な構造であることを各種測定により明らかにしました。この配位したホウ素は塩基性水溶液で処理する事により容易に脱離し、元の配座柔軟なDACO類に容易に戻る事から、DACOラダーポリマーは、ルイス酸の配位と脱離に基づき、配座柔軟性がスイッチ可能である事を見出しました(Polym. Chem. 2020, 11, 3690)。このような配座柔軟性スイッチングが可能なポリマーはこれまでに存在せず、新しい刺激応答性材料としての機能が期待できます。現在、配座柔軟性スイッチングに基づく物性変化について研究を進めています。

しかし、前述の方法(ACS Macro Lett. 2017)では、原料であるTröger’s base含有ラダーポリマーに対してメチル化を行った際に、二つのメチル基のどちらがメチル化されるは制御不可能であり、実は、構造上にランダム性が生じる事になります。また、Nアルキル基として導入出来ていた置換基もメチル基だけでした。最近我々は、様々なアルキルハライドを用いて、段階的にSN2反応と開環反応を行う事で、メチル基以外にも、ベンジル誘導体、アリル基、カルボニル基などの様々なアルキル基を窒素原子上に持つDACO含有ラダーポリマーが得られる事を見出しました。このとき、二つの窒素に同じアルキル基を導入する事により、非常に構造対称性の高いDACOラダーポリマーが得られるようになりました(Polym. Chem. 2020, 11, 236)。現在、この対称性DACOラダーポリマーの物性調査などを進めています。

参考文献
ACS Macro Lett. 2017, 6, 775–780 (DOI: 10.1021/acsmacrolett.7b00385).
=> Selected as "Synfacts of the Month" and top cover (DOI: 10.1055/s-0036-1591240).
=> 「化学と工業」のディビジョントピックスとして紹介(日本語での紹介記事)
Polym. Chem. 2020, 11, 3690–3694. (DOI: 10.1039/D0PY00603C)
=> Selected as
Cover Art.
Polym. Chem. 2020, 11, 236–240. (DOI: 10.1039/C9PY01104H)
=> Invited to an “Polymer Chemistry Emerging Investigator 2020 Issue
=> Selected as
Cover Art.

汎用ポリマーを基盤とした生体模倣カルシウムイオンセンサー

古くからセカンドメッセンジャーとしての機能が知られている細胞内のカルシウムイオン(Ca2+ )イメージングのための蛍光カルシウム指示薬は多数あるものの、近年新たに情報伝達物質として注目されている細胞外のCaの動態をイメージングする手段はありませんでした。細胞外Ca2+ イメージングのためには、細胞外Ca2+ 濃度であるmMオーダーの解離定数を有し、細胞外領域でも拡散しない仕組みが必要です。我々は、生体系の細胞外Ca2+ センシングタンパク質(CaSR)の「連続するカルボン酸構造によるCaセンシング機構」をヒントに、カルボン酸を有する最も汎用的な高分子「ポリアクリル酸(PAA)」及びそのゲル(g-PAA)をベースとし、凝集誘起発光(AIE)色素(テトラフェニルエテン: TPE)と組み合わせたカルシウムイオンセンサー(PAA-TPEx、g-PAA-TPEx)を開発しました(Sci. Rep. 2016, 6, 24275)。汎用的なビニルポリマーからなるこのシステムは、TPE含有量を変化させるだけでCa2+ に対する感度を調整可能であり、シート状に成型加工して用いることができるなどの高分子ならではの特徴をもっています。現在は、このg-PAA-TPEの応用研究や、より高い時空間分解能を及び生体適合性持つPAA-TPExの開発(ACS Macro Lett. 2018, 7, 711)に取り組んでいます。

参考文献
Sci. Rep. 2016, 6, 24275 (DOI: 10.1038/srep24275). "Open Access"
=> プレスリリース:紙おむつの材料から新しいカルシウムセンサーを開発
=> Chem Station: カルシウムイオン濃度をモニターできるゲル状センサー
ACS Macro Lett. 2018, 7, 711–715. (DOI:10.1021/acsmacrolett.8b00291)

凝集誘起発光性 (AIE) 物質に関する研究

上記のPAA-TPEの研究を通じ、Ca2+センサー以外にも凝集誘起発光性(AIE)物質に関する発展研究や共同研究を展開中です。東京大学 柴山 充弘 教授と共同で、静的光散乱を用いて上記のPAA-TPEに対してCa2+応答時の挙動を解明し、メゾスコピックな凝集状態と蛍光挙動の相関を明らかにしました(Macromolecules 2017, 50, 5940)。現在、AIE性のポリマーは多数報告されていますが、静的光散乱を用いて溶液中のメゾ構造の解析を行った研究はこれが初めての例になります。また、台湾国立交通大学 杉山輝樹 教授、増原 宏 教授との共同研究により、光ピンセットを用いたAIE性分子の発光制御にも成功しました(Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 7063)。高知工科大学 林 正太郎 講師と共同で新しいAIE分子群の合成し、その応用研究を展開中です(Tetrahedron 2019, 75, 1079)。他にもAIE物質に関して様々な研究を現在進行中であり、ここで順次紹介していく予定です。

共鳴発光による蛍光湿度センサー

参考文献
Macromolecules 2017, 50, 5940–5945. (DOI: 10.1021/acs.macromol.7b00883) 柴山先生との共著論文
Tetrahedron 2019, 75, 1079–1084. (DOI: 10.1016/j.tet.2019.01.012) 林先生との共著論文.
Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 7063–7068. (DOI: 10.1002/anie.201916240) 増原先生, 杉山先生との共著論文.
Mater. Chem. Front., 2021, 5, 799–803. (DOI: 10.1039/D0QM00722F) 山本先生(筑波大)との共著論文.