〇慢性痛の定義―慢性痛(慢性疼痛)の医学的定義は「痛みが3か月以上続く、または通常の治癒期間を超えて持続する痛み」です。国際疼痛学会(IASP)より
慢性痛とは?痛みが数か月、あるいは何年も続く場合、それはしばしば慢性痛と呼ばれます。これは、けがや病気の通常の回復期間を過ぎても痛みが続く状態です。急性痛が一時的なのに対し、慢性痛は持続的であったり、良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあり、日常生活に支障をきたしたり、身体面だけでなく精神面にも影響を及ぼすことがあります。慢性痛は、現在進行中の健康状態が原因で起こることもあれば、最初の原因が治療された後や、すでに存在しない場合でも続くことがあります。慢性痛の管理には、医学的治療、生活習慣の調整、そして心理的サポートなど、包括的なアプローチが必要になることが多いです。
国際疼痛学会(IASP)より
〇何故痛みがおき、再発を繰り返すのか?
“explain pain”(コンセプトのNOI group参照)では、痛みの再発を繰り返し、活動量が低下していく要因を2パターンで説明しています。
1つは、グラフ①のように徐々に活動量が低下していくタイプ。立位姿勢、料理、掃除、来客、仕事の締め切りなどで活動量が増えた時に痛みがおきる。図の点線は痛みがおきる時点でオレンジの太線は活動量を示しています。このパターンは痛みや再負傷を恐れる人に多いと述べられています。
グラフ①explain painより
もう一つのパターンは(グラフ2)「ブーム・バスト(好調→破綻)パターン」と呼ばれるものです。これは、痛みが出ても我慢して無視し続け、限界を超えたところで一気に崩れる(バスト)という流れです。完璧主義の人 ・成果を強く求める人・我慢強い人・エネルギッシュな人に特によく見られると述べられています。
グラフ②explain painより
どちらのグラフでも、活動できる限界がどんどん下がり、非常に低くなってしまうのは、痛みが主導権を握ってしまうからです。
痛みを避けることも、打ち負かそうとすることも、うまくいきません。 痛みは恐れるものではなく、尊重し、回復のための計画を立てるべきものです。“Explain painより”
要は筋肉、関節、神経などの組織は運動を好み、出来るだけ“pain free”痛みなく運動できる方法をみつけ継続し、段階を追って時間や強度を増していく事で改善できるという事です。
例えば、座位姿勢を調整する。寝る姿勢や寝具を変えてみる。料理の方法を工夫してみる。洗濯ものを台の上に置いてから干す。など、友人であり先生である痛みと相談しながら、痛みなく保持できる姿勢又は動ける方法を工夫して過ごすことの重要性を説いています。最初は活動範囲は小さいですが、pain freeで動ける範囲を少しずつ増やしていく事を日常生活に取り込んでいきましょう。時々起こるような軽度の痛み(10分の1~2程度)は許容範囲だと言われていますので、痛みを恐れず運動しましょう。
Stuart McGillが著した『Low Back Disorders(邦題:腰痛 ─ エビデンスに基づく予防とリハビリテーション)』の中にも、類似した考え方が示されています。McGillは、痛みや組織損傷が生じる要因として、①大きな負荷による損傷、②中等度負荷の繰り返しによる損傷、③持続的なストレスによる損傷、の3つを挙げています。
①には、スポーツ場面での高所からの着地や転倒など、一度に大きな力が加わる状況が含まれます。②には、引っ越し作業のような中等度の負荷を繰り返す活動が該当します。そして③には、前かがみ姿勢での作業、長時間のデスクワーク、立位保持など、比較的弱い負荷であっても持続的に組織へストレスが加わる状況が含まれます。
つまり、痛みは単に「強い負荷」によってのみ生じるのではなく、組織へのストレスや疲労が蓄積し、その人の組織耐性の限界を超えた時に発生する、という考え方です。
この視点は、線維筋痛症を含む慢性疼痛の理解や、運動・徒手療法の負荷設定を考える上でも重要であると考えています。
Ginevra Liptanは、著書『The FibroManual』の4Rコンセプト(コンセプト紹介ページ参照)の第2段階「Repair」において、線維筋痛症の方は筋・筋膜の緊張や硬化が強く、わずかな運動や負荷でも組織を損傷しやすい状態にあると述べています。また、慢性的な疲労の蓄積により、ごく少量の運動にしか耐えられなくなっていること、さらに患者さんに日常的な運動内容を確認すると、負荷量が過大であったために症状悪化や継続困難に至っているケースが多いとも記しています。
信条として「低負荷からゆっくりと」という考え方を大切にしています。線維筋痛症に対しては、一般的なトレーニング理論をそのまま当てはめるのではなく、現在の組織耐久性や疲労状態に合わせ、身体が適応できる範囲から段階的に進めていくことが重要だと述べられています。
また、Liptan医師は、マッサージによって症状が繰り返し悪化した経験についても触れており、これは施術時の刺激強度や組織への負荷が過剰であった可能性を示唆していると考えられます。そのため、徒手療法においても「強く行うこと」ではなく、「身体が受け入れられる刺激量を見極めること」が重要であると考えています。
この考え方は、自己ストレッチや自主運動にも共通しています。一般的には軽いとされる運動やストレッチであっても、線維筋痛症の方にとっては過剰な負荷となり、症状悪化につながる場合があります。そのため、「どの程度行うか」だけではなく、「身体が悪化せず適応できる範囲はどこか」を丁寧に見極めながら、低負荷から段階的に進めていくことが重要であると考えています。
また、このような視点は、線維筋痛症に限らず、他の慢性疼痛を抱える方々に対しても共通して重要な方法論であると考えています。
私がDeutsche Gesellschaft für Muskuloskelettale Medizin(ドイツ筋骨格医学会)で学んだ筋骨格医学においても、類似した考え方が示されていました。そこでは、疲労や過度なストレスの蓄積によって組織の柔軟性が低下し、損傷や痛みにつながること、また血流低下による酸素不足が痛みの一因となることを学びました。
マニュアルセラピー(MT)では、まず硬くなった組織や過緊張を起こしている部位を評価し、適切な刺激によって筋緊張を緩和し、血流や組織環境の改善を図ります。その後、身体が受け入れられる範囲で運動療法へと段階的に移行していきます。
もちろん、痛みの発生要因は一つではなく、心理社会的要因や生活環境、中枢神経系の過敏化など、多面的な要素が関与しています。ここで述べている内容は、その中の一つの視点・原理として捉える必要があります。
また、このMTにおいても生活指導の重要性が強調されています。日常生活の中で「どのような要因が痛みを悪化させているのか」「逆に、どのような要因が身体にとってプラスに働いているのか」を丁寧に問診し、痛みを助長する要因を減らし、回復を促す要因を増やしていくことが重要であると考えています。
〇器質的障害と機能障害
器質的障害は、骨・関節・筋・腱などの組織に明確な損傷や変性がある状態で、医師が画像や検査によって診断する。一方、痛みの強さは必ずしも器質的異常と一致しないため、PTは可動性(筋/筋膜や関節の固さ)・筋力・協調性など“痛みを生みやすい機能の問題”を評価し、徒手技術、運動療法や教育を通じて改善を図ります。
当サービスでは医療行為は行わず、理学療法士が身体機能の観点から、可動性(筋・筋膜・関節の硬さ)、筋力、協調性、姿勢や動作のクセなど、“痛みを生みやすい機能的な問題”を丁寧に評価します。
捻挫・筋損傷・骨折などの器質的障害には自然な回復期間がありますが、組織が治癒した後も痛みが続くことがあります。これは、周囲の組織の硬さ、筋力低下、神経の過敏性、動作パターンの乱れなど、機能的な問題が残存しているためと考えられています。
そのため、理学療法士は画像所見そのものを元に戻すことを目的とするのではなく、
周囲組織の柔軟性の改善
必要な筋力の再獲得
神経系の過敏性の低減
安全に動ける身体の使い方の再学習
といったアプローチを通じて、より快適に生活できる状態を目指します。
〇侵害刺激と機械刺激
「体にとって強すぎる刺激。危険を知らせるアラーム」
「熱い・強く押される・切れる・ぶつけるなど、体にとって“危ないかも”という強い刺激のことです。
これをキャッチするセンサーが“侵害受容器”です。」
組織を傷つける可能性がある刺激
侵害受容器が反応して脊髄→脳へ信号を送る
脳が「危ない」と判断したときに痛みが出る(痛みは脳で感じています)
「軽い押圧・動き・触れるなどの“安全な刺激”。体を守るブレーキ役」
「軽く触る・さする・関節をゆっくり動かすなどのやさしい刺激は“機械受容器”が感じ取ります。
このセンサーは“痛みの信号を抑える働き”があります。」
皮膚・筋・関節にある“安全センサー”
触れる・動く・軽い圧で反応
脊髄で侵害信号を止めてくれる(ゲート制御)
マッサージ・関節運動・ストレッチが効く理由がこれ
〇痛みの改善にはマイナス(侵害刺激)を減らし、プラス(機械刺激)を増やす生活を送ることが大切です。 コンセプト中のLiptan女史の”Reduce””負担を減らす”でも記されていますが、ドイツで学んだマニュアルセラピーでは問診により8割が決まるとよく言われます。その中心になるのが、生活の中で負担になっていることを減らし、身体に入り込む侵害刺激を減らす事です。 例えば、 ◇膝がいたいけど、我慢して歩く ◇草むしりをする度に腰が痛くなる ◇テレビの真似をして体操するが、あちこち痛くなる ◇良かれと思って強く押してしまう ◇やはり痛いかなと思い、動かして痛みの確認を頻回にしてしまう などなどきりが無いほどたくさんあります。 これらは、症状やライフスタイルによって変わってきますし、自分ではなかなか気が付かない事が多く、生活の状況を伺いながら其々に応じた要因を特定し、姿勢や強さ、内容などを変更し侵害刺激を減らしていきます。
あるインストラクターから興味深い症例の話を聞きました。アキレス腱の痛みが引かず、クリックを訪れました。そこで施術して改善しても直ぐに痛みは再発します。アキレス腱の生活負担になっている事を聞き出すも明らかになりません。ある日、待合室で座っている姿勢を見ると踵を挙げてつま先を床に接地した姿勢でした。あっ!と思い、「それ、癖じゃないですか?」とたずねると「そうかもしれない」との事でその習慣を修正すると痛みはなくなったそうです。
また、寝る時の姿勢や座位姿勢でも腰痛や肩の痛みが改善する事があります。横向きに寝た姿勢で両膝の間にクッションを入れる事で腰の負担が減り(腸脛靭帯の緊張が減り、筋膜の繋がりによる腰部筋膜の緊張が減る)、腰痛が軽減する。腕の下にクッションを入れる事で肩の筋/筋膜の緊張が緩み痛みが軽減するなども日常多い現象です。
機械刺激を加える、プラスになる要因を幾つか紹介します。 例えば ◇膝や股関節/腰痛みがでないようにゆっくり歩く又は杖や歩行器を使う ◇椅子に座りながら草むしりをする ◇自分の症状に合った強度で体操をする ◇2~3日は痛み部位を押さず、その後は軽い刺激に変える ◇痛みを確認する動作は最小限にする など これも症状に応じて様々な方法があります。
まとめますと、繊維筋痛症など症状が重い状態でも生活の中で上記のような負担を減らすことで、症状や仕事量で個人差はありますが生活が楽になる事があります。プラスとマイナスの要因は症状によって様々ですので、個々人に合わせた内容をFIPでは適切に提供させて頂きます。
末梢感作と中枢感作
末梢感作
末梢感作とは、簡単にいうと、**「痛みのセンサー(侵害受容器)が敏感になっている状態」**のことです。
例えば、足首を捻挫すると、その周囲では組織の損傷や炎症が起こります。すると、そこにある痛みのセンサーが敏感になり、普段ならそれほど痛くない刺激でも、強い痛みを感じるようになります。
この状態で、痛みを我慢して歩き続けるなど、傷んだ部位に繰り返し負荷をかけると、末梢の過敏性がさらに高まり、痛みが強くなったり、長引いたりすることがあります。
肩でも同じことが起こります。重い物を持ったり、久しぶりにボールを投げたりして肩に負担がかかると、肩の組織に痛みや炎症が生じることがあります。
すると、「どこが痛いのだろう?」と気になり、痛い部分を何度も押したり、痛みを確認するように腕を繰り返し回したりすることがあります。しかし、すでに敏感になっている部位に繰り返し刺激を加えることで、末梢感作がさらに増強し、痛みが強くなることがあります。
また、良かれと思って行っている運動や体操、ストレッチであっても、現在の症状に対して刺激が強すぎると、痛みを長引かせる原因になることがあります。
そのため、痛みが強い時期には、無理に「痛みを確認する」「痛みを我慢して動かす」のではなく、痛みのない(pain-free)範囲で運動や動作を行い、過敏になっている組織に過度な刺激を与えないことが大切です。
「痛いから、もっと動かそう」ではなく、「痛みを増やさない範囲で、少しずつ動かしていく」ことが重要です。
中枢感作
中枢感作
中枢感作とは、簡単にいうと、**「脊髄や脳など、痛みの情報を処理する神経系が敏感になっている状態」**のことです。
例えば、足首を捻挫すると、まず傷ついた場所で炎症が起こり、痛みのセンサーが敏感になります。これが末梢感作です。
その状態で痛みを我慢して歩き続けたり、痛みのある部位に繰り返し強い刺激を加えたりすると、痛みの信号が脊髄や脳へ繰り返し送られることになります。
このような状態が長く続くと、脊髄や脳などの中枢神経系でも、痛みの信号に対する反応が強くなり、以前ならそれほど痛みを感じなかった刺激でも、強い痛みとして感じるようになることがあります。
例えば、以前は軽く触れたり、少し動かしたりする程度では痛くなかったのに、痛みが長期間続くことで、服が触れる、軽く押す、少し動かすといった刺激でも強く痛みを感じることがあります。
さらに、痛みがある場所だけでなく、痛みの範囲が広がったり、傷が治っているにもかかわらず痛みが続いたりすることがあります。
このような状態では、「痛いから、もっと動かして治そう」と考えて無理に運動やストレッチを行うと、痛みの神経系に強い刺激を繰り返し与えることになり、症状が悪化することがあります。
そのため、痛みが強くなっている場合には、痛みを我慢して無理に動かすのではなく、痛みを増やさない(pain-free)範囲で、安全に動ける経験を積み重ねていくことが大切です。
つまり、
末梢感作
→「痛みのセンサーが敏感になる」
中枢感作
→「痛みの信号を処理する神経系が敏感になる」
という違いです。
中枢感作と痛覚変調性疼痛
上記の中枢感作と関係してくるのが、**痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)**です。
痛覚変調性疼痛とは、簡単にいうと、**「組織の損傷や神経そのものの明らかな損傷だけでは説明できない、痛みを感じるシステムの変化による痛み」**です。
例えば、長期間痛みが続いている人では、
軽く触っただけでも痛い
少し動かしただけでも強く痛い
痛みが広い範囲に及ぶ
痛みの強さが日によって大きく変化する
疲労、睡眠不足、ストレスなどによって痛みが強くなる
といったことがあります。
このような場合、単純に「痛い場所が壊れているから痛い」と考えるだけでは、症状を十分に説明できません。痛みを処理する神経系の過敏性や、痛みを調節する仕組みの変化などが関係している可能性があります。
ただし、中枢感作と痛覚変調性疼痛は同じものではありません。
中枢感作は、主に**「中枢神経系の反応性が高まっている状態・メカニズム」**を指します。
一方、痛覚変調性疼痛は、**「組織の損傷や神経損傷だけでは十分に説明できない痛みのタイプ(mechanistic descriptor)」**を指します。
そのため、
組織の損傷・炎症
↓
末梢感作
↓
痛みの信号が繰り返し入力される
↓
中枢神経系の過敏性が高まる(中枢感作)
↓
痛みを感じるシステムの調節が変化する
↓
痛覚変調性疼痛が関与する痛みへ
という流れが考えられます。
ただし、これは必ずこの順番で進むわけではありません。痛覚変調性疼痛には、末梢組織からの入力だけでなく、脳による痛みの調節、睡眠、疲労、ストレス、過去の痛みの経験など、さまざまな要因が関係します。
したがって、慢性痛では「痛い場所だけを強く治療する」のではなく、痛みを増やさない範囲(pain-free)で安全に動き、身体に「動かしても大丈夫」という経験を積み重ねていくことが重要になります。
線維筋痛症などの痛覚変調性疼痛では、痛みを処理する中枢神経系の過敏性(中枢感作)が大きく関係しています。しかし、日常生活の中で長く歩いたり、身体を使いすぎたりすると、筋肉や関節などに負荷がかかり、末梢からの侵害刺激が増えることがあります。
このような末梢からの刺激が、中枢神経系が過敏な状態では通常より強い痛みとして感じられることがあります。そのため、線維筋痛症などの慢性痛では「中枢だけ」「末梢だけ」と分けて考えるのではなく、日々の活動による末梢からの入力と、過敏になった中枢神経系が相互に影響し合っていると考えると理解しやすいでしょう。
だからこそ、負荷を一気に増やすのではなく、痛みを増やさない範囲から低負荷でゆっくりと活動量を高めていくことが重要になります。
参考文献
Arendt-Nielsen & Henriksson, 2007
Pathophysiological mechanisms in chronic musculoskeletal pain (fibromyalgia): the role of central and peripheral sensitization and pain disinhibition.
慢性筋骨格系疼痛(線維筋痛症)における病態生理学的メカニズム:中枢感作・末梢感作および疼痛抑制機構の低下の役割
PubMed:Arendt-Nielsen & Henriksson (2007)
このような理論を踏まえFIPでは生活指導により、末梢感作の原因なっていると思われる動作や姿勢を無理のない範囲で少しずつ変更していきます。可能な限り痛みのない”pain free"の運動や動作、姿勢を少しずつ時間的、空間的に増やしていきます。同時にその方の生きがい、生活の質”QOL”も考慮し、話合いながら生活プランを組み立てます。