干支物語 参
-戌- センチメンタル・ドッグ
2018
-戌- センチメンタル・ドッグ
2018
さて、鬼の皆さま、踊ろうか?
魂の闘いを引き出そう。それが俺たちにこそふさわしい。
〈神の物理学〉という学問を研究している学者、天音虎太郎~通称ネコ先生は
2018年の年明けに、数人の奇妙な人間たちを連れて研究所に戻ってきた。
しかし研究所を守る巫女である、釈迦堂智美は居なくなっている。
「研究所を守る巫女ってのも変なハナシだ。神社じゃないんだから」
天音虎太郎が連れてきた奇妙な数人の一人、シンラは言った。
彼はニヤリと笑い言う。
「ここは神が育つ場所だからね」
その言葉を聞いて、シンラは静かに呟いた。
「神が育つ?むしろ“魔”が育つ感じのする場所だよ」
「魔。悪魔。悪鬼。鬼?なるほど確かにそうかもしれないね。
なぜなら僕は、君たちをここに連れてきたワケだから、
ね、空から落ちてきた鬼の末裔さんたち?」
天音虎太郎のその言葉を聞いて皆、ゆっくりと空を見上げた。
そうして静かに小さく歌を口ずさむ。
“妙、妙、妙と鳴く、雲が歌う、大地が震える、
雷の中に生まれた世界に反する我らの力”
その瞬間、空にあっという間に雷雲が生まれ雷が世界を走った。
「例えるならば、君たちはまさに雷が産み出す反物質だ。宇宙誕生の時には物質と
同じ量があったとされる反物質。今じゃそのほとんどが消えた。しかし雷雲がまさか
その反物質を作ってたなんてね。素敵な発見だ。日常に生まれる消えたはずの反物質。
面白い。まるで君たちそのものみたいじゃないか」
嬉しそうにそう言った天音虎太郎を彼らは見た。
その瞳に奇妙な輝きが走る。
それはまるで雷雲から地上に落とされる雷のようであった。
天音虎太郎はその瞳の雷を見て、うなずき微笑み優しく言った。
「さあ姫を探しに行こうじゃないか、鬼の皆さま?」
戌年の2018年。
犬飼太郎は一族長年の悲願を叶えようとしていた。
〈物理王になる〉
その悲願のために必要な釈迦堂智美。
空の姫さま。
巫女。
その空の姫を探す鬼と呼ばれる謎の人々。
神と悪魔。物質と反物質。
空の力をめぐり繰り広げられる、世界の終わりへと向かう物語。
それは日常の物語。
「俺は神の頂に登るために、悪魔にだってなるんだよ」
〈戌‐大地の王TEAM〉
犬飼 太郎(いぬかい たろう)
槇村 心吾(まきむら しんご)
孔雀(くじゃく)
〈鬼TEAM〉
木村 森羅(きむら しんら)
山本 由々(やまもと ゆゆ)
橋本 きらら(はしもと きらら)
〈国立研究所研究員・反物質エネルギー科TEAM〉
成田 牡丹(なりた ぼたん)
伊能 みるく(いのう みるく)
〈依頼人/元国立研究所・生体エネルギー科・科長代理〉
坂井 伊凰(さかい いおり)
〈空の姫/鬼の姫〉
釈迦堂 智美(しゃかどう ともみ)
〈神の物理学者〉
天音 虎太郎(あまね こたろう)
2018年12月8日~9日
北池袋 新生館シアター