中国不動産業界で常態化する「オーバー担保ローン」
1,オーバー担保ローン
中国では、不動産・土地不況(私は土地恐慌と呼んでもいいと思う)が全国に広がり出す2010年代の初頭、資金借入者が差し入れる土地の担保評価額を20%以上も超える融資が頻発し出しました。
「オーバー担保ローン」とでも呼べる、とんでもない事態が起きていたことになります。この問題は、多くの論者が見逃してしまった大問題なのですね。
通常の融資業務において、土地担保評価額が融資額を下回ることは、無担保融資の割合を増やし、信用リスクを高めることにつながります。
通常、欧米・日本の土地担保物件の評価額に対する融資額の割合―担保掛目―は担保物件時価の80%程度が最大とされているんです。土地担保の時価が仮に20%下がっても、担保物件を処分すれば、リスクがヘッジできる担保評価の方法なのです。
ところが中国では、この逆のことが日常化しているので、銀行をはじめとする金融機関の融資リスクは、歯止めなく膨張しつづけたのでした。
この事実を、土地を含む不動産業政策を管轄する中国自然資源部の公表データから、いくつか紹介しましよう。
2016年9月の事例。住宅用地、担保差入れ者・不動産開発会社、担保権者・中国銀行、融資額・5億5,325万元、担保評価額3億6千万元、担
保不足1億9,325万元。
2017年12月の事例。住宅用地、担保差入れ者・不動産開発会社、担保権者・農村合作銀行(農村商業銀行)、融資額3011万元、担保評価額
2,100万元、担保不足額911万元。
2018年1月の事例。商業用地、担保差入れ者・商業会社、担保権者・融資リース会社(ノンバンク)、融資額5千万元、担保評価額5千万元、担
保評価額・融資額同額(潜在的高リスク)。
2021年12月の事例。商業用地、担保差入れ者・コンサルタント会社、担保権者・農村商業銀行、融資額・7億200万元、担保評価額5億32
9万元、担保不足額1億9,871万元。
2022年2月の事例。工業用地、担保差入れ者・工業会社、担保権者・中国農業銀行、融資額・2025万元、担保評価額・876万元、担保不
足額1,149万元。
2022年3月の事例。工業用地、担保差入れ者・個人、担保権者・商業銀行、融資額・7,350万元、担保評価額・5,168万元、担保不足額
2,182万元。
金融機関の融資は、2018年頃から担保不足額の案件が多くなる、すなわち融資額が担保評価額を上回るオーバー担保ローンや担保評価額と融資額が同額の案件が増えはじめました。それまで担保不足案件は少なめで、貸し手のリスク管理も融資リスク管理上、適正なレベルにあったのです。
2,三位一体カルテル
土地担保評価額と融資額との間のこのようないびつな関係が生まれる背景には、中国の不動産業界・金融業業界・担保物件提供者である土地の収用者(地方政府)、これら三者間における意識・無意識の「コンセンサス」があったのではないかと、私は推測しています。
ここには、中国の土地レジームに潜む構造的欠陥があるというのが私の見方です。
すなわち中国の信用補完措置の基本点な方法は土地担保金融で、土地評価額次第で、融資額が変わりやすいが、実態は、担保評価額が膨らむ方向へ変化すると見ていた可能性が高かったのです。
担保評価額が大きくなると思えば、融資額も膨らみやすいですよね?そのことが、不動産信用を実力以上に膨張させ、不動産バブルに似た状態を作ってしまったのではないか、と考えるわけです。
1995年以降、2014年まで都市の地価は毎年5パーセント以上、高い時は30~40パーセント(2007、2008年)と上昇していました(中国自然資源部、地価観測調査)。
しかしその後の地価は上昇するどころか、下落傾向に変化したのです。2019年から2021年まで住宅用地価格の平均上昇率は、消費者物価指数の半分から3分の1、0・8~1・0ペーセント程度に落ち込んだのです(同調査)。この落ち込み方をもってバブル崩壊と言うのならば、日本の不動産バブルとはまったく別物です。
ここには、中国における土地問題の特殊性を見なければなりません。地価が下がると担保価値が下がり、ただちにオーバー担保ローンが広がる金融機関の信用リスク上昇を招くことは想像がつくます。
担保価値と融資額とのバランスはすでに崩れているところに、さらに担保価値が下がると、担保権を先行取得していた案件の含み損が拡大、加えて、この点が最も懸念されるところですが、金融機関の融資上限に帽子をかぶせることになりやすいのです。
リスクが上昇するのは金融機関ばかりではありません。不動産開発業者、マンション販売業者、そして土地を供給する地方政府にとっても、利害は共通します。農用地を住宅地に転換しながら利益を得て来た地方政府にとって、地価の低下は受け入れがたい現象だったのです。