「同じ女性として、母として、授乳のたびに、乳牛たちの状況を想っては悲しくなっていたんです」
牛には人と同じ10ヶ月の妊娠期間があり、子牛が産まれるとすぐに引き離され、母牛は子どもを想い鳴き続ける…それを何度も繰り返し、妊娠ができなくなると殺されるーという“乳牛”たちの運命に、自分と新生児の我が子を重ね、あまりの悲しさに涙が止まらないほど落ち込みました。この気持ちを話すと、共感してくれるママさんたちがいました。
「人であれ、動物であれ、子どもを想う気持ちは変わらない。落ち込んでばかりいられない。動物たちー牛の彼女たちが殺されず自由に生きられる世の中の実現を目指してはどうだろうか…?」と考えるようになりました。
ご家族で経営する北海道の牧場で働く南さんは、本プロジェクトのリーダーである由美さんが主催するプラントベース栄養学やお料理を学ぶオンラインサロン、ベジママ勉強会の受講生。由美さんはいつか日本で動物たちがのびのびと最期まで暮らせる保護施設を増やしたいと考えていました。いますぐに牧場にいる全ての牛たちを保護するのは難しいけれど、一頭からでも保護をはじめられる可能性はあるか、南さんに提案します。
南さん「実はちょうど10歳でまだまだ元気な牛がもうすぐ出荷予定なんです」
「ポテコロ」と名づけられたその牛は、7回の出産を経験し次の妊娠ができず、お乳の出る量も低下していました。酪農業ではそうして乳量が低下したり、ケガを負った牛たちは“廃牛(はいぎゅう)”とされ、市場に売られます。
相談した結果、ポテコロちゃんの餌代があれば出荷されずにすむことがわかり、市場に出す予約を急遽キャンセル。ベジママ勉強会により、月々の餌代をサポートする形でポテコロプロジェクトがスタートします。
雪の中をお散歩するポテコロちゃん
家族から牧場の経営を引き継いだ酪農家の南さんご夫婦。酪農業を営みながらも、牛乳が人体へ与える影響や、環境問題、経済動物の問題点などを広く学ばれ、現在はプラントベースの食生活を選択されています。
家族経営の酪農一家に生まれ育った南さんは「子供の頃から牛たちの置かれる状況に心を痛めていた。今すぐに全てを変えることはできないけれど、この先何年も酪農業を続けたくはない」といいます。さまざまな葛藤を抱えながら、せめて牛たちが生きている間は幸せに暮らしてほしいという想いで、マイペース酪農(放牧を基本とし、化学肥料や濃厚飼料などの外部資源の投入を最小限に抑え、土、草、牛の関係・循環を良好に整えることを重視する酪農)などを取り入れ、できるだけアニマルウェルフェアを満たすよう放牧酪農をしてきました。
ポテコロちゃんが生まれた10年前、南さんはご両親の3人で全ての酪農のお仕事をされていました。当時、南さんは子牛たちが産まれてから離乳するまでのお世話を担当していました。
南さん「子牛たちは無邪気で遊び好き。私がかまってあげればあげるほど懐いてくれので呼び名をつけるようになりました。ポテコロちゃんもそのうちの一頭です」
体が丸っこく、ポテっコロっとしているから、「ポテコロ」と呼ぶように。好奇心旺盛だけど、とても臆病な面もあり、お茶目なポテコロちゃん。若い頃は南さんが背を向けると、フードを引っ張ったり、帽子を取ったり、背中をなめまわしたり…よくいたずらをしていたそう。
南さん「人懐っこくて、近づくといつもベロベロ舐めてくるのでよくよだれまみれになっていました。牛の舌はザラザラしていて痛いので、顔なんか舐められると悶絶ものです!笑」
10歳の今ではどっしりとして貫禄がでてきたポテコロちゃん。保護牛となってからは人工授精による妊娠・出産をする必要がないので、搾乳されることもなく、放牧地で元気に暮らしてます。
ポテコロちゃんが暮らす北海道の牧場では、保護牛がより快適に過ごせる新牛舎の建設や、現在の土地での事業転換などを検討していました。
ところが畜産・酪農業界の情勢が厳しさを増し、南さん一家は酪農業を離れざるを得ない状況にいます。南さんの長年の葛藤やご家族の事情から、新たな地で転職をする一大決心をされました。
牧場がなくなる…
ポテコロちゃんを保護してからほんの数ヶ月での急展開です。これから数年かけて牛たちと共生する道を探ろうとしていた段階で、将来的に支援金も増やしてゆく計画でした。現在は月々の餌代を支援する方々に支えられ、ポテコロちゃんはは保護牛として生きています。しかし、酪農家さんの状況が変われば、これまでの支援金では足りなくなる可能性が高くなるなど、困難な課題が重なります。
事業転換のサポートを目指す私たちとしては、牛の保護にとどまらず、事業転換を希望する農家さんの応援はミッションに通じることでもあります。また、支援をしたい人と、支援金を受けて動物たちのお世話をされる現場の人を繋ぎ、動物と人の共生を目指す… これがポテコロプロジェクトの原点です。
現在の牧場に限定せず、牛(ポテコロ)にとってより快適で長期的に暮らせる環境の整った場があるなら、移動も視野に入れてはどうか?
この方向性に賛同してくださる支援者が現れることを信じ、まずは牛を受け入れてくれる所を探すことにしました。
「一頭の牛も救えないなら、もっと多くの牛たちを救うことはできない。
でも、一頭でも救うことができたなら、他の牛たちも続くことができるかもしれない。」
突然の試練を前に、ポテコロプロジェクトは次なる道へと動き出します。
牛や馬のように大きな動物を保護できる施設は日本にほんの数軒しかありません。たった一頭の牛でも受け入れてもらうことの難しさに直面しながら、酪農家さん、動物保護団体のかたをはじめとするさまざまな立場のかたがたと対話を重ね、ポテコロがこれからも生きて暮らせる方法の可能性を探ってゆきました。
そこで出会ったのが福島県のもーもーガーデン。「人と、動物と、自然すべてが、生き生きと輝く空間を作りたい」を理念に掲げ、牛たちはのびのびと生きながら、人の手が入らない土地で、放っておけば伸び放題の草を食べる、環境保全活動をされています。
まさに動物と人が共生し、環境へもよい影響がある活動に共鳴し、代表の谷さんにポテコロプロジェクトについて話したのは、ちょうど現在よりも活動範囲を広げ、新たな場所でも牛にお仕事(草を食べる)をしてもらうことも検討していたタイミングでした。
その後まもなく土地の候補があがり、ポテコロちゃんが新天地へ移住できる可能性が見えてきました。
段階的にポテコロちゃんの移住の準備をしてゆこうと考えていたところで、南さんご一家が2022年末に離農することに決まります。残された期間はわずか。すぐにでも移動先の土地を整えること、ポテコロちゃんの移動、そしてそのための資金が必要です。
より広く賛同してくださる方々にこのプロジェクトに参加してもらえたら…とクラウドファンディングでの支援をお願いすることとなりました。
みなさまからの支援金は新しい場所に柵や牛舎といった設備を整えたり、ポテコロちゃんを移動するための費用にあてさせていただきます。
2022年11月の現在、候補の土地について行政や地主さんとの話し合いを進めています。資金が早く集まれば、そのぶん土地の決定も前倒しできる可能性があります。
さらに、複数の牛が暮らせる広さの土地を予定しているので、支援金が多く集まればもう一頭の牛を同時に保護できる道も見えてきました。牛は仲間と集団で生活する性質があります。できることなら仲間と共に新天地で暮らせるようにしてあげたい…そしてなにより、みなさまの支援により牛の命がひとつだけでなく、ふたつも救えるかもしれないのです。
新たな土地でのスタートに初期資金は必要ですが、いったん環境が整えば、そこに迎える牛たちは寿命を全うするまでのびのびと生きることができます。牛たちが人の手が入りにくくなった農地の雑草を食べるので、農地が荒れるのを防ぎ、環境保全がかなうだけでなく、農薬や化学肥料に頼らない自然農法で野菜や果物が収穫できるようになる見通しです。この形で牛たちと共に生かしあう農業は、すでにこれまで活動してきた土地で実現しています。
人にも、動物にも、自然環境にもプラスになる、サステナブルを越えた新しい形での再生型農業は共栄・循環型社会のモデルとして日本から世界へ発信できるようになると確信しています。
「一頭の牛を救うことから、
人にも、動物にも、環境にも優しい世界が作れる」
その一歩となる事例を、一緒に作ってゆきませんか。