スピーカー


オンライン開催のため、
普段はお呼びできない海外から講師の方をお招きし、特に留学経験についてお話していただきます。
講師の先生への質問を募集します!


(敬称略、講演順)

<基調講演>


吉種光
(東京大学大学院 理学系研究科
生物科学専攻

祝10周年
生物リズム若手研究者の集い

◆要旨

時間生物学は非常に多岐にわたる分野との融合研究のポテンシャルを持ち、どんな学会でもどんな研究予算でも(?)無理やりフィットしたフリをできる特徴を持つ。その一方で、非常にローカルな研究会を持ち、私は学生の頃からリズム分野の先輩方に可愛がっていただき成長してきた。

2009年に学位をとり、さあ本格的に自分の足で自立して荒野を開拓しようというステージにおいて、同じ生物リズムを研究している若手の間で議論を交わす「場」がもっと必要だ!と考え、同じ意志をもつメンバーで初代世話人となり、2010年夏に「生物リズム夏の学校」と名付けた合宿形式の研究会を開催した。学校という名称では参加対象が学生さんだけに感じるのでもう少し上の世代までを対象としていますよ、とアピールするために、2011年には「生物リズム若手研究者の集い」と改名し、合宿形式の研究会を開催した。一番楽しかったのは世話人の間で交わした研究会のコンセプトを考える議論だったり、下見として行った世話人だけでの練習会だったかもしれない。多くの時間を割いたが、非常に価値のある世話人活動だった。それから10年が経ち、毎年世話人を交代しながら本研究会が継続していることを嬉しく思う。また、この場が生み出した絆が個々の研究を押し上げ、数多くの共同研究へと繋がっていると思うと感慨深い。さて、すでに字数を大きく超過しているが、講演では以下の参考文献の一部で自己紹介をしつつ、未発表の最新データを紹介し、「生物リズム研究の未来」について議論したい。

キーワード:#24時間リズムはどうやって生み出されているのか。#24時間リズムは何のために必要なのか。


高橋 望

シロイヌナズナ概日時計の器官特異性と長距離シグナル

◆要旨

概日時計の組織・器官特異性について、哺乳類では、脳の視交叉上核にある中枢時計が、全身にある末梢時計を支配する階層構造が認められています。一方、植物においては、個々の細胞の概日時計がどのように機能しているか、またどのように相互作用し植物全体としての概日リズムを刻んでいるかは、まだはっきりとは分かっていません。

私たちはその謎に興味を持ち、シロイヌナズナの器官ごとの概日時計の機能と、器官どうしでの時計の相互作用について調べました。その結果、茎頂にある概日時計が強く共役し、その共役が時計に頑健性と精度をもたらしていること、さらに茎頂が根の概日時計を制御していることが分かり、植物時計の器官レベルでの階層性が明らかになりました。また、時計タンパク質ELF4が地上部から根に移動し、長距離時間情報シグナルとして機能することも示されました。今回はこれらの研究を中心に、最近の知見についてお話したいと思います。



裏出良博
(第一薬科大学 薬学部 教授)

プロスタグランジンD2に学ぶ:睡眠研究から筋ジス治療法の開発まで

◆要旨

京都大学で学位を頂いて、生活のためにポスドクとして引き受けたプロスタグランジンD2合成酵素の精製の仕事が、定年を迎えるまで続くことになりました。世の中は不思議なものです。

酵素精製に始まり、免疫組織化学、遺伝子工学、結晶構造解析、阻害剤開発、睡眠解析、筋ジス研究、寄り道としてかかわった寄生虫学や国際宇宙ステーションでの実験など、世界中のいろんな人といろんな経験ができました。

誰も知らない答えを探すのは、本当に楽しいことです。研究は楽しくないと続きません。一流の研究者と腕を磨かないと、知力が上がりません。技術におぼれてもつまらないし、論文のインパクトファクターを気にするのもアホらしいことです。

世界には素晴らしい研究室がいっぱいあります。優秀なメンターがいっぱいいます。現状に満足せず、よく世界を眺めてください。


中西周次
(大阪大学 太陽エネルギー
化学研究センター)

レドックス反応におけるリズム現象

◆要旨

私は、2002年に「電気化学反応(レドックス反応)におけるリズム現象」を研究対象として学位(理学博士)を取りました。その時は、一つの実験条件でありながら複数の出力状態が生じることに関心を抱き、それがどのように役立つかなどはあまり考えず、純粋な知的好奇心に基づいて研究をしていました。その後、環境/エネルギーの分野へと転身し、また企業研究者としての経験もしながら、工学的な研究/開発に従事しました。これはこれで面白く、かつやりがいもあって、アカデミアに戻った今でも多くの産学連携研究を行っています。面白いことに、こうした実用を思考した研究対象であっても、概日リズムのような多くの振動現象/非線形現象に出会います。私が過去にリズム現象を研究した経験があるためにこうした現象に「気が付く」のであって、おそらく、他の多くの研究者/技術者も知らないうちに出会っているのだと思います。このような経験も手伝い、私自身は、理学と工学の垣根をあまり感じなくなりつつあります。本講演では、「使命感に基づく工学的研究」と「ワクワク感に基づくリズム研究」の両方を行き来しながら、レドックス反応におけるリズム現象についてご紹介したいと思います。

竹村明洋(琉球大学)

サンゴ礁から学ぶこと

◆要旨

熱帯・亜熱帯の浅海域に広がるサンゴ礁には多様な生物が生息し、彼らは競争したり共生したりしながら個の生存と種の繁栄を勝ち取っている。この海域に生息する生物の周期性を調べていくと、月に関わる環境変化を巧みに利用した時刻合わせが彼らの生存に不可欠であることに気づく。日長や温度の変動が温帯域ほど大きくないサンゴ礁では、月から得られる環境情報の重要性は増しているようである。この講演では、熱帯サンゴ礁に生息起源を持つ魚類の産卵や熱帯性の甲殻類の放幼生行動や摂餌行動にみられる周期性と月との関わりを概説するとともに、彼らの周期性発動における体内時計の関与の一端を紹介する。南に目を向けることで温帯域の生物とは異なる巧みな営みを見いだすことができる。この講演を通して生物リズムを研究する若手の方々に、「生物っておもしろい!」というのを再認識してもらえれば幸である。


本田直樹
京都大学大学院 生命科学研究科

数学で生物リズムの機能的意義を考える:体節形成・集団的細胞移動

◆要旨

生体内はリズムに満ちてます。概日時計をはじめ、心拍・脳波・呼吸・歩行・消化管の蠕動運動なども周期的現象ですし、また発生過程でも周期的現象が見られます。これまで数理生物学では、リズムがいかに頑健に生成されるのかが中心的なトピックでした。が、この講演では、リズム生成のメカニズムはいったん横に置いて、リズムがあることを前提に、それらのリズムがどのように生体内で役に立っているのかについて、議論したいと思っております。具体的には、「脊椎動物の体節形成における周期的遺伝子発現の役割」および「上皮組織の創傷治癒における周期的ERK進行波の役割」についてお話します。


◆キーワード体節形成・数理モデル・FRETイメージング