発表

2月22日 17:20~19:00 発表①~④

発表① 日本語表記と日本語コミュニケーション―言語習得における表記の位置づけ―

ポーランド

アレクサンドラ・ヴォンソヴィッチ=ペイナド(ワルシャワ大学)

近年、日本語の指導において、コミュニケーション能力、つまり会話・言語随伴行動(相槌)などの大切さが注目を浴びている。この観点から見た日本語教育の目的は、様々な状況に応じて、適切な日本語を用いた対人コミュニケーションをとることである。20世紀の終わりまで行われていた言語教育は、読解・作文・筆記練習を中心としたが、現代からは、時代遅れと見なされている。

しかし、筆記能力を疎かにすることは、言語習得に不利をもたらすのではないだろうか。

例として言語と音楽の間に見られる類似点を挙げてみよう。文字は音符のようなものである。演奏家にとって楽譜を読めるようにすることは必須だと考えられる。また、楽譜を書くことが出来れば、演奏するだけではなく、作曲も可能になる。さらに、音符を書けるという能動的能力は楽曲分析や編曲、即興などの能力にも繋がっていく。

同じように、言語の表記もコミュニケーションにおいて大事な役割を果たしている。相手が伝えたいメッセージを分析する時、表記を知らなければ、正確に理解できない場合がある。同音異義語がその良い例だろう。他にも、表記に基づいたダジャレ、語呂合わせなどの隠されたメッセージを読み取れず、さらに、このような面白い言葉遊びを創造することも出来ない。

したがって、コミュニケーションにとって表記は重要な位置を占め、言語指導・習得においてもそれを軽視するべきではないだろう。


発表② 例文抽出システムを通してつながる日本語教育―文型・語彙を中心に―

クロアチア

イレーナ・スルダノヴィッチ(ユライドブリラ大学プーラ)

〔共同研究者:セルビア:ドラガナ・シュピッツァ(セルビア科学専門翻訳者協会)〕

自然言語処理などの発展やソーシャル・メディアの普及により、日本語の教育や学習の方法が多様化している。日本語学習者向けのGDEXというツール(Srdanović & Kosem 2016)を使用することによって、日本語大規模コーパスから学習者のレベルに合った生きた日本語の実例が半自動的に収集できる。本発表では、このように集めた例文から日本語学習者が関心を持つ問題を作成する試みを紹介する。学習者は問題を解くことによって、数分という短い時間で語彙・文型について日本語の実例から新しい内容を学んだり、復習したりすることができる。各問題は、複数の選択肢から正解を選ぶ形式であり、開発するにあたって、GDEXやスケッチエンジン(Killgarriff他2004)だけでなく、機能語用例文データベース『はごろも』(堀他2016)、また、クロアチアやその他の学習者の誤用を集めたデータなども参考にしている。このような問題は、ソーシャル・メディアで設けた専用のページ、学習ツールを提供するQuizlet、教育用ゲーム・クイズプラットフォームのKahoot等で、教授や学習者が共有できる。教授は実例を使用した問題を作成することができ、また、問題に対して回答やコメントをすることによって学習者同士のインタラクションや自立学習も可能となる。こうして世界中の教授や学習者が日本語教育をつなげることに貢献できると思われる。


堀恵子・李在鎬・長谷部陽一郎(2016)「機能語用例文データベース『はごろも』について」『計量国語』 30(5) 275-285.

Adam Kilgarriff, Pavel Rychly, Pavel Smrž, David Tugwell (2004) The Sketch Engine, Proc. Euralex, 105-116.

Irena Srdanović, Iztok Kosem (2016) GDEX for Japanese: Automatic extraction of good dictionary examples, GLOBALEX 2016 Lexicographic Resources for Human Language Technology, 57-64.


発表③ 日本語教育におけるオンライン教材の可能性について

ルーマニア

アレクサンドレスク・ベアトリス・マリア(ブカレスト大学)

本発表のテーマは「ブカレスト大学における日本語教育とオンライン教材」である。「日本語教育をつなげる」という今回の研修会のテーマから「いかに日本語の授業でオンライン教材を活用できるか」について論じる。日本語教育とオンライン教材について考察し、どのように日本語教育と、学習に役立つサイトやアプリとが結びつけられるかを明らかにする。発表者はブカレスト大学において日本語学習とオンライン教材の役割についてアンケート調査を行った。調査ではオンライン教材は補助的な役割を果たしているという傾向があり、利用されているサイトやアプリなどの内容は多岐にわたっていて、それらが建設的だと思われているということがわかった。この結果をふまえ、オンライン学習に焦点を当てて長所と短所を分析した。教材の実用性と目的に注目し、いかに日本語教育とオンライン教材が結びつくかについて調べた。最後に、日本語教育とオンライン教材を相互につなげるために「ブリッジ」を作成できる可能性も検討する。


発表④ バイバーで学生と冬休み日記をシェア

セルビア

ビシュニャ・ヤノシェビッチ(カルロブツ言語高等学校)

ソーシャルメディアはとても便利で学生とソーシャルメディアでのコミュニケーションをしなければ、教師の仕事は難しくなります。そして、ソーシャルメディアを使って、勉強をもっと面白くすることができます。

学生たちは毎日のコミュニケーションにバイバーを一番多く使っていると言いましたから、バイバーのグループを作ってみました。今は一年生と二年生に日本語を教えていますから、そのグループは別々です。文法の説明や試験のテーマや作文の書き方について色々なことについてやり取りをしました。

さて、冬休みの宿題は日記になりました。先生たちがよくさせる宿題でしょう。この冬休みに私は自分にも同じ宿題をさせました。私も毎日なにか書いて、そしてバイバーでその日記の写真をシェアします。必要ですから、日記の翻訳とある言葉の意味もシェアします。後は、それに関係ある写真やリンクもシェアします。学生は私の子猫が可愛いと言っていましたから、よくその猫の写真を送ります。

学生はバイバーでだいたい母語で反応をしています。2学期が始まったら、学生の日記を読んで、そして、日記について色々話してみたいです。そして、学生にも一番面白い日記のページをバイバーでシェアさせてみたいです。

冬休みが終わったら、このバイバー日記実験の結果について少し考えた上、中東欧日本語教育研修会発表をするつもりです。



2月23日 8:40~9:55 発表⑤~⑦

発表⑤ 日本語スピーチコンテスト バルカン大会開催の可能性を考える

ボスニア・ヘルツェゴビナ

宮野谷希(サラエボ大学)

発表者の所属するサラエボ大学哲学部では、日本語教育機関は長く公開講座のみであったが、ついに2019年度から選択科目としての日本語クラスが始まった。本大学だけでなく、バルカン諸国、特にユーゴスラビア解体後の旧ユーゴ地域では、各国で日本語教育が萌芽・発展してきており、日本語・日本文化関連の行事も充実してきている現状がある。スピーチコンテストも、発表者の調べた限り、セルビア、スロベニア、ルーマニア、ブルガリアをはじめ、計7カ国で開催されている。しかしながら、各国をまたいだ日本語学習者の交流や共学の機会は、まだまだ少ないと言えるのではないだろうか。そこで、既に各国で行われているスピーチコンテストのバルカン大会を開催できないかと考えた。各国の優勝者がバルカン大会に進むという形式である。この大会が、バルカン地域における日本語学習者のモチベーションを高めるとともに、学習者同士の交流の機会にならないだろうか。本発表では、まずバルカン諸国におけるスピーチコンテストの現状を整理した上で、バルカン大会開催に向けて課題となるポイントなどをまとめ、その可能性を探る。


発表⑥ 映像字幕を利用した翻訳タスク ―協働学習を通じて理解力を高める試み―

クロアチア

カメリア・カウズラリッチ(KOTOBA, obrt za usluge)

本研究では、翻訳授業デザインのための示唆を得ることを目的に、中級レベルの学習者の翻訳力に注目し、実際の翻訳業界でのタスクの流れに沿った協働翻訳監修活動を取り入れた授業について、学習者が(1)日本語原文の理解に当たりどの語彙や文法項目で困難を示しているか、(2)日本語原文の理解上の難点をどのようにお互いに乗り越えるのを手伝い、新しい理解を協働的に生み出しているか、という二つの観点から調べた。対象は日本の自然遺産を紹介している短い2本の映像で字幕作成を目的としたペアでの翻訳監修活動を実施し、「映像音声の原文の書き取り」→「自分の文章の翻訳」→「相手の翻訳の監修」→「お互いの翻訳・監修のディスカッション」という4段階から構成した。そして、各段階の学習者の作成した文章、活動中のメモ、ディスカッションの録音データと活動終了後のアンケート調査の結果を分析し、相手の影響による学習者の原文理解の変化の流れと、翻訳活動を中心とした協働学習の理解力への影響を考察した。


発表⑦ 三大学の交流会プロジェクトの紹介

チェコ

ユラ・マテラ(マサリク大学)

本発表において「交流会」と呼ばれているプロジェクトを紹介する。このプロジェクトではマサリク大学(チェコ)とコメンスキー大学(スロバキア)の日本研究専攻の学習者を日本(京都)の同志社大学・龍谷大学の社会学専攻の学生と繋げて交流させている。交流はブルノ市(チェコ)とブラチスラバ市(スロバキア)で交代で行われ、チェコ・スロバキア・日本の文化/観光に関する発表やプレゼンテーション、及び自由交流(飲み会、町の観光・案内)の形をとる。本発表では、このプロジェクトの背景と目標、学問の領域を超える点等について紹介し、今後の展開を述べることを目的にしている。


2月23日 10:15~11:30 発表⑧~⑩

発表⑧ ハンガリーと日本の大学生による協働研究を通した課題遂行能力と異文化間コミュニケーション能力育成の試み

ハンガリー

佐藤紀子(ブダペスト商科大学)

セーカーチ・アンナ(ブダペスト商科大学)

ブダペスト商科大学では、2007年から全学年の日本語学習者を対象に毎年1回城西大学の学生と課題遂行型の協働研究活動を行っている。参加学生は、ハンガリーでの協働作業のほぼ3か月前からSNSを通じて研究テーマについての打ち合わせを開始し、オンライン会議を経て、ハンガリー滞在中は、講義の受講、フィールドトリップやインタビュー、アンケートなどの調査研究活動、合同プレゼンテーションの準備を行い、最終日に日本とハンガリーのゲストを前に多文化チームによる成果発表を実施している。本活動は、日本語学習者が、複言語・複文化の知識を基に多文化チームによる様々な協働作業を通して課題遂行能力と異文化間コミュニケーション能力を養うことを目的としている。具体的な目標としては、両大学の学生は①日英ハンの複言語活動を体験する、②協働作業を通じて自文化に対する知識を深めると共に異文化に対する意識を高め、母文化と異文化の共通点と相違点を認識する、ブダペスト商科大学の学生は③日本語やビジネスコミュニケーションの講義で学習したことを実際の体験の中で検証する、城西大学の学生は④異文化に対するオープンマインドを身に付けるというものである。本活動は、日本語学習を異文化間コミュニケーション学習へとつなげ、さらには異文化の人間との協働・共生へとつなげる学習活動と言えるだろう。


発表⑨ 日本語教育の概念を豊かにする大学と非大学相識のネットワーキングの一例をあげる―「日本・ブルガリアにおけるポップカルチャーと若者」学会について―

ブルガリア

ジブコバ・ステラ(ソフィア大学)

長年「科学のための科学」というモットーで日本語を教えてきたソフィア大学ですが、最近時代の変化とともに「人・人間・社会のための科学・教育」をスローガンにして、実施しています。日本を愛する・尊敬する人を集める日本学科はできるだけその学生のニーズに合わせたカリキュラム変更やカリキュラム外の活動を目指しています。

したがって、日本語・日本伝統文化を教えるだけではなく、大学生が憧れるポップ・カルチャーをアカデミック活動に入れる努力をしています。そして、リアル・ワールドとの関係をより深くするため、学生が興味を持っているコスプレやアニメや漫画などのことをよりよくわかるための「日本・ブルガリアにおけるポップカルチャーと若者」を題した学会を2019年3月に主催しました。発表者は研究者に限らず、ブルガリアにおけるコミック、アニメ、ゲームなどのファン毎年何千人が集まるコミコン風の「アニベンチャー」イベントの主催者や参加者でもありました。

本発表では上述学会は大学と大学外の相識のネットワーキングの営利的な冒険的な事業の一つの例として考察します。


発表⑩ 「つなげる」から見た教師会への期待

ハンガリー

ニェシュテ・ジョルト( フンファルビ・ヤーノシュ二言語教育貿易経済専門高校)

ホルヴァート・クリスティナ(バーリント・マールトン小中高等学校)

ホルヴァート・ダーヴィド(東洋言語学校)

若井誠二(カーロリ・ガーシュパール・カルビン派大学)

ハンガリー日本語教師会(MJOT)は教師の研鑽、交流を目的に2001年に発足した。現在会員は50名ほどであり、ハンガリー人会員と日本人会員の数はほぼ同数であるが、ここ数年はハンガリー人会員が運営委員会を構成し、案件に応じて日本人会員がサポートに入るという形で会が運営されている。MJOTは、教材開発やシンポジウム・スピーチコンテスト開催、会員が立ち上げたプロジェクトへのサポート、サイト構築などを通じ日本語教育に携わる者の連携・研鑽の場を提供している。また、日本語教職課程再開に伴う課程を担当する教員や在籍する学生と現職教師との連携、欧州言語政策の実現に向けた他の欧州諸国教師会との交流・連携という点においてもMJOTのイニシアチブが期待されている。

そこで本発表では、MJOT会長、副会長、スピーチコンテスト実行委員長が、「つなげる」という視点からの実践や課題について報告を行う。また、ヨーロッパ日本語教師会(AJE)役員を務めるMJOT会員が今年2月に開催される教師会サミットの意義とAJEとMJOTの連携の可能性について報告する。本発表を通じ、「つなげる」という立場から見た教師会の存在意義について再確認を行いたい。