人工知能による教育支援システム

「講師の支援」をキーワードにさまざまなことにチャレンジしています.

はじめに

近年,人工知能はさまざまな分野で,人を助け,時には,人を超える能力を発揮しています.本研究室では,特に,自然言語処理,信号処理の技術を応用して,多人数講義をする講師の支援を行っています.

講義を支援するシステムの一つに,三重大学でも使用しているmoodleがあります.学生の立場からのこのようなシステムを使う利点は,先生が用意した資料にアクセスしたり,課題を提出したりするときに使用できる,先生との情報交換手段の一つとして利用できるなどがあります.先生の立場からの利点は,学生とやりとりした情報が電子的に残されるため,計算機を用いてさまざまな分析を行うことで,わかりやすい講義のための元データを得ることができる点にあります.

また,IoT (Internet of Things) の浸透によりさまざまなセンサを用いて大量の情報を収集することができるようになってきました.

本研究室では,学習活動により生み出されたデータ(解答・学習履歴・振る舞い)を収集し,それらを人工知能を利用して分析することで,学生の指導に役立つ情報を先生に提供することをめざしています.

本研究室の研究内容

自然言語処理を応用した支援

記述式の小テストの解答を対象に,多人数の解答の概略を短時間で把握できるように要約する手法・分かりやすく表示する可視化手法について検討しています.

ここで,本研究室で開発した多数の解答を要約するシステムを紹介します(右図).

このシステムは,多数の類似した文章(授業中で行う小テストの解答が該当します)の概要をとらえるためのものです.このシステムは以下のように動作します.

  1. Web経由で多数の解答を集める
    図では約80人の解答を集めました.

  2. その中から,集めた解答に固有な単語を自動抽出する(右図の上半分)

  3. 単語を選ぶと,その前後の表現をまとめたものを表示する(右図の下半分)
    図では「支援」を選んでいます.

  4. 下半分の適当なところを選ぶと,関係する単語を含む解答だけを表示する
    図では,「修正を」-「支援する」を選んでいます.

アニメーションしているのは,2〜4 の部分にあたります.これは,大学の計算機基礎の授業で実際に行った小テストの結果です.質問は「デバッガと何か答えなさい」で,正解例は「プログラムの間違いを修正することを支援するツールです」です.

このアニメーションから,「プログラムの修正を支援する」と言う意味を答えた人が10人前後であることが素早く把握できます.

このシステムを構築するためにはさまざまな技術を利用しています.以下にそのいくつかを紹介します.

  • 形態素解析
    上記のような処理は,文字ではなく単語を最小単位として行っています.そのために,与えられた文章を単語単位に分割して,それぞれの詳細情報を知る必要があります.これを解析するのが形態素解析で,このシステムでは MeCab を使用しています.

  • 係り受け解析
    日本語は語順の自由度が高く,これを考慮する必要があります.例えば,「100ページの英語の本」と「英語の100ページの本」は同じ意味ですが単語の順番は異なります.「100ページの」と「英語の」がともに「本」を修飾していることを知るために行うのが係り受け解析です.このシステムでは CaboCha を使用しています.

  • 類義語の判別
    上記のアニメーションには含んでいませんが,類似した言葉はまとめた方が,内容把握をし易いです.例えば上の例では「見つけ」と「見つける」が分かれており,さらに「発見」も分かれています.このような類義語を発見し一つにまとめることも必要です.

信号処理技術を応用した支援

解答情報だけでなく,教室内のさまざまな情報を観測することで,学習者の状況を詳細に知ることができます.

  • 解答の入力状況の逐次把握による分析
    下図は,解答入力時の時間に対する入力文字数の変化を観測した結果です(横軸は開始からの秒数,縦軸は解答の文字数).検討の結果,入力の停滞箇所と,学生が不安に思う箇所には強い相関があることを明らかにしました.

  • カメラによる動画の分析
    先生も,教室では主に視覚情報を使って学生の様子を把握しています.
    同様のことを,カメラにより撮影した動画から行うことを試みています.例えば,動画から切り出した画像に対して,顔の特徴点を抽出し(openpose を使ってます),それらの位置関係から顔が向いている方向を判断します.次の写真なら,机の上の右を見ていると判断します.

さらに,このようにして収集したさまざまな情報を統合して,学生の授業・課題への取り組み状況を的確に判定することを行っています.