1. メタボリックシンドロームの発症機構解明
2. 肥満脂肪組織の病態解明
3. アディポサイトカインの作用解析
研究内容
脂肪細胞は、エネルギー余剰時にはこれを蓄積し、欠乏時には放出することで、摂食や絶食・飢餓といった栄養状態の変動下でも生体の恒常性を維持する中心的な役割を担っています。しかし、現代社会における摂取カロリーの増加や運動不足は、脂肪細胞への過剰なエネルギー流入を引き起こし、本来の恒常性維持機構を破綻させます。その結果、糖尿病や脂質異常症などの病態が形成され、メタボリックシンドロームの発症へと至ります。
当研究室では、生活習慣病の克服を目指し、「本来の脂肪細胞の生理機能」と「その破綻による肥満病態形成」の両面を解明するため、肥満脂肪組織の病態解析およびアディポサイトカインの機能解析を中心に多角的な研究を展開しています(図)。
主な研究内容
1.肥満の脂肪組織における病態解析
酸化ストレス(FatROS)による代謝不全
肥満の脂肪組織では、活性酸素種(ROS)産生酵素の増加と抗酸化酵素の発現・活性低下により、慢性的な酸化ストレス状態に陥っています。FatROSの増加は、アディポサイトカインの制御異常やインスリン抵抗性を誘導するだけでなく、脂肪酸合成酵素を抑制します。これにより皮下脂肪組織への中性脂肪蓄積が低下し、溢れ出た脂質が内臓脂肪蓄積や脂肪肝を増悪させます。
一方で、脂肪組織の酸化ストレスを低減させると、皮下脂肪蓄積が促進し、脂肪肝を伴わない「健康的な肥満(healthy adipose expansion)」へと誘導できること、脂肪組織の酸化ストレスを増加させると、内臓脂肪が蓄積する病的な肥満となることを見出しています。すなわち、脂肪組織の酸化ストレスが内臓脂肪蓄積を制御しているのです。
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2018/20180410_1
低酸素状態による機能不全
肥満脂肪組織では、脂肪細胞サイズの急激な増大に血管新生が追いつかず、局所的な灌流低下による低酸素状態が生じています。この低酸素ストレスが、アディポサイトカインの分泌異常やインスリン抵抗性を惹起する重要なトリガーであることを明らかにしています。
2.アディポサイトカイン・分泌因子の機能解析
SDF-1によるインスリン感受性制御
脂肪細胞が産生するSDF-1は、自身のインスリン感受性を自律的に抑制(オートクリン作用)する因子です。空腹時や肥満状態においてSDF-1の発現が増加し、脂肪細胞への糖取り込みを抑制することで、全身性のインスリン抵抗性発症に寄与していることを解明しました。
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2018/20180409_1
Favineによる脂質代謝・血管病態制御
脂肪細胞および血管内皮細胞から分泌される新規因子「Favine」を同定しました。Favineは脂肪細胞分化と中性脂肪蓄積を促進する作用を持ち、Favine欠損マウスは痩せ型で加齢に伴う脂肪肝が軽減します。しかしその一方で、Favine欠損は動脈硬化を悪化させ、血管の石灰化や血栓形成を著しく亢進させることから、脂質代謝と血管保護の双方を繋ぐ重要因子として解析を進めています。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20221021_2
3.栄養シグナルによる脂肪細胞制御と治療薬の作用機序
糖尿病治療薬であるSGLT2阻害剤は、血糖改善のみならず、心血管および腎予後を劇的に改善することが知られています。私たちはこれまでに、抗炎症・抗動脈硬化・抗腎線維化作用を持つ善玉アディポカイン「アディポネクチン」が、SGLT2阻害剤の投与によって血中濃度が上昇すること、そしてその機序として、治療に伴い上昇するケトン体によるヒストン修飾がアディポネクチン発現を増加させていることを発見しました。さらに、本来は飢餓状態で上昇する血中ケトン体が、摂食時には逆に脂肪細胞機能を増強するというユニークな現象も見出しています。
そもそも脂肪細胞の本質的な機能は、余剰エネルギーを蓄積し、欠乏時に放出することで全身の代謝恒常性を維持することです。私たちは、脂肪細胞が単なるエネルギーの貯蔵庫ではなく、独自の“栄養シグナル”によって自身の機能を厳密に制御していることを見出しました。例えば、脂肪細胞が産生・放出する「グルタミン」は飢餓状態において中性脂肪分解を促進する栄養センサーとして作用します。また、脂肪細胞がグルコースを取り込んで産生する「乳酸」は、飢餓状態に他臓器への栄養供給を優先するため、自身のグルコース取り込みを抑制する栄養センサーとして機能します。
これらケトン体、グルタミン、乳酸といった“栄養シグナル”による、未解明の新たな脂肪細胞制御機構の全貌を解明することに挑んでいます。
4.新規バイオマーカーの開発
糖尿病や肥満の病態では、ミネラロコルチコイド受容体(MR)の活性化が血管の線維化や炎症を引き起こします。しかし、MRは塩分摂取や高血糖、炎症などの多因子によっても活性化されるため、これまで有効な活性化指標が存在しませんでした。そこで、尿由来エクソソームを用いた新たなMR活性測定系の開発に取り組んでいます。本技術により、非侵襲的な動脈硬化の新しいリスク評価因子の確立を目指しています。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2021/20211221_2
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