[日本WS DAY4
柏エリア]

テーマ:Who make the city better?  What kind of city is sustainable?

柏エリアのテーマは、”Who make the city better? What kind of city is sustainable?”。日本の典型的な郊外戸建て住宅地である柏ビレジと、鉄道駅を中心として大手デベロッパーが開発を進める柏の葉キャンパスの至近にありながら全く正確の異なる2つのエリアを取り上げ、まちづくりを行う主体は誰であるべきか、ステークホルダー間のパワーバランスはどうあるべきか、のようにまちづくりを行う主体に着目した視察、議論を行い、それを踏まえて真に持続可能な都市とはどのような都市なのかを考える一日とした。

柏ビレジ・柏の葉キャンパス 概要

◯柏ビレジ

柏ビレジは、大手ディベロッパー東急不動産により開発された千葉県柏市にある郊外戸建住宅地である。1980年の分譲開始当時、住宅供給の傾向が「量」の時代から「質」の時代へと移行しており、住宅の大きさ・安全性・照明などの住宅水準だけではなく、景観・周辺施設の利便性・コミュニティといった住環境も貴重なセールスポイントとされていた。開発当初、柏ビレジは最寄駅(常磐線北柏駅) まで4km離れていること、利根川沿いの低湿地帯であるという欠点を抱えており、これらを打開する付加価値をつける必要があった。そこで、東急不動産はレンガとアイビー、シンボルツリー、洋風の街並みにより統一された美しい景観と、銀行、小学校、保育園、スーパーなどの日常生活に必要な施設の設置など、良好な住環境を売りに住宅地開発を進めた。分譲後、多くの子育て世帯の入居により賑わいを見せた柏ビレジであったが、分譲開始から40年を迎え、柏ビレジは高齢化やそれに伴う交通問題、買い物問題、空き家や景観悪化など、少なくない地域課題に直面している。

これらの地域課題に対して、住民組織が積極的に活動を行なっている。柏ビレジでは自治会活動をはじめとする住民活動が盛んであり、過去には東京大学、現在は筑波大学などの教育機関と連携し、地域課題の解決にあたっている。


◯柏の葉キャンパス

柏の葉キャンパスエリアは、千葉県柏市の北西部に位置しており、東京から30㎞の距離にある。柏の葉キャンパス駅があり、秋葉原からつくばエクスプレス(TX)で34分、柏駅から電車で約20分で行くことが出来る。また、柏の葉キャンパス駅からはバスで成田空港と羽田空港に行くこともできる。周辺には国道16号線や常磐道が走っており、交通は充実しているエリアである。エリアは大きく4つに分類することができ、大学や企業の研究・研修所などが立地している「研究・研修エリア」、県立公園がある「会話の葉公園エリア」、住宅が密集している「柏の葉1,2,3丁目エリア」、そして約13㎢の開発地区がある「柏の葉キャンパス開発エリア(柏の葉スマートシティ)」に分けることが出来る。我々はこれらのエリアの全体を総合し、「柏の葉エリア」とした。

柏の葉エリアは、住宅が密集するエリアや大きな公園、大学や企業の研修所が多く立地しており、柏の葉キャンパス駅周辺では一帯の開発地区を「柏の葉スマートシティ」と呼び、「公・民・学」の連携をベースにしたすべてのひとにオープンなプラットフォーム、解決のステージづくりを「世界の将来像をつくる街」という目標を掲げてまちづくりを実施している。柏の葉スマートシティは、3つのテーマの最適解を求め、開発を行っており、利便性が良く、商業施設や、医療機関などが充実している。

訪問場所

◯柏ビレジ

ビオトープ

・水辺公園

・柏ビレジ緑道

・アイビーモール

・柏ビレジ自治会館


◯柏の葉キャンパス

・UDCK

・KOIL

・街のすこやかステーション

・柏の葉スマートセンター

・エネルギー棟

【柏ビレジ】

ビオトープ

水辺公園内の「柏ビレジ第一調整池ビオトープ」は水辺の再生と自然回復、環境学習の場となることを目的として整備された。井戸水が流れており、動植物が豊富に存在する場所。ペットなどが転落する事例が相次いだことから、最近手すりが取り付けられたり、水質が改善されたりとリニューアルが行われた。こうした取り組みは柏市と連携して行っている。前日からの雨の影響で増水していたことで、デッキに至るまでに石を伝いながら小川を渡る必要があり、当日一番の盛り上がりとなった。 

水辺公園

水辺公園は柏ビレジで最も大きい公園で、園内には森が広がり、この地域の調整池としても機能する広大な池を有するなど、市内でも貴重な自然豊かな公園である。しかし、夏場の水質悪化や遊歩道、ベンチ、東屋などの施設の老朽化が課題となっている。そこで、自治会は柏市と連携し、多くの老若男女が利用できる新たな「柏ビレジの顔」を目指し、公園のリニューアルを計画している。自治会役員で公園内を視察し、課題を発見したり、住民に対してアンケート調査を行い利用者の意向を確認したりと積極的にリニューアルに向けた活動を行っている。

柏ビレジ緑道

柏ビレジの住宅の間を東西南北に貫く歩行者専用の道。様々な植栽が整備されており、緑道を挟んで対面する住宅のバッファとして機能している。この道は住民の散歩道や抜け道として親しまれている。また、自治会内の組織である「ビレジサポート」が、柏市公園管理課から委託される形で植栽の剪定など緑道の整備を行っており、月に数回活動している。 

住宅地内

ビオトープ近くの公園で柏ビレジの概要を説明したため、住宅地内ではその内容を実際に目で確認した。具体的には、ビレジの住戸がレンガとアイビー、洋風の建物で統一されていることや、玄関先の門の部材が、穴のパターンや色彩が地区ごとに変化している点、ビレジの洋風の景観が付近のエリアから悪目立ちしないように、ビレジの中央から周辺に向かってレンガの使用量を減らし、緑を増やしていることなどを確認した。 

アイビーモール

最後に、アイビーモールを訪れた。アイビーモールは柏ビレジ唯一の商業地で、八百屋や接骨院、パン屋、コンビニなどの店舗に加え、コミュニティカフェ「はなみずき」、コミュニティスペース「IVY-LAB」といった地域の拠点施設も立地している。元々はビレジの中心地として栄えていたが、2006年に東急ストアが撤退するなど、次第に賑わいが失われている。また、東急ストア跡地が宅地化されている様子も確認した。 

柏ビレジ自治会館

自治会館は1999年に完成し、以来自治会の会議や住民説明会、住民によるイベントなどが開催され、長らく住民に親しまれている。当日は当館で学生による柏ビレジ概要の説明、柏ビレジが取り組む建築協定の地区計画への移行、コミュニティバスの運行に関する解説を各担当者様からいただき、学生からの質疑応答が行われた。

【柏の葉キャンパス】

KOIL

柏の葉オープンイノベーションラボは、コワーキングスペースの他、スタートアップのステップアップに対応した数人~100人規模まで多様なサイズの個室専有オフィスが揃った施設。オフィスの他にも、共有の会議室や、イベントスペース、レーザーカッターなどが使用できるファクトリールームもある。同フロアにはカフェも併設されている。利用者は起業家、大企業、フリーランス、研究者、生活者など様々。 

HEALTH STATION「街のすこやかステーション」

 「街のすこやかステーション」は、ららぽーと柏の葉北館3Fに整備された健康促進施設で、まちの健康研究所「あ・し・た」ゾーン、SMART LIFE PASS KASHIWA-NO-HAゾーン、イベントゾーンの3エリアで構成される柏の葉国際キャンパスタウン構想にて掲げられたテーマの一つである、「健康・長寿」に基づき、「住むだけで健康になる街」を目指してゲートスクエア内に整備された。特に、街のすこやかステーション「あ・し・た」は、IoTで収集された健康データに基づき、生活習慣などに関するアドバイスを提供してくれる健康拠点で、健康を身近に感じられる施設で、当日は実際に器具やデジタルデバイスを用いた継続サービスを体験した。

柏の葉スマートセンター

 街区全体のエネルギーの運用や管理、制御を一手に担う、柏の葉スマートシティの中核となるエネルギー管理システムを備えた施設。街全体で電力を融通することで焼く26%の電力ピークカットを実現し、省エネ、CO2削減に貢献している。

CONNECTING BRIDGE「エネルギー棟」

 国内最大級のリチウムイオン蓄電池システムや太陽光発電、非常用ガス発電機などを備えるエネルギービルディング。日本で始めて、街区を超えて自営送電網によって電力をシェアし合う創エネ・省エネ・施設が一つになったエネルギー施設。非常時の活用方法として、ビジネスコンテニュープランやライフコンテニュープランなど、目的に応じて電力消費方法が選択できる。

 

ディスカッション内容

◯目的

柏ビレジと柏の葉キャンパスの両エリアにおいて主体的に地域運営、まちづくり活動にとりくんでいる組織や、ステークホルダー間のパワーバランスについて理解し、持続可能な地域運営体制について考えを深める。

◯結論

柏ビレジでは、自治会が地域の課題解決のために主体的に取り組んでいることを再確認され、ボトムアップ型の街づくりである、という意見が多く出された。一方、彼らを支援すべき行政や民間事業者との連携が思うように進んでいない現状が課題として挙げられていた。

柏の葉キャンパスについては、三井不動産を中心とした産官学連携によるまちづくりが行われている一方で、その実態は三井不動産が柏の葉キャンパスを実証実験の場として利用している、その思惑は柏の葉キャンパスに投資を続けることで長期的に利益を得ようとしている、という踏み込んだ意見まで出された。「三井不動産がこの街から撤退したら?」というディスカッション項目は上記の意見を期待して設定したため、期待通りのディスカッションが行われたといえる。三井不動産が柏の葉キャンパスに投資をすることは柏の葉キャンパスにとって良いことばかりではなく、産官学連携のパワーバランスは大きく民間事業者に偏っており、住民の主体性に課題を抱えている、という結論に至った。