ドイツWS DAY5Duisburg

テーマ:Social-ecological transformation in the Duisburg districts of Ruhrort and Hochfeld

Social-ecological transformation(社会生態学的転換)をテーマにRuhrort・Hochfeld地区を巡った。「社会生態学的転換」とは、経済学者のカール・ポランニーが1944年に提唱した「大転換」の概念に基づくものであり、 化石燃料に依存し有限の資源を必要とする資本主義からの転換・持続可能な開発への移行を指すものである。

Duisburgは長年工業都市として発展し、近年では失業者・移民の貧困・教育格差といった社会課題や脱炭素・工場跡地やライン川の活用といった環境問題にも直面している。その中でも課題解決の先進地区となっているRuhrort・Hochfeld地区を視察し、ステークホルダー同士の関係性を意識しながらさまざまな取り組みを見学した。

Duisburg概要

デュイスブルクはライン川とルール川の合流地点に位置する工業都市であり、ヨーロッパ最大級の内陸港(河港)を有する。人口は495,152人(2021年12月31日現在)、面積は232.81 km² である。

中世から商業で繁栄し、16世紀からは石炭採掘が盛んになった。産業革命以降は工業都市として成長し、20世紀初頭からは鉄鋼などの重工業地域として発展した。第二次世界大戦で市内の多くが荒廃し、その後戦災復興を果たしたが、1980年代には石炭・鉄鋼産業の衰退により失業者が増加した。特に近年ではトルコ系移民や東欧系移民が多く住み、集住地区の貧困が課題となっている。


訪問場所

・Hafenstadtteil Ruhrort

・Franz Haniel Headquarter

・GEBAG Headquarter

・Hochfeld MarketplaceHochfelder Markt

・Blue houseBlaues Haus

・Rheinpark 

Hafenstadtteil Ruhrort

世界最大の内陸港の玄関口として各国の船員が集い活気のあった地区。ドイツ国内では1981年に放映された刑事ドラマ「Tatort(事件現場)」のロケ地として知られている。荷降ろしの合理化により船員の上陸が減少したが、近年では空き店舗のギャラリーやスタジオへの再生などが進むクリエイティブな地区となっている。

当日は運河沿いの遊歩道で担当学生からDuisburgに関するIntroductionの説明が行われたのち、港湾地区のまちあるきを行った。 

Franz Haniel Headquarter

Franz Hanielは1756年にデュイスブルク・ルールオルトで創業した同族企業で、第二次世界大戦後まで造船・炭鉱・海運・貿易などの事業を展開していた。1960年代には重工業部門を売却し、医薬品・卸売・小売などへの参入・投資を強化した。その後、1970年から1985年にかけて石炭・鉄鋼・鉱業から完全撤退した。2010年にはCSR(企業の社会的責任)の一環としてenkelfähig (持続可能性)戦略を開始し、2021年からは創業地のRuhrort地区でUrban Zero プロジェクトを開始している。

Urban Zeroプロジェクトは、Ruhr地区を2029年までに完全な環境中立状態に変える試みであり、2022年8月にHaniel社・環境分野で活動するGreen Zero・市営住宅会社GEBAG・港湾会社Duisportの4社でプロジェクト会社を設立し、市・市営企業・州などがパートナーに選出されている。

当日は本社会議室でFranz Haniel & Cie. GmbHのHead of Holding ServicesであるPeter Weidig氏からUrban Zeroプロジェクトの説明を受けた。説明の中では特に、Ruhrortエリアにおけるローカルのプロジェクトを国際的なロールモデルにするための将来ビジョンが強調されていた。


GEBAG Headquarter

GEBAGはドイツで最も古い住宅協会の 1 つ(デュイスブルク市営の住宅会社)であり、1872年に Duisburger Gemeinwohlige Baugesellschaft AG として設立された。約 12,600 戸のアパートメント・170 戸の商業施設・3,400 台以上のガレージと駐車スペースを管理しており、2017 年以降は都市・地域の開発主体としても活動している。日本に例えるとUR都市機構(都市再生機構)のような機関である。

 GEBAGはDuisburgで6-Seen-Wedau・Alte Angerbach(市南部の新興住宅地開発)・Am Alten Güterbahnhof(Duisburger Dünen|デュイスブルク砂丘:貨物駅跡地の再開発)などの開発に関与している。

また、Initiativkreis Ruhrは、1989年に設立されたルール地域の企業・団体の地域経済同盟である。教育や社会問題、モビリティ、公共空間の再設計に注力する“Urban Zukunft Ruhr”を主導し、デュイスブルク市と協力してHochfeld地区の地域課題に産官学連携で取り組んでいる。

  当日はまずGEBAG本社に隣接する区画に位置し、GEBAGが2017年に購入して今後IGA2027に向けた住宅建設・デイケアなどが計画されているThe Theisen cable factory を外から見学した。その後、GEBAGの本社会議室で、GEBAGのManagement of the project developmentに所属するKatrin Witthaus氏、Initiativkreis RuhrのManaging Director “Urbane Zukunft Ruhr“を務めるNils-Christoph Ebsen氏から説明を受けた。説明の中では“renovation ourself”“make yourself”といったように、ハードを提供するのではなくソフト面から住民たち自身が課題を解決できるようなコミュニティ形成を重要視していることなどが強調されていた。


Hochfeld Marketplace(Hochfelder Markt)

Hochfeld MarketplaceはHochfeld地区の中心的な広場であり、毎週定期的にマーケットが開設される。デュイスブルク市はこの広場をマーケットの開設時以外にも活気ある場所にすべく再設計を行い、2022年3月に工事を開始し2023年春に完成した。広場の再設計に併せて隣接する小学校・駐車場のリニューアルも行われた。この場所からデュイスブルク市のReinhard Schmidt氏が合流し、広場の再設計に関する説明を受けた。説明では、広場が地域住民のコミュニケーションの場として機能していることが解説された。その一方、訪れたタイミングでは広場に人はまばらで寂しい印象を受けた。

Blue house (Blaues Haus)

Blue houseは貧困層の教育・生活支援を目的に開設された青少年センターである。ここでは施設の中を見学し、市のSchmidt氏に加え、Blue House職員のNikita Grojsman氏、Working Group Culture and SociocultureのStefanie Weykam氏、Hochfeld地区に住むNeighbourhoud ImmendalのFriederike Bettex氏によるパネルディスカッションが行われた。ここでは行政・地域住民双方の視点から、特に移民との言語・文化の壁やIGA2027計画の賛否について議論がなされた。後半ではウタ先生も議論に参加し、ドルトムントのようなイノベーションをデュイスブルクでも実現できるのではないか、住宅会社は家を作るだけではなく環境・社会などさまざまな側面を考える必要がある、アクターを地区の中からも出すことができるのが望ましい、といった活発な意見が飛び交った。

Rheinpark

Rheinparkは2008年にライン川に面した重工業用地の空き地の一部に建設された公園である。2027年にルール地域で開催されるIGA(国際園芸博覧会)では、Rheinparkが都市開発とブルー・グリーンインフラの融合を図る“Future Garden”のひとつとして計画されており、Hochfeld地区と一体となった再開発が予定されている。当日はHochfeld地区から園内に入り、工場跡地を活用したエリアや芝生・林が整備されたエリアを通ってサマリーディスカッションを行う場所に向かった。

 サマリーディスカッション

サマリーディスカッションはRheinpark内の木製の階段があるゾーンで行われた。

当日はRuhrort(Franz Haniel & Cie.Gmbh, GEBAG, Green Zero mbH, City of Duisburg, duisport, Residents/Cuvil society), Hochfeld(GEBAG, Initiativkreis Ruhr, Urban Future Ruhr GmbH, Blue House, Association for the Solidaty Society of the Many, Residents/Cuvil society)のステークホルダーごとにグループ、財源、組織的枠組み、将来像とチャンス、社会生態学的転換への戦略、障害・困難・対立、リーダーシップの位置づけを記すワークシートが配布され、その内容を基に話し合った。

具体的には、ステークホルダーのカードを各都市のグループに配布し、模造紙の上に貼っていくことでデュイスブルクではどのステークホルダーがリーダーシップを発揮しているかを考えるものであった。リーダーシップを発揮しているステークホルダーには👑(王冠マーク)、協力関係にあるステークホルダーの間には🤝(握手マーク)、対立関係にあるステークホルダーの間には⚡(雷マーク)を貼ることで、ビジュアルでもわかりやすくまとめることができた。

結論としては、デュイスブルクの対外的なリーダーはFranz Haniel & Cie.Gmbhであり、その裏で一番強力なリーダーとして住民がいるというようにまとまった。

ワーク終了後には、担当学生が当日見聞きしたステークホルダーの歴史や地域の課題・将来をストーリー仕立てで振り返り、デュイスブルクのワークショップの全行程が終了となった。