[日本WS DAY2横浜]

テーマ:- Collaboration and Co-creation of YOKOHAMA

for designing the future together -

 【目的】

1.横浜の臨海部の歴史を知る。

2.横浜で行われている「協働」と「共創」の取組みを知る。

3.ドイツの学生との議論を行い、7月にドルトムントで見学してきた取り組みの類似点や相違点を導き出す。

4.横浜が将来にわたって「協働」と「共創」を持続していくための条件と、ドルトムントが将来にわたってイノベーションを持続していくために不可欠な要素について考える。

【Key Question】

異なる主体がいる中で、それぞれの専門家は「協働」と「共創」についてどのように捉えているか?

横浜 概要

 【市の概要】

 横浜市は神奈川県の県庁所在地であり、東京都心から30km離れた場所に位置している。人口は377万人で、日本最大の都市である。つまり、神奈川県の中核都市であり、首都圏の南の臨海拠点として新たに開発された都市である。1859年の開港以来、横浜は世界各国と人・文化・モノを交流させ、常に時代を先取りし、開放的な感覚を培ってきた。日本近代文化の発信地であり、国際的に開かれた都市として発展してきた。また、開港以来、日本を代表する国際港湾都市としての役割を担い、現在に至っている。 

【みなとみらい21地区】

現在のみなとみらい21地区は高水準のインフラが整備され歴史やウォーターフロントの景観を生かしたまちの街並みの形成など快適なビジネス環境を備えた年間8100万人が訪れ10万3千人が働く首都圏を代表する町として成長を続けている。みなとみらい21事業は六大事業のうちの6番目:「都心部強化事業」として計画され、総面積約186ヘクタール(宅地:87ヘクタール、道路・鉄道:42ヘクタール、公園緑地:46ヘクタール、ふ頭:11ヘクタール)のウォーターフロント再開発事業として1983年に事業着手された。現在のプロジェクトの開発進捗率は96%。40年かけて進められてきた開発がついに完成を迎えようとしている段階である。


【寿地区】

本地区は、日雇い労働者が宿泊するための「ドヤ」という簡易宿泊所が100軒以上立ち並び「ドヤ街」と呼ばれる地区の一つである。地区内には120軒以上の簡易宿泊所が存在し、約5,700人が宿泊している(2018年時点)。東京都山谷地区(台東・荒川区)、大阪市あいりん地区(⻄成区)、と共に「日本三大簡宿街」とも呼ばれる。地区の特徴として、地権者の3分の1を韓国籍や北朝鮮籍などの外国籍の人々であること、生活保護対象者や一人暮らしの高齢者が主に生活していることが挙げられる。高齢化率は80%を超える。

朝鮮戦争による軍需輸送の基地となった横浜港は、荷役(にやく)労働を中心に港湾労働者の需要が多く、日本中から労働者が横浜に集まるようになった。1957年に職業安定所と寄せ場(日雇労働者に仕事を斡旋する場所)が寿町に移転する。これをきっかけに、横浜港へのアクセスの面や接収解除後の土地という利点から寿町地区に100軒以上の簡易宿泊所が建設された。

 港湾荷役に代わっていた建設業もバブルの崩壊により、需要が激減し、日雇労働者の需要も激減する。しかし、他の仕事を得ることが難しい当時の日雇労働者たちは、その一部がそのまま寿町に暮らし続け、高齢化し、現在の寿町を形成する生活保護者と高齢者の町となった。近年は、簡易宿泊施設が外国人バックパッカー向け格安ホテルとしても機能し始めている。また、生活保護者やひとり暮らしの高齢者が、保証人無しで住める簡易宿泊所を求めて転居してくる場ともなっている。


訪問場所

・横浜市役所

・市役所内アトリウム

・さくらWORKS

・FabLab関内

・大通り公園

・ことぶき協働スペース

・BUKATSUDO

※みなとみらい地区はスケジュールのずれにより案内できなかった

横浜市役所

横浜市市民協働推進センター協働ラボ)

横浜市役所内の横浜市市民協働推進センターでは、2名の専門家にご講演頂いた。


・小笠原 泉 様(元横浜市職員、現職:株式会社アミック)

「横浜市の都市の発展の歴史」をテーマにご講演頂いた。お話の中で、横浜市の歴史を過去からさかのぼって学ぶことが出来た。上述した横浜市の6大事業のこともご説明頂き、まちあるきを始める前に横浜市の歴史をインプットすることが出来た。

 人口減少・高齢化・地球温暖化などの世界的な問題が横浜市でも課題となっており、これら社会構造の変化に対応するため、横浜市では2050年に向けたマスタープランが策定されている。特に、国際競争力を高めるうえでもみなとみらい地区のエリア価値を高めていく事を重要視している。

また、山下公園近辺のエリアにIR誘致を目論んでいた林文子元市長は市民からの反発がなされるなど、2021年の市長選で問題となった。選挙の結果、IR誘致に反対した元大学教授の山中竹春現市長が勝利を収めた。現在は他用途での土地活用法を検討している。

 

・関口 昌幸 様(横浜市役所 共創推進室)

 横浜市の職員として、「共創」事業に取り組んでいる関口様にも「横浜版地域循環型経済とよこはま共創コンソーシアム」というタイトルでご講演頂いた。横浜市では、21世紀に入り浮かび上がってきた課題として、「高齢化や単身化の増加による個々人及び社会のケア負担の増大」、「気候変動による災害の頻発・甚大化ならびに経済のグローバル化による感染症によるパンデミックのリスク増大」、「単線型教育システムの変容と、終身雇用制の崩壊」が挙げられている。これらの課題に対応する方向性として「東京から自立した文化・経済圏の確立」、「多様な主体によるオープンイノベーションの推進」、「SDGs実現の視点に立ったサーキュラーエコノミー(plus)の展開」を掲げ、様々な事業を推進している。例として、すすき野団地における「個・孤の時代の人生ケアシステム」実証実験や、市内15か所でのリビングラボの取組、サーキュラーエコノミーplusの活動として、地産地消と休耕地の有効活用を目指した「横浜オリーブプロジェクト」などが紹介された。

 また、令和5年6月1日より、「よこはま共創コンソーシアム(11社による共同事業体)」による「協働機能と共創機能の一体化を目指した実証実験」が始まっており、サーキュラーエコノミーplusの推進、未来の横浜づくり、市庁舎低層部の賑わいづくりに向けて活動が行われている。


・質疑

Q.関口様は、「協働」と「共創」の違いをどのように考えていらっしゃいますか。

A.「協働」は、主に市民や市民団体が主体となって取り組む活動のことを指す。その人たちがいきいきと生きるための活動。この際、利益などは発生しない。一方で「共創」は、多様な主体による活動によって経済が循環している活動のことを指す。

さくらWORKS

・杉浦 裕樹 様(NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ(以下、YCDL)代表理事、ヨコハマ経済新聞編集長ほか)

Role of Yokohama Community Design Lab. in collaboration with City of Yokohama for open city innovation」と題し、ご講演頂いた。NPO法人としての立場として横浜市の「共創」に貢献している活動をご紹介いただいた。2001年から活動を開始し、2003年にはNPO法人に認証されたYCDLが、多様な活動を通して横浜の市民活動を支えてきているということをお話いただいた。

 場の提供という点では、コワーキングスペース「さくらWORKS」、その隣に位置する「Fab Lab Kannai」、さくらWORKSが入っている泰生ビルの向かいに位置し、YCDLを含めた3つの団体によって運営されているコミュニティカフェ「泰生ポーチフロント」、同じく泰生ビルの向かいに位置し、ちょうど横浜まちあるき前日の2023年9月19日にオープンしたコミュニティキッチン「さくらハウス」など、他にも市内にYCDLが関与するスペースがあり、市民活動を支える空間を多く提供している。また、地域Web新聞「ヨコハマ経済新聞」の運営も行い、市民活動を中心に横浜で起こっている出来事を取り上げている。

他にも、クラウドファンディングのプラットフォームを作ったり、横浜市政策局と協働したオープンデータ活用なども行っていることをご説明頂いた。

ウタ先生やドイツの学生たちも、YCDLの活動領域の広さに驚いている様子であった。


・質疑

Q.杉浦様は、「共創」と「協働」の違いをどのように考えていらっしゃいますか。

A.数秒困った様子であったが、「同じようなもので、違いはない」とおっしゃっていた。市役所で関口様にも同様の質問を投げかけた時とは全く別の答えが返ってきたため、一同驚いていた。

関口様とは異なり、NPO法人という立場から地域の社会的課題の解決や市民活動に関与しているため、お金を動かそうとする意識はあまり持たれていないからだと考えられる。

大通り公園


1973年、横浜市営地下鉄1号線建設のため、それまであった吉田川が埋め立てられた。この工事の地上部分が大通公園に生まれ変わった。運河跡地に造られたため、全長1200メートル、平均幅30メートル、面積3.6ヘクタールという非常に細長い公園である。

 大通り公園は、横浜都心の魅力向上と防災への貢献を目指す「グリーンアクシス構想」の中核施設となっている。横浜市の6大プロジェクトである「中心市街地強化事業」「高速鉄道(地下鉄)建設事業」「高速道路網整備事業」の一環である。都市緑地整備事業の一環として大通公園が誕生し、山下公園、日本大通り、横浜公園、くすのき広場、大通公園、舞田公園を結ぶ「緑の軸」が形成された。市民の憩いの場であると同時に、防災上も重要なエリアである。


横浜市ことぶき協働スペース

→横浜市健康福祉局とYCDLによる協働事業である。2019年6月1日オープン。

 

・徳永 緑 様(ことぶき協働スペース施設長)

「横浜市ことぶき協働スペース 6つの事業と事業展開」と題し、徳永様にご講演頂いた。翻訳は、Google翻訳アプリを利用。ところどころ音声がうまく反映されず全く異なる単語になってしまうことがあったため、そこは柔軟に対応した。

寿地区は、日雇い労働者が簡易宿泊所を使って寝泊まりする地区だったが、港湾地区の開発が落ち着いたころから、職を失った人が多く発生し、さらには高齢化が進んだことで生活保護を受給する人が多くひしめく地区となってしまっていた。

コロナ禍以前のWSではこの寿地区とみなとみらい地区の都市のギャップを見せるという手法で紹介を行っていたが、2019年に本スペースがオープンし、寿地区の人々、ひいては地域外の人々をも巻き込んだ活動が積極的に行われるようになり、市の健康福祉局も介入していることから、「福祉の街」へと変化しつつあることがわかった。また、戦後77年間の寿町の歴史を綴った社会史の書籍も刊行しており、寿地区の方々を大切にすると同時に、寿地区の歴史も大切にされていることがわかった。

 

 

・質疑

Q.徳永様は、「共創」と「協働」の違いをどのように考えていらっしゃいますか。

A.市民(特に、寿地区の方々)が中心となった活動を行政やNPO法人が支えること、市民を支援するために多様な主体が伴走して健やかな生活を手助けすることだとおっしゃっていた。

ファイナルディスカッション

■目的

 異なる組織に所属するエキスパートの方々が「共創」と「協働」をどのようにとらえているのかを振り返り、人・組織によって多様な理解の仕方があり、正解はないということを学ぶ。

 また、本WSにおいて比較対象のドルトムントとの違いについても考え、両都市の良い点・改善すべき点を議論する。

■議題

当初予定していたディスカッションのテーマから変更し、3人の専門家から聞いた「共創」「協働」についての意味を議論した。


■まとめ

 難しい問いであったが、ファイナルディスカッションを通して解像度を高めることができたと感じている。立場の違うそれぞれの専門家が「共創」と「協働」について異なる見解を持っていることが大変興味深い結果となった。

横浜市には杉浦様といったマンパワーの強い方がいらっしゃる一方で、大学が介入しきれていない点が課題なのではないかという意見も挙がった。たしかに、ルール地域で学んできた都市は多くのプロジェクトにおいて大学が介入していることを紹介していた。横浜においても大学が無関与というわけではないが、大学が持つ役割は非常に大きいため、PPAPの「A」を強めていく事が重要である。