言葉と身体の認知科学
コミュニケーション全般、他者から知識や情報を受け取り、それを上手く使うというプロセスに興味を持っています。特に、「言葉で理解したこと、表現できること」と「体験すること、体験できないこと」の違いなど、言葉と行動、言葉と身体の関係に興味があります。
こう書くと抽象的ですが、例えば「説明を聞いて分かったつもりだったが、やってみたらできなかった」、「非現実的だったり体験したこともない妄想だが、文章では見事に表現できる」など、人間のよくある能力・活動だと思います。現在は、言葉の理解と身体的行為の関係に関する認知心理学的研究、およびその教育への応用について研究しています。反応時間や正答率などを利用した認知心理学実験と、fMRIを使用した認知神経科学(脳科学)的研究、英語やPBL授業を利用した学習・教育研究などを組み合わせて行っています。
他に、音声の印象や、食べ物の美味しさなどの感性評価にも、手を出しています。他の人の言葉(おいしい)や行為(演奏者の動き)が印象や評価にどう影響するか、どうすれば良いと感じてもらえるか、などを扱っています。 ベースは実験心理学ですが、かなり手を広げています。面白そうと思ったら、とりあえず手を出してみるというスタンスです。
人が言葉を理解する仕組みについて、調べています。主に、身体的認知科学、知覚的記号システム理論という考え方に乗っ取って研究をしています。言葉は、その言葉が意味する内容を実際に経験したとき同じように、知覚や運動にかかわる仕組みが働くことで理解されるという考え方です。例えば「ボールを投げる」という言葉を理解するには、実際に「ボールを投げる」ときに働く神経組織(の一部)が働いているという考え方です。この考え方を応用して、長い文章や説明がどうすれば分かりやすくなるか、言葉以外のもの(図、グラフ、ポスター、写真など)をどうやって理解するか、どうやって言葉以外の記号(数字や絵文字)を理解するか、外国語(英語)の文や単語を効率よく学習する方法の開発などもしています。
人は、他者から言葉で教えられた、伝えられた物事だけでなく、自分(や他者)が様々な状況を実際に経験・体験したことからも多くのことを学びます。どのような経験からどのようなことを学ぶのか、何が変わるのか、同じ経験をしても人によって学ぶことが違うのはどうしてなのか、などについて調べています。これらの内容を応用して、経験したことを有効に、効果的に活かし、成長するにはどうしたら良いか、についても調べています。
人は、ファンタジーやSF、夢小説、腐小説のように、実際には存在しない世界や物事を創造、想像、妄想することができます。また、他の人が創造した世界や物事を、言葉を介して理解し、楽しむこともできます。2に書いたように、人は経験を介していろいろと学ぶのですが、どこかで経験を切り離したり無視したりすることもできます。これが、人が今のような文化を持てる基盤ではないかと思っていますが、好むかどうか、どの程度理解・想像できるかなどにも、かなり個人差があります。理解や創造する仕組み、実際の経験との関係などについて、調べています。
情報技術の進展により、実際の物事や現実の体験に近いがそうではない、というものが多く生まれてきています。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)はわかりやすい例ですが、ビデオ通話やアバターを通したコミュニケーションは生身の相手の会話とは違いますし、オンラインでのライブやスポーツの配信は実際の会場で感じるものとは違います。漫画がアニメ化されると、どちらも非現実なのですが違和感を感じたりもします。現実のものと受け止め方や理解の仕方、感じる価値などがどう違うのか、体験したこと・学んだことが適用できるのかなどについても、調べています。
また、ものを所有することも変わってきました。たとえば音楽でも、CD購入、ダウンロードでファイル購入、サブスクリプション、無料のものだけお気にいり登録など、いろんなやり方があります。モノとしてコレクションしたい場合もあれば、アクセスして見聞きできれば良いものもあるでしょう。自分の身体で触れる、体験できるということの価値についても興味を持っています。