徳島県は瀬戸内海と太平洋、そしてそれらをつなぐ紀伊水道の三つの海域に面しており、温帯性の魚類から黒潮に乗ってやってくる熱帯性の魚類まで、様々な来歴をもつ魚が出現する沿岸環境を有しています。陸域に目を向けると、吉野川や那賀川、勝浦川や海部川をはじめ、大小500近い河川が流れており、山深い源流部から広大な河口干潟まで多様な環境がひろがります。
このページでは、そんな徳島県の水辺で見られる魚類を紹介します。
カマキリ(アユカケ)Rheopresbe kazika は、海と川を行き来するカジカの仲間です。頭でっかちな愛らしいシルエットをした底生魚で、普段は河川中下流域の礫底の瀬などで見ることができます。
徳島県では吉野川から宍喰川までの広い範囲に分布するとされていますが、徳島県版レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に選定されているように、数を減らしている魚です。遡上能力が低く小さな堰でも越えるのが難しいこと、河川流量の低下などに伴う礫底の目詰まり、仔魚期を過ごす沿岸域の環境の変化などが減少の原因だと考えられています。
筆者がこの魚に初めて出会ったのは15年ほど前、小学生の頃のことです。よく遊んでいた吉野川水系の川で一緒に潜っていた友人が20 cmほどある大きなカマキリを捕って上がってきて、こんなにかっこいい魚がいるのかと驚かされました。当時はその貴重さを知る由もなく川原で焼いて食べましたが、身は旨味が濃く、かつて県南の川で食用に漁獲されていたというのも納得の美味しさでした。
以来、川に潜るたびに本種を探していますが、大型の個体にはお目にかかれていません。場所を選べば小さな個体はまとまった数が見られることもありますが、好適な生息環境が下流方向へ縮小しているのは間違いないでしょう。
本種の安定した生育のためには川と海の連続性が不可欠であり、徳島県の川と海のバロメーターとして、今後も見守っていきたい存在です。(写真・文:北尾圭梧、2026年8月10日 公開)
徳島県の川ではおなじみのハゼの仲間であるシマヨシノボリRhinogobius nagoyae。県内では北部から南部にかけて広くみられ、主に下流~中流域に生息しています。特に県南部を流れる小河川の下流域で多く、潜水して川の中を観察してみると、必ずと言ってよいほど目にします。川底に小石や石、岩が多く、流れが比較的緩やかな場所を好みます。写真(PC:左と中央、スマホ:上と中央)は宍喰川と日和佐川でそれぞれ撮影したものです。吉野川流域では、他のハゼの仲間とあわせて「じんぞく」と呼ばれることもあります。
県内の川には、いくつかのヨシノボリの仲間が生息していますが、シマヨシノボリは頬(ほお)に赤色のミミズ状の斑紋が複数あることで、他のヨシノボリの仲間と簡単に見分けることができます。初夏から夏(5~8月)頃が繁殖期で、この時期のメスは、お腹が宝石のように青くかがやきます。その美しさは一見の価値あり。ヨシノボリの仲間はどれも互いによく似ていて、見分けることが難しいと言われています。見分けたいけどわからない!という人は、手始めにシマヨシノボリの特徴(PC:右の写真、スマホ:下の写真)を覚えてみてはいかがでしょうか。(写真・文:井藤大樹、2026年8月10日 公開)
イドミミズハゼLuciogobius pallidus は、汽水域(淡水と海水が混じる場所)の地下水を中心に生息するハゼの仲間です。名前のとおりミミズのような体でニョロニョロ動き、石や泥の隙間を流れる伏流水の中でヒッソリと生活しています。特殊な環境に生息し、タモ網などを用いた通常の魚類採集ではめったに目にすることができないことから、かつては一部の魚好きから幻の魚と呼ばれることもありました。しかし、徳島県では瀬戸内海沿岸から太平洋沿岸の流入河川に広く分布しており、他県に比べて容易にイドミミズハゼを見つけることができます(筆者の個人的感覚です)。
このように、徳島県には本種が好む環境が多くあるため、イドミミズハゼと同様に地下水に生息する幻のミミズハゼ(ナガレミミズハゼ、ユウスイミミズハゼ)が生息しているのではないかと期待して、私たちは県南部の河川を調査しました。すると、海水の影響のない河川下流域から妙なイドミミズハゼを採集することができました。このイドミミズハゼを調べてみると、よく知られた汽水域に生息するイドミミズハゼとは、体の特徴が異なることがわかりました。そこで、従来からよく知られていた汽水域を中心に生息するものを「イドミミズハゼ汽水型」、淡水域を中心に生息するものを「イドミミズハゼ淡水型」と、仮の名前で呼ぶことにしました。いやはや、私たちの足元にはまだまだ未知なる世界が拡がっているかもしれませんね。(写真:井藤大樹、文:奥村大輝、2026年8月10日 公開)
「ドジョウ」と言えば、田んぼや用水路の泥っぽい場所に生息するものという印象を持っている人が多いのではないでしょうか。しかし、ナガレホトケドジョウLefua torrentisは、名前に「ドジョウ」と付いていますが、いわゆる「ドジョウ」が生息するような泥っぽい場所では見られません。この魚は、河川源流部の水がきれいでとても冷たい細流に生息しています。
徳島県では吉野川水系を中心に分布しており、体に黒っぽい斑紋があるものがよく見られますが、地域によっては、体にまったく斑紋のないものも見られます。夜に活発に動き回り、昼間の明るいうちは岩の隙間や石・落ち葉の下などでじっとしています。体は4 cmほどと小さく、にょろにょろと泳ぐ姿がなんとも愛らしいお魚ですが、徳島では本種を「なべいり」と呼んで、砂糖と醤油で炒りつけて食べていた地域もあるとのこと。筆者の中では、食べてみたい気持ちと、食べるのは可哀想という気持ちが葛藤しています。(写真・文:井藤大樹、2026年8月10日 公開)