インボイス制度に対する反対声明


当会は、本年10月より開始する適格請求書等保存方式、通称「インボイス制度」に事業者としての司法書士の立場から反対する団体である。

当会では、司法書士に対してインボイス制度に関するアンケート(以下「アンケート」という。)を行い、約110名から回答を得た。それを踏まえて反対理由を以下のとおり述べる。



(1)インボイス制度が小規模事業者にとって著しく負担となる制度であること

 インボイス制度とは売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝える「適格請求書」(以下「インボイス」という。)を発行する制度である。買手側は消費税の仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となる。


 しかし、インボイスを発行できるのは、発行事業者登録をした消費税課税事業者に限られる。つまり、年間売上高1000万円以下の消費税免税事業者がインボイスを発行するためには、消費税の課税事業者となって、消費税を納税しなければならないのである。

 このことが小規模な免税事業者には非常に重い負担となるということが、特にフリーランスや個人事業主を多く抱える業界からは指摘がされている。

 司法書士も個人事業主である以上、例外ではない。特に他士業と比べて単独での開業が多く、合格後勤務をせず即独立する者の多い業界でもあり、免税事業者の割合も少なくないと考えられる。実際に当会の行ったアンケートでも、経営者司法書士100名のうち約半数に当たる46名が年間売上1000万円未満であると回答しており、そのうち半数の23名が500万円未満と回答している。また、日本司法書士会連合会の統計である「司法書士白書2021年版」においても、1000万円未満が47%、1000万円以上が53%となっている。

 免税事業者が消費税を納税しなければならないとなると、当然ながら税負担によって可処分所得が減少することになる。小規模な個人事業主にとっては生活費が削られるということになり、司法書士の中ではそれを避けるために業務内容の限定や独立開業そのものを見直す流れにつながりかねない。

 アンケートでは、108人中70人が「インボイス制度開始は独立開業への影響がある」と回答している。また、少数ではあるが、廃業を検討している、企業からの仕事は断る、といった回答もあった。

 さらに課税事業者にとっても、事務負担が増えることになる。アンケートでは経営者司法書士100人中54人が、インボイス制度が開始すると「事務負担が増える」と回答し、自由記述においてもこれを理由とする反対の声が非常に多かった。税理士報酬や会計ソフトの入れ替え等で経済的負担が生ずることも考えられる。

 事業者にとっては、様々な形で影響を受けるインボイス制度であるが、事業規模が小さいほどその打撃は大きいと考えられる。




(2)司法アクセス低下等、社会への悪影響があること

 前項でも触れた通り、司法書士の業態の特色としては、他士業と比べて個人経営の小規模な事務所が多いことが挙げられる。資格試験が実務と結びつきやすいことから、資格取得後、勤務をせず即独立する者も少なくない。

 また、弁護士が全国44,101人中東京21,519人(弁護士白書2022年版)と都市に集中しているのと比較して、司法書士は全国22,718人中東京4,395人(司法書士白書2022年版)と、比較的地方にも分散しており、地方での司法アクセスを担う存在であると言える。

 さらに、権利擁護を使命とする公益性の強い職種でもあり、プロボノ活動などの取り組みも盛んである。そのような司法書士へのインボイス制度の影響は、司法書士個人や業界にとどまらず、社会的な悪影響もあると考えられる。

 たとえば、長年司法過疎地で司法アクセスを担ってきた高齢の司法書士がインボイス制度開始をきっかけに廃業すれば、その地域の司法アクセスは著しく低下する。課税事業者となることを避けて、企業からの依頼を受けなくなる司法書士があらわれるおそれもある。

 開業時からの消費税負担が、地方で若手が開業することを阻む要因となれば、次世代の司法アクセスの担い手が減少するということにもつながる。

 また、都市部であっても、不動産取引立会をメインとするような大手事務所に勤めず、成年後見業務や債務整理業務、プロボノ活動等を通して、地域の権利擁護の担い手となる司法書士も存在する。

 しかし、当然ながら開業してもすぐに売上が増えるわけではなく、近年の登記事件の減少とともに、消費税が課税される程度の売上額となるまでに相当の年数を要し、小規模な事務所にあっては免税事業者として事業を継続する例も少なくない。

 こういった司法書士が開業を断念すれば、地域での権利擁護活動に支障をきたすことになる。

 さらに司法書士の資格の魅力として、独立開業できる、ということがあるが、インボイス制度によって独立開業のハードルが上がるとすれば、魅力が半減し、受験者数自体も減るおそれもある。

 インボイス制度で司法書士が悪影響を受けるということは、法的サービスを利用する市民にとっても悪影響であると考える。



(3)まとめ

 よって、当会はインボイス制度に反対し、当該制度の廃止を強く求めるものである。



令和5年8月28日




インボイス制度に反対する司法書士有志の会




呼びかけ人     

白井 則邦 (千葉会)

福本 和可 (大阪会)


賛同者(賛同順)  

平野 瞬  (岐阜会)

小牧 美江 (大阪会)

鈴木 啓太 (大阪会)

新川 眞一 (大阪会)

中川 貴志 (釧路会)

半田 久之 (東京会)

七野 智子 (大阪会)

隈部 三矢子(大阪会)