■活動趣旨

当会は、令和5年10月より開始する適格請求書等保存方式、通称「インボイス制度」に反対する司法書士の団体です。

 反対の理由は以下のとおりです。


(1)インボイス制度について

 インボイス制度とは売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝える「適格請求書」(以下「インボイス」といいます。)を発行する制度です。具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。

 売手側である登録事業者は、買手である取引相手(消費税課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません。また、交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります。

 買手側は仕入税額控除の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存等が必要となります(以上国税庁ホームページによる)。


 インボイスを発行できるのは、発行事業者の登録をした消費税課税事業者に限られます。


(2)社会への影響

現在、消費税の納税義務は売手である事業者にありますが、課税の基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、その期間における売上について、消費税の納税義務が免除されています。小規模な事業者に対しては、その事業規模に鑑みて税負担を軽減する、という制度趣旨です。


 しかし、(1)で述べたように、インボイスを発行できるのは課税事業者のみであるため、インボイス発行のためには免税事業者が課税事業者になることを選択しなければなりません。

いくら継続して免税事業者であることを選択できるといっても、取引先からインボイス発行を求められれば、課税事業者になることを選択せざるをえない事業者も多いと考えられますし、インボイス発行をしなければその代わりに消費税の仕入控除ができない負担が売手側に転嫁されるおそれもあります。

 つまり、インボイス制度の導入は、BtoBの取引を行う免税事業者にとっては実質的な増税であるといえます。


現在課税事業者である者にとっても、大きな負担が予想されます。

まず、インボイスが導入されれば、消費税の仕入控除を受けるために、全ての取引先との間でのインボイス制度導入の有無の確認や、免税のままでいる事業者との価格交渉などが必要となります。一方的な通告は、独占禁止法または下請法違反となるため、個別対応が不可欠です。取引先が多い事業者にとって、非常に大きな負担となります。

また、旅費交通費、接待交際費などに使われる経費についても、インボイス発行登録をしている否かの事前チェックが必要となります。

さらに、全ての領収証等について、番号のチェック、保存等が必要となるため、事務負担が大きくなり、事業に影響を及ぼすと言われています。


そして、BtoCの取引しか行わないので影響がない、と予想していた店舗等であっても、Cと思っていた購入者が、消費税の仕入控除を必要とするBである場合もあるため、知らないうちにBである顧客が離れ、売上が減少することも考えられます。

このような影響は、インボイス制度が開始して初めて目に見えるため、事前のリスク管理は非常に困難です。


こういったことから、特に個人事業主や中小企業の経営者の方々にとっては、様々な面で非常に負担が大きくなることが想像され、場合によってはそのために事業継続を断念することも考えられます。


そのような個人事業主や中小企業は、事業規模こそ大きくはありませんが、市場において多様なニーズを満たす役割や、我が国の技術を下支えするような役割等、それぞれ誇りをもって働いてこられた方々です。

事業の多様性が消えることは、我が国の社会にとって想像以上の打撃になるのではないかと危惧されています。


それらに加えて、仮に元請である大企業が、下請にインボイス発行による税負担増を負わせないとしても、その負担は大企業の方が消費税分を仕入から控除できないという形で引き受けることになります。

そうするとその負担は当該企業の商品やサービス等の料金に反映されることになり、物価高騰の一因にもなりかねません。

昨今、円安やウクライナ戦争の影響等による物価高騰が社会的な問題となり、年金生活者や生活保護の利用者が年金や生活保護で生活できないと悲鳴を上げています。そのような中で、さらなる物価高騰の原因となるような制度の導入は看過できません。



(3)司法書士業界への影響

 (2)で述べたような影響は、私たち司法書士の業界にとっても、無関係ではありません。


司法書士の業態の特色としては、他士業と比べて個人経営の小規模な事務所が多いことが挙げられます。資格試験が実務と結びつきやすいことから、資格取得後、勤務をせず即独立する方も一定数おられます。


そのような司法書士は、自分の地元で開業をすることも多いため、地域と結びつき、司法ソーシャルワークの担い手となることも少なくありません。

また、各司法書士会や任意団体等で、会の運営や公益的活動に関わる方も多く、まさに権利擁護を使命とする司法書士制度の縁の下の力持ち的立場にあります。


しかし、当然ながら開業してもすぐに売上が増えるわけではなく、近年の登記事件の減少とともに、消費税が課税される程度の売上額となるまでに相当の年数を要し、小規模な事務所にあっては免税事業者として事業を継続する司法書士も多く存在します。


インボイスはこのような地域で活躍し、権利擁護活動の担い手となっている司法書士たちに対しても強く影響を及ぼすものです。

制度が導入されれば、実質的な増税となり、国民健康保険税などとともに税負担が一層重くなります。

そのような状況下では、開業を諦め、都市の大手事務所で主に不動産取引立会に従事し続ける司法書士も多く出てきてしまうことになります。


権利擁護を使命とする司法書士が権利擁護活動に携わることができなくなる、ということは、市民にとっても大きな影響を及ぼすことになる、と考えます。


さらに、勤務司法書士であっても、勤務先との契約形態は雇用契約とは限らず、業務委託契約というような形態で働いている方もいると聞きます。

 そういった司法書士は事務所から消費税の仕入控除のために、インボイス発行を求められる可能性もあります。

 業界全体でインボイス発行が慣習化されると、そのような業界を避けて司法書士を目指す受験者が減る、というおそれもあります。


 なお、司法書士白書2021年版によれば、現在課税事業者である司法書士のほとんどが簡易課税を選択できるため、当面はインボイスの有無に限らず消費税の仕入控除ができるものと考えられますが、先行してインボイスを導入した国では制度趣旨に反する簡易課税制度は縮小または廃止されており、日本でも今後簡易課税制度を利用できなくなる司法書士も増える可能性も低くはないと考えられます。


 このように、司法書士業界も例外なくインボイス導入で大きな影響を受けるものと考えられ、それは各司法書士の所得にとどまらず、司法書士制度そのものにも影響を及ぼすおそれまであると私たちは懸念しています。


(4)まとめ

 以上の理由から、当会はインボイス制度導入に反対いたします。


当会では、司法書士の実態及び司法書士業界への影響についての調査のため、アンケートを実施し、その結果をもとに意見書を作成したいと考えております。

 つきましては、アンケートにご協力いただきますようお願いいたします。


 なお、意見書発出の際には賛同者も募る予定です。




■呼びかけ人

・白井則邦(千葉会)

・福本和可(大阪会)