募集
研究室にて博士研究員を応募しています
以下の公募情報を参照ください。
総合研究大学院大学 統合進化科学研究センタ- 特別研究員公募|JREC-IN
生物人類学研究室に進学を希望する学生の方
他の研究グループと比較して、本研究室には以下のような特徴があります。
フィールドからラボまでさまざまな手法を利用できる
人類の進化・適応を核となる研究課題に据えている
多様な研究分野を横断した議論ができる
研究以外のスキル養成や経験獲得も重視している
1. フィールドからラボまでさまざまな手法を利用できる
必ずしも完璧ではない限られた試料から、直接見たり聞いたりできない生物の行動を最大限に復元するため、さまざまな手法を利用する余地があります。フィールドで観察や調査を重ねて試料を集めたり、集めてきた試料をラボでうまく処理してさまざまな分析を施しデータを得たり、得られたデータを適切に解釈し議論するための数理モデルを構築したりと、さまざまな手法を使って研究することができます。野外調査も実験室での作業もデータ解析も好きでどれかひとつに絞れない、と幅広いアプローチに興味がある方には最適かもしれません。ですがもちろん、さまざまな手法を「使わなければならない」というわけではありません。自分の適性を知り、研究興味に適した手法を習得して、ある特定の分野のエキスパートになるのも素晴らしいことです。
また、まったく異なる分野 (地学、植物学、物理学、人文科学、などなど) の専門家が飛びこんでくるのも大歓迎です。最初のうちは苦労するかもしれませんが、アプローチや手法が「なんでもあり」の生物人類学において、ほかの人の持っていない別の専門があるということは大きな強みになります。古代プロテオミクスや集団遺伝学など重要で新しい研究領域は、他の分野で経験を積んだ人が異なる分野にやってきて興したものです。
ただし、さまざまな手法をつまみぐいするジェネラリスト的なやり方にはデメリットもあります。やはり、その手法やアプローチを専門とする研究者には知識や特に経験がかなわないため、就職活動や論文投稿の際に苦労するかもしれません。その分野を自分よりよく知っている人に教えを請うたり、教科書や論文から学びつづけて、自分が井の中の蛙になっていないか常に確認する必要もあります。また、自分ひとりで研究を完遂できるまでに力をつけるには、努力と時間が必要になるかもしれません。
2. 人類の進化・適応を核となる研究課題に据えている
研究室主宰者 (蔦谷) の研究興味は人類の進化や適応にありますので、研究課題は自然とそちらの方向にひっぱられます。直接的に人類を対象としていなくとも、ヒトに近縁な霊長類や、人類による動植物利用 (家畜や狩猟採集) などにも大きな興味を持っています。博士課程のテーマについては自身で設定していただければと思いますが (もちろんテーマ設定のためのお手伝いには尽力します)、人類の進化・適応にそれほど関わりのない研究テーマについては、そこまで専門的な知見を提供できないかもしれません。ですが、もし利用する手法が類似していれば、方法論に関しては十分な指導が可能です。
3. 多様な研究分野を横断した議論ができる
生物人類学は学際的な分野であるため、結果を解釈し議論する際にはさまざまな研究分野の知見を参照します。たとえば、すぐに思いつくだけでも以下のようなものがあります。
骨標本の年齢や性別推定のための解剖学の知識
時代や地域に特有の考古学・歴史学的背景
分析手法の原理や特性
対象種の進化や生態に関する知見
現代のヒトで観察されている医学・疫学的なエビデンス
もちろん、必ずしも参照しなければならないというわけではありません。特定の分野の知見のみから議論した論文を出版することも問題なくできます。ですが、人類の営みについて多面的な視点から議論することで、誤った解釈をしてしまうのを防げたり、議論に深みが加わったりします。
こうした特徴のメリットは、研究をしながらさまざまな分野の知見を学べることです。大学入試のときには成績が良かったから理系に進んだけど文系に興味があったとか、いろんな分野の本を読むのが好きとか、新しい知識を身につけるのが楽しい、といった方には自信をもっておすすめできます。その一方で、自身が本当には専門としてない分野の知見を学び最新の成果をフォローしていくのには時間も労力もかかるというデメリットもあります。研究をまとめていくのによりたくさんの努力が必要になるかもしれませんが、そうした努力はオリジナリティの源泉になりますし、その過程を自身で楽しむことができればなによりかなと思います。
4. 研究以外のスキル養成や経験獲得も重視している
研究以外の方向性でも自身のできることを増やしていけば、そうした経験が新たな研究のアイデアにつながったり、研究をつづけることができなくなったときに身を助けたり、自身の人生が豊かになったりするのではないかと思います。もし、なにか具体的に興味があるようでしたら、仕事時間の何割かをそうした自己研鑽に充ててみるのも良いかもしれません。そうして獲得したスキルや経験は、ぜひ、一緒に研究を進める仲間にもシェアしていただければ幸いです。(私もそうした自己研鑽を積んでいきたいと思っていますが、なかなか時間が捻出できていないのが現状です……)
世界のどこでも研究者就職の現状は厳しく、博士号取得者の数は増え続けているのに対し、大学や研究機関の教員の職の数は横ばいです。研究者就職には情報と機会の圧倒的な不均等があり、公募を通じて大学や研究機関に就職したいと考えるのであれば、公募や研究者就職のシステムについて体系的に知識を身につけておくのが大事です。若手研究者は、研究者としての教育は受けていても、求職者としての教育は受けていません。さらに、大学院生やポスドクと大学教員とのあいだには、大きな情報格差とマインドセットの違いがあります。生物人類学研究室に所属することになった大学院生やポスドクには、こうした研究者就職に関する情報やサポートも積極的に提供していきたいと考えています。(純粋なサイエンスは本来そうしたものではないはずですが、研究者業界のシステムが現状のようになってしまっている以上、生き残っていくためにはゲームのルールを理解して効果的に立ち回るほうが賢い選択かなと思います)
制度的なこと
大学院課程の短い期間で研究者として自立し、今後の苦労をすこしでも低減できる成果をあげたいと考えているようでしたら、何事も早く動き始めるのが大切です。大学院入試までにはまだ時間があっても、あなたがもし高校生や中学生であっても、生物人類学研究室に興味があるのであれば早めに連絡をくださると良いと思います。配属後の研究を効果的に進める相談が事前にできるだけでなく、互いのメリットになる研究や教育の機会を実現できるかもしれません。また、人と人とのマッチングも重要ですので、あなたにとっても私にとっても、おたがいの人柄を把握して、大事な決断をする判断材料になるのではないかと思います。
生物人類学研究室に学生として所属するには、総合研究大学院大学・先導科学研究科・生命共生体進化学専攻の大学院入試に合格するのが近道です。大学院入試は年に2回行なわれます (8月と2月)。修士課程にあたる博士前期課程では、1年目に仮配属、2年目から正式な配属となります。専攻のWebサイトに入試についての詳しい説明があります。
総合研究大学院大学には、大学院生を経済的・学術的にサポートする数多くの制度があります。たとえば、RA制度による経済的サポート、主指導教官1名と副指導教官2名による複数指導体制などがあります。学生に対する教員の人数比はほかの大学院と比べても圧倒的に大きく、さまざまな側面にわたる充実した指導を期待できます。
すでに学位を取得済みの方
日本学術振興会特別研究員PDなど、フェローシップつきのポスドク研究員の受け入れに関してもご相談ください。研究テーマや手法を限定することなく、さまざまな分野の研究者が研究を継続できる環境を提供できるようにしたいと考えています。
科研費などの外部資金が獲得でき、ポスドク研究員を募集することになった場合は、JREC-INに公募を載せます。このWebサイトでもお知らせします。
共同研究を希望される方もどうぞお気軽にご相談ください。
古代生物分子の実験設備
古代DNA分析や古代タンパク質分析をする際には、現代の生物に由来する分子の混入 (コンタミネーション) をできるかぎり排除する必要があります。考古遺物試料にもともと存在する生物由来の分子は、長い埋没時間のあいだに分解や修飾を受けており、存在量も少なくなっています。そのような試料に現代のDNAやタンパク質が混入すると、結果がバイアスを受けたり、古代由来の分子のシグナルが検出できなくなってしまったりします。そのようなわけで、考古遺物や化石標本にもともと存在する生物由来の分子を分析する際には、古代試料の分析に特化したクリーンラボが必要となります。
総研大・先導研には、古代生物分子を分析するための専用のクリーンラボがあり、複数の研究室が共同で運営しています。こうした専用の設備を備えている研究室は国内でも多くはありません (ほかには、たとえば東京大学のゲノム人類学研究室などにあります)。人骨・動物骨、歯石、土壌、残存有機物などの考古遺物を対象にして、古代DNA分析 (古代ゲノミクス) や古代タンパク質分析 (古代プロテオミクス) を実施してみたいと考える方は、どうぞお気軽にご連絡ください。興味をもたれている外部の方に対しても、古代生物分子の分析に関するトレーニングを提供したり共同研究を実施したりできればと考えております。
古代生物分子を分析するための専用のクリーンラボ内の様子
研究と人生の両立について
研究者はハードワークが宿命だという言説をよく見聞きしますし、土日祝もなく毎日n時間以上働かないと研究者としてやっていけない (nには任意の数字が入る) ということを言う人もいます。ある側面では正しいかもしれませんが、そのほか多くの側面では、私はそうあってほしくないなと考えています。研究室主宰者 (蔦谷) は、何事につけ「良き研究者である前に良き人間であるべし」と考えています。ハードワークしたければすればよいのですが (それができる現状にあるというのはうらやましいことだなと思います)、誰かほかの人の犠牲の上にそれが成り立っている可能性 (たとえば、配偶者や家族のキャリア) や、もし意に反してハードワークできなくなったときに自身のアイデンティティが危うくなる可能性 (たとえば、突然の事故で後遺症が残ったり、いくらがんばっても職が得られなかったり) を、どこかできちんと認識しておいたほうが良いのではないかと思っています。
そう思いつつも、現在の日本の研究者業界はワークライフバランスの理想を追い求めるのに適した環境であるとは言い難いのが現状です。構造的な問題があり、地位も権力もない一個人の努力では、根本から現状を解決するのは困難です。ですが、困難な現状を理由にして、私は研究と人生の両立をあきらめたくはないですし、ほかの人にもあきらめてほしくはないと思っています。困難な現状のなかでなんとかやりくりをして、研究も人生もあきらめないで研究者業界で生き残ることで、構造的な問題を根本から解決できるようになるかな、とすこしだけ希望を持っています。(もちろん、立場が弱いなりに発信や働きかけをして現状を変えていこうとすることも大事です)
もし、研究と人生の両立に関して、無理かもしれないけれどこういうことをしてみたいという希望があれば、遠慮なく相談ください。パートナーとの同居、妊娠出産、子育て、介護、などなどについて、利用可能な制度を最大限に使い倒し、犠牲を最小限に抑えた柔軟なやりかたを一緒に探っていきましょう。私自身も、新型コロナウイルス感染症COVID-19以前に1年間のリモートワークを経験したり、1年間の育児休業をとって遠距離で暮らすパートナーとの子育てを実現したり、子連れでの海外出張を経験したりしてきました。今後もそうした事情によって学生や共同研究者に迷惑をかけてしまうかもしれませんが、そうした迷惑はお互いさまです。とはいえ、人生における義務を多く持っている人をサポートするために、それほどでもない人に過剰な負担がかかるような状況 (たとえば、子持ちの研究者の仕事をカバーするために独身の研究者が残業する) も不健全であると思います。個人的な状況がどうであれ、のびのびと研究をしてすこやかに暮らすことができるようにあってほしいと思います。研究成果をしっかりあげつつ、柔軟で革新的なワークライフバランスを模索していきましょう。