自然生態系には、捕食―被食関係をはじめ、寄生、共生、競争などの多様な生物種間相互作用が混在しています。それらの相互作用と群集の安定性の関係を理解することが、生態学の一つのテーマです。しかし、実際は「相互作用」ではなく、一方的な「作用」関係になっているケースも多いと考えられます。捕食者は、餌から多くの利益を得ていないでしょう。悪さをせず、住まわせてもらい宿主からおこぼれをもらう寄生生物も多いですし、捕食によるおこぼれをもらえる生物も多いでしょう。これらは一方の生物種のみ利益を得ています。動物がただ移動するだけで、踏まれた生物は害を受けるなどのことはよくあり、一方が損する関係です。競争関係も、例えば一方の植物種の背丈が低く、光を得れず一方的に被害を被るなどのようなことはよくあります。それらの極端なケースが、「片害」、「片利」とよばれるものです。しかし、従来の群集理論は「相互作用」にばかり目を向けてきました。本研究では、「片害」と「片利」のような非対称な相互作用が、群集の安定性に大きく貢献することを発見しました。相互作用が非対称であること自体が安定性に貢献するわけではありません。すべての相互作用が混在しているなかで、「片害」と「片利」が安定性を高めるのです。一方、世の中は非対称だと考えて、すべての相互作用を非対称にしたばあい、つまり「片害」と「片利」のみからなる世界では、それらがバランスよく混在していることで、群集が維持されやすくなる可能性があることもわかりました(Mougi 2016 Sci Rep)。
生物群集の維持機構の一つに、「生物の適応的な利用資源選択」仮説がある(Kondoh 2003 Science):生物が利用資源を適応的に変えることで、多様な生物の共存を促進し、さらにR.May (1972 Nature)が提示した「複雑性―安定性のパラドックス」が解消される(食物網が複雑であるほど群集動態が安定化する)。この理論の重要な点は、従来生物群集ネットワークを静的なものととらえて理解してきたが、動的なものととらえなおすことで、生態学の未解決大問題を解決する一つの可能性を提示したことである。一方で、生物群集にはたくさんの異なる生物種間相互作用が混ざっていることで、生物群集が維持されやすくなり、「複雑性―安定性のパラドックス」が解消される可能性があることが、最近わかってきた(Mougi and Kondoh 2012 Science)。これら2つの理論を組み合わせることで、興味深い予測が生まれることがわかった。それは、相互作用の種類が敵対関係だけ、もしくは共生関係だけだと、適応行動は、二栄養段階からなるbi-partiteネットワーク群集(例:植物-送粉者-植食者系)における多種共存を妨げるが、それら異なる相互作用タイプが混ざっているときは、適応行動が多種共存を促進し、同時に複雑な群集ほど維持されやすくなった。このことは、種内多様性(適応動態の原動力)と相互作用多様性、種多様性の3つの生物多様性要素が共同で、生物多様性それ自体を支えている可能性を示唆します(Mougi 2016 Sci Rep)。
個体数振動を駆動する多様な種間相互作用 (2012~)
生物種の個体数はときに振動しますが、なぜそのような振動が生じるかについては、いくつもの仮説が提案されてきました。本研究では、多様な相互作用のタイプが共存していることで、個体数の振動が生じる可能性について論じました。敵対、共生、競争の主要な相互作用が共同で個体数振動を生じさせうることを示しました。特に、相互作用が弱く、振動が生じえない状況でも、多様な相互作用が結合することで、個体群サイクルが生じることが示されました (Mougi, Kondoh 2014, Mitani, Mougi 2017)。
生物群集の新維持機構:種間相互作用多様性仮説(2011~)
自然界ではさまざまな生物種が互いに影響されあいながら共存していますが、多種共存がどのように達成されているのかはいまだ解決されていない生態学の謎です。従来は、食物網(捕食‐被食からなるネットワーク)、競争群集、共生群集(例えば、植物と送粉者からなるネットワーク)などの特定の種間相互作用からなる群集の維持メカニズムを通して理解してきました。しかし、現実の生態系はそれら異なる相互作用が混ざっており、「相互作用の多様性」が生物群集の維持においてどのような役割を持つのかはわかりませんでした。本研究では、異なる相互作用の構成が、群集の維持とどのように関係しているのかを理論的に示しました(Mougi and Kondoh 2012 Science)。特定の相互作用に偏った生物群集は維持されにくく、異なる相互作用がほどよく混ざっているときに群集の安定性がとても高くなることがわかりました。このことは、群集には異なる相互作用の最適な混合比があることを示唆します。さらに、相互作用の多様性を持った群集は、複雑になるほど維持されやすくなることもわかりました。これはR.May (1972 Nature)が提示した「複雑性―安定性のパラドックス」を解決する新しい仮説です。生物多様性は、それ自体の特徴である種の多様性だけでなく相互作用の多様性があることで維持されているのかもしれません(with 近藤倫生)。