Research

2017年9月13日

退職まであと7年。我々がはじめたボルデテラ属細菌のIII型分泌装置とエフェクターの研究は成熟しつつあり、それと同時に「個人的な命題として、何を明らかにしたいのか?」について考えるようになりました。それからひたすら考え続けました。


2018年6月20日

自分が何をしたいのかについてようやく答えが出ました。9ヶ月を要しましたが、あとはやるだけです。結局、僕は多剤耐性菌、そのなかでも既存薬のほとんどに耐性を示すカルバペネム耐性菌について研究を行うことにしました。カルバペネムはこれまで人類が開発してきた抗菌薬のなかでも最強に位置しますが、しばらくするとこのカルバペネムにも耐性を示す緑膿菌GN17203 が日本で検出されました。それから別な遺伝子をもつカルバペネム耐性菌がインドのニューデリーで検出されました。製薬企業は「抗菌薬に莫大な開発費を投入してもすぐに耐性菌がでるのではないか?」という恐れから、徐々に開発費を回収できるような分野へとシフトしていきました。

なのでどうせやるのならこの難題に挑戦しようと思いました。しかも既存の抗菌薬とは異なった作用機序をもつ抗感染症薬の開発をしようと決意しました。2020年1月、日本でも新型コロナが確認され大学の教育活動が大幅にダウンしたなかで、ひたすら研究を続けました(大学から自宅まで徒歩で数分の環境に感謝)。そうこうするうちに、一つのアイディアが浮かびました。


それからこのアイディアをAMED創薬ブースターに提案し、「遺伝子Aの薬剤耐性菌におよぼす効果の検証」(550万円、令和2年10月1日~令和3年9月30日)、「多剤耐性菌の薬剤耐性に関与する制御因子Aの阻害剤探索」(2970万円、令和4年4月1日~令和6年3月31日)というプロジェクトに至っております。2024年4月から、384穴プレートリーダーを使用し東京大学、大阪大学のBINDS支援のもとで大規模なスクリーニングを行う予定です。


「多剤耐性菌をどうやったら制御できるのか?」 少なくとも2018年6月20日の時点では、まったくアイディアがなかったのです。ゼロからスタートしても数年後には新たな薬剤標的を発見し、さらに研究を加速させる環境を自ら構築できるのが、研究の醍醐味だと思います。


学生の皆さんに言いたいのは、アイディアさえしっかりしていれば、また、問題解決に向けた強い熱意があれば、ゼロからでも何とかなるということです。


ということで多剤耐性菌をどうやったら制御できるのか? 一緒に考えてみませんか? 

具体的な研究プロジェクト 2.0

1.    細菌の分子ニードルの仕組みを理解する

    *細菌の分子ニードル(III型分泌装置)の活性化の仕組みを理解する。

    *分子ニードルによって宿主細胞内に注入される病原因子の機能を理解する。

2.    細菌の多剤耐性化の仕組みを理解する

    *細菌の多剤耐性化のメカニズムを転写制御から理解する。

    *細菌の多剤耐性化を克服する新たな創薬基盤を確立する。