オンデマンド配信準備中
講師:今北英高先生(埼玉県立大学保健医療福祉学部)
座長:久野剛史先生(松倉病院)
ファシアとはなにか?
ファシアの認識は、ここ数年で拡がりをみせた。拡がりを見せた一方で、ファシアに対する認識には、肯定的、否定的、誤認された意見などもみられる。ファシア=筋膜との認識も強いが、ファシアは、骨格筋以外の臓器においても動きを滑らかにし、支え、保護して位置を保つシステムを持ち、「保護」と「伝達」という機能を有する。それだけではなく、適度な固定と共に筋収縮による動きの伝達を生み出している。筋張力の伝達の70%は腱を介して行われるのに対して、残りの30%は筋張力に並行した結合構造―いわゆるファシアなどによって伝達されるとも言われている。
さらに、ファシアが「痛み」と密接に関係していることも明らかになってきている。
人の股関節部の皮膚から筋組織までの神経支配を調査した研究では、最も神経支配が多かったのは皮膚で、次いでSuperficial Fascia(浅筋膜)であり、筋や腱よりも多かったと報告されている。Superficial FasciaやDeep Fascia(深筋膜)は皮下に存在するファシアであり、その中を末梢神経や毛細血管は方向を誘導されながら走行する。また、痛みの受容器である自由神経終末や種々のメカノレセプターもファシアに多く局在する。
ファシアの異常により、筋張力の伝達が阻害されたり、関節可動域が制限されたり、微小循環が障害されたりすることで、痛みが発生する。そこには、様々な生体反応が複雑に生じていると考えられる。
本講演では、ファシアについての知識を整理しつつ、解剖学的、生理学的な基礎知見から、ファシアに対する臨床応用、理学療法の視点について考察も含め、紹介する。
実は、ファシアについてもっとも理解され、臨床応用されているのは運動器ではないかもしれない。
【略歴】
1991年3月 信州大学 医療技術短期大学部 理学療法学科 卒業
2005年3月 広島大学大学院博士課程修了 (保健学博士号取得)
2005年4月~2022年3月 畿央大学 健康科学部
2022年4月~ 公立大学法人 埼玉県立大学 現在に至る
【資格・所属学会等】
日本理学療法士協会
日本生理学会
日本体力医学会
モーニングセミナー
「拘縮の評価と治療」
講師:榮崎彰秀先生(さくらい悟良整形外科クリニック)
座長:山田哲也先生(奈良西部病院病院)
運動器疾患の臨床治療において、「拘縮」は避けては通れない病態の1つであります.私が免許取得した20年以上前の理学療法は、レントゲンやCT・MRIなどの画像所見や受傷機転、理学所見などを確認・評価し、その結果から臨床推論を行いアプローチすることが王道であり、これは現在も揺るがない過程かと思います.またアプローチ後に再評価を行い、臨床推論通りか?または違った病態による問題があるのか?を主に「手」で確認し、頭の中で想像していたと思います.
近年においては、超音波画像診断装置(以下超音波エコー)の登場により拘縮評価の精度は大きく向上していると思われます.また、運動器疾患の理学療法分野は、各関節や疾患別の内容に加え超音波エコーを使用した評価方法など、数多くの書籍や報告がみられます.現在ではそれらの書籍などにより、若手の段階から知識量は格段に向上しているのではないかと思っています.一方で、現場ではその知識をどう扱えば良いのか分からず、評価と臨床推論の手順を飛ばして、書籍に書かれている方法を順に試している場面を多くみる、との声も聞こえてきております.
今回の講演では、学会長からの依頼でもある、知識を「使いこなせている人」と「使えていない人」との格差を少なくできるように、拘縮の診方・考え方について症例を通してお話していきたいと考えております.可動域制限の病態で想像されるのは、「筋短縮」や「筋攣縮」が多いと思われます.しかし、臨床においては、筋滑走や腱滑走、神経の滑走も含めた各組織間での滑走不全に伴う可動域制限を経験することも少なくありません.従来から考えられている短縮・攣縮に加え、各組織の滑走不全に関する内容も交えて、超音波エコー所見と理学療法所見とのマッチングの重要性を報告出来ればと思っております.ご参加頂く先生方の臨床治療に少しでも貢献できれば幸いと考えております.
【略歴】
2001年 阪奈中央リハビリテーション専門学校 理学療法学科 卒業
2001年 吉本整形外科・外科病院入職
2003年 奈良西部病院入職
2015年 さくらい悟良整形外科クリニック入職(現在に至る)
【資格・所属学会等】
日本理学療法士協会 会員
運動器専門理学療法士 専門会員A
スポーツ専門理学療法士
運動器認定理学療法士
日本肩関節学会 準会員
奈良県理学療法士協会 専門領域委員会 委員長
奈良整形外科リハビリテーション勉強会 代表
教育講演①
「リハビリテーションと栄養」
講師:山本実穂先生(西大和リハビリテーション病院)
座長:吉田陽亮先生(西和医療センター)
低栄養は、リハビリテーション診療の対象となる高齢者において49-67%と高い割合で認められています。脳卒中患者においては、発症前には有していない栄養障害が急性期病院入院中に生じていることも多いため、低栄養に陥らないよう急性期の早期から栄養管理を行うことが重要といえますが、急性期では病態の改善のための治療が優先され、栄養療法が後回しになることも多くあります。回復期リハビリテーション病院においても、高齢患者の43.5%に低栄養が認められており、低栄養であるとADLの改善が乏しく、転帰や身体機能に悪影響を及ぼすことが報告されています。栄養状態を把握した上で適切な運動を行うことで、リハビリテーションのより良い効果が得られることが多くあります。逆に、筋力や持久力が低下している状態で栄養状態を考慮せずに運動を行うと、全身状態が悪化する可能性があります。リハビリの目標達成の可否や到達度に大きく影響するのが栄養状態であり、栄養療法はリハビリテーションを効果的に行うための重要な治療手段と考えられます。
同じ栄養状態であっても、疾患・障害・病態の違いや全身状態・活動性の相違によって栄養療法の内容は異なってくるため、個別の栄養管理が重要です。より良い効果を出すには多職種との連携が重要であり、管理栄養士だけでなく、医師、看護師、薬剤師などが関わり合うことが重要です。多職種が関わりあって一人の患者の栄養療法を考えることで、不要な体重減少を防ぎ、骨格筋量を維持・増加し、リハビリの効果を最大限に高めるための身体作りを行うことが可能となります。
私が栄養を考えるきっかけとなったのは、担当患者様が急性期において著名な体重減少を生じた時でした。身体機能を向上するために、管理栄養士に運動量について相談し、全身状態や体力に合わせて一日の離床時間について看護師と話し合い、栄養が取り込みやすいよう薬剤の調整について薬剤師に相談したりと、他職種と関わる機会が増えました。他職種と一緒に栄養療法に取り組むことで、身体機能・ADLを最大限に向上することができたと感じています。今回は実際の症例についても紹介させて頂き、日々の臨床の中で一人の患者様の栄養状態について考えたり、他職種の方々と栄養について話すきっかけになれば幸いです。
【略歴】
2014年 甲南女子大学 看護リハビリテーション学部 理学療法学科 卒業
2014年 伊丹恒生脳神経外科病院 リハビリテーション部
2022年 西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部(現職)
2025年 畿央大学大学院 健康科学研究科 博士課程修了
【資格・所属学会等】
心臓リハビリテーション指導士
リハビリテーション栄養指導士
教育講演②
「脳卒中に対する促通反復療法の取り組み~効果と適応について考える~」
講師:脇本謙吾先生(平成記念病院)
座長:中村潤二先生(西大和リハビリテーション病院)
脳卒中後の運動機能障害は、移動や日常生活動作を行う上での阻害因子であり、リハビリテーションを進めていく上で改善すべき重要な課題である。
本邦における理学療法ガイドラインや脳卒中治療ガイドライン2021では、脳卒中後の運動機能障害に対するリハビリテーションとして様々な介入方法が取り上げられている。上肢機能障害に対するリハビリテーションでは、課題指向型練習、Constraint-induced movement therapy(CI療法)、電気刺激療法、ミラーセラピー、メンタルプラクティス、バーチャルリアリティーなど、下肢機能障害に対しては、筋力増強練習、持久力練習、電気刺激療法、課題指向型練習などが推奨されている。近年では、上述のガイドラインで示されている通り、物理療法等の併用が行われ、麻痺肢に対する練習量、頻度、課題特異性を重視した介入法が中心となっている。
運動機能障害の改善の背景として脳の可塑性が考えられており、可塑性発現は使用頻度依存的であること(Nudo et al, 1996)、シナプスおよび神経回路では興奮が伝達されて初めて、その形成や伝達効率が強化されること(Antonov et al, 2003)が明らかとなっている。これらの背景を基に、運動機能障害の改善を目的とした治療介入として、意図した運動の実現と反復を可能とする手法として促通反復療法が考案された。また、促通反復療法では、より効果を高めるための併用療法として、重度運動機能障害患者への持続的神経筋電気刺激併用下での効果(Shimodozono et al, 2014)や振動刺激併用下での効果(野間 他, 2009)が報告されている。
当院では、脳卒中後の運動機能障害に対して、神経筋電気刺激療法や振動刺激療法を併用した促通反復療法を実施しており、効果検証も行っている。急性期、回復期、生活期の各病期において、併用促通反復療法による上肢と手指の改善は、運動麻痺の程度や病期にかかわらず期待できること(小林 他, 2020)、生活期脳卒中患者に対する促通反復療法は痙縮減弱の効果があること(和田 他, 2019)が確認された。一方、運動機能障害の改善には個人差があるため、促通反復療法に対するレスポンダーやノンレスポンダーなどの適応条件について検討していく必要があると考えている。促通反復療法では、特に運動性下行路の再建強化に作用することに着目し、脳画像による皮質脊髄路の評価を用いて効果予測や適応の有無の検討をするための取り組みを行っている。
本講演では、脳の可塑性の原理の共有と促通反復療法における当院の取り組みについて提示する。
【略歴】
2008年 大阪医専 理学療法学科 卒業
2008年 医療法人財団 慈強会 松山リハビリテーション病院 入職
2015年 社会医療法人 平成記念会 平成記念病院 入職 (現在に至る)
【資格・所属学会等】
認定理学療法士(脳卒中)
日本物理療法学会
認知神経リハビリテーション学会
教育講演③
「合併症としての心不全」
講師:笠井佑哉先生(岩間循環器内科)
座長:中村洋貴先生(高井病院)
心不全患者は増加の一途を辿っており、2025~2030年には130万人に達すると予測されている。近年の循環器診療の動向として、高齢化や複数疾患の合併が挙げられており、高齢心不全患者はフレイルをはじめとした整形疾患や脳血管疾患など複数の疾患を有することが多く病態は複雑化している。また、心不全患者が整形疾患や脳血管疾患を発症し入院となる例が散見されており、心不全への対応はすべての理学療法士が必要となりつつある。
心不全患者の生命予後は病状に比例して悪化するため、病状を進行させないよう留めておくことが重要である。また、心不全患者の深刻な問題として病状の悪化による再入院がある。本邦で実施されたJCARE-CARDにおける心不全増悪による再入院率は退院後6カ月以内で27%、1年後は35%と報告されている。これらを予防する手段の1つである運動療法は心疾患患者の生命予後及び再入院率を改善させる。一方で、運動強度が過負荷になると交感神経活性の亢進や不整脈の誘発が生じることで心臓への負担が増加し、既存の心疾患を悪化させてしまう可能性がある。そのため、心疾患を有する患者にリハビリテーションを実施する際は、バイタルサインや自覚症状を評価しながら過負荷にならないよう注意し、過負荷の徴候があれば適宜運動負荷の調整が必要となる。
そして、心不全の病態を把握する上で心不全治療薬の理解は必要不可欠であり、治療薬の増減や追加は運動負荷を調整する目安となる。例えば、利尿薬を処方された場合は、病態の悪化を表していることが多いが、このタイミングで普段と同様の運動負荷をかけてしまうと病状が遷延してしまう可能性がある。このように心不全治療薬から病態が予測可能であり、安全に運動療法を行う手立てとなる。
本教育講演では、学会テーマでもある「異分野との共創」を目指し、心疾患を合併した患者に対してリハビリテーションを実施する際、リスク管理に必要な心不全の病態について内服薬を絡めながら説明する。そして、心疾患を合併した整形疾患や脳血管疾患の特徴やリハビリテーションにおける注意点を解説する。病院だけでなく、地域・在宅分野の心疾患を担当することが少ない先生方が臨床現場で心不全を考慮したリハビリテーション介入を実施する一助となれば幸いである。
【略歴】
2019年 白鳳短期大学 専攻科 リハビリテーション学専攻 理学療法学課程 卒業
2019年 社会医療法人渡邊高記念会 西宮渡辺心臓脳・血管センター 入職
2020年 医療法人相志和診会 岩間循環器内科 入職(現在に至る)
【資格・所属学会等】
心臓リハビリテーション指導士
心不全療養指導士
日本心臓リハビリテーション学会
日本循環器学会
日本心不全学会
イブニングセミナー
「電気刺激療法による創傷予防と治療」
講師:吉川義之先生(奈良学園大学)
座長:徳田光紀先生(平成記念病院)
創傷リハビリテーションにおいて、電気刺激療法は創傷の発生予防と創傷治癒の促進が可能である。本講演では、糖尿病性足潰瘍と褥瘡における創傷予防と創傷治癒促進の電気刺激療法についてお伝えしたい。
【糖尿病性足潰瘍の予防と治療における電気刺激療法】
糖尿病性神経障害患者は下肢創傷から切断に至るケースが多く、世界中では30秒に1人のペースで下肢が切断されている。そのため、糖尿病足病変を含む下肢創傷の予防、早期発見、早期介入が重要である。糖尿病性足潰瘍の原因の一つとして、歩行中の足底圧の上昇が挙げられる。足底圧の上昇は関節可動域制限や下肢筋力低下、体性感覚障害、靴の不適合などによって起こるとされる。このような状況において、糖尿病性足潰瘍の予防には、歩行時に前脛骨筋へ電気刺激を行うことで足底圧が低下することが報告されている(Moriguchiら,2018)。また、下腿三頭筋のストレッチ時に前脛骨筋へ電気刺激を行うことで歩行中の足底圧が低下することも報告されている(Maeshigeら,2023)。糖尿病性足潰瘍の治療における電気刺激療法としては、その効果がシステマティックレビューで報告されている(Melottoら,2022;Kwanら,2013)。
【褥瘡の予防と治療における電気刺激療法】
褥瘡予防において、Smitら(2012)は脊髄損傷患者の大殿筋とハムストリングスへの電気刺激療法が坐骨部圧を減少させたと報告している。また、Baronら(2022)は、大殿筋への神経筋電気刺激療法が集中治療室(ICU)患者の褥瘡を予防できることを報告している。我々の研究でも、ベッド上臥位時に大殿筋への電気刺激が臀部圧を減少させることを確認している(Yoshikawaら,2024)。褥瘡治療における電気刺激療法としては、日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン第5版」や、欧米の「褥瘡の予防と治療:診療ガイドライン2019」においても有効性が示されている。本邦においても、単相性パルス微弱電流刺激療法を用いた電気刺激療法で創傷の縮小が確認されている(Yoshikawaら,2022)。
【まとめ】
このように、創傷予防と創傷治癒促進における電気刺激療法は有効性が示されているにも関わらず、本邦では十分に普及していない現状がある。今後、これらの普及を期待したい。
【略歴】
2004年 関西総合リハビリテーション専門学校 理学療法学科 卒業
2011年 神戸大学大学院保健学研究科 博士前期課程修了
2016年 神戸学院大学大学院総合リハビリテーション学研究科 博士後期課程修了
2004年 医療法人社団 河上整形外科
2005年 医療法人佳和会 中山クリニック
2012年 株式会社アバンサール設立 代表取締役就任(現在に至る)
2019年 奈良学園大学保健医療学部リハビリテーション学科 専任講師(現在に至る)
2021年 奈良学園大学大学院看護学研究科 専任講師
2023年 奈良学園大学大学院リハビリテーション学研究科 専任講師(現在に至る)
2023年 神戸大学大学院保健学研究科 研究員(現在に至る)
【資格・所属学会等】
専門理学療法士(物理療法)
認定理学療法士(褥瘡・創傷ケア)
日本褥瘡学会 認定褥瘡理学療法士
・所属学会
日本理学療法士協会
奈良県理学療法士協会
日本物理療法研究会
日本物理療法学会
日本褥瘡学会
日本フットケア・足病医学会
日本糖尿病理学療法学会
日本理学療法教育学会
日本予防理学療法学会
姿勢・活動ケア研究会
日本褥瘡学会近畿地方会