一般演題抄録
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座長:堀内成浩(奈良県総合リハビリテーションセンター)
佐藤 剛介(奈良県総合医療センター)
〇原田 侑真1) 藤沢 直輝1) 今北 イシ1) 寺田 奈穂1) 長嶺 佳奈1) 徳田 光紀2) 3)
1) 平成まほろば病院 リハビリテーション課
2) 平成記念病院 リハビリテーション課
3) 畿央大学大学院 健康科学研究科
キーワード:転倒恐怖感・在院日数・回復期リハビリテーション
【目的】転倒恐怖感は転倒経験者において高率(40~73%)でみられるが,地域在住高齢者においても20~39%が転倒恐怖感を有している.転倒恐怖感を有すると,活動量低下や生活範囲の狭小化が生じ,身体・精神機能・Quality of lifeの低下が増加するとされている.在院日数の短縮化が求められている回復期リハビリテーション病院において,転倒恐怖感は早期退院の阻害因子となる可能性が考えられる.しかし,転倒恐怖感に関する研究の多くが地域在住高齢者を対象としており,入院患者を対象にした報告や疾患・時期で分類した研究は少ない.そこで本研究は,回復期リハビリテーション病院へ入院された整形疾患患者を対象に,転倒恐怖感と在院日数との関連性について調査することを目的とした.
【方法】当院(回復期リハビリテーション病院)へ転院された整形疾患患者47名(平均年齢79.7±7.1歳,女性34名,男性13名)を対象とした.疾患の内訳は大腿骨近位部骨折26名,脊椎圧迫骨折7名,骨盤骨折7名,その他の腰部・下肢疾患7名であった.除外基準は心疾患・脳血管疾患などの合併症や認知機能低下を有する者とした.評価項目は基本属性として年齢,性別,Body Mass Indexを記録し,入院時と退院時に転倒恐怖感(Falls Efficacy Scale-International,以下FES-I),Functional Independence Measure(以下FIM)を測定した.さらに受傷および手術日から当院へ入院するまでの日数を転院日数,当院での在院日数も記録した.先行研究に基づいて退院時のFES-Iが24点未満を転倒恐怖感なし群,24点以上を転倒恐怖感あり群に分類した.統計解析は,転倒恐怖感なし群とあり群における基本属性と転院日数,在院日数,入院時のFES-I,入院時と退院時のFIM総得点および移動項目について,質的変数はχ²検定,量的変数はMann WhitneyのU検定を用いて比較した.有意水準は5%とした.
【結果】基本属性および入・退院時のFIM総得点は2群間で有意な差を認めなかった.転倒恐怖感なし群と比較して転倒恐怖感あり群では,入院時のFES-Iと転院日数,在院日数が有意に高値,退院時のFIM移動項目は有意に低値であった(p < 0.05).
【考察】回復期リハビリテーション病院へ入院された整形疾患患者において,退院時の転倒恐怖感が強いと在院日数が長期化する可能性が示唆された.これは,転倒恐怖感を有していることで,移動能力の回復が遅延することで在院日数が長期化した可能性が考えられる.そのため,在院日数の短縮には転倒恐怖感を軽減する介入が必要である可能性が考えられる.今後の展望として,入院中の転倒恐怖感の変化と在院日数や移動能力との関連性についてさらに詳細な分析が必要であると考える.
【倫理的配慮】全対象者にヘルシンキ宣言に基づいて十分な説明を行い,書面にて同意を得た.本研究は平成記念病院倫理委員会の承認を得たうえで実施した.(承認番号15- 1)
〇吉川 義之1) 門條 宏宣2) 池田 耕二1)
1) 奈良学園大学保健医療学部リハビリテーション学科
2) 株式会社アバンサール
キーワード:職場管理・社員満足度・組織リハビリテーション
【目的】医療・介護専門職における業務および職場環境への満足度はケアの質に影響するといわれている.そこで我々はA事業所の職員満足度を向上させる組織的アクションリサーチを5年間にわたり継続的してきた.本発表では,A事業所の職員満足度の調査結果と各取り組みの変遷を紹介し,組織としてのリハビリテーション(職員満足度・ケアの質の向上)の可能性を探求する.
【方法】本研究は,毎年2月に実施するアンケート調査を基にした組織的アクションリサーチである.対象は医療・介護保険施設を運営するA事業所の全職員とし,会社への満足度を含む計18項目について4件法の無記名アンケートを行った.回答用紙は社会保険労務士が回収し,個人が特定できない形で集計した.事業所への満足度は「満足」「まあ満足」を満足群,「あまり満足でない」「不満」を不満足群と定義し,満足群の割合を「満足率」(満足群人数/職員数)として算出した.その他の17項目は平均値が2を超えれば「安定域」,1.5を下回れば「要注意」,1を下回れば「危険水域」と設定し,年度ごとに重点項目を選定して改善策を実行した.なお,5年後の目標値は全体平均2.0以上に設定した.
【結果】2019年度の満足率は49%,17項目の平均値は1.7±0.3であり,「社員尊重」が要注意事項であったため重点的に取り組み,2020年度以降も調査結果をもとに「職場環境」や「残業・休暇」に取り組んだ.その結果,各年度の満足率と17項目の平均値は2020年度が83%,1.9±0.3,2021年度が86%,1.9±0.2,2022年度が81%,1.9±0.2,2023年度76%,2.0±0.4であった.2023年度にはいずれの項目も平均値が改善し安定域に達する傾向がみられた.
【考察】長期的な職員満足度の向上には,単年度の対症療法的な施策にとどまらず,経営者・管理者・職員間の継続的なコミュニケーションを通じた戦略的なアクションが求められる.本研究では,組織的アクションリサーチにより,当初目標とした全体平均2.0以上を達成し,社員満足度を高水準まで引き上げることに成功した.特に要注意であった「社員尊重」は年次ごとの具体的改善策により向上がみられ,他の項目も含めて改善が浸透したと考えられる.今後は,これらの取り組みをさらに継続・発展させることで,専門職としてのケアの質や組織全体のパフォーマンスを一層高める可能性が示唆される.
【倫理的配慮】本調査はA社の管理運営の業務改善の一環として実施した社員向けアンケート調査であり,回答者は回答に同意したものとみなした.アンケート調査は無記名で行い,回収後は第三者が開封・集計したため,個々人の回答内容との連結は不可能である.なお,本論文投稿にあたり現職社員全員から同意を得ており,退職者に対してはホームページ上でオプトアウト方式による告知を行った.
〇寺西 正貴1) 小野 正博1)
1)宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:烏口上腕靱帯(CHL)・肩関節1st外旋・超音波画像診断装置(エコー)
【はじめに】肩関節1st外旋制限はCHLをはじめとする肩関節前上方支持組織の拘縮が制限因子となりやすいとされている.今回,肩関節1st外旋制限を呈した症例に対し,エコーを使用して制限因子・病態の特定をし,理学療法を施行した結果,良好な1st外旋可動域改善を認めたため,考察を加え報告する.
【対象と方法】対象は60歳代男性.1年以上前から左肩関節痛認めたが改善されず今回,左肩腱板断裂(棘上筋中断裂)と診断され,鏡視下腱板修復術を施行した.また術前から拘縮を認めたため受動術も施行した.術後翌日より当院プロトコールに沿って理学療法を施行した.術後6週時,自動挙上120°,自動外転100°,他動1st外旋0°,結帯動作殿部外側レベルと可動域制限,CHLに圧痛,他動1st外旋最終域で肩前上方部痛を認めた.術後10週時で他動1st外旋15°と可動域制限,CHLに圧痛,他動1st外旋最終域で肩前上方部痛が残存していた.そこでエコーを用いてCHLの病態を評価した結果,内旋時のCHLの引き込み現象が確認されなかったことから,本症例の1st外旋制限はCHLの癒着による滑走性低下ではなく,伸張性低下によるものと判断し,CHLのstretchingを中心に施行し,1st外旋可動域拡大を図った.
【結果】術後12週で,自動挙上・自動外転制限,術後16週で結帯動作制限は消失した.術後6週時に0°であった他動1st外旋は,術後10週時に15°,術後12週時には50°,そして術後20週時には70°まで改善した.自動1st外旋も65°まで改善した.
【考察】肩関節1st外旋制限はCHLをはじめとする肩関節前上方支持組織の拘縮除去が極めて重要である.CHLはⅢ型膠原線維に富んだ不規則でまばらな線維から構成された疎性結合組織であると報告されていることから,CHLの拘縮は癒着による滑走性低下,または伸張性低下のどちらの病態によって生じているかを特定する必要があり,拘縮除去には病態を把握した上でCHLの癒着剥離を目的としたgliding操作と伸張性改善を目的としたstretchingを選択し,施行することが重要と考える.今回,エコーを用いてCHLの病態を特定し,理学療法を施行した結果,良好な1st外旋可動域改善につながったと考える.
【倫理的配慮】本発表はヘルシンキ宣言に従い,対象者には口頭にて十分な説明をし,書面にて同意を得た.
〇松浦 豊1) 吉田 陽亮1) 谷山 みどり1) 服部 孔亮1) 藤原 大輔1)
土居 尚樹1) 福井 恵(OT)1) 川上 歩(OT)1) 山本 未生(ST)1) 岡山 悟志(MD)1)
1)奈良県西和医療センター リハビリテーション部
キーワード:廃用症候群・内部障害・入院関連能力低下
【目的】入院関連能力低下(HAD)は,入院中の安静臥床が誘因となる能力低下と定義されている.廃用症候群を伴う内部障害患者のHADのリスク因子およびカットオフ値を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は廃用症候群にてリハ処方された患者281例(年齢83.9±6.5歳)とした.リハは入院後2.9±2.2日で開始された.HADの定義は入院前より退院時のBarthel Indexが5点以上低下した場合とした.評価項目は筋力(握力,膝伸展筋力),筋量(下腿周径),身体機能(SPPB),認知機能(MMSE),嚥下機能(FILS),栄養状態(GNRI),ADL(BI),介護保険利用の有無,在院日数,1日の平均介入時間とした.HADの有無で2群に分け比較検討した.またHADのリスク因子について,ロジスティック回帰分析およびreceiver operating characteristic(ROC)曲線にてカットオフ値を算出した.
【結果】50例がHADを発症し,全体の17.8%であった.HADの有無での2群比較では,握力,膝伸展筋力,下腿周径,SPPB,MMSE,FILS,GNRI,BI,介護保険利用の有無,在院日数に有意差を認めた.HADを目的変数としたロジスティック回帰分析の結果,リハ開始時のSPPB(オッズ比1.29,95%信頼区間1.13-1.47,p<0.001),MMSE(オッズ比1.09,95%信頼区間1.03-1.15,p=0.003),FILS(オッズ比1.44,95%信頼区間1.20-1.74,p<0.001)に有意な関連性を認めた.HADを予測するためのROC曲線でのカットオフ値は,リハ開始時のSPPB3.5点(感度61.0%,特異度86.0%),MMSE22.5点(感度60.0%,特異度74.0%),FILS7.5点(感度51.9%,特異度90.0%)であった.
【考察】廃用症候群を伴う内部障害患者におけるリハ開始時のSPPB,MMSE,FILSは,HADのリスク因子であることが示唆された.またカットオフ値は,HADを発症させないための入院早期から介入の基準として期待できる.本研究の結果から身体機能,認知機能,嚥下機能に対して多職種協同での介入が重要となると考える.
【倫理的配慮】本研究は院内倫理委員会の承認を得て実施した単施設の横断研究である.倫理的配慮としてオプトアウト資料をホームページに提示し,本研究の目的と内容,研究参加拒否の機会を公開した.
〇吉田 大地1) 寺澤 雄太1) 若林 汰1) 中村 潤二1)
1)西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部
キーワード:感覚障害・歩行障害・不整地歩行
【目的】脳卒中症例の屋外歩行獲得は社会参加において重要な課題である.しかし,屋外歩行の特徴に関する先行研究の多くは,機能障害が軽症な者を対象としており,重度の体性感覚障害を有する症例の報告は乏しい.今回,左視床出血後に重度体性感覚障害を有する症例に対して,屋外不整地歩行の特徴分析を試みた.
【方法】 症例は,左視床出血を発症後約4ヶ月経過した回復期リハビリテーション病棟に入棟中の60代男性であった.運動麻痺は,Fugl-Meyer Assessment下肢運動項目が26点,体性感覚がNottingham Sensory Assessmentで,触覚6/8点,圧覚5/8点,痛覚7/8点,鋭敏4/8点,深部感覚6/8点で主に触圧覚の低下と足趾の深部感覚脱失を認めた.屋内移動は,杖歩行で自立していたが,屋外の不整地歩行時には麻痺側のつまずきによる転倒傾向があり,見守りを要した.職業は農業であり,田畑での作業再開を希望していたため,屋内の整地,砂利道の不整地での歩行の特徴を分析した.歩行計測では,歩行補助具を使用せず見守りで実施し,矢状面動画からOpenPoseを用いて,関節角度や歩幅といった空間的変数を,装着した加速度計から立脚期時間などの時間的変数を算出した.
【結果】麻痺側遊脚期の股関節,膝関節の最大屈曲角度は,整地で15.0±2.6°,38.4±3.2°,不整地で16.4±4.1°,40.8±2.9°,麻痺側歩幅は整地で47.9±0.1cm,不整地で59.0±0.1cmであった.麻痺側立脚時間は整地で0.62±0.05秒,不整地で0.6±0.06秒であり,非麻痺側立脚時間は,整地で0.63±0.04秒,不整地で0.63±0.06秒であった.麻痺側遊脚時間は整地で0.5±0.01秒,不整地で0.5±0.03秒であり,非麻痺側遊脚時間は,整地で0.48±0.01秒,不整地で0.47±0.01秒であった.
【考察】 今回,不整地歩行時に歩幅の増加や,麻痺側遊脚期の股関節,膝関節の屈曲角度の増加がみられた.これらは,先行研究の脳卒中症例の不整地歩行時にみられる遊脚期の股関節屈曲,膝関節屈曲角度の増加と同様の結果であり,歩幅の増加と合わせて,つまずきを回避するための代償動作と考えられる.また,麻痺側および非麻痺側の立脚時間や遊脚時間には,不整地による著明な変化がみられなかった.重度感覚障害を有していたものの,今回評価した時間的変数への影響は乏しかった.以上より,重度感覚障害を有する本症例においても,不整地歩行時には遊脚期の代償動作が顕著となる特徴が示された.
【倫理的配慮】本報告にあたりヘルシンキ宣言に基づき,症例への個人情報保護,および同意撤回を含めた留意事項に関して書面にて十分な説明を行い,同意を得た.
〇山村 彩月1) 地藏 小百合1) 細川 栞1) 小村 桃子(ST)1) 大西 幸代1)
1)奈良医療センター リハビリテーション科
キーワード:前脊髄動脈症候群・人工呼吸器離脱・多職種連携
【はじめに】一般的に,C5以下の損傷レベルでは%肺活量が50%に低下するが日中の人工呼吸器離脱が可能と言われている. 今回,くも膜下出血後に前脊髄動脈症候群によるC5領域以下の四肢麻痺を呈し人工呼吸器管理となった症例に対し,人工呼吸器離脱に向けて多職種による介入を行った結果と今後の課題について報告する.
【対象と方法】本症例は,くも膜下出血発症後の親血管閉塞術中に前脊髄動脈症候群による四肢麻痺を呈した40歳代男性である.術中酸素化不良により人工呼吸器管理となり,発症から約2ヶ月半後に人工呼吸器装着下で当院へ転院となった.入院前のADLは全自立であった.
初期評価時,意識は清明でバイタルも安定していた.人工呼吸器はA/C‐PCモードで,1回換気量は安静臥位で420 ml程度,一部自発呼吸を認め,痰の量は多かった.また,C5領域以下の重度運動麻痺と感覚麻痺を認め,胸鎖乳突筋と僧帽筋はMMT1.基本的動作は全て全介助であった.
治療プログラムは,換気量の改善を目的に,横隔膜と呼吸補助筋の収縮を促す呼吸練習や排痰介助から開始し,徐々に1回換気量の改善と呼吸苦の軽減を認めたため,人工呼吸器装着下でリクライニング式車椅子座位練習を追加した.同時に言語聴覚療法で呼吸機能向上を意識した発声練習や,病棟看護師による機械的咳補助装置を使用した排痰の支援を行い,さらに呼吸器内科医師の立ち合いの元で,人工呼吸器離脱練習や最大強制吸気量の測定を継続した.
【結果】人工呼吸器はSIMV-PCモードの高容量換気となり,1回換気量は安静臥位にて1100ml程度.痰の量は減少し,リクライニング式車椅子座位が30分程度可能となった.また,最大強制吸気量が1500mlに改善し,人工呼吸器離脱直後,自発呼吸はみられなかったが約5分の徒手呼吸介助にて40分程度の離脱が可能となった.
【考察】本症例は,C5領域以下の四肢麻痺であり,換気能力の低下と咳嗽力の低下により姿勢変換時に換気量の低下が生じ,また,呼吸苦が増大し離床が進まないことが問題点であった.そのため,理学療法では呼吸筋トレーニングと車椅子離床を継続し,言語聴覚療法では発声による呼気練習を行った.また,人工呼吸器高容量換気量への設定変更や,病棟看護師管理による機械的咳補助装置の使用により,換気量と気道クリアランスに改善が得られた.その結果,車椅子座位時間と人工呼吸器離脱時間の延長に繋がったと考えられる.
【倫理的配慮】発表にあたり,患者の個人情報とプライバシーの保護に配慮し,ご本人およびご家族に対し十分な説明を行い,書面にて同意を得た.
座長:堀田修秀(介護老人保健施設鴻池荘)
〇池田 裕介1) 上松 弘典(MD)1)
1)医療法人仁誠会 奈良セントラル病院
キーワード:通所リハビリテーション・サルコペニア・運動機能
【目的】近年,サルコペニアは要介護状態を悪化させる一因として注目を集めている.介護報酬改定により通所リハビリテーション(以下,リハビリ)においても,運動機能のみでなく,栄養やサルコペニアの評価や介入を行うことが重要とされている.当院通所リハビリは,自宅在住および有料老人ホーム在住の利用者が多く利用されている.今回,自宅在住利用者(以下,自宅群)と施設在住利用者(以下,施設群)の居住環境がサルコペニアや運動機能に与える影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】対象は,2024年12月から2025年2月までの期間に通所リハビリを利用した74名とした.そのうち,評価実施困難等の利用者を除き,65名を分析対象とし,自宅群 40名と施設群25名の2群に分類した.基本情報として,年齢は自宅群83±7歳,施設群90±5歳(p>0.05)であった.評価項目は,サルコペニアの指標としてSMI(推定式より算出),握力,下腿周径,SPPB,SARC-F,10m歩行速度,運動機能としてTUG-T,SFBBSとした.分析は,正規性の検定後に,自宅群と施設群をt検定またはMann-Whitney U検定を実施した.統計ソフトはEZR(ver.1.61)を用い,有意水準5%未満とした.
【結果】自宅群は施設群に比べて,SMI,握力,下腿周径に有意差を認めた(p>0.05).他のサルコペニア指標(SPPB,SARC-F,10m歩行速度)や運動機能(TUG-T,SFBBS)は,有意差を認めなかった.
【考察】本研究の結果より,自宅群が施設群と比較しサルコペニアの指標が良好であることが示された.その理由として,施設群は年齢層が高いこと,また生活の多くが施設内での活動に限られ,このような居住環境の違いが要因と考えられた.
一方,2群間において運動機能に有意差を認めなかったことは,今回通所リハビリにおける介入効果の調査は未実施だが,施設群においても少なからず通所リハビリのトレーニングが寄与している可能性があると考えられた.
今後,通所リハビリのプログラムには,居住環境に応じた個別的な介入が重要であることが示唆され,施設在住高齢者においては,サルコペニアに着目した多職種との介入が必要と考えた.
【倫理的配慮】本研究は個人情報の取り扱いに留意し,当院倫理審査委員会の承認を得て実施した.(承認番号:N24-08)
〇山﨑 徹1) 奥埜 博之1) 沼田 一成(OT) 1)
1)奈良東病院 リハビリテーション科
キーワード:嚥下機能・FIM・高齢者
【目的】本研究は,当院の回復期リハビリテーション病棟に入院していた脳卒中や認知症などの疾患を有する患者を対象に,入院時の嚥下機能低下が退院時の日常生活動作能力や認知機能に与える影響を明らかにすることを目的とした.
【方法】調査項目は,電子カルテ情報をもとに年齢,性別,BMI,FIM,病歴(認知症,脳血管障害),血液データ(アルブミン値(ALB),総コレステロール値(T-cho),リンパ球数(TLC)),リハビリ単位数,在院日数とした.また,ALB,T-cho,TLCの値に基づいて各点数を積算し,血液検査値から得られる栄養指標であるControlling Nutritional Status(CONUT)値を算出した.統計学的手法としては,改定水飲みテスト(MWST:Modified Water Swallowing Test)の良好群と不良群の2群に分け,各項目についてMann-WhitneyのU検定,χ2乗検定を用いて2群間の差に対して単変量解析を実施した.次に,退院時のFIM運動項目と認知項目を目的変数とし,年齢,性別,入院時FIM運動項目,入院時FIM認知項目,MWSTの5項目を説明変数として,重回帰分析を行った.
【結果】本研究では,65歳以上の患者151名を対象とした.MWSTの良好群と不良群に分け,入院時の基本属性と測定項目,ならびに退院時の測定項目についてそれぞれ単変量解析を用いて分析した.その結果,入院時では性別(p = 0.039),FIM運動項目(p = 0.005),FIM認知項目(p = 0.003),CONUTスコア(p = 0.023)において有意な差を認めた.また,退院時の項目ではFIM運動項目(p = 0.004),FIM認知項目(p = 0.007),リハビリ単位数(p = 0.043)に有意差を認めた.次に多変量解析は,退院時のFIM運動項目とFIM認知項目を目的変数とし重回帰分析を行った.退院時のFIM運動項目では入院時のFIM運動項目(β = 0.536,p = <0.001)とFIM認知項目(β = 0.233,p = 0.004) に有意な関連を認めた.また,退院時のFIM認知項目は,入院時のFIM認知項目(β = 0.952,p = <0.001)に関連を認めた.
【考察】退院時の日常生活動作能力は入院時の嚥下機能との関連性が低く,入院時の日常生活動作能力との関連性が高いことが示された.近年の回復期リハビリテーション病棟においては,入院時のFIMがどの程度向上するかを予測することが重要視されている.本研究の結果から,退院時の日常生活動作能力の予測においては,入院時の嚥下機能の状態よりも,FIMの状況を把握することが重要である可能性が示唆された.
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,当院の倫理委員会の承認を得たうえで,個人情報が特定されないよう十分に配慮して実施した.
〇山方 陸也 1)
1)重症心身障害児学園・病院 バルツァ・ゴーデル リハビリテーション科
キーワード:端坐位・坐位バランス・立ち直り
【症例紹介】 2011年の交通事故による症候性てんかんを伴う頭部外傷後遺症を呈する30歳男性.気管切開術と胃瘻造設術が施行され,2013年に当院へ入所となり月1日,1回3単位の理学療法介入(以下PT介入)を行っていた.日中活動は姿勢保持装置に座り,ADLは全介助である.日中活動の幅を広げ,認知機能や筋力の維持改善を目的に,端坐位改善を目指し,週4日,1回3単位でPT介入を行なった.
【理学療法評価】初期→中間→最終 (*:初期評価から変化なし)
右上肢支持なしの端坐位
(初期) 徐々に腰椎屈曲,骨盤後傾.15秒後,体幹伸展を伴い右側屈し,20秒後右後方へ倒れる.
(中間) 初期評価より腰椎屈曲,骨盤後傾が軽減.徐々に胸腰椎屈曲,体幹左側屈し,50秒後左前方へ倒れる.
(最終) 中間評価より腰椎屈曲,骨盤後傾,頭頸部右側屈,体幹右側屈は軽減.90秒後,右手を撮影者の方に振る際,胸腰椎屈曲増加するが, 胸腰椎伸展する.
固有受容覚検査 右:4/5→4/5→5/5 左:0/5→0/5→1/5
線分二等分試験* 10cm
MMSE 8/30→8/30→9/30 (口頭指示3/3)
【治療プログラム】初期〜中間 関節可動域練習,筋力強化運動,端坐位,立位,歩行
中間〜最終 自動運動を伴った寝返りと起居動作,口頭指示下での端坐位保持を追加
【考察】初期評価では,背筋群,腹筋群,腸腰筋の筋力低下により端坐位で右後方へ倒れたと考えた. そこで体幹筋を賦活した端坐位を中心にPT介入を行った.中間評価では,背筋群,腹筋群,腸腰筋の筋力が改善し,端坐位自立時間が増加したと考えた. しかし,筋出力低下と固有受容覚障害により姿勢を保持できず左前方へ倒れ,坐位バランスに改善は認めなかった.立位や歩行よりも難易度の低い寝返りや起居動作だと効率的に動的バランスを改善できると考え,治療プログラムを再考した.さらに,本症例は口頭指示下での自動運動が可能な為,端坐位で抗重力伸展位を保持するように指示を行った. その結果最終評価では,筋出力と固有受容覚が改善し,手を振ることが可能になるまで坐位バランスが改善した.その際,重心が前方へ傾くが,胸腰椎伸展し,抗重力伸展位を保持できた. 筋出力は動的バランスと相関関係にあり,固有受容覚は位置感覚,運動感覚,力の感覚を伝える役割があるとされている.本症例においても,体幹筋筋力強化運動のみでは坐位バランスに改善は認めなかったが,寝返りや起居動作,口頭指示下での端坐位を実施したことで筋出力と固有受容覚が改善し,坐位バランスの改善に繋がったと考える.
【倫理的配慮】本症例報告はヘルシンキ宣言を遵守し十分な説明を行った上で同意を得た.
〇池田 耕二1) 吉川 義之1) 城野 靖朋1) 野田 優希1) 滝本 幸治1)
1) 奈良学園大学 保健医療学部 リハビリテーション学科
キーワード:理学療法士・成長・基礎資料
【目的】PTの成長は,経験学習内容や「場」の雰囲気だけでなく,人物からも影響を受ける.しかし,体系的な基礎資料は存在しない.本研究ではPTの成長に影響を与えた人物を臨床経験年数別に明らかにする.
【方法】インターネットによるアンケート調査法を用いた.研究の趣旨とアンケートを2023年12月~2024年3月の間Web上に公開し回答を募集した.調査項目は,①基本属性: 年齢,臨床経験年数,性別,期別(新人群(1~3年目),中堅群(4~10年目),熟達群(11年目~) ,職場特性.②自身の成長に影響を与えた人物を,上司,先輩,後輩,患者,患者の家族,医師,他職種,その他の選択肢から選択させた.分析は,各群の時期別に成長に影響を与えた人物の割合を算出し,比較・検討を行った.
【結果】総回答者数は255名であった.臨床経験年数と群分類に不一致のあった37名を除外し,最終的な分析対象は218件とした.①基本属性は,年齢:35.6±8.0歳,性別:男 174名,女 44名,臨床経験年数:12.4±7.0年.各期:新人 23名,中堅 75名,熟達 120名.職場特性:医療系施設 142名,介護系施設 52名,他 24名であった.②成長に影響を与えた人物の割合は,新人時:新人群(現在)・中堅群(新人時)・熟達群(新人時)に共通して,先輩(41~49%),上司(30~50%),患者(13~16%)が多かった.中堅時:中堅群(現在)・熟達群(中堅時)に共通して上司(30~37),先輩(20~25%),患者(13~21%),後輩(6~7%)や医師(3~9%)の順で多かった.熟達時:熟達群(現在)は,上司(26%),後輩(20%),患者(18%),医師(9%),先輩(8%)と順に多かった.キャリアを通して熟達群は新人時から現在に至るまで医師から影響を受けていたが,新人・中堅群(新人時)の新人時は医師から影響を受けない特徴が認められた.
【考察】本研究の結果から,PTは新人・中堅時は先輩や上司から影響を受けるが,中堅,熟達と臨床経験を積むにつれ患者や医師,後輩からも影響を受けていることが示唆された.熟達群は新人時から常に医師から影響うけていたが,PTの成長と新人時の医師と関係性については不明である.これを含め,本基礎資料がPT教育や人材育成にどのように活用できるかは今後の課題となろう.さらなるデータの蓄積と分析が望まれる.
【倫理的配慮】本研究は奈良学園大学研究倫理審査(4-H033)を受け,研究の説明と同意はアンケート最初の項目で確認した.
〇平川 みな子1) 丸岡 満1) 岩佐 清志1) 岡田 直也1) 鈴木 拓真1) 奥村 健太1)
山村 光生1) 公文 梨花(OT)1) 大西 美江(OT)1) 梶本 明子(OT)1) 河村 優佳(OT)1)
1) 天理よろづ相談所病院 リハビリテーション部
キーワード:がんリハビリテーション・チーム活動・アンケート調査
【はじめに】当院では2014年にがんリハビリテーションチームを立ち上げ,がん患者リハテーション料(がんリハ料)算定を開始した.今回,当院のチーム活動内容の報告,及びリハビリスタッフ(リハスタッフ:PT,OT,ST)に実施したアンケート(参加状況,チーム会内容など)を基にした課題について報告する.
【活動内容】チームメンバー(研修修了者):医師(5名),看護師(9名),理学療法士(6名),作業療法士(4名)
長期目標:全リハスタッフが一定水準がんリハを提供できること(がんの知識を基に安全にリハを提供できるなど)
年間目標:がんリハビリの質の向上,リハスタッフに対しがんリハビリの啓発
チーム会:がんリハ料算定件数報告,各職種からの講義
その他の活動:リハスタッフに向けたチーム会参加の案内,院内研修会を含めた勉強会の開催
部門内発表会での活動報告や症例発表
チーム会参加対象:チームメンバー,リハスタッフ
【実績】チーム会の延べ参加人数は2023年度39名,2024年度70名.算定件数は2022年度46件,2023年度111件,2024年度253件.主な算定診療科は血液内科,消化器一般外科,呼吸器内科.
【アンケート調査・結果】調査対象はリハスタッフ70名.回収率は63%.「がん患者介入に困ったことがあるか」に対し,「ある」は85%.チーム会参加0回が57%.不参加理由は「目先の業務で精一杯」「タイミングが合わない」が55%.「チーム会内容が臨床の場で活かせているか」に対し「活かせている」が68%.「リハをするにあたり重要な点をがんに特化して教えてもらえた」「介入時の疑問を解決できる機会であった」等の回答が得られた.
【考察・課題】ここ数年で認めた研修修了者,チーム会参加人数,がんリハ算定件数それぞれの増加はチーム活動を通じた成果であり,徐々にがんリハビリの啓発は図れていると考える.一方,アンケート結果から,がん患者介入に困りごとを感じるリハスタッフは多く,チーム会参加によって臨床に活かせるメリットがある反面,チーム会に一度も参加したことのないリハスタッフが約半数以上を占め,日常業務においてチーム会参加の優先度の低さが明らかとなった.今後は企画や講義内容を検討し,全リハスタッフが一定水準のがんリハが提供できるよう,今後もチーム活動を継続していきたい.
【倫理的配慮】アンケート参加は自由意志であり,拒否による不利益はないことを説明,無記名で実施した.
座長:井上裕水(松原徳洲会病院)
〇衣川 みな1) 井上 良太1) 井村 理(OT)1) 北村 哲郎1)
福井 陽介(MD)2) 稲垣 有佐(MD)3) 城戸 顕(MD)3)
1)奈良県立医科大学附属病院 医療技術センター リハビリテーション係
2)奈良県立医科大学 産婦人科学講座
3)奈良県立医科大学 リハビリテーション医学講座
キーワード:重複障害・姿勢制御・運動学習
【目的】重複障害により姿勢制御が困難となった症例の理学療法を経験した.基本動作の獲得に難渋したが,動作訓練を反復した結果,基本動作を獲得し自宅退院に至ったので報告する.
【方法】本症例は70歳代女性であり,現病歴は発熱,左下肢疼痛増悪のため緊急入院となり,左下肢壊死性筋膜炎の診断であった.既往歴には子宮体癌,右卵巣癌,Trousseau症候群であり,入院前の移動手段は伝い歩きであり,その他のADL動作は自立であった.要支援2を取得され,90歳代の母と同居しており,家事は全て母が行っていた.入院日に左側腹部から大腿部外側,左下腿外側を深筋膜下まで切開しデブリードマンを施行し,13病日目に理学療法開始した.介入前のFIMは65点で,基本動作の全てに全介助を要した.14病日目に離床開始した当初の座位姿勢は仙骨座位となり,骨盤後傾位,体幹と股関節の動きがわずかで低位後方重心の不安定な姿勢であり,上肢で引き込むことで姿勢を制御していた.関節可動域訓練,下肢筋力増強訓練に加え,重心移動の流れや上肢の過剰な活動を制御することを目的として,基本動作訓練による動作学習を促した.
【結果】FIMは65点から94点に向上した.両下肢筋群の筋力,姿勢調整障害が改善し,基本動作能力が向上した.結果,伝い歩きが自立となり,70病日目に自宅退院へ至った.
【考察】本症例は現病歴である壊死性筋膜炎に加え,ベッド上臥床による廃用,Trousseau症候群,右下肢リンパ浮腫といった既往による重複障害の影響で,後方重心優位の姿勢を呈したと考える.基本動作訓練の中で体幹および骨盤前傾などを徒手的に調整し,運動学習によって重心移動の流れを獲得できるように実施した.その結果,低位後方重心の姿勢が改善し,スムーズな基本動作が行えるようになり,最終的には入院前と同様レベルの生活が可能になったと考えられた.本症例のような重複障害を呈するリハビリテーションでは,障害の全体像を捉えた上で治療目標を設定し,アプローチすることが重要であると考える.しかし,下肢機能障害に伴い,起立や移乗動作時の上肢の引き込みによる代償動作は退院時にも残存しており,生活場面を想定した環境調整などの介入方法の工夫を行う必要がある.
【倫理的配慮】発表にあたり,本症例報告の趣旨と内容を対象者に十分に説明し,書面にて同意を得た.またヘルシンキ宣言に基づき,個人情報の取り扱いには十分配慮した.
〇福西 優1) 三木 惠美(RD)1) 西前 拓馬1) 生野 公貴1)
1) 西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部
キーワード:サルコペニア・低栄養・回復期リハビリテーション
【目的】本研究の目的は,回復期リハビリテーション病棟において,重症サルコペニア患者に対し運動療法および栄養管理を実施し,その影響を検討することである.
【方法】本症例は,イレウス後の廃用症候群により回復期リハビリテーション病棟に転院した80歳代女性である.術後,敗血性ショックを発症し,当院転院時には大腿四頭筋筋力が右9.1㎏左6.7㎏,握力が右6.4㎏左7.3㎏,5回起立テスト不可,大腿四頭筋筋厚右18㎜(STAR 0.82)左14㎜(STAR 0.66),10m歩行速度16秒であり,重症サルコペニアと判定された.体重は51.9㎏,BMI21.9であった.栄養状態は,MNA-SF6点と低栄養に該当し,GLIM基準は非該当であったが,食事摂取量は約800kcalと少なかった.リハビリテーション介入は,理学療法および作業療法を各40分,週5回実施し,食事摂取量の増加に応じて負荷量や介入時間を調整した.栄養管理は管理栄養士が担当し,食事摂取量の段階的増加を図った.
【結果】入院12週間後,大腿四頭筋筋力は右17.5kg,左16.1kg へと増加し,10m歩行速度は8.3秒まで改善した.ADLは,排泄および病棟内歩行が自立し,FIMスコアは51点から84点に上昇した.食事摂取量は入院1週間後に1300kcalまで増加し,1400~1600kcalを維持したが,退院前に再度低下した.体重は51.9kgから48.7kg(BMI20.5)へと低下した.
【考察】本症例では,運動療法と栄養管理の併用により,身体機能・サルコペニアの改善が認められたが,体重は減少した.その要因としては,入院初期の摂取カロリーの低下,ならびにリハビリテーションの進行や活動量増加に伴うエネルギー消費量の増加が考えられた.身体機能は向上しているものの体重低下は低栄養のリスク因子であり,食思も踏まえた適切な栄養管理と活動量のバランスを図る必要が考えられた.
【結語】重症サルコペニア症例の回復期リハビリテーションでは,活動量の負荷調整と並行してエネルギー摂取量のモニタリングを継続的に行い,適切な栄養補給を維持することが重要である.
【倫理的配慮】本報告にあたり,症例の個人情報とプライバシーの保護に十分留意した.対象者には本報告の目的について説明し,本人の自署による同意を得た.
〇鎌田 幸希1) 山本 浩貴1) 上田 玲央1) 神田 孝祐1) 田中 耕嗣1) 鈴木 健太郎(Dr)2)
1)南和広域医療企業団 南奈良総合医療センター リハビリテーション部
2)南和広域医療企業団 南奈良総合医療センター 呼吸器内科
キーワード:有酸素運動・嫌気性代謝閾値・動作指導
【目的】今回は間質性肺炎(IP)症例に対して,有酸素運動と動作指導を行うことで,患者HOPEに応じた歩行距離が獲得できたため,報告する.
【症例】症例は70歳代の女性.X-1年にIP診断されるも,ADLは自立し,家事全般を担っていた.X-2週から呼吸困難感を自覚,血液検査にてCRP6.02mg/dL,レントゲン画像による両下肺野のすりガラス陰影を認めたため,IP急性増悪診断・X日に入院となった.入院当初からmPSL500mg開始,理学療法(PT)はX+4日から開始となった.身体機能について,徒手筋力検査・関節可動域検査の制限はないが,6分間歩行試験(6MD)は45mであり,呼吸困難感(脈拍:80→115回/分,SpO₂:93➝76%,呼吸数:20➝40回/分)が生じるため,75秒程度で中断となった.症例は「スーパーで買い物ができるようになりたい」と希望されていた.そのため,安楽に歩行できる距離を延長させた上で,まずは屋内移動が自立できるようPT介入を行った.
【介入と結果】X+4日からPSL50mgに変更,PTはエルゴメーターを用いた有酸素運動を中心に行った.運動負荷は目標心拍数としてカルボーネン法にK=0.6を代入した.酸素流量は1~4L/minの範囲で調整した.X+27日までに6MDは180mまで改善するも,運動後の脈拍は79➝125回/分・SpO₂は95➝74%・呼吸数は22➝40回/分となり,歩行後の呼吸苦は残存した.X+48日にはPSL25mgとなり,在宅酸素療法導入での自宅退院方針となった.その後,主治医と歩行状況を共有し,退院後の流量は4L/min(連続式)とし,シルバーカー歩行車の使用を提案した.同条件における6MDは290mであるも,脈拍は78➝128回/分・SpO₂は99➝81%・呼吸数は25➝42回/分まで変化したため,歩行速度を嫌気性代謝閾値に考慮した0.3m/秒とし,安楽な歩行距離延長を図った.結果,連続歩行距離は420m(24分間)まで可能,SpO₂は90%以上を維持することができ,病棟内の自立移動が可能となった.
【考察】本症例は有酸素運動に加えて,身体状況に応じた酸素流量と歩行補助具,歩行速度を選定することで,歩行距離の延長を図った.歩行時間を延ばすことができ,生活場面における実用的な歩行の獲得ができたと考える.
【倫理的配慮】症例報告を行うにあたり,ご本人に口頭で確認・同意を得た.
〇山村 光生1) 平川 みな子1)
1) 公益財団法人天理よろづ相談所病院 リハビリテーション部
キーワード:緩和ケア・理学療法・スピリチュアルペイン
【目的】終末期がん患者は身体的,精神的,社会的苦痛のみならず,スピリチュアルペインと呼ばれる苦痛が存在する.今回終末期がん患者のHopeを具体的に聴取し,自立に着目して理学療法を実施したことで,スピリチュアルペインの改善に寄与した可能性について経験を振り返り報告する.
【症例紹介・経過】40代男性,腎細胞がん,多発脳,臓器,骨転移. 妻,息子(高3,中3)と同居.
X月,新規Th8,L2病的骨折,Th12~L1脊柱管内進展を認めた.X+1月,当院緩和ケア病棟へ入院し,症状緩和目的に理学療法開始(予後1カ月).X+3月,徐々に症状悪化し永眠.
初期評価時JCSⅠ,sBP80~100台.SpO2:90%前後.安静時から激しい腰背部痛.
Th8以下で完全対麻痺,感覚脱失.完全寝返りは不可.同一体位が続き,腰背部の筋緊張が亢進しており苦痛を訴える.ADLはベッド上で,食事は何とか自己摂取.
Hope:最期まで息子にとって格好良い父親でいたい.ベッド上で動けずに,苦しんでいる姿を見せない.できる限り人の手を借りずに自身のことができる.
【理学療法】家族面会時に覚醒し,安楽な状態で過ごすことができる.離床や食事自己摂取など自身で可能な動作の獲得・維持を目標とし,家族面会前のコンディショニング.電動車椅子へ離床し,自走練習.食事を自己摂取できるようにポジショニングや自助具の貸し出し.
【結果】車椅子離床時に腰背部の筋緊張は軽減し,苦痛の訴えは減少した.自走する様子を見て家族は喜んでおり,また,その様子を見て本人も満足していた.面会中は酸素デバイスを外して元気に振る舞い,ベッド上での家族団欒が可能になり,誕生日会などを実施した.本人から「ずっと寝たきりなのはしんどくて情けなかったんですけど,何とか車椅子で動いてる所を見せられて良かった.リハビリの後は体も楽になるから助かってます」と発言あり.
【考察】本症例は自身の身体的苦痛よりも,家族にどう見られるかという点でスピリチュアルペインを感じており,できることの維持や獲得など自立を支援したことで,そのケアがなされたのではないかと考察する.がん終末期は短期間で喪失体験を繰り返し,自身で出来ないことが増えていく.その中で,QOLや自分らしさを支援する緩和期のリハビリでは,本人のHopeをより具体的に,また,進行時期に合わせて確認することが大切と考える.
【倫理的配慮】発表に際し,遺族に口頭で説明を行い,同意を得た.
〇岩佐 精志1) 櫻井 美和子1) 黒川 貴美恵1) 田岡 久嗣1) 岡本 敦1) 近藤 博和(MD)1)2)
1)天理よろづ相談所病院 リハビリテーション部
2)天理よろづ相談所病院 循環器内科
キーワード:心臓リハビリテーション・多職種連携・アンケート調査
【目的】心臓リハビリテーション(心リハ)は,心血管疾患患者の予後改及びQOL向上を目的とした包括的な治療プログラムであり「心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」では,多職種が協働し,個別化された介入を行うことの重要性が強調されている.当院には多職種で構成された心リハチームがあり,毎月1回「心リハチーム会」という多職種会議を開催し,情報共有や連携の強化,日々の業務の改善を目的に,各職種からの講義や症例検討会などを実施している.しかし,チーム会の内容の固定化,特定のメンバーの発言しか見られないなどの課題が生じていた.そこで2022年度末にアンケート調査を行い,チーム会の内容を見直した結果,2024年度のアンケートで,いくつかの改善が見られたので報告する.
【方法】Googleフォームを用いて,選択式と自由記述式で構成されたアンケートを実施した.アンケートの内容は,開催日時について,参加が負担になっているか,チーム会の内容について,日々の業務に役立っているか,発言のしやすさ,来年度へ向けての課題などとした.2022年度末のアンケート結果からチーム会の内容を見直し,2024度に再度アンケートを実施し比較を行なった.
【結果】2022年度のアンケート結果から,チーム会の内容について,新たな取り組みをしたいという意見が26%見られ,従来の各職種からの講義や症例検討という固定化したプログラムを変えるきっかけとなった.2023年度はグループワークを取り入れ,メンバー同士が発言しやすい環境を作り,チームや職種ごとの目標などについて話し合いを行なった.2024年度には心リハ体験会やCPXの実技研修,伝達講習会など,グループワーク以外の内容も行なった.2024年度のアンケートでは,チーム会に参加することが日々の業務に役立っている(93%→100%),参加が負担になっている(33%→5%),発言がしにくい(13%→0%)といくつかの項目に改善が見られた.
【考察】アンケートを実施しチーム会の内容を見直すことで,メンバー同士の発言が増え,職種間の情報共有や連携を強めるだけでなく,日々の業務に役立つ学びがあるのだと考えられる.チーム会の活性化に向けて今後も調査を継続していく.
【倫理的配慮】本研究は匿名性を確保したアンケート調査であり,事前に目的を説明し,自由意志による回答を得た.
座長:廻角侑弥(奈良県立医科大学)
〇西川 千裕1) 山本 成敏1) 杉森 信吾1) 瀧川 瑞季1) 鬼塚 晃平1) 小野 正博1)
1)宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:肩甲上腕関節・拘縮予防・肩甲棘長軸
【はじめに】鎖骨骨折の後療法では,①肩甲上腕関節(以下,G-H jt)の拘縮を予防すること,②骨片転位を防止すること,③肩甲骨固定筋の筋力を強化することが重要であり,早期から①および②を達成することが予後を左右する.今回,鎖骨骨折術後症例に対して運動療法を実施する機会を得た.その中で,術後早期から骨片転位に留意したG-H jtの拘縮予防を実施し,良好な成績が得られたため,工夫した点と考察について報告する.
【対象と方法】症例は70歳代,女性である.2mの土手から転落し受傷した.同日,当院を受診し,鎖骨骨幹部骨折(Allman分類typeⅠ,subgroup C)と同側の第3,6,8肋骨骨折と診断された.受傷後8日目に観血的骨接合術を施行し,術後3週間の三角巾固定が施行された.術後翌日より理学療法開始となり,術後1週間は振り子運動のみの指示であったが,本法では骨折部に圧縮ストレスが加わる肩甲帯の屈曲が生じると考え,主治医と相談し,背臥位にて肩甲骨を徒手で固定し,G-H jtの屈曲・外転,内・外旋などの可動域訓練(以下,ROM-ex)を施行した.
【結果】術後3週目,G-H jt他動屈曲・外転90°,1st外旋65°となり,G-H jtでの拘縮予防は達成できた.その後,肩甲帯への介入を開始し,術後18週目では,肩関節自動屈曲は180°,外転175°,結帯動作Th7レベルまで改善し,動作時痛やADL制限が改善したため,理学療法終了となった.
【考察】本症例に対して術後早期よりG-H jtの拘縮予防を目的に,肩甲骨固定下での同関節のROM-exを施行した.鎖骨は肩甲帯運動の支点になる役割を担い,上肢挙上時の肩甲骨上方回旋に伴って胸鎖関節を軸に後方回旋する.そのため,骨片転位を防止するためには,G-H jt他動運動時における肩甲帯の代償動作を制動することが重要である.また,G-H jtを構成する軟部組織の柔軟性を獲得するためには,肩甲骨関節窩の位置に合わせた上腕骨の他動運動が必要となるため,肩甲棘の長軸をランドマークにしてROM-exを施行した.その結果,術後3週目時点でG-Hjtの拘縮を認めることなく,肩甲帯への運動療法へ円滑に進めることができ,良好な成績に繋がったと考えた.
【倫理的配慮】本症例に対しヘルシンキ宣言に基づき,発表の趣旨を説明し書面にて同意を得た.
〇城谷 将輝1) 松井 翔1) 星賀 弘貴1) 田中 翔斗1) 徳田 光紀1)
1) 社会医療法人 平成記念会平成記念病院 リハビリテーション課
キーワード:エコーガイド下徒手療法・下垂位外旋制限・結合組織
【はじめに】上腕骨近位脱臼骨折は,術中の筋の剝離操作を伴う整復や術後の炎症により,筋や周囲組織との拘縮が生じやすい.肩関節自動屈曲運動には,下垂位外旋可動域が35°以上必要であり,烏口上腕靭帯(以下,CHL) ,烏口腕筋(以下,CB) ,肩甲下筋(以下,SSC)の滑走性が必要と報告されている今回,上腕骨近位脱臼骨折術後の下垂位外旋制限に対してエコーガイド下での介入が有効であった症例を経験したためここに報告する.
【症例紹介・経過】症例は交通事故により上腕骨近位脱臼骨折(Head Split type,4parts,後方脱臼)を受傷された40歳代男性である.deltoid splitting approach,プレート固定術を施行され,棘上筋,棘下筋,SSC,腱板疎部への侵襲を認めた.術後1週後より外旋以外の他動運動許可,4週後より他動外旋許可,6週後より自動運動許可となった.術後6週後の評価では,右肩関節自動屈曲80°,他動屈曲90°,下垂位外旋0°,45°挙上位外旋-5°他動外転60°と制限を認め,CHL,SSC,棘下筋にて圧痛を認めた.術後8週後,エコーにて,CHL,CB,SSC間での結合組織に滑走性,柔軟性低下の動態を認めた.運動療法は,一般的な運動療法に加え,エコーガイド下にてCHL,CB,SSC間の組織間の滑走を促進するための徒手的モビライーゼーションを5分間行った後,下垂位自動外旋運動を最大可動域の範囲で行った.即時的に下垂位自動外旋30°までの改善を認めた.再評価時に可動域のリバウンドを認めたが,運動療法を継続していくと可動域の改善を認めた.
【結果】術後24週後では,右肩関節自動屈曲100°,他動屈曲110°,下垂位外旋40°,45°挙上位外旋40°他動外転80°と改善を認めた.各組織の圧痛は消失し,エコー下でCHL,CB,SSC間の結合組織の動態改善を認めた.
【考察】エコーガイド下でのハイドロリリースによりCHL周囲組織間の癒着を剥離すると,下垂位外旋可動域の改善を認めたと報告している.また,エコー下で組織を確認しながら触診を行うことで正確性が高まると報告されている.本症例もエコーガイド下でCHL,CB,SSC間の動態を確認しながら,徒手的モビライーゼーションを行うことで,変化を確認しながら治療を行うことができた.その結果,上腕骨近位脱臼骨折術後の拘縮に対して,下垂位外旋可動域改善の良好な成績が得られた.
【倫理的配慮】症例報告を行うにあたり,対象症例には,ヘルシンキ宣言に基づき,口頭及び書面にて十分に説明し,同意を得ている.
〇木佐貫 健1) 山本 成敏1) 溝口 菜央1) 鬼塚 晃平1) 佐藤 雄介1) 小野 正博1)
1)宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:肩甲帯機能・肩関節前方制動機構・conjoint tendon
【はじめに】今回,腱板断裂術後症例の運動療法を実施する機会を得た.肩関節の可動域(以下,ROM)制限の改善は良好な経過をたどったが,肩関節自動外転時痛の改善に難渋した.本症例に対して,肩甲帯の機能改善を図った結果,運動時痛が改善したため,考察を加え報告する.
【対象と方法】症例は50歳代女性である.スノーボードで転倒した際,上腕骨大結節骨折を受傷し,他院にて保存療法が施行された.しかし,肩関節周囲での痛みとROM制限の改善が見られなかったため,MRI検査を実施した結果,棘上筋断裂を認めた.その後,サイレントマニピュレーションを施行したが,満足なROMを獲得できなかったため,鏡視下腱板修復術が施行された.手術では腱板の修復に加え,拘縮予防のために中関節上腕靭帯(以下,MGHL)が切離された.その後,当院紹介となり,プロトコールに準じて運動療法を行った.術後21週時点で自動挙上・外転は共に180°とROMは良好であったが,1st外旋は45°であり,肩甲骨の内転・後傾・上方回旋の制限を認め,僧帽筋中部・下部線維のMMTは3レベルであった.また,anterior apprehension testは陰性であり,烏口腕筋・上腕二頭筋短頭の近位(conjoint tendon走行部)にて圧痛を認めた.また,肩関節における前額面での前方挙上,肩甲骨面挙上での疼痛の発生はなかったが,自動外転90°〜100°の範囲で烏口突起外側〜小結節付近にてNRS3の疼痛が残存した.この運動時痛に対して肩甲骨の内転・上方回旋位で徒手的に固定すると外転時痛はNRS1まで減少したため,肩甲帯のROM訓練と肩甲骨固定筋の筋力強化を実施した.
【結果】理学療法開始から30週目,肩甲帯の上方回旋制限は若干残存したが,僧帽筋中部・下部線維はMMT4レベルとなり,肩関節外転時痛は消失した.
【考察】本症例は,肩関節の自動ROMは良好であったが,自動外転時痛の改善に難渋した.橋内らは,肩関節前方において,肩甲下筋やMGHL ,conjoint tendonによる制動性が重要であるとしているが,本症例はMGHLが切離されていた.そのため,肩甲帯の可動域拡大と肩甲骨固定筋の筋力強化による肩甲帯安定化を図ることによって,肩関節外転時に肩関節前方での負荷を回避できると考え,運動療法を実施した結果,運動時痛の改善につながったものと考えた.
【倫理的配慮】本症例はヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
〇山本 成敏1) 小野 正博1)
1)宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:癒着・指背腱膜(骨間筋腱帽)・小指外転筋
【はじめに】手指基節骨骨折の治療目標は,解剖学的整復位の保持と良好な可動域(以下,ROM)獲得である.今回,小指基節骨骨折術後症例の運動療法を経験した.total active motion(以下,TAM)は良好なROMを獲得したが,PIP・DIP関節のextension lag(以下lag)が残存したため,その原因について考察を加えて報告する.
【対象と方法】症例は40歳代女性である.酪農作業中,牛の手綱に引っ張られ受傷した.同日,当院受診し,小指基節骨骨折・基節骨内軟骨腫と診断された.受傷2日後にORIF(ロッキングプレート・スパーボア顆粒を骨欠損部に充填)施行され,術後3週より理学療法開始となった.
初期評価時の小指MP・PIP・DIP関節の自動ROM(屈曲/伸展)は60°/0°・65°/−60°・30°/−20 °であり,PIP・DIP関節の他動伸展は−20°・0°であった.テーピング固定下での環指・小指自動伸展運動を開始した.PIP・DIP関節のlagの原因はIntrinsic muscleの影響が考えられたため,虫様筋・第3掌側骨間筋の自動収縮と腱滑走訓練を施行した.
術後8週時点でもlagが残存していたため,再評価を実施した.術創部を近位部と遠位部に2等分し,同部位にて内在筋腱を背側に持ち上げ操作を実施すると,近位部の操作でPIP・DIP関節が伸展しなかった.また,小指内転位ではlagに変化は無かったが,小指外転位ではlagが増大したため,術創部遠位尺側の指背腱膜にて癒着が生じていると判断し,小指外転筋の収縮を用いた滑走訓練を実施した.
【結果】術後14週での小指のMP・PIP・DIPの自動ROM(屈曲/伸展)は95°/15°,100°/−30°,60°/−10°であり,Intrinsic muscle tightness testではPIP・DIP関節の屈曲制限をわずかに認めたが,TAM255°と概ね良好であった.しかし,PIP・DIP関節のlagは残存した.
【考察】本症例の小指PIP・DIP関節に対し,術後早期より掌側骨間筋と虫様筋の収縮を利用した指背腱膜と腱帽の滑走性改善と中央索の牽引を試みたが,小指指背腱膜尺側部の癒着が生じ,lagが残存した.小指尺側の構造は他指と異なり,指背腱膜に付着する筋が少ない.術後早期より小指指背腱膜の癒着を予防するためには,橈側からは掌側骨間筋と虫様筋の収縮により牽引し,尺側からは小指外転筋の収縮により牽引する必要があると考えられた.そのため,小指指背腱膜の癒着を予防するためには,橈側・尺側に分けて操作することが重要であると考えられた.
【倫理的配慮】本症例に対しヘルシンキ宣言に基づき,発表の趣旨を説明し書面にて同意を得た.
〇鍋谷 紳一郎1) 操野 嵩1) 大渕 篤樹1) 勝井 龍平(MD)1)
1) 医療法人 勝井整形外科
キーワード:尺骨遠位端骨折・遠位橈尺靭帯・超音波画像診断装置
【はじめに】橈骨遠位端骨折に合併する尺骨遠位端骨折は約6%で発生し,疼痛による前腕回内制限が残存しやすいと報告されている.今回,橈尺骨遠位端骨折術後早期に,尺骨内固定を抜去された症例を経験した.この症例に対し,尺骨不安定性を超音波画像診断装置(以下US)を用いて評価し外来理学療法(以下PT)を実施した為,解剖学的な考察を含め報告する.
【症例】73歳の女性.水路に転落し受傷,橈尺骨遠位端骨折と診断される.受傷時レントゲン像(以下XP)では橈尺骨の背側転位を認めていた(AO分類typeC2).橈骨は掌側ロッキングプレート,尺骨はキルシュナー鋼線(以下K-wire)1本にて内固定を施行された.術後1週より当院でのPT開始となる.主治医より術後4週手関節装具着用との指示があった.術後約3週で尺骨内固定に使用されていたK-wireに緩みが生じ,術後4週で抜去し尺骨は外固定で経過観察となった.抜去時XPで仮骨形成不十分であった為,尺骨骨折部不安定性を危惧し,以後PT時にUSを用いて尺骨骨折部の評価を行なった.術後5週でのPT評価では,関節可動域(以下ROM)は手関節掌屈40°背屈45°橈屈10°尺屈25°前腕回外15°回内30°で回内外に伴う手関節尺側部痛を認めていた.USでは尺骨骨折部の不安定性を尺屈時に認めたが掌背屈では認めなかった.その為,尺骨骨癒合が進行するまでは橈尺屈や尺骨骨折部転位リスクのある前腕回内運動を実施せず,掌背屈運動やダーツスロー運動を中心に実施した.術後約8週のUSにて尺屈時の尺骨骨折部不安定性が消失.また,前腕回内外での手関節尺側部痛が消失した為,橈尺屈や前腕回内の積極的なROM練習を実施した.尚,その際のXPでも骨形成は進行していた.術後24週の最終評価ではROMは手関節掌屈60°背屈70°橈屈15°尺屈40°前腕回外90°回内60°となった.
【考察】遠位橈尺靭帯は遠位橈尺関節を支える構造として重要とされ,尺骨小窩の背側から尺骨茎状突起の範囲に付着する.靭帯繊維は近位から遠位にかけて交差関係にあると言われており前腕回内に伴い背側遠位橈尺靭帯が緊張し尺骨頭が背側へ偏位する.前腕回内は骨癒合前では尺骨骨折部の転位リスクがあると考え中止した.その間,USで尺骨骨折部の不安定性を確認し,骨癒合を阻害せず転位リスクの無い手関節掌背屈やダーツスロー運動を積極的に行なった.前腕回内運動に対する運動開始までに期間を要したが,USでの評価が偽関節や疼痛を誘発させず前腕回内外可動域拡大に至った一助となったと考える.
【倫理的配慮】本症例はヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
【倫理的配慮】本症例はヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
座長:杉本 善宏(奈良東病院)
〇池岡 莉里1) 辻本 直秀 1) 橋 良幸1) 中村 潤二1) 内沢 秀和1) 野本 大雅1) 生野 公貴1)
1)西大和リハビリテーション病院 リハビリテーション部
キーワード:機能的電気刺激・歩行障害・Rate of Force Development(RFD)
【はじめに】股関節外転筋に対する機能的電気刺激(FES)は有効な介入法とされているが,異なる刺激方法の効果比較は十分に検討されていない.本症例報告では,非麻痺側に大腿骨頸部骨折の既往がある脳卒中症例において,股関節外転筋に対する2種類の異なるFES介入方法を臨床的に試行した経過とその結果について報告する.
【症例紹介】対象は,左橋腹側の脳梗塞後に右上下肢の失調性片麻痺を呈し,非麻痺側に大腿骨頚部骨折の既往がある80代女性であった.53病日目に病棟内歩行が自立し,Fugl-Meyer Assessment下肢運動項目は32点,Scale for the Assessment and Rating of Ataxiaは6.5点,歩行速度は73.2m/minとなったが,左股関節外転筋力はハンドヘルドダイナモメーターにて0.28kgf/kgであった.瞬間的な筋力発揮能であるRate of Force Development(RFD)は筋力発揮から50msで3.3 N/kg/s,100msで3.5 N/kg/sであった.歩行観察からは左初期接地(IC)から荷重応答期(LR)に骨盤の左回旋と側方動揺を認め,左Trailing Limb Angle(TLA)は6.3°(右11.4°)であった.
【理学療法経過】62病日から68病日,歩行練習と階段昇降練習時に,低周波治療器(IVES,OG Wellness社)の随意運動介助型電気刺激によるFESを左股関節外転筋に最大耐性強度で実施した.しかし,歩行速度やTLA,RFDの改善を認めなかった.69病日から81病日には標準的な課題指向型練習を実施し,歩行速度は85.6m/minと改善傾向を示したが,左股関節外転筋力(0.30kgf/kg)とTLA(6.4°)は変化が乏しかった.82病日から90病日はハンドスイッチ型FESを用いて手動で左ICからLRに刺激を与えた結果,91病日には左股関節外転筋力は0.38kgf/kg に向上し,RFDは50msで6.5N/kg/s,100msで7.3N/kg/sに増加した.歩行速度は98.3m/minへ向上し,左TLAは10.1°に増加,立脚期の骨盤の左回旋と側方動揺が減少した.
【考察】股関節外転筋力とRFDの低下は,単脚支持期の骨盤落下と回旋に関連する.本症例ではハンドスイッチ型FESが脊髄の興奮性を反映する50msと100msのRFDを改善させ,立脚期の骨盤安定化に寄与したと考えられる.一方,IVESは筋電を読み取ってから刺激するまでにわずかな時間差が生じるため,RFD低下例のICからLRにおける股関節外転筋活動を適時に補えなかった可能性がある.FES刺激方法の選択には筋電図評価を加えた詳細な病態評価が重要である.
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言および厚生労働省の人を対象とする医学的研究に関する倫理指針および臨床研究に関する倫理指針を遵守し,対象者の保護に十分留意した.対象者には本研究の目的および収集される資料の使用意図,同意の撤回の自由について口頭及び書面で説明し,本人の同意を得た.
〇杉森 信吾1) 山本 成敏1) 土谷 龍也1) 小野 正博1)
1) 宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:腱断裂・外傷・超音波画像診断装置
【目的】足部腱断裂は外傷性と非外傷性に分類され,さらに外傷性足部腱断裂は骨折を伴うかで分類される.骨折を伴わないものは刃物やガラスなどの低エネルギー外傷に生じると考えられ,外傷性足部腱断裂は比較的まれな疾患で,理学療法の報告は少ない.今回,外傷性足部腱断裂を呈し,腱縫合術を施行した症例に対し,超音波画像診断装置(エコー)を用いた治療を実施し,良好な改善が得られたので若干の考察を加え報告する.
【対象と方法】症例は40歳代の男性である.草刈り機が跳ね返り下腿の接触し受傷した.右前脛骨筋腱(TA腱)・右長母趾伸筋腱(EHL腱)の完全断裂,右長趾伸筋腱(EDL腱)の部分断裂と診断され,手術加療を目的に入院となった.手術は腱縫合術が施行され,術後4週間はギプス固定をされた.ギプスカットまでは完全免荷,6週まで1/3荷重,その後全荷重を開始した.術後4週目の評価時の可動域は,足関節自動背屈−5°,他動背屈0°,自動底屈25°,他動底屈30°,MTP関節他動屈曲は母趾10°,第2-5趾は15°,PIP関節やDIP関節にも制限を認めた.また,背屈時においてそれぞれの腱のレリーフの低下と前方部痛を認めた.運動療法は可動域訓練,足関節伸筋群の収縮練習を中心に実施した.その際,エコーを用いて,腱滑走を確認しながら介入した.
【結果】理学療法最終評価時(術後15週目),の足関節自動および他動背屈は10°,底屈は50°,足趾の屈曲および伸展の制限は認めず,ADLも改善したため理学療法を終了とした.
【考察】腱は緻密性結合組織であり,強い抗張力を持ち,腱自体の器質的変化が生じ伸張性低下が生じても,可動域制限に対する影響はさほど大きくない.しかし,腱と周辺組織との癒着が生じた場合は,可動域制限の原因となる.本症例は,術後4週目から足関節の可動域訓練を開始し,エコー評価からそれぞれの腱と周囲の組織との癒着による滑走性障害,伸筋支帯の柔軟性低下が確認でき,それらに対して治療を実施した.また,背屈に伴う前方部痛を認めており,これはTA腱の深部にはEHL腱,EDL腱の深部へと広がる膜様組織であるpretalar fat padが距腿関節前方と連結しているため,pretalar fat padの柔軟性低下が要因と考えた.そのため,伸筋支帯の柔軟性改善とともに,pretalar fat padの引き出し訓練により症状は改善した.その結果,疼痛を残すことなく足関節の可動域を獲得し,良好な成績を得ることができたと考えた.
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者には本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
〇西渕 大悟1) 池本 大輝1,2) 森川 雄生1,2) 黒田 琴葉1)
中山 直樹1) 寺田 奈穂1) 吉川 桃代1) 徳田 光紀1,2)
1)社会医療法人 平成記念会 平成記念病院
2)畿央大学大学院 健康科学研究科
キーワード:大腿骨近位部骨折・筋力筋量比・歩行獲得日数
【目的】2024年にサルコペニアの概念的定義の国際的なコンセンサスが得られた.その中で,従来の骨格筋量と筋力だけでなく,筋力から骨格筋量を除した筋力筋量比が提唱されている.そこで本研究の目的は,大腿骨近位部骨折術後患者においてサルコペニアの構成要素である,膝伸展筋力,下肢骨格筋量,下肢筋力筋量比の歩行獲得日数との関連を明らかにすることとした.
【方法】当院に入院された65歳以上の大腿骨近位部骨折術後患者67名(男性13名,女性54名,平均年齢78.0±6.2歳)を対象とした.サルコペニアの構成要素として,術後1日目にハンドヘルドダイナモメーター(μTas F-1,アニマ社製)を使用し,健側の膝伸展筋力を,医療用体組成計(mBCA 525,seca社製)を使用し,健側の下肢骨格筋量を測定した.膝伸展筋力を下肢骨格筋量で除し,下肢筋力筋量比を算出した.手術日から歩行補助具を使用し,介助者による身体的接触が無い状態で30mの歩行が可能になった日までの日数を歩行獲得日数として記録した.統計解析は,歩行獲得日数と膝伸展筋力,下肢骨格筋量,下肢筋力筋量比の相関分析と年齢を共変量として投入した偏相関分析をスピアマンの順位相関係数を用いて検討した.有意水準は5%とした.
【結果】相関分析の結果,歩行獲得日数と膝伸展筋力(ρ= -0.31,p = 0.02),下肢筋力筋量比(ρ= -0.34,p < 0.01)は有意な負の相関を認めたが,下肢骨格筋量は認められなかった(ρ= -0.09,p = 0.49).偏相関分析の結果,歩行獲得日数と下肢筋力筋量比は有意な負の相関を認めたが(ρ= -0.31,p < 0.01),膝伸展筋力(ρ= -0.23,p = 0.06),下肢骨格筋量(ρ= 0.03,p = 0.79)は有意な相関を認められなかった.
【考察】歩行獲得日数には,膝伸展筋力および下肢筋力筋量比が有意に相関することが明らかとなったが,年齢で調整した偏相関分析の結果,下肢筋力筋量比にのみ有意な相関を認めた.そのため,膝伸展筋力は年齢の影響を含んでいたが,下肢筋力筋量比は年齢の影響を受けずに歩行獲得日数と相関する指標であると考えられる.
【結論】大腿骨近位部骨折術後患者におけるサルコペニアの構成要素のうち,今回,新たに提唱された下肢筋力筋量比は,歩行獲得日数と関連する指標である可能性が考えられる.
【倫理的配慮】本研究は所属施設の倫理委員会にて承認を得て実施した.(承認番号15-1).また,全症例にヘルシンキ宣言に基づき本研究の十分な説明を口頭及び文書にて行い同意及び署名を得た.
【利益相反】なし
〇操野 嵩1) 大渕 篤樹1) 鍋谷 紳一郎1) 勝井 龍平(MD)1)
1)医療法人勝井整形外科
キーワード:橈側手根伸筋・超音波検査・開放骨折
【目的】前腕部軟部組織損傷により手関節自動背屈不全を呈した橈骨遠位部開放骨折・橈骨頭開放骨折を経験した.今回,術後理学療法を行う上で経時的に超音波検査(以下US)を用いて軟部組織をDASH,Hand20と併せて評価することで的確なリハビリを行うことが出来たため考察を併せて報告する.
【症例】50歳代男性.パラグライダーのモーターを整備中にプロペラに左前腕を巻き込まれてA病院に搬送され左橈骨遠位部開放骨折,左橈骨頭開放骨折(Gustilo分類ⅢA)と診断された.一期的にデブリドマン,橈骨遠位部のpinning,伸筋腱の腱縫合,橈骨頭部の筋膜修復を施行.二期的に橈骨遠位部骨折に対しORIFを施行された.術後21日まで固定を行い術後29日より当院にて外来リハビリを開始した.術後42日他動背屈45°自動背屈0°と自動背屈の改善が認められなかった.USで自動背屈時に橈側手根伸筋の断端の離開がみられ,橈側手根伸筋癒合不全を認めた.DASHは機能障害/症状スコア50点,Hand20は58点であった.そのため,運動療法として橈側手根伸筋の過伸張と癒合不全に留意し,掌屈可動域練習を中止し可動域練習を行った.また,橈側手根伸筋は手関節背屈位で等尺性収縮を行い廃用予防および張力の改善を図った.術後150日では,USで橈側手根伸筋に瘢痕治癒が確認でき他動背屈90°自動背屈70°と,自動背屈不全は消失し改善を認めた.DASH機能障害/症状スコア7.5点,Hand20は7.5点となった.
【考察】本症例は受傷時の橈側手根伸筋の筋裂傷が術後42日では瘢痕治癒しておらず,手関節自動背屈不全が生じたと考えた.Gautel Mらによると,筋の再生は比較的短い範囲でしか筋線維は伸びず,その先端は瘢痕組織に付着して小さい筋腱接合部を形成すると考えられている.その為,USを用いることで橈側手根伸筋の過伸張や癒合不全を評価し理学療法を計画した結果,橈側手根伸筋の瘢痕治癒が生じ手関節背屈機能とDASH,Hand20が改善したのではないかと考える. 外来理学療法によって橈側手根伸筋の癒合不全を助長したとも推察出来るため,USを用いて経時的に評価する事は非常に有意であった.今後も軟部組織損傷のある症例に対してはUSを用いて経時的に評価することは理学療法を計画する一助になり得ると考える.
【倫理的配慮】本発表はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護に注意し充分な説明を口頭及び 書面にて行い署名を頂いた.
〇小栗 拓馬1) 和田 善行2) 宮良 広大3) 尾崎 麻希(MD)4) 大庭 直樹(MD)4)
1)平成まほろば病院リハビリテーション課 2)平成記念病院リハビリテーション課
3) 九州看護福祉大学看護福祉学部リハビリテーション学科 4)平成記念病院リハビリテーション科
キーワード:痙縮・Modified Tardieu Scale・振動刺激療法
【目的】痙縮の評価指標として,Modified Tardieu Scale(MTS)はRange of Motion(ROM)と筋の反応の質を測定する項目がある(Boyd,1999).MTSは筋の伸張速度が規定されており,痙縮の反射性・非反射性要素に着目した評価が可能と考えられる.現状,脳卒中後の痙縮の反射性・非反射性の要素に着目した振動刺激療法の適応に関する報告は散見されない.今回,脳卒中患者の上下肢の痙縮に対して振動刺激療法を実施し,MTSのROMの検者間信頼性,振動刺激の即時変化を検討したため報告する.
【方法】対象は維持期脳卒中患者10名(年齢:59.9±13.8歳,罹病期間:87.5±48.3ヶ月).上田式12段階片麻痺機能検査は上肢Grade:5.8±2.1,下肢Grade:7.1±0.7,Modified Ashworth Scaleは足底屈筋:2.2±1.0,肘屈筋:1.2±1.0であった.MTSの計測部位は,麻痺側の足底屈筋(膝90°屈曲位,膝伸展位),肘屈筋を対象とし,他動的に伸張して計測した.筋の伸張速度はV1(できるだけゆっくり)とV3(できるだけ速く)を用いた.MTSのROMの検者間信頼性は振動刺激前に検討した.振動刺激は上腕二頭筋と下腿三頭筋の筋腹に対して,スライブMD-01(大東電機工業株式会社製)を用いて,周波数91Hzで5分間実施した.統計学的解析は,MTSの検者間信頼性は級内相関係数(lntraclass Correlation Coefficient:ICC)(2.1),振動刺激の即時変化はWilcoxonの順位和検定を用いて検証し,有意水準は5%とした.
【結果】MTSのROMの検者間信頼性は,足底屈筋(膝90°屈曲位)ICC(V1=0.74,V3=0.75),足底屈筋(膝伸展位)ICC(V1=0.59,V3=0.82),肘屈筋ICC(V1=0.97,V3=0.83)であった.振動前後のROMの即時変化は,足底屈筋(膝90°屈曲位)V1(P=0.02),足底屈筋(膝伸展位)V3(P=0.007),肘屈筋V3(P=0.005)に有意な向上を認めた.
【考察】先行研究にて,ICCは0.6未満で要再考とされており(今井, 2004),足底屈筋(伸展位)V1は低い値を示した.その他の項目においては,MTSの先行研究(Ansari,2008;Ben-Shabat,2013;Li,2014)と比べ同等もしくは高い検者間信頼性を示した.振動刺激の即時変化は,足底屈筋(膝90°屈曲位)は非反射性の要素,足底屈筋(膝伸展位)と肘屈筋は反射性の要素に影響を与えた可能性がある.今後は症例数を蓄積し,病期や病態に応じた振動刺激療法の適応について,さらなる検証が必要である.
【倫理的配慮】本研究は平成記念病院倫理審査委員会の承認(受付番号2023-004)を得ており,ヘルシンキ宣言に基づき対象者へ十分な説明を行い,同意を得て実施した.
座長:野田優希(奈良学園大学)
〇岡田 彰史1) 井上 良太2) 福本 貴彦3) 明道 知巳4) 増田 崇1)
1)奈良県総合医療センター リハビリテーション部
2)奈良県立医科大学附属病院 医療技術センター リハビリテーション係
3)畿央大学 健康科学部 理学療法学科
4)西の京病院 リハビリテーション科
キーワード:高校野球・メディカルサポート・熱中症対策
【目的】奈良県高校野球メディカルサポート(以下MS)は,1999年奈良県高等学校野球連盟からの依頼を受けて開始された.2013年以降,奈良県高校野球連盟主催の全試合でMSを実施しており,試合前処置,試合中のアクシデント対応,熱中症対策など多岐にわたる対応を行っている.近年,猛暑下での試合に伴い熱中症の発生が懸念されており,本報告では奈良県で実施している熱中症対策とその啓発活動について説明する.
【現状】近年,スポーツ中の熱中症増加が懸念されている.特に,熱中症特別警戒アラート発令時には試合中止を検討する大会もあるほど,熱中症対策は選手のコンディショニングにおいて重要な課題となっている.高校野球では甲子園大会においてクーリングタイムを導入するなど,様々な対策が講じられている.奈良大会でも2023年より,アイススラリー(シャーベット状の飲料)の各試合選手10名分の配布を開始し,2024年は各チームのマネージャーを含む21名分の配布を実施した.さらに,熱中症により交代した選手に対してはアイスタオルを使用して迅速に身体を冷却し,症状の悪化を防ぐ取り組みを行った.大会前には指導者向けの熱中症対策講習会を2023年より開催し,2024年は大会パンフレットにも熱中症対策に関する情報を記載することで,保護者や選手への啓発活動を実施した.
【結果】アイススラリー導入前(2015年~2022年)の熱中症発生件数は平均15.6件であった.導入後の2023年では23件,2024年では17件であった.救急搬送件数は2023年が12件,2024年が2件と大幅に減少した.また,暑さ指数(WBGT: 奈良市14:00)は,2015年~2022年が平均28.2(31以上:年平均3.25日),2023年が28.6(31以上:5日),2024年が29.8(31以上:14日)と上昇傾向にあった.
【考察】2023年および2024年の熱中症対策により,重症化や救急搬送件数の減少が確認された.熱中症の発生リスクはWBGTの上昇に比例して増加する傾向があるが,アイススラリーやアイスタオルの導入により症状の重症化を防げたと考えられる.また,指導者や保護者に対する啓発活動も,選手のコンディショニング管理に一定の効果をもたらしたと推察される.
【倫理的配慮】本研究は,奈良県高等学校野球連盟および関連団体,各高等学校野球部の協力のもと実施された.全参加者に対して研究の目的と方法について十分な説明を行い,同意を得た.研究はヘルシンキ宣言に基づいて倫理的配慮を遵守し,個人情報の保護に努めた.
〇佐藤 雄介1) 寺西 正貴1) 瀧川 瑞季1) 山本 成敏1) 小野 正博1)
1) 宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:仙腸関節痛・歩行時痛・股関節内転可動域
【目的】仙腸関節は仙骨の耳状面と腸骨の耳状面で構成される平面関節で,その機能は体幹の重力を下肢に伝達し,体幹と骨盤を支えるとされている.また仙腸関節は脊柱の屈曲-伸展や股関節の運動に連動し,複雑な協調運動を行っていると報告されている.今回,歩行時に仙腸関節痛を生じた,人工骨頭置換術後患者の運動療法を実施する機会を得たため,若干の考察を加え報告する.
【方法】症例は70歳代女性である.自宅にて転倒により受傷し,当院にて右大腿骨頸部骨折と診断され,人工骨頭置換術を施行された.術後翌日より歩行能力の改善を目的に理学療法が実施され,股関節の疼痛は順調に改善を認めていた.しかし,術後20日目に仙腸関節の歩行時痛が残存しており,上後腸骨棘の圧痛,Patrickテスト,PLFテスト,Oberテストの陽性を認めたため,後仙腸靱帯や腰部多裂筋に対しアプローチを実施したが改善に難渋していた.そこで再評価を実施し,股関節内転可動域5°(健側20°)と制限を認めたため仙腸関節へのストレスを考慮した股関節内転可動域(以下:ROM)訓練や腸脛靭帯などの拘縮治療を実施し,股関節内転ROM制限・歩行時の仙腸関節痛改善を図った.
【結果】術後11週にて,右股関節内転ROMは15°(健側20°)まで改善,歩行時の仙腸関節痛は消失し,ADL制限は改善された.
【考察】股関節内転可動域は歩行時の立脚期において非常に重要であり,立脚初期から後期にかけて5°~15°必要とされており,内転可動域の制限は跛行や疼痛の原因とも報告されている.本症例は股関節内転ROM制限を認めており,歩行時の立脚期において骨盤を水平に保つ際に仙腸関節に対して剪断力が生じ,疼痛を発生していることが予測された.そのため,拘縮治療においても仙腸関節への剪断ストレスを助長しない関節操作の工夫が必要であると考えた.骨盤固定下での股関節内転ROM訓練や腸脛靭帯の拘縮治療を実施し,股関節内転ROMが拡大してきたことを確認した後に,股関節内転位での中殿筋の等尺性収縮や片脚立位などの協調性運動を行い,股関節周囲の筋力強化を図った.その結果,仙腸関節痛を増強させることなく股関節内転ROMを獲得し,良好な成績を得ることができたと考えた.
【倫理的配慮】本研究は「ヘルシンキ宣言」に従い,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た.
【倫理的配慮】本研究は「ヘルシンキ宣言」に従い,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た.
〇新谷 さくら1) 榮﨑 彰秀2) 3) 山田 哲也1) 菅内 健太郎1) 竹岡 正洋1)
1) 奈良西部病院 リハビリテーション科
2)さくらい悟良整形外科クリニック
3) 西奈良中央病院 リハビリテーション科
キーワード:有痛性外脛骨・Veitch分類Ⅲ・後脛骨筋
【目的】有痛性外脛骨(Veitch分類Ⅲ)の疼痛の要因は骨隆起部の接触が主であるとされているが,我々が渉猟した限り術後症例の疼痛に着目した報告は少ない.今回有痛性外脛骨
Veitch分類Ⅲに対して骨摘出術を施行し理学療法を実施,正常歩行獲得は行えたが後脛骨筋部痛が残存した症例を経験したため考察も含めここに報告する.
【対象と方法】対象は20代女性,高校生の頃から足部に疼痛を認め,足底挿板療法にて除痛を行われていたが,疼痛が強く除痛困難となり骨摘出術施行となった.術後翌日から後脛骨筋腱と筋腹に圧痛,伸長痛が見られ,理学療法として足趾屈伸運動を開始した.術後7日にギプス除去し足関節用サポーター装着後から長母趾屈筋と後脛骨筋の収縮練習,ストレッチを実施した.ギプス除去後の歩行動作は,足部の腫脹と熱感を認め,疼痛と足底内側部の伸長痛回避のため,足部を内転位に接地させる歩容と立脚後期での蹴り出し消失が見られた.また歩行時痛は,立脚初期から立脚中期で舟状骨内側の術創部にNRS7の荷重時痛と足底内側部全体にNRS4の伸長痛を認めた.術後35日には術創部の荷重時痛はNRS2へ軽減し,足底内側部の伸長痛は消失した.
【結果】最終評価(術後150日)において歩行時痛は消失,母趾伸展可動域は20°へ,歩容の蹴りだしも改善した.また後脛骨筋の圧痛は消失したが,足趾屈曲位での足関節背屈回外ストレスでは同筋の伸長痛が著明であった.
【考察】本症例のギプス除去後の足部アライメントは内側縦アーチの減少は少なく,先行研究で報告されているような内側縦アーチの低下に伴う後脛骨筋の持続的な伸張刺激や骨隆起部の接触が原因ではない可能性が考えられた.術前アライメントは確認できていないが,骨隆起の接触を回避するために足部回外内転位接地での歩行を行い,後脛骨筋を中心とした足関節後内側部の軟部組織の拘縮を起こしていたと考えた.今回,後脛骨筋を中心とした足関節後内側部の軟部組織の柔軟性,滑走性改善により疼痛の無い歩行獲得が可能になったと考えられる.しかし,術前からの後脛骨筋の拘縮は重度であり立脚後期での疼痛は軽度残存したため,今後の課題と考えている.
【倫理的配慮】発表にあたり,患者の個人情報とプライバシーの保護について口頭で説明を行い同意を得た.
〇土谷 龍也1) 山本 成敏1) 杉森 信吾1) 藪ノ内 亮穂1) 溝口 菜央1) 小野 正博1)
1)宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:外果骨折・Hammer toe・複合性局所疼痛症候群
【はじめに】今回,足関節外果骨折・第5中足骨基部骨折受傷後,複合性局所疼痛症候群(以下,CRPS)を発症した症例に対し,理学療法を実施する機会を得た.本症例は,骨折部の免荷期間が終了した後も,足部の疼痛により荷重負荷をかけることができなかったため,足関節および足部の高度な拘縮とHammer toe変形,第2・3中足骨底での歩行時痛が残存した.これらの症状に対して,足部アーチの機能的低下を目標に運動療法を実施し,良好な成績が得られたため,考察を加え報告する.
【対象と方法】症例は仕事中に捻挫した60歳代の女性である.同日,当院を受診し,第5中足骨基部骨折,足関節外果骨折と診断され,ギプス固定となった.その後,受傷後4週目にギプス除去となり,外来での理学療法が開始となった.初期評価時,足関節背屈‐10°,底屈40°であり,足背部での軽度感覚鈍麻を認めた.介入して2ヶ月後,CRPSを発症したため投薬しながら理学療法を継続したが,介入5カ月時点で第2・3中足骨底での歩行時痛が出現した.この時,足関節ROMは背屈15°,底屈55°,内返し15°,外返し10°,内転5°,外転10°と制限を認め,Leg heel angle(以下,LHA)2°,Navicular indexは4.25であり,足部ハイアーチを呈していた.また,近位趾節間関節(以下,PIP jt)が屈曲位,遠位趾節間関節(以下,DIP jt)が過伸展位のHammer toe変形を呈していた.そのため,足部アーチに関与する各関節への介入を実施した.
【結果】足関節ROMは内返し25°,外返し15°,内転25°,外転15°,Navicular indexは5.22,LHAは3°となり,ROMの左右差は残存したが,第2・3中足骨底での歩行時痛も消失した.
【考察】本症例はCRPSの疼痛により免荷期間が長期化したため,足部アーチに関与する各関節や足部内在筋の拘縮が生じ,Hammer toe変形と第2・3中足骨底での歩行時痛が生じたと考えた.Hammer toeはPIP jtが屈曲し,DIP jtが過伸展位となり,中足骨頭は底屈する.そのため,同部位への荷重負荷が集中することから,足部アーチの機能的低下を目的に中足部および前足部の拘縮除去,虫様筋をはじめとする足部内在筋への介入を実施した.その結果,足部ハイアーチを改善させたことにより第2・3中足骨底への荷重負荷が減少し,歩行時痛が改善したと考えた.
【論理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に伴い,対象者には本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た.
〇松谷 未夏1) 寺西 正貴1) 山本 咲枝里1) 藪ノ内 亮穂1) 山本 成敏1) 小野 正博1)
1)宇陀市立病院 リハビリテーション技術科
キーワード:肩峰下インピンジメント・肩甲骨固定筋(IST muscle)・僧帽筋
【はじめに】肩峰下インピンジメントの原因は多岐にわたるが,その一要因として腱板筋や肩甲帯の機能不全が挙げられる.今回,Muscle imbalanceに起因する肩峰下インピンジメントを呈した症例に対し,腱板筋・肩甲帯機能評価を行い,制限因子を特定しアプローチを実施した結果,良好な改善を認めたため考察を加え報告する.
【対象と方法】症例は70歳代の男性.約3ヶ月前から特に誘因なく左肩関節痛が生じていたが改善されず,他院で経過観察されていたが左肩腱板断裂(棘上筋,棘下筋)と診断され,当院にて直視下腱板修復術を施行した.術後翌日より当院プロトコールに沿って理学療法を施行した.術後6週時,肩関節自動屈曲130°自動外転120°と制限が生じていた.術後10週時で他動外転170°自動外転140°と自動外転制限を認め,自動外転90°付近で肩関節上部に疼痛を認めた.肩甲骨アライメントは患側で挙上・外転・下方回旋位を呈しており,僧帽筋中部・下部線維はMMT3レベルであった.また棘下筋に圧痛を認め,前胸部tightness test陽性であった.これらに対し僧帽筋中部・下部線維の反復収縮,棘下筋のrelaxation,小胸筋,前鋸筋上部線維のstretchingを実施した.
【結果】術後20週で肩関節自動屈曲175°自動外転170°まで改善し,肩峰下インピンジメントも消失した.
【考察】Muscle imbalanceに起因する肩峰下インピンジメントでは腱板筋と肩甲帯機能のどちらに問題があるかを特定し,機能改善を図ることが重要である.肩甲胸郭関節におけるforce coupleとしては前鋸筋,僧帽筋が重要であり,屈曲時には僧帽筋下部線維,外転時には僧帽筋中部線維の収縮が固定筋として作用することが報告されている.本症例は,徒手にて肩甲骨を固定した肢位と非固定下で肩関節自動外転時痛の有無を比較したところ,非固定下での外転時に運動時痛の増悪を認めたことから,肩甲帯機能不全に起因する肩峰下インピンジメントであると判断し,肩甲帯機能向上を目的とした僧帽筋中部・下部線維の反復収縮,棘下筋のrelaxation,小胸筋,前鋸筋上部線維のstretchingを実施した結果,肩甲帯機能向上し,肩峰下インピンジメント改善につながったと考える.
【倫理的配慮】本発表はヘルシンキ宣言に従い,対象者には口頭にて十分な説明をし,書面にて同意を得た.