寺本 好邦

京都大学 准教授    博士(農学)

大学院農学研究科 森林科学専攻 生物材料化学分野


研究概要

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当グループでは、主として木質バイオマスを対象に,高分子科学をベースとして,バイオマス構成成分の分子・分子集合体レベルにおける基礎的な構造-物性相関の体系化(特に多糖の誘導体と微視的複合体)[Molecules 2015ほか] と,それらの成分の新規機能材料への応用研究を進めてきました。

直近のテーマは,3つの方向性I~IIIに大別できます:

I.        ナノセルロース・ナノキチンの機能材料化

2014年度より,多糖ポリマー複合化の知見を適宜活かして,適切な加工(プロセッシング)を施しながら,生医学材料への変換を念頭にシンプルなアイデアを創出してきました。複合化の手法はできるだけ簡便にし,プロセッシングにも意味を持たせられるよう心掛けています。これまでに,

「セルロースナノファイバーを高密度架橋点とした高伸縮・温度応答ハイドロゲル」[Polymer 2016]

「キチンナノクリスタルのインクジェット加工によるマイクロパターニング細胞足場材創製」[Biomacromolecules 2017]

「セルロースナノファイバーのマイクロ流体ペーパー分析診断デバイス(µPAD)モジュールとしての活用」[ACS Appl. Bio Mater. 2018

などを報告しています。

II.     バイオマス複合系(混練型WPCや木材そのもの)の新しい評価法の提案

木質バイオマスの酵素糖化 [Biotechnol. BIoeng. 2008; Biores. Technol. 2008] やポリマーブレンド解析 [Carbohydr. Polym. 2010, 2014] の経験を基に,複合系の成分存在様式の解明を図っています。「混練型ウッドプラスチック(WPC)中のセルロース系フィラーと相容化剤の結合の分光学的検出」[Polymer 2017] に初めて成功し,「木材中のリグニンの緩和挙動と,多糖成分との共存スケールの評価」と「単離リグニンの相溶ブレンド化とAFMによる一分子観察」で成果を得つつあります。

III.  セルロース誘導体の高次構造設計と機能材料化

このテーマには長く取り組んでいます [Molecules 2015]。近年では,誘導体のローカルなセグメントの配向挙動を分子構造だけでなく加工法により動的に制御するコンセプトを確立し,光学的 [Cellulose 2011; Macromolecules 2013]・電気的 [Cellulose 2016] 機能を発現させることに成功しました。最近,セルロース系に限らず材料科学や液晶科学全般においても系統的には認識されていない「圧縮加工で誘起される円二色性反転現象」[J. Mater. Chem. C. 2018; RSC Adv. 2018] を発見しました。さらに直近では、セルロース系分子性コレステリック液晶の微粒子化 [Biomacromolecules 2018] にも初めて成功しています。