東京のありふれた住宅街。アマチュアカメラマンの柴山影一は写真に霊を写し取ることに執着している。彼の隣にいるのは、反戦の思いを抱え、戦争の残像に苦しむ女、奏美(かなみ)だ。互いに惹かれあった二人だったがいつしかその関係には溝が生まれていた。
ある日、影一がホロコーストを想起させるような方法でぬいぐるみを撮影していると、彼女は激しく怒り、彼を責める。彼女の言葉は、主人公の心の奥底に眠る、両親とのトラウマ的な記憶を呼び覚まし、彼の世界は幻視に侵食されていく。
一方、激怒した恋人はその直後に不思議なバイオリン弾きの男と出会う。影一は彼らにかすかな嫉妬を抱きながらもその様子を見守ることしかできない。奏美は現行のパレスチナ戦争や、東京の戦後の焼け野原の残像と対峙しつづけ、影一は両親への妄想に囚われ、二人の心はすれ違いを加速させてゆく。
そしてある日、影一は不思議な太鼓叩きの女に導かれ、ライブハウスで衝動的にドラムを叩く。そして北の地、恐山の幻視に取り憑かれてゆき、錯乱状態に陥るのだった。