毒と薬、正反対に思える2つも実は密接な関係があるのです。例えば、私たちがとくに害がないと思っている水も飲みすぎると体に毒になるのです。また、毒であると思っているものも使い方を少し変えるだけで薬にになるというものがあるのです。最近はロシアで反体制派の毒殺未遂事件があるなど、毒に関係するニュースがたくさんあります。
薬の歴史は人類の歴史と共に歩んできたとも言えます。薬は縄文時代の住居跡からも薬として使ったと思われる植物が見つかっています。また、神話の中の因幡の白兎でも兎が薬によって助かったことをご存じの方も多いのではないでしょうか。
毒は昔、毒矢の先に塗って、獲物を捕らえるときに使っていました。昔の人は毒を使って殺した動物を食べても、自分たちは死なないことを知っていたようです。不思議ですね。
毒物学の父、あるいは医療化学者の父、はたまた錬金術師とも呼ばれたパラケルスス(1493-1541)の言葉に、「Alle Dinge sind Gift und nichts ist ohne Gift; allein die Dosis macht es, dass ein Ding kein Gift ist.」つまり、「あらゆるものは毒であり、毒なきものなど存在しない。あるものを無毒とするのはその服用量のみによってなのだ」という言葉があります。958種類の薬を動物薬、植物薬、鉱物薬に分類している『マテリア・メディカ』という本にも「砒素や水銀のような毒物にこそ最も薬効がある」と書かれています。
【ケシの実とモルヒネ】
最も古い医薬の記録であるとされた「エーベルス・パピルス」(紀元前1550年頃)にはケシが赤ちゃんの夜泣きを治すと記録されています。また、現在では癌の痛み緩和のための薬として利用されています。モルヒネは脳内のドパミン放出を抑える神経に作用し、放出のブレーキが効かないようにします。要するに麻薬(毒)です。日本では、麻薬及び向精神薬取締法で麻薬として規制されています。
【ヤナギの樹皮とアスピリン】
日本では、ヤナギには鎮痛作用があり、歯痛に効果があると考えられ、つまようじとして使われていました。1763年、イギリスの神父E .ストーンは、ヤナギの樹皮の抽出エキスが、悪寒、発熱、腫脹などに強い効果があることを発見し、サリシンと名づけました。1838年にはサリシンを分解してサリチル酸が得られることも判明しました。サリチル酸は苦味が強く、胃腸障害などの副作用もありました。ドイツの化学者F .ホフマンは、1897年に副作用の少ないアセチルサリチル酸(アスピリン)(薬)を合成するのに成功しました。近代の薬の開発には、このように副作用を減らし、効果を高めていくような研究が行われていました。
【キニーネ】
キニーネは抗マラリア薬で、熱を下げ、痛みを抑える解熱・鎮痛作用もあります。しかし、副作用が出やすく、苦味も強いです。アカネ科の植物キナの樹皮に含まれています。南米の原住民は、古くからアンデスの高地に生えるキナの樹皮がマラリアに効くと知られていたといわれています。キニーネは今でもマラリア薬として使用されるほか、強壮効果があることから、海外では清涼飲料水として飲まれているトニック・ウォーターにも使われています。
毒と薬について3つ程見てきましたが、我々は毒と薬に関して2つの種類があると考えました。1つめは薬の作用がある反面、麻薬や薬としての効果があるもの。2つめは薬の作用と反面、副作用という毒があるものです。2つめの副作用は皆さんにも馴染み深いものではないでしょうか。