本
本を執筆しました.論文や解説などではなく,まるっと一冊の本です.人生初です.
◆ 約2年前,「本を書きませんか」というメールが来た
最近,海外からよく「本を書きませんか」というメールが来ます.その多くが同じ分野の研究者が一章ずつ書いて一冊の本にするタイプです.この形式,海外の権威のある出版社でも昔から行われていました.が,最近は出版元が良く分からないメールも混ざっています.執筆者がお金を出すタイプの勧誘もあります.なので,海外のものは基本的にスルーです.で,今回の話は,森北出版の編集者さんからのメールでした.森北出版,もちろん知っています.担当している制御工学の教科書に指定しているのも森北出版の本ですし.けれど,編集者さんと面識はないし,声をかけられる心当たりもなかったので,メールアドレスのドメイン名などを確認してしまいました.どうやら本物のようです.しかし,なぜ私?という疑念を残しつつ...オンラインでお話することになりました.
◆ オンラインでの打ち合わせ
現代制御の本を出したいというお話です.いわく「今一番売れている本は他社のこの本なのですが,もう少しコンパクトかつ,やさしめの本を出したい」と.それで,私が過去にWEBで公開していた大学院生用の現代制御の講義資料を見つけて連絡をくれたそうです.そういえば,10年以上前に見知らぬ技術者の方から「こういう資料が欲しかった,使っていいか?」というようなご連絡をいただいたこともありました.公開していると学外の方も見てくれるのだなぁと光栄に思った記憶があります.
本当に光栄なお話です.でも↓,現代制御の本って既に世の中にたくさんあるのですよ.それに現代制御は(私は好きだし,よく使っていますが)社会的にはそれほど需要がないのかなと思っていました.でも↑,MATLABでサクッとLQRゲインが求められる現在,昔よりは身近になっているかもしれません.それでも↓,新しい本に需要はあるのかなという心配は消えません.
しかし↑,今回は出版社さんからのご提案です.本に需要があるかどうかなどは考えず,私は書くことだけに専念してよい幸運な機会なのではないでしょうか?やさしめの本ということで,東洋大にいるからこその難易度設定ができるのかもしれません.ということで,お引き受けすることにしました.
◆ 執筆
自分のノートを基に書き始め,間もなく自らの間違いに気づいてショックを受けました.自動制御の歴史のところで年代を間違えていた!自分のノートの内容を疑うことなく,ずっと後輩や学生に間違えて伝えてきました.申し訳ない.20cであるべきところをずっと19cと言っておりました.ボードやナイキストが活躍されていた時代が,そんなに最近だったとは...
このショックを2週間くらい引きずり(たぶん今も引きずっていますが),いろいろ名称とかも不安になってきます.もう一度,本を調べ,統一されていない表現についてもどちらを選ぶかとか考えて...思ったより時間がかかりました.1年くらいかけて全体を執筆した後,研究室の院生たちに難易度などをチェックしてもらいました.院生はすごく丁寧にチェックしてくれて,さすが,うちの院生!と感心してしまいました.ちょっと良い焼肉を食べに行きました.
◆ 校正
校正作業ですが,書籍は論文や発表原稿などとは違って出版社のビジネスだと思うので,どこまで主張するのか,探り探りという感じでした.出版社の編集者さんがしっかり読みこんでくれて,途中の式を入れてはどうかとか,表現を変えてはどうかなど,読みやすさを考慮していろいろと提案してくれました.このあたりも論文の校正とは全く違うなぁと新鮮でした.
この際,印刷所から上がってきたゲラ刷りにミスが多くて驚きました.電子データで渡したのになぜ?と不思議に思っていました.ですが,最近,生成AIにpdfファイルを読み込ませたら,「.」と「。」などが区別できない結果を山ほど吐き出してきたので,これか!と思いました.たぶん印刷所はWordファイルではなく,pdfファイルをOCRで読み込んだろうと思います.そのOCRの精度が低い.初稿ゲラ刷りは内容を見る以前という感じもありました.そして,その後は紙でのやり取りでした.そのため,指示通りに直ってこないことも多く,2回目で「これは収束しないのでは?」と不安になりました.しかし,著者校正は最初から3回と決まっていたので,最後は編集者さんのチェックにお任せです.電子データではなく紙でのやり取りなのは著作権の問題なのかなと思いました.そして,小説のように文字データだけではなく,数式や図が入っているので,印刷所も大変なのだろうなと思いました.
こういった経験も初めてでしたので新鮮でした.
◆ 完成
製本されてきました.ちょっとドキドキします.受け取ってみたら,菊判サイズはA5より一まわり大きかった.そういえば,森北出版はこのサイズの本が多いですね.
大きなミスがないと良いなぁと祈っています.
そして何より,この本が手に取ってくれた人の助けになることを心から願っています.