今日は里山サポーターズの部長竹田さんと、顧問の斎藤邦明先生からお話を伺います。
経済学部国際経済学科3年
経済学部経済学科 准教授
竹田さんがサークル「里山サポーターズ」に入ったのはなぜですか?
里山サポーターズは郝 (カク) 先生がゼミで行っていた活動をサークルとして立ち上げたことが始まりです。
3年前までは活動していましたが、コロナ禍でいったん廃部になってしまいました。
けれどコロナウイルスが5 類に移行したことをきっかけに、今年の5月に準公認サークルとして復活させよう!となりまして、私が部長に就任しました。
いったん廃部してから復活したのですね!
はい、そうです。それに佐渡に行ってみたい!と思ったのも、動機にありました。
そして復活のタイミングで顧問が郝先生から齋藤邦明先生になり、熱い指導が始まりました!
里山サポーターズはどんな活動をしています?
里山サポーターズは佐渡でトキのために、餌場作り・・・要は草刈りをします。
草刈り?
ええ、草刈りです(笑)
というのも、トキは田んぼや湿地にいるドジョウやカエル、昆虫などを好んで食べます。夏になると田んぼや湿地は草が伸びてボーボーになります。
草が伸びていると、トキが降り立ったり、エサが食べられなくなったりするので、草刈りが必要なのです。
なるほど。ではなぜ佐渡での円了先生のことを調べようと思ったのですか?
里山サポーターズを復活させた5月に、サークルを盛り上げるべく顧問の斎藤先生と話し合いをしたんですね。
そうしたら先生が「佐渡といえば井上円了!」と仰って、井上円了選集で円了先生が佐渡にいった記録「佐渡国巡講日誌」を教えてもらって。
佐渡では活動の受け入れをしてくれた板垣徹氏(潟上水辺の会・代表、写真左)からトキと佐渡の歴史と現状の説明を受けた。
保護センターで飼育されているトキ
(トキはとても繊細な生き物で野生のトキを撮影するのは難しい…)
生椿(はえつばき)地区での餌場作りの様子。
生椿はトキの放鳥を行っている。
生椿出身の高野毅さんから生椿の歴史とトキとの関係について話を聞いた。現在の生椿は無人集落になったが、トキの保護や地域おこしの拠点の一つとなっている。
「佐渡国巡講日誌」(井上円了選集第 14 巻)
私は新潟をはじめ日本の農業・農村の歴史を研究しています。
歴史研究では現地調査が欠かせないのですが、いきなり現地に行って「調べさせてくれ」とお願いしても、調査相手とうまくコミュニケーションが取れず、調査は失敗しがちです。
そこから学んだのが、地元の歴史を事前に勉強して調査を行う必要があるということです。あらかじめ地域の歴史を知っておくことで、相手も「地元のことを知ってるの!?」となって、話が弾み、コミュニケーションが取りやすくなります。
今回サークルを復活したので、佐渡で会う方は初対面の方ばかりです。
これからサークル活動を継続して行うには、佐渡の方と深い関係を築くことが求められます。
円了先生は、佐渡をはじめ、全国各地の多くの場所を訪れ、その土地で過ごした記録を残しています。
学生たちには、佐渡の人々との交流を深めるためのキッカケとして、円了先生の足跡を活用することができればと思いました。
円了先生の佐渡での活動をたどることで、円了先生の活動を実感するとともに、いま現在の東洋大学の私たちが佐渡で活動することの意義を見出してほしいと考えました。
先生直伝のコミュニケーションを深める方法!非常に心強い方法ですね!
さて「佐渡国巡講日誌」の感想はいかがでした?
「佐渡国巡講日誌」は文章中心で、なかなか読むのが大変でした。
でも全部読んでみたら、面白かったんです!どの場所に行って誰と会って、何をしたか、という記録が克明に残っていて。
この時はまだ佐渡に行った事無いけど、自分も佐渡に行ったら円了先生が訪れた場所に行ってみたい!早く佐渡に行ってみたい!と思えました。
面白かったんですね!!
確かにまだ見ぬ場所への想像が膨らむ感じですね!
そうなんです!
この井上円了選集の「佐渡国巡講日誌」も楽しかったのですが、これに現代語訳や写真があればもっと見やすくなるな、と思って。
そこで円了先生が佐渡で辿った場所をまとめてみたのがWord のパンフレットです。
すごい!!写真が入ることで、ものすごく見やすくなりますね!!
ありがとうございます。でも私的にはイマイチの出来で・・・。
ええ!?これでイマイチなんですね・・・
サークルが復活してから初めて佐渡に行くのに、可能な限り、多くのメンバーを集めたくて。
そのためには佐渡行きを、より魅力的にアピールする必要がありました。
なるほど。もう少し詳しく聞かせて貰えますか?
というのも里山サポーターズはもともと大学公認サークルで大学から一部資金的な支援を受けて活動していたました。しかし、一度廃部になったために、大学からサークル活動の支援が受けられない状況で再開しました。そこで今回の佐渡渡航は基本、自己負担となりました。ただ、佐渡市からの補助金(※1)をいただくことが出来て、何とか佐渡に行けることになりました。それでも旅費の半分の3万円くらい自費となってしまって。
※1 大学と地域が連携した地域づくり応援事業補助金(佐渡市地域振興部地域づくり課)
確かに大学生にとって3万円は大きい金額ですね。
この3万円の壁を越えて、佐渡へ行くメンバーを集めたくて。
そのため、この円了先生の佐渡での足跡をまとめたパンフレットを見て「行きたい!」と思えるように作る必要があったのです。
ここで多くの参加者を集めないと、来年以降の活動にも影響してきますからね。
なるほど。確かに今後のサークル活動を考えると、佐渡に行ったメンバーは多い方が良いですものね。
そんな時、齋藤先生の知り合いの堀井修さん(元新潟県職員、現農家。齋藤(2021)参照)から新潟の食をブログで紹介しているサイト(※2)を教えてもらいました。「これだ!」と思い、レイアウトを参照して大きく変えて作り変えたのが、こちらです。
※2 「食を考える:“シンプル”な食べ物を当たり前に」(https://shokuwokangaeru.com/simplefoodshopping/ simplefoodshopping/)
ここに来るまで何回も竹田さんのパンフレットを添削していましたが、ここから格段に良くなりましたね!
わあ!素敵なページ構成ですね!
「人に見てもらう」を意識して、写真やビジュアルを多く使い、文字情報は分量を意識し、内容を厳選して掲載しました。
これを作ったことによって、サークルのメンバーからも「いいね!」と言ってもらいましたし、メンバーが佐渡へ行くモチベーションアップに繋がったと思います。
竹田さん的に、パンフレットで印象に残っている箇所はありますか?
そうですね。佐渡の新穂村のところでしょうか。
「佐渡国巡講日誌」で、新穂村に訪れた時のことを、円了先生はこのように書いています。
円了選集第14巻 P.125
同 P.119~120
新穂村では沢山写真を撮ったせいか、すごく印象に残っていて!
根本寺とかを実際に見て、円了先生も同じ風景を見たのかな、と思いました。
また新穂村の第一小学校 現在の新穂第一小学校 で講演したと記載があって、そこになんと900人も聴衆が来たという記録が残っているんです!
この場所からそんなにも多くの方々が円了先生の講演を聞きに来たことに驚いたと同時に、ちょっと誇らしさも同時に感じました。
右の石碑に「塚原山根本寺」とある。
円了は相川地域から新穂へ向かう途中で立ち寄った。
現在の新穂小学校(右の建物)。
円了が講演した場所。中央のレリーフは新穂出身の土田杏村と土田麦僊。
新穂集落にあるトキ交流会館。トキの保護活動の拠点。
宿泊施設も兼ねていて、私たちも宿泊した。
活動最終日、板垣さんに今回の活動の成果と感想をプレゼンした。
同様の内容を佐渡市役所で佐渡市長にも伝えた。
実際に佐渡に行って、現地ではいかがでした?
佐渡に行ったのが8 月後半だったので、すごい猛暑の中で餌場作りの作業を行いました。
この作業をサポートしてくれたのが、佐渡のNPO 法人潟上水辺の会・板垣徹さんです。板垣さんには、草刈りの方法から現地での過ごし方など、多岐にわたりお世話になりました。
そして板垣さんを通じて、東洋大学の縁を感じる出会いもあったのです。
東洋大学の縁を感じる出会い?
東洋大学OBでNPO法人のトキどき応援団の理事をなさっている、計良武彦さんです。
私たちが佐渡を訪問する際に、円了先生について調べたいと板垣さんに伝え、それを板垣さんが計良さんに話題として振ったところ、計良さんが「井上円了は私が出た大学の創設者だ!」と板垣さんに伝えて、今回面会が実現しました。
計良武彦さん
計良さんは餌場作りの時に来てくださって、一緒に作業をしました!
草刈りの際にサークルのメンバーの中で麦わら帽子を忘れてしまった学生がいたのですが、計良さんは何も言わずに納屋から麦わら帽子を貸してくださいました。また草刈りの際、皆でドリンクを飲む前にも紙コップを用意してくださって、私たちが熱中症にならないように気を付けて下さいました。口数は少ないけれど、すごく親切にして頂いたことが印象に残っています。
まさか佐渡で東洋大学OB の方と出会えて、しかも一緒に活動ができるなんて、夢にも思っていませんでした!
先ほど竹田さんが言っていましたが、今回の旅費は佐渡市から補助が出ていまして。
そのため佐渡市長にもご挨拶にご挨拶に伺ったんですね。その際に計良さんが東洋大のOB だと伝えると、佐渡市長も「あの計良さんは東洋大なんですね」と仰っていました。また市長や役所の方々とお話した際に、私たち東洋大の人間が佐渡にきて活動を行うこと、井上円了の足跡をたどる活動について、大いに興味を示し「今後も継続的に関わっていきましょう」という話になりました。
計良さんをはじめ、まさに佐渡では井上円了がキッカケで交流を深めることができたのですね!
その通りです!
今回はサークルを復活させて初めての活動だったので、佐渡での活動が上手くいくか内心ドキドキしていました。
そんな時に、円了先生のお陰で、佐渡の方々と交流ができたと感じています。
今後サークル活動を継続的に行う上で、佐渡でのこの交流が、きっと大きな役割を果たすと感じています。
私たちも円了先生が里山サポーターズの活動復活のお役に立てたと聞いて、すごく嬉しかったです!
円了は先生全国津々浦々の場所に全国巡講で訪問し、その足跡を『南船北馬集』に残しています。 ぜひ皆さまもどこか行かれる際は、円了先生の訪問歴を調べてみてはいかがでしょうか?その土地をより楽しむ一助になれるかもしれません。
竹田さん・齋藤先生、この度はインタビューにご協力頂き、ありがとうございました!
【2023/12/12 追記】
日中関係学会が主催している学生懸賞論文の第12回宮本賞に、竹田さんらの 「日中学生と地域協働による『第二のふるさとづくり』の提案~新潟県佐渡市を事例に」が「学部生の部」の「優秀賞」に選ばれました 。
【日中関係学会】
https://nichuukankei.web.fc2.com/
【第12回宮本賞・受賞作品】
https://nichuukankei.web.fc2.com/miyamotoshou/2312_award_12th_winner.pdf
おめでとうございます!
・三浦節夫「井上円了の全国巡講」東洋大学創立100周年記念論文集編纂委員会編『井上円了選集』第15巻、1998年
※全文はこちらから
・三浦節夫「井上円了の全国巡講データベース」『井上円了センター年報』第22号、2013年
※全文はこちらから
・堀雅通「『南船北馬集 第一編』にみる井上円了の観光行動」『東洋大学大学院紀要』第54集、2018年
※全文はこちらから
・齋藤邦明「「自由化」時代の農業協同組合の対応:米主産地新潟県を中心に」『歴史と経済』第251 号、政治経済学・経済史学会、2021年
※全文はこちらから
・後藤寛・三沢伸生「井上円了の全国巡講の実態とそれを通してみる近代日本の地域構造」『日本地理学会発表要旨集』、2023年
※全文はこちらから