SDGsと現代資本主義
-政治経済学からのアプローチ-
2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)は人口に膾炙し、国内においても国際的にも無視することのできない目標となっている。SDGsは2030年までに達成するべき、1.貧困、2.飢餓、3.健康と福祉、4.教育、5.ジェンダー平等、6.水と衛生、7.手頃でクリーンなエネルギー、8.ディーセントワークと経済成長、9.産業・イノベーション・インフラ、10.不平等、11.持続可能な都市とコミュニティ、12.責任ある消費と生産、13.気候変動、14.水棲生物、15.陸生生物、16.平和で公正で強力な制度、17.そしてこれらの目標を達成するためのパートナーシップという17の分野での大きな目標と169の具体的なターゲットを定めている。
SDGsの特徴は、その前身であるミレニアム開発目標(Millennium Development Goals, MDGs)が主に途上国を対象とし、貧困等に焦点を当てた「開発」目標であったのに対し、先進諸国も含めた包括的な目標となっていることである。そこには先進国と途上国との南北問題のみならず、地球温暖化や難民などグローバルな対応が不可欠な問題や、先進諸国の国内にも存在するジェンダーの不平等などの人権問題といった、社会の持続可能性を危ぶませるようなさまざまな社会的問題が存在しているという認識がある。
なかでも、気候変動を代表とするグローバルな環境問題の注目度が高いが、この問題意識は、1972年にローマクラブが「成長の限界」として、資本主義経済の発展による環境への負荷の増大に警鐘を鳴らしたところにさかのぼれるだろう。資本主義経済と自然環境の持続が両立するのかが半世紀前に問われていた段階から、資本主義経済と人間社会の全般的な持続が両立するのかが問われる段階へと進んだのが現代の状況だといえる。
一方で、SDGsに挙げられるような課題が、政府から企業への規制や介入という形ではなく、CSR、ESG投資、「パーパス」のように、企業のイメージ向上に取り入れられるだけでなく、脱炭素(再生可能)エネルギーが生産効率性を高め利潤増加につながるなど、新たなビジネスチャンスとなり積極的な企業活動となっていることも最近の特徴である。コロナ禍からの経済的回復に向けて、グリーン・リカバリーの必要性が叫ばれ、先進諸国は2050年のカーボン・ニュートラルを実現するべく政策の整備を急いでいる。それを受けて民間企業も環境投資を促進し、産業の大きな転換がすでに始まっている。
しかし、再生可能エネルギーや電気自動車といった華々しい成長産業に焦点が当てられて、官民挙げての投資が進められる一方で、現代資本主義のもとではそこから得られる利益の公正な分配に保証はない。しかも、化石燃料への依存が急速に低下する中で、資源価格と国際貿易と国際通貨体制が不安定化し始めている。このような大きな変化は、国際的にも国内的にも大きな偏在性を伴って影響がある。豊かになる地域もあれば、衰退の圧力がかかる地域も出てくることで、貧困や飢餓がさらに拡大しかねない。このような問題に対して公正な移行(Just Transition)は可能なのか、議論と挑戦が続けられている。
これまで政治経済学は、南北問題や環境問題を資本主義の発展がもたらすものとして批判しながら、資本主義に代わる新たな社会像を模索してきた。現下の問題は、SDGsが取り組もうとしている問題群に対して、総合的であれ、個別具体的にであれ、政治経済学はどのようにアプローチしていくのかということである。SDGsによって現代資本主義は変容するのか、それともSDGsもまた資本主義的生産様式の上部構造として資本の運動を支える取り組みにすぎないのか。この取り組みが貧困問題等を克服する契機となるのか、環境問題は解決できるのかなどについて、根本的に問い直すことが必要とされている。こうしたテーマについて、政治経済学からのアプローチによる議論を深めたい。
以上の今大会の共通論題の趣旨をご理解のうえ、自薦、他薦問わず、積極的に各種論点に関するご報告の推薦をお寄せいただきたい。
第70 回大会準備委員会