競争法関係

競争法(独占禁止法)関係の情報を掲載しています。

「国際商事法務」2019年3月号(Vol. 47, No.3) に「プラットフォーマーと欧米競争法」と題する論文を掲載しました。

これは、拙著『AI・自動運転・クラウド・プラットフォーマ 第四次産業革命の法的課題』(Kindle版 2019年1月, POD版同3月)の「第四編 ビッグデータおよびプラットフォーマと競争法」(p371~429)をベースに以下の二つを中心としてまとめたものです。もし関心がございましたらご覧ください。

(1). Google Android OS事案決定(EU)

2018年7月に、欧州委員会が米Googleとその親会社であるAlphabet Inc.に対し行った約5,600億円の制裁金決定を紹介しています。

(2). 論文「Amazon’s Antitrust Paradox」(米国)

従来の支配的理論であるシカゴ学派理論を批判し、Amazonを題材に理論的見直しを提言し、大きな注目を集めている論文を紹介しています。

なお、この「国際商事法務」に掲載した論文は紙幅の関係から3ページのごく短いものですが、以下により詳細に論じたものを掲載しました。

プラットフォーマーと欧米競争法

2019年3月15日

UniLaw 企業法務研究所代表

浅井 敏雄

I. はじめに

個人データを含むビッグデータを自社の巨大なプラットフォーム個人や企業が情報発信やビジネスを行う基盤)において収集・利用する、いわゆるGAFA(ガーファ)(Google、Apple、FacebookおよびAmazon)などが社会経済に与える影響が関心を呼んでおり、各国も様々な分野から規制を開始しまたは検討している。例えば、グローバルに活動するIT企業などが低税率国に利益を移転することにより税負担を大幅に減らすBEPS(税源浸食と利益移転)に関し、既に英国が課税方針を決定している。また、2019年1月には、G20が主導した国際課税のルール見直しに向けたOECD論点整理(ポリシーノート)が公表され、5月に作業計画で合意し、6月のG20財務相会議(福岡)に報告される予定である(*1)。個人データ保護法の分野では、2019年1月、フランスの個人データ保護監督機関であるCNILが、Googleに対しEUの一般データ保護規則(GDPR)に違反したとして5,000万ユーロ(約63億円)の制裁金を課す決定を下している。

競争法(独占禁止法)の分野においても、GAFAなどの巨大プラットフォームを運営する企業(以下「プラットフォーマー」という)が市場競争に与える影響に対し競争法を如何に適用していくかという問題に関し、2016年11月、OECDの報告書が公表されている(*2)。我が国の公正取引委員会(以下「公取委」という)も、データの収集および利活用に関連する競争政策並びに独占禁止法上の論点を整理した報告書を2017年6月公表している (*3)。更に、2018年12月には、経済産業省、公取委および総務省が、競争政策、情報政策、消費者政策などの観点から「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」を公表し、今後、これに沿った具体的措置を進めるとしている (*4) 。

本稿においては、EUと米国におけるプラットフォーマーに対する競争法適用の状況を概観する。

(*1)【OECD BEPSポリシーノート日本経済新聞 電子版 「GAFA対G20、デジタル課税への挑戦」 2019年2月7日。"OECD/G20 Base Erosion and Profit Shifting Project - Addressing the Tax Challenges of the Digitalisation of the Economy – Policy Note (As approved by the Inclusive Framework on BEPS on 23 January 2019) https://search.oecd.org/tax/beps/policy-note-beps-inclusive-framework-addressing-tax-challenges-digitalisation.pdf(*2) OECD事務局 "BIG DATA: BRINGING COMPETITION POLICY TO THE DIGITAL ERA" (29-30 November 2016) https://one.oecd.org/document/DAF/COMP(2016)14/en/pdf(*3) 公取委『「データと競争政策に関する検討会」報告書について』平成29年6月6日https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jun/170606_1.html(*4) 経済産業省他 「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」 https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/dec/181218.html

II. プラットフォームおよびプラットフォーマー

プラットフォームとは、一般に個人や企業が情報発信やビジネスを行う基盤を意味する。GAFAなどに関し議論されているプラットフォームは、例えば、GoogleのAndroid(スマホOS) 、Appleの「App Store」(iPhone用スマホアプリ配信ソフト)、FacebookのSNS、Amazonのショッピングサイトなどのデジタル・プラットフォームである。このようなプラットフォームを運営する企業は、英語では一般に"Platform Operator"などと呼ばれるが、本稿では公取委などに倣い「プラットフォーマー」と呼ぶ。

プラットフォームには、一般に以下のような「ネットワーク効果」があるとされる。

(a) 「直接ネットワーク効果」

そのプラットフォームを利用するユーザ数が多ければ多いほど同じ属性のユーザ数が増加する効果を意味する。

(b) 「間接ネットワーク効果」

そのユーザ(例えば消費者)が増えれば増える程、そのユーザとは異なる属性のプラットフォーム利用者(例えば、そのプラットフォームを利用して消費者に商品・サービスを販売する事業者や、そのプラットフォームを消費者に対する広告媒体として利用しようとする企業)も増加する効果を意味する。

このプラットフォームのネットワーク効果により、デジタルエコノミーには「勝者による市場総取り(winner-takes-all)」 が生じ易いと評されることがある(前記OECD報告書)。

III. プラットフォーマーによる企業結合審査事例(EU)

EUにおいては、所定の売上基準を満たす企業結合(買収・合併・合弁事業など)は、事前にその計画を欧州委員会に届け出、その審査を受けなければならない(理事会規則139/2004号) (*5) (4)(数字は条文番号。以下同じ)。そして、ヨーロッパ共同体市場における競争を著しく阻害する企業結合は禁止される (2(3) )。EU競争法の執行を担うのは、欧州委員会であるが、欧州委員会による近年のデジタル・プラットフォーマーによる企業結合の審査事例としては、GoogleによるDoubleClick(オンライン広告の配信・管理用ソフト提供企業)買収の審査(2008年3月買収承認)(*6)、MicrosoftによるLinkedIn(ビジネス用途向けSNS)買収の審査(2014年12月Microsoftによる確約を条件として買収承認)(*7)などもあるが、本稿では、FacebookによるWhatsApp(欧米では圧倒的シェアを占めるLINEと同様のアプリであるWhatsAppを運営する企業)の買収審査を取り上げる。なお、以下、[ ]内は著者の注である。

(*5) 【EU企業結合規則】 理事会規則139/2004号。Council Regulation (EC) No 139/2004 of 20 January 2004 on the control of concentrations between undertakings (the EC Merger Regulation) https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2004/139/oj(*6) 【GoogleによるDoubleClick買収計画の審査(欧州委員会2008年3月)】 Case No COMP/M.4731 – Google/ DoubleClick http://ec.europa.eu/competition/mergers/cases/decisions/m4731_20080311_20682_en.pdf(*7) 【MicrosoftによるLinkedIn買収計画の審査(欧州委員会2014年12月)】 Case M.8124 –Microsoft / LinkedIn http://ec.europa.eu/competition/mergers/cases/decisions/m8124_1349_5.pdf

【FacebookによるWhatsApp買収計画の審査】(欧州委員会 2014年10月)(*8)

(*8) 【FacebookによるWhatsApp買収計画の審査(欧州委員会2014年10月)】 Case No COMP/M.7217 - FACEBOOK/ WHATSAPP, 03.10.2014 http://ec.europa.eu/competition/mergers/cases/decisions/m7217_20141003_20310_3962132_EN.pdf

本件おいては、買収による「Facebook Messenger」と「WhatsApp」の統合に関し重点的に審査された。両アプリは、ともに、ユーザ同士がテキスト、写真、音声などを交換できるアプリである。欧州委員会は、以下のように判断した結果、本件買収により市場競争が減殺される可能性は低いとして買収を承認した。

(1). 消費者向けコミュニケーションアプリ市場における競争減殺

(a) 欧州委員会は、スマホ向けアプリ市場に限定して審理した。何故なら、Facebook Messenger とは異なり WhatsAppはPCやタブレットでは利用できないからである。

(b) Facebook MessengerとWhatsAppは以下のような点から競争上近い関係(close competitors)にない。

(i) WhatsApp利用には電話番号が必要であるのに対し、Facebook Messenger利用にはFacebookプロファイル [ユーザが登録した自己に関する情報] が必要である。このことからFacebook Messenger とWhatsAppの統合は技術上も困難である(*)。

(ii) ユーザは複数の競合アプリを併用すること(“multi-homing”)が多い。

(iii) 他に有力な競合アプリがいくつもあり、市場は流動的である。

(c) 同市場においては、直接ネットワーク効果がある。しかし、以下を含む理由から、本件買収によるネットワーク効果強化が他社による参入障壁となる程度は低い。

(i) 市場が急速に成長しており、技術革新も早く市場再編がしばしば起こる。

(ii) 新しいアプリの市場投入に多大の時間と投資を要せず、multi-homingユーザが多くアプリ間の切替えも容易である。

(2). SNS市場における競争減殺

(a) 市場の範囲が常に変化している。

(b) Facebook MessengerとWhatsAppのサービス内容・使用感(user experience)は相当異なり、両社は競争上遠い関係(distant competitors)にある。

(c) 他に競合アプリが多数ある。

(d) WhatsAppとFacebookのユーザ基盤は相当重複するから両者の統合によるユーザ数増加は限定的と思われる。

(3). オンライン広告市場における競争減殺

[オンライン広告とは、Google検索の結果表示される広告や、他社サイト、SNSやYouTubeなどの動画に表示される広告であり、FacebookとGoogleは、オンライン広告の引受または仲介を主な収益源としている。]

(a) WhatsAppは現在オンライン広告を行っていない。買収後、FacebookがWhatsAppに広告を導入する可能性は高くない。何故なら、WhatsAppが従来の「広告は載せない」方針から逸脱すれば、プライバシーとセキュリティを重視するユーザの反発を呼びWhatsAppの競合アプリに乗り換えられる可能性があるからである。

(b) 買収後、仮に、FacebookがWhatsAppのユーザデータを、Facebookオンライン広告のターゲッティング[ユーザ情報に基づく広告の絞り込み] 機能強化のために利用したとしても市場競争に対する悪影響は少ないと思われる。何故なら、現在でもターゲッティング広告機能強化に有益なユーザデータを他の事業者から大量に入手でき、かつ、それら事業者はFacebook の支配下にあるわけではない。

なお、前記(*)の点に関しては、後に事実と異なることが判明し、2017年5月、欧州委員会は、Facebookが不正確または誤解を招く情報を提出したと認定し1億1,000万ユーロ(約140億円)の制裁金を課した。しかし、審査は他の多くの事項も考慮し、また、自動照合可能との仮定に基づく検討もされた上で承認決定がなされたとされ、承認決定自体は維持された。

また、WhatsApp のユーザは、欧州委員会の承認決定前の2013年12月は約4億人であったが、現在は15億人であり、Facebookは、この他、Facebook 22億人、Facebook Messenger 13億人、Instagram 10億人のSNSユーザを擁する。このことを考えると、欧州委員会が今後も同様事案の審査において同様の判断をするかは必ずしも明らかではないように思われる。

IV. プラットフォーマーによる市場支配力濫用審査事例(EU)

EUの競争法上、市場における支配的地位 (dominant position) を濫用し(abuse)、競争を阻害する効果を生じさせるおそれがある行為は禁止される(欧州連合機能条約(TFEU) 102条およびEEA協定54条)。本稿においては、Googleのスマホ用OSであるAndroidに関する2018年7月の約44億4000万ユーロ(約5,600億円)の制裁金決定を概観する。なお、欧州委員会は、Googleに対して、この決定前の2017年6月に、同社が検索エンジンでの市場支配的地位を濫用し違法に自社の比較ショッピングサービスを有利に扱い競合サービスは不利に扱ったと認定し、24億2,400万ユーロ(約3,100億円)の制裁金を課す決定を行っており (*9) 、また、同社の広告配信サービスAdSenseに関する市場支配力濫用事案を審査中である。


(*9) 【Google比較ショッピングサービス事件(欧州委員会2018年6月決定)】 CASE AT.39740 Google Search (Shopping)ANTITRUST PROCEDURE 27/06/2017 http://ec.europa.eu/competition/antitrust/cases/dec_docs/39740/39740_14996_3.pdf

【Google Android OS事案】(欧州委員会2018年7月決定)(*10)

(*10) 【Google Android OS事案(欧州委員会2018年7月決定)】 Case AT.40099 – Google Android Commission Decision of 18 July 2018。決定本文については、2019年1月13日現在、欧州委員会競争総局とGoogleなど関係者が営業秘密を含まない一般公開版を作成中であり、入手できない(http://ec.europa.eu/competition/elojade/isef/case_details.cfm?proc_code=1_40099)。従って、本書に記した概要は、以下の欧州委員会によるプレスリリースに拠った。【欧州委員会ニュースリリース】 "European Commission fines Google €4.34 billion for illegal practices regarding Android OS mobile devices to strengthen dominance of Google's search engine" 18 July 2018 http://europa.eu/rapid/press-release_IP-18-4581_en.htm

欧州委員会は、2017年7月18日、Googleが、2011年以来、汎用ネット検索["general internet search" 例えば、ホテル、商品価格など特定分野に特化した検索サービスに対する用語と思われる]での支配的地位を更に強固なものとするため、Android OSデバイス(スマートフォンとタブレット)のメーカー(以下「デバイスメーカー」という)とモバイルネットワーク事業者に違法な制限を課しEUの競争法に違反したと認定し、Googleに約44億4000万ユーロ(約5,600億円)の制裁金を課す決定を行った。なお、本決定は、Google LLC(米国カリフォルニア州)と同社の親会社であるAlphabet Inc.(同)に宛てられている。

(1). 市場支配的地位(dominance)の認定

Googleは、以下各市場について、EEA加盟国の大部分で90%を超える市場占有率を有し、それぞれの市場において支配的(dominant)地位を占める。

(a) 汎用ネット検索サービス市場

(b) 第三者がライセンスを受けることができる(licensable)スマートモバイルOSの市場

(c) Android OS用アプリストア市場

(2). スマートモバイルOS市場における支配的地位の認定

Googleは同市場で支配的地位を占め、[間接]ネットワーク効果(特定OSのユーザ数が増加すればする程、当該OS用アプリの開発企業が増加し、その結果更にユーザが増加する)もあり、同市場における参入障壁は高い。また、第三者が競合OSを開発するには多大のリソースを要する。

Android OSは、第三者がライセンスを受けることができるOSであるから、そうではないApple iOS [アップルが開発・提供する自社デバイス(iPhone、iPadなど)専用オペレーティングシステム] などとは市場が異なる。それにもかかわらず、当欧州委員会は、エンドユーザ向け市場における競争(特にAppleデバイスとAndroid OSデバイスの間の競争)が、Android OSのデバイスメーカー向け市場におけるGoogleの市場支配力を制限する効果を有するか否かを検討した。当欧州委員会は、以下のような理由により、そのような支配力制限効果はないと認定した。

(a) 消費者の購買決定は、OS以外の要因(ハードウェアの機能やブランドなど)によって影響を受けること。

(b) Appleデバイスは、通常、Android OSデバイスよりも高価格帯であるため、Android OSデバイスユーザの多くはAppleデバイスを購入できないこと。

(c) Android OSデバイスのユーザが、Appleデバイスに乗換える場合、それまで利用していたアプリ、データ、連絡先などを失い、また、新たにAndroid OS の操作方法を習得する必要があること。

(d) 仮にユーザがAndroid OSデバイスからAppleデバイスに乗換えたとしても、Googleの中核事業への影響は限定的である。何故なら、Google検索がAppleデバイスの標準検索エンジンとして設定されているため、Appleユーザとなっても引き続きGoogle検索を使用する可能性が高いからである。

(3). Android OS向けアプリストア市場における支配的地位の認定

Googleは、Android OS向けアプリストアの世界市場(中国を除く)で支配的地位を占める。Android OS デバイスでダウンロードされたアプリの90%以上が「Google Playストア」からダウンロードされた。従って、この市場にも高い参入障壁がある。このGoogleの支配的地位は、Appleの「App Store」がiOSデバイス専用であることから、Appleの「App ストア」からの影響を受けない。

(4). 支配的地位の濫用(abuse)行為の認定

Googleは、汎用ネット検索市場で自己の支配的地位を更に強固なものとする目的で、以下の(a)~(c)の三タイプの行為を行い、EU競争法に違反した。

(a) 違法抱合わせ(Illegal tying)

Googleは、Android OSデバイスメーカーに対し、Android OS に以下をプリインストール(デバイス出荷時からの搭載)を行うことを要求した。

(i) Google Playストア(スマホアプリダウンロード用アプリ)

(ii) Google検索

(iii) Google Chrome(ブラウザアプリ)

デバイスメーカーは、Googleとのライセンス契約上、他の競合アプリをプリインストールすることはできない。ユーザは、プリインストールされているアプリに固定化されがちであるから、プリインストールには現状固定化効果がある。例えば、Google検索アプリがプリインストールされているAndroid OSデバイスにおいては、ユーザがGoogle検索アプリをダウンロードする必要があるMicrosoft Windowsモバイル・デバイスにおけるよりも多く、Google検索アプリが利用されている(前者では検索全体の95%以上、後者では25%未満)。このことは、プリインストールによってGoogleが得られる経済的利益を相殺する程多くのユーザが競合検索アプリをダウンロードすることはないことを示している。

Googleの行為は、競合検索アプリや競合ブラウザアプリを、ユーザがダウンロードすること、および、これらをデバイスメーカーがプリインストールすることに対するインセンティブを減じさせる。その結果、競合他社のGoogleに対する競争力を低下させた。

無償ライセンスされるAndroid OSへの多大な投資を回収するため、上記の抱合せが必要であるというGoogleの主張には十分な裏付けがない。Googleは、Google Playや検索広告から多大の収益を得ており、また、Android OSデバイスからGoogleの検索および広告事業にとり価値あるデータを大量に収集している。

(b) Google検索のみプリインストールすることを条件とした補償金支払い

Googleは、Android OSデバイスに検索アプリとしてはGoogle検索のみをプリインストールする条件で、大手デバイスメーカーやモバイルネットワーク事業者に多額の経済的インセンティブ(以下「補償金」という)を支払っている。

これは、デバイスメーカーが競合検索アプリをプリインストールするインセンティブを大幅に減じるものであり、競争を阻害する。競合検索エンジンは、デバイスメーカーにGoogleからの補償金を補填できる程の支払いをし、なおかつ利益を上げることはできなかったと推測される。デバイスメーカーにAndroid OS用デバイスを生産してもらうため、補償金が必要であるというGoogleの主張は認められない。

(c) 改造版Android OS(「Android フォーク」)開発・提供に対する妨害

Googleは、デバイスメーカーに対し改造版Android OS(欧州委員会はこれを「Android フォーク(fork)」と呼んでいる)の搭載を禁止し、Android フォーク搭載デバイスを開発・販売させなくした。これにより、Googleは、Android フォークに競合アプリ・サービス(特に汎用ネット検索サービス)がプリインストールされる重要なチャネルも閉ざした。

Android OS技術体系(ecosystem)の「断片化(fragmentation)」による技術上の問題を防止するためこれら制限が必要であるとのGoogleの主張は根拠がない。

(5). 濫用による競争阻害の認定

Googleの行為は、以下の点で市場競争を阻害する。

(a) 競合検索エンジンとの能率競争(competition on the merits)[価格・品質・サービスを中心とした公正な手段による自由な競争]の可能性を減少させたこと。

(b) Android フォークの開発を妨げ、競合検索エンジン普及のためのプラットフォーム(基盤)となる可能性があったAndroid フォークの開発を阻害したこと。

(c) 競合検索エンジンが、検索結果や位置データなど、スマホなどからのデータを収集することを妨げたこと。

(d) 競合モバイルブラウザがGoogle Chromeとの間で有効に競争することを妨げたこと。

(6). 競争法違反に対する制裁

(a) 44億4000万ユーロ(約5,600億円)の制裁金は、違反の期間および重大性を考慮し、欧州委員会の制裁金ガイドライン(2006年改訂)に従い、EEA(欧州経済領域)におけるAndroid OSデバイス上の検索広告サービスによるGoogleの収入額に基づき計算された。

(b) Googleは、本決定後90日以内に認定された違法行為を止めなけれならない。また、同行為と同一または同等の目的または効果を有する行為は禁止される。

(c) Googleは本決定の遵守状況を欧州委員会に報告しなければならない。

(d) Googleが本決定に違反したことが認定された場合、1日当たり、Googleの親会社であるAlphabetの全世界平均売上高の最大5%の履行強制金が課せられる。この場合、履行強制金は違反開始時から計算する。

(e) Googleは、また、その競争阻害行為により被害を受けた個人または事業者から民事訴訟を加盟国の裁判所に提起される可能性がある。この点、新EU 反独占損害賠償指令(Antitrust Damages Directive)は、競争阻害行為の被害者が損害賠償を受けることを容易にしている。

【決定取消訴訟】

この欧州委員会の決定に対し、Googleは、2018年10月9日、EUの一般裁判所(General Court)に当該決定の取消しを求め提訴した。なお、EU一般裁判所で行われた審理内容のうち法律問題については司法裁判所 (Court of Justice)に上訴できる(TFEU265条)。

V. プラットフォーマーに対する米国独占禁止法訴訟


(a) Amex事件連邦最高裁判決(2018年6月25日) (*11)

(*11) 【Amex事件連邦最高裁判決(2018年6月25日)】 Ohio et al. v. American Express Co. et al., 838 F. 3d 179, affirmed. certiorari to the united states court of appeals for the second circuit, No. 16–1454. Argued February 26, 2018—Decided June 25, 2018, https://www.law.cornell.edu/supremecourt/text/16-1454

連邦最高裁が、米国独占禁止法に関し、初めてプラットフォームおよびネットワーク効果に言及した判決であり、他のプラットフォームへの適用可能性を含め注目されている判決である。

本判決は、当初、米国司法省と17州(原告:上告時には11州)がアメリカン・エキスプレス社(以下「Amex」という)(被告)に対し、同社と加盟店間の契約のAnti-steering provision(以下「他社カード誘導禁止条項」という)が、シャーマン法第1条(取引制限)に違反するとして提訴した事件に関するものである。

連邦最高裁は以下のように述べて、シャーマン法違反を否定した控訴審判決を支持しオハイオ州などによる上告を棄却した(Amex勝訴)。

(a) クレジットカードは、カード会社と加盟店間の取引およびカード会社とカード会員間の取引が常に同時に行われる「取引型プラットフォーム」と呼ばれる特別なタイプの二面プラットフォームであり、二つの利用者グループ(加盟店層と会員層)の一方にとってのプラットフォームの価値が、他方のグループの利用者数により決まるという「間接的ネットワーク効果」を有する。また、両面における取引間に相互に関連した価格・料金設定と需要(interconnected pricing and demand)関係がある。従って、クレジットカード・プラットフォームにおいては、この両面の取引市場を一つの「関連市場」として検討しなければならない。

(b) Amexの他社カード誘導禁止条項は加盟店手数料を高く維持するという原告の主張は、この二面の内一方(カード会社と加盟店間の取引)だけを「関連市場」とする前提に立つものである。従って、原告は、適切な「関連市場」を画定した上でその市場における競争阻害効果を立証したことにならない。

(c) Amexのビジネスモデルは、競合するVisa やMasterCardとは異なり、カード会員に有利な特典を提供することにより会員が加盟店から高額な買い物をするように仕向け、そのことによってAmexのカードが加盟店にとっても価値あるものにするというモデルであり、Amexはその費用を他社より高額な加盟店手数料から補填している。Amexの他社カード誘導禁止条項はむしろVisa やMasterCardなどとのブランド間競争を促進する。

ライドシェア(例:Uber)、宿泊仲介(例:Airbnb)、インターネットオークション(例:eBay)などもこの「取引型プラットフォーム」に該当すると思われ、関連市場の画定に関してはこれらにも適用可能と思われる。

(b) Apple Inc. v. Pepper 事件(連邦最高裁判所に係属中)

本訴訟は、AppleのiPhone上の「App Store」から購入(正確にはライセンス取得。以下同様)することができiOS上で作動するiPhoneアプリ(以下単に「アプリ」という)を購入した消費者(以下単に「消費者」という)を原告とし、Appleを被告とするクレイトン法第4条に基づくクラスアクション(集団訴訟)である。原告の主張は以下の通りである。

(a) Appleは、アプリ供給者に対しアプリをAppleの「App Store」以外で流通させることを禁止することにより、アプリ流通市場における独占的地位を濫用した。

(b) その結果、原告である消費者(アプリ購入者)は、本来、より低価格で購入できた筈のアプリを高価格で購入させられ損害を蒙った。

クレイトン法第4条は、消費者を含め、ある事業者の独占禁止法違反行為により損害を蒙った者は、当該事業者に対して訴訟を提起して実損の三倍額(および合理的な範囲で弁護士費用)の賠償を受けることができる旨規定している。しかしながら、1977年のIllinois Brick事件連邦最高裁判決(*12)において、この訴訟を提起できる者は当該事業者から直接商品などを購入した者に限られるとされた。そこで、Apple(iPhoneアプリのプラットフォーマー)がアプリ供給者と消費者の間のアプリ売買のアプリ供給者側の代理人なのか、それとも、消費者に対する直接の販売者なのかということが重要な争点の一つとなっている。仮に、Appleは消費者への直接の販売者であり、かつ、Appleの行為は独占禁止法違反であると認定された場合(またはIllinois Brick事件連邦最高裁判決が破棄された場合)、消費者は、Appleに対し当該違反行為により蒙った損害の三倍の金額を賠償請求できることになる。

従って、仮に連邦最高裁がこのような認定を行えば、Google(「Googleプレイストア」)、eBay(インターネットオークション)などもこのような消費者による三倍賠償を求めるクラスアクションのリスクに晒される可能性がある。

(*12) 【Illinois Brick事件連邦最高裁判決】 United States Supreme Court, ILLINOIS BRICK CO. v. ILLINOIS,(1977) Decided: June 9, 1977 https://caselaw.findlaw.com/us-supreme-court/431/720.html

VI. 米国独占禁止法と経済理論

米国における競争政策と審査は、以下のように、各時代で有力な経済理論の大きな影響を受けてきたと言われる(*13)。

(*13) 【米国独占禁止法(反トラスト法)と経済理論】 植村幸也「米国反トラスト法実務講座」(公正取引協会, 2017.11)(p11-20, 269-272) などを参考とした。

【ハーバード学派】

1960年代から1970年代前半まではハーバード大学を中心とするハーバード学派の影響のもとで独占禁止法(反トラスト法)が積極的に執行された。ハーバード学派は、市場の構造(structure)(競争者数など) が企業の行動(conduct)(価格決定など)を決定し、そのように決定された行動によって市場の成果(performance)が決まるという。競争者数が多ければ多いほど企業は競争的に行動し市場の成果は向上すると考え、大企業や集中度の高い市場に対し否定的である。主に、(i)市場占有率が高いほど市場支配力が高まる、(ii) 規模の経済達成のためには企業がそれ程大規模になる必要はない(従って、大企業ほど効率的という主張に否定的)、(iii)独占企業は容易に参入障壁を構築できる、(iv)集中度がそれ程高くなくても市場は反競争的に機能する、などと主張する。

従って、(i)カルテル・反競争的行為の厳格な規制、(ii)市場集中と合併の厳格制限、(iii)構造的措置・企業分割などの厳格な独占禁止政策をとる。

【シカゴ学派】

1970年代後半以降はシカゴ学派が影響力を持ち、現在は、シカゴ学派といくつかの相異点もあるポストシカゴ学派の時代であると言われるものの、過去数十年間は、米国における競争政策と審査は、基本的に、シカゴ学派の理論(以下「シカゴ学派理論」という)に基づいて行われてきたと言われる。シカゴ学派理論は、シカゴ大学を中心に発展した理論で、自由競争に全幅の信頼を置き、政府介入は市場効率性を損なうので、原則として自由放任が望ましいとして、独占禁止法の運用において謙抑的である。シカゴ学派は、経済効率性(economic efficiency)、価格および消費者厚生(consumer welfare)に重点を置く。シカゴ学派理論の主張内容は、一般に以下のように言われている。

(a) 事業者の市場支配的地位(dominance)の判断基準は消費者向け価格である。消費者向け価格が安いということだけでも有効な競争が行われている証拠となる。

(b) 事業者の市場支配力(market power)は容易に変化する。規模の経済(scale merit)などによる優位性は新規参入の障壁とはならない。従って、競争当局による市場介入が必要な場合は少ない(但し、価格カルテルなどは別)。

(c) 市場における既存企業が一定期間コスト割れ価格を設定することにより競合企業を市場から排除し、その後に値上げをして当初損失を取り戻す(recoup)「略奪的廉売」(predatory pricing)は経済的に不合理である。略奪的廉売をして競争者を市場から排除してもその後に値上げすれば再度競争者の参入を招くことになるので、(政府規制による参入障壁がある場合を除き、)実際には廉売による損失を取り戻すことができないからである。従って、実際に略奪的廉売が行われることは稀な筈である。略奪的廉売は違法であるが、これを証明するには、当該企業が後に損失を取り戻す合理的な可能性があることの証拠を提出しなければならない。この「取り戻し」の要件は競争的な値引きを不必要に委縮させないことに役立つ。

(d) メーカーと販売会社など、流通段階の異なる企業間の垂直的結合は、一般に流通コスト削減などにより、同業者間の水平的結合とは異なり、競争を促進しまたは競争上の弊害は少ない。

(e) 市場支配力は、新規参入により制限され得る。

(f) 略奪的廉売や垂直的(例:メーカーと販売会社間)合併・統合が「消費者厚生」に悪影響を与えることは殆どない。

VII.プラットフォーマーの市場支配と理論見直しの動き

しかしながら、前述の通り、近年、GAFAなどのプラットフォーマーが社会経済的に大きな影響を与えるようになるにつれ、GAFAなどが行う価格政策や企業買収との関係でシカゴ学派理論は依然として有効か疑問が持たれるようになった。

例えば、Amazonは「最近まで]長期間にわたり赤字経営で、その低価格に多くの企業が対抗することができず、そのことにより、益々Amazonの市場での地位は強化されている。GoogleやFacebookの主要なサービスは無償で提供されている。GoogleはYouTubeを、FacebookはInstagramをスタートアップ企業の段階で買収し更に市場での地位を強化している。

このような中、Yale Law Journalの2017年1月号にYale Law Schoolの学生Lina M. Khan氏の論文「Amazon’s Antitrust Paradox」(以下「本論文」ともいう)が発表された。同論文は、Amazonを事例とした分析であり、シカゴ学派理論を批判し、Amazonはシカゴ学派理論では称賛される低価格を実現してきたが、それでも独占禁止法上の執行対象とされるべきだと主張する。本論文は、その発表以来、大きな注目を集め (*14) 、今日に至るまで、その市場や企業・事業の構造自体を問題とするアプローチが支持を広げ、また、同様の方向の主張が増えてきたように思われる。Kahn氏のアプローチはEUの厳格なアプローチに類似すると評され、ハーバード学派の復興のようにも見える。

(*14) 【Amazon’s Antitrust Paradox への反響】 David Streitfeld "Amazon’s Antitrust Antagonist Has a Breakthrough Idea" Sept. 7, 2018, The New York Times https://www.nytimes.com/2018/09/07/technology/monopoly-antitrust-lina-khan-amazon.htm、西條都夫 「アマゾンを追い詰めた学術論文」 日本経済新聞 電子版2018/3/21 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28350790Q8A320C1X12000/

現段階では、本論文またはこれと同様の方向の主張が今後現実の競争政策および判決に如何なる影響を及ぼすかについて正確に予測することは困難であるが、今後、プラットフォーマーに対するより厳格な審査・判断につながる可能性は少なくないと思われる。なお、Khan氏は2018年7月、司法省とともに米国独占禁止法の執行を担う連邦取引委員会 (Federal Trade Commission:FTC) の委員Rohit Chopra氏のアドバイザーに就任した。

以下においては、本論文の要旨を紹介する。

【本論文(「Amazon’s Antitrust Paradox」)の要旨】

アマゾンは驚異的な成長を遂げているが、あえてコストを下回る価格を設定し、その代わり市場での拡大を図る。この戦略により、Amazonは電子商取引において中心的位置を占め、そのプラットフォームは、それに依存する他の事業者にとって不可欠なインフラとなっている。このようなAmazonの企業構造と行動は、競争阻害(反競争:anticompetitive)のおそれを生じさせるが、現在(論文執筆当時)のところ、米国の競争当局による厳格な調査対象とはされていない。

現在の支配的競争法理論では競争阻害のおそれがある市場支配力の集中が見過ごされている。更に、最近の調査によれば、同理論による予測とは異なり、合併は、価格上昇をもたらす一方、効率性を向上させてはいない。現在の競争政策は、市場構造(market structure)に対する考慮を欠き、低価格だが寡占(highly-concentrated)の市場において、製品の品質および多様性に関する消費者の利益を無視する結果となっている。

このような現在の支配的競争法理論によっては、Amazonの略奪的廉売(predatory pricing)や、事業分野を横断する企業結合による競争阻害性を十分認識・分析することはできない。同理論では市場構造は重視されず、市場独占の問題が十分検討されていない。

Amazonなどのプラットフォーマーで生じている状況は、次のようなオンラインプラットフォームの特性に起因する。

(a) 略奪的廉売は、現在の支配的競争法理論のもとでは不合理で稀にしかないものとされる。しかし、オンラインプラットフォームでは、ネットワーク効果とデータの支配により、早期に市場支配を強固にすることができる。従って、プラットフォーマーが少なくとも初期段階において利益を犠牲にして成長を追求することは合理的なものであり得る。実際、Amazonにおいては、赤字にもかかわらず、投資家[株式市場]が資金を供給することによりこのことが実現されてきた。

(b) 第三者同士の取引の仲介機能を有するプラットフォームは、事業分野を横断する企業結合により、競合他社にとっても不可欠なインフラとなり得る。このことは、プラットフォーマーが、プラットフォーム利用企業[プラットフォーマーの競合企業である場合がある]に関する情報を利用し、当該企業のプラットフォーマーとの競争力を減殺させることを可能とする。

(c) オンラインプラットフォームに関しては、データの重要性などを考慮すると、市場力学を把握するために価格を基準とすることは不適切である。

このようなAmazonによる市場支配力(dominance)に対する可能な措置としては以下のようなものが考えられる。

(a) 独占禁止法本来の原則(構造的アプローチ)に復帰すること

シャーマン法などの立法経緯を見れば、米国独占禁止法の目的は、自由な市場競争の保護、市場独占的地位の濫用からの生産者および消費者の保護、政治的・経済的権力の分散などを含む多様な目的を図ることであったことは明らかである。独占禁止法は本来消費者厚生のみならず市場経済力の集中(concentration of economic power)自体を問題視していた。

[シャーマン反トラスト法(1890 年制定)は、スタンダード・オイルなど、多くの業界で、企業が関係企業から株式の信託(トラスト: Trust)を受ける形態などで巨大企業集団を形成し、価格をつりあげ巨大な独占利潤を上げていると大衆の反感をかっていたことを背景に制定された。1911 年、スタンダード・オイルに分割命令が下された(分割会社は現在のエクソンモービル、シェブロンなど)。]

このように、競争政策は、[低価格を重視した]消費者厚生のみならずむしろ市場競争の確保・促進に重点が置かれるべきである。市場構造(market structure)[市場競争および価格設定に影響を与える市場の構造]により市場競争のプロセス(competitive process)が定まり、適切な競争プロセスの確保により有効な市場競争がなされるから、競争政策の重点は市場構造と市場競争のプロセスの是正に置かれるべきである。より具体的には、以下のような措置が考えられる。

a) 略奪的な価格設定に関する措置

現在、裁判所は、独占禁止法違反訴訟の原告に対し、被告が後に値上げによりコスト割れによる損失を取り戻す証拠の提出義務を課しているが、これを廃止すべきである。むしろ、市場支配的プラットフォーマーのコスト割れ価格に「価格の略奪性」を推定し、被告に事業上の正当性があることの抗弁(business justification defense)について立証責任を負わせるべきである。

b) 垂直統合の利益相反の厳格審査

競合企業も利用するプラットフォーム(例:Amazonの「Amazon Marketplace」および「Fulfillment by Amazon」(FBA))の場合、プラットフォーマーが自社を有利に扱いまたは競合企業を差別する、当該企業との利益相反(conflict of interest)の可能性を生じさせる反競争的状況が生じ得る。また、同じプラットフォーマーが、そのプラットフォームで得た競合企業の商品などのデータを利用し自社製品を開発することも可能である。

[Amazonは、そのサイト上で自社による商品販売の他、Amazon Marketplaceという制度により、第三者(出品企業)による販売ができるようにしている。また、Amazonは、出品企業に、Fulfillment by Amazon(FBA)というサービスにより、Amazonの物流拠点での商品の保管から注文処理・出荷・配送・返品に関する顧客向けサービスまでを代行する有料サービスを提供している。]

従って、垂直的企業結合(vertical integration)であっても、結合後の企業が競合企業に関し価値あるデータを入手し自社の他の事業との間で相互利用できる可能性を生じさせる場合、これを厳格に審査し、利益相反的反競争状況を生じさせるおそれがあるときは予防的に企業結合を禁止すること(prophylactic approach)も検討すべきである。

(b) 公共企業規制または不可欠施設理論の適用

Amazonは、インターネット取引全般の不可欠なインフラ(essential infrastructure)としての機能を果たしているから、電気・ガス・水道・鉄道・電話などの独占的公益企業に対する規制(public utility regulations)や不可欠施設の理論(essential facilities doctrine)の適用を検討すべきである。

[「不可欠施設」とは、ある事業活動を行うために必要不可欠な施設・設備などであって他者がそれを保有することが経済上・技術上不可能または著しく困難なものを意味する。例えば、通信産業の回線網、送電設備、特定サービスに不可欠な知的財産権などである。不可欠施設の保有事業者が、他の事業者に対し、当該施設などの利用を正当な事由なく拒否しまたは不利な条件で提供することなどは競争法上問題となる。]

特に、Amazonが自社商品を特別優遇することや他の事業者を差別することの禁止(nondiscrimination policy/principles/scheme)と、他の事業者に対し、プラットフォームのオープンかつ公正なアクセス(open and fair access)を保障させることにより、Amazonが市場支配力を競争制限的に利用することを制限することができる。