研究テーマ

研究の全体像

組込みシステム向けのスケジューリング理論やOSなどの設計,実装,検証に関する要素技術を基に,組込みシステムの安全性やセキュリティを維持・向上するためのシステム分析,パーティショニング技術,テスト技術など幅広く研究しています。企業との共同研究や産学官連携プロジェクトなども積極的に参加しており,これまで自動車,鉄道,航空機などさまざまな分野の企業,団体と連携してきました。

これまでの組込みシステムは,構成が単純で,ソフトウェアの規模も小さいケースが多いので設計者が中身を把握しやすく,性能だけでなく,安全やセキュリティなどの総合信頼性を確保しやすい状況でした。最近では,ハードウェアとソフトウェアがともに大規模化・複雑化するだけでなく,ネットワークを介して,複数の機器やサービスが連携するようになりました。

研究では,中身が良く分かっているものを積み上げて性能や品質を保証する方法(組込みシステム単体の視点)から,未知で変化するシステムや人が連携する大規模システムを分析・理解し,継続的に,できる限り良い状態を維持しながら状態を説明できるようにするベストエフォートの方法(システムオブシステムズの視点)まで,幅広いテーマを扱っています。

研究テーマに関する相談,研究グループへの参加・連携をいつでも歓迎します。

高性能組込みリアルタイムシステムにおけるリアルタイム性確保技術

近年の自動車や航空機では,高性能なSoC(System-on-Chip)とOSを搭載する制御コンピュータが用いられるようになり,信頼性や優先度の異なるアプリケーションを統合して同時に動作させるコンピューティング環境が増えています。これをミクスドクリティカリティシステム(MCS: Mixed-Criticality System)と呼びます。

複数のアプリケーションを統合する際に,リアルタイム性や安全性を確保する必要があります。しかし,複数アプリケーションが使用する共有資源(例えば,CPU,メインメモリ,GPU,ストレージ(eMMC,UFS,SSD),ネットワーク帯域など)を介して,故障伝搬やセキュリティ攻撃などが発生する可能性があります。加えて,プロセスから共有資源へのアクセス処理が邪魔され,デッドラインまでに処理が完了できることを保証できる性質であるリアルタイム性も阻害され,システムに深刻な危害が発生する可能性もあります。

本研究では,リアルタイム性が重要なアプリケーションによる,共有リソースへのアクセスを測定,分析,リアルタイム性を評価し,リアルタイム性の阻害要因を明らかにする研究を行っています。さらに,リアルタイム性を向上させるための手法(ソフトウェアによる分離機構の開発,OSやドライバの改良,ハードウェア機構の設計など)を幅広く研究しています。

IoT機器のライフサイクル管理を支援するIoTxWeb3フレームワーク

ネットワークに繋がる組込み機器(IoT機器)が増加しています。IoT機器は,スマートウォッチ,スマートロック,ロボット掃除機など比較的安価で,一般家庭で大人から子供が使用するものから,自動車や航空機,工場内の加工機など比較的高価で,ライセンスや専門知識をもった技術者が使用するものまで幅広く存在します。

IoT機器の設計から製造,運用,廃棄までのライフサイクルを考えると,後者のIoT機器は専門知識を持った技術者によって管理することによって,安全,セキュリティ,障害対応などの総合信頼性を確保するとともに,それらの管理そのものがビジネスとしても成立しやすい状況です。前者のIoT機器は,一般の利用者がマニュアルを読んで使用し,IoT機器に脆弱性が見つかった場合には,(スマートフォンを経由して)ソフトウェアを更新する作業を実施することで,安全やセキュリティを確保する必要があります。

一方,IoT機器の保有者である利用者が知らない(ないしは,非常に長い契約条項に含まれる形で,意識することなく同意する)うちに,IoT機器の動作ログやセンサーデータなどのさまざまなデータは,インターネットなどを経由して機器メーカに送られ,機器の状況把握やAIの学習などの用途で利用されています。利用者が活用しようとしても,機器の詳細は公開されていないので,機器がもつ機能やデータを利用者自身が活用することができません。

本研究では,IoT機器と,ブロックチェーン技術やスマートコントラクトをはじめとするWeb3技術を組み合わせたフレームワークを構築し,IoT機器のライフサイクル管理やデータ流通を容易に実現します。利用者が所有するIoT機器を,機器メーカや第3者に解放し,操作やデータ利用に関する承諾を,すべてブロックチェーン上のスマートコントラクトで自動的に契約に結びます。すべての契約を記録することで検証可能性を確保します。将来的には,このIoTxWeb3フレームワークをオープンソースとして公開する予定です。

システムオブシステムズの分析と総合信頼性確保技術

複数の独立したシステムが連携してサービスを提供する構造をシステムオブシステムズ(SoS: System of Systems)と呼びます。例えば,道路交通システムやスマートハウス,MaaS(Mobility-as-a-Service)などがそれに当たります。

SoSでは,システムの構成や機能,システム間の接続,そしてサービスの品質が常に変わるため,設計段階であらゆる事象を想定し,分析し,安全やセキュリティを確保するための仕組みや機能を作り込んでおくことが困難です。

本研究では,SoSをモデル化し,分析し,安全性やセキュリティ,レジリエンス(回復力)などの総合信頼性を確保するための理論や技術を開発しています。設計段階だけでなく,システムを運用しながら繰り返し分析し,総合信頼性を確認します。利用者,設計者,保守担当者,政策担当者など,複数の利害関係者が合意するための合意形成手法や,総合信頼性がどのように確保されるかを説明する論証技術にも取り組んでいます。

その他の研究トピック・携わっているソフトウェア