ぼくのBGM
ザブーン、ザブーン。
昔から変わることのない音が、私の故郷にはある。
角力灘に向かって広がる白砂の浜辺。
故郷〝雪浦〟の名前の由来はここからきているらしい。
ある日、船で渡ってきた先人はこの雪のように白い砂浜(=浦)に上陸し、この地で生きていくことを決めた。
向かいには池島が浮かんでいる。そこでは炭鉱が栄えていた時代があって、その時代は雪浦にとっても最盛期であったが、現在では人口一万人ほどの小さな町となり、そこで暮らす人口の減少は歯止めをかける方法もなく進行していっている。町の伝統文化の継承も困難になってしまっている。唯一の救いはここに少なくはなれど子供の声が響いていること。子供の遊びまわる声が聞こえなくなった時、それはその町にとっての終焉となるだろう。私は今も雪浦小学校が残っていることに感謝している。
雪浦の子供たちは少人数教育の中であるがゆえに、一人ひとりが生まれながらに持っている個性を開花させている。たとえば、私が小学生だった頃。卒業時の同級生は10人であったが、その個性はまさに十人十色であった。木登りが得意な仲間、細やかな作品をつくるのが得意な仲間、魚釣りや虫捕りが得意な仲間などなど。その個性がお互いに面白かった。そうした仲間たちも今では大人になり、お互いに活躍する場を求めて故郷を離れているが、きっと彼らはこの故郷を思って頑張っているのだと私は信じている。私自身もそうであるからだ。
昔から変わることのない音が、私の故郷にはある。
角力灘に向かって広がる白砂の浜辺。
あくる日はデートスポット、あくる日は遊び場、あくる日は一人瞑想に耽る場所として、今でも多くの人から愛されている大切な場所。
うしろの浜のさざなみは、寄せては返し絶えず浜辺をさすっている。その振動はやがて地中に眠る草木の鼓動となり、私たち動物の吐息となる。
うしろの浜のさざなみは、少し離れて居ても、絶え間なくその者の中で響き続ける。
ザブーン、ザブーン。
ザブーン、ザブーン。
今は整備され雪ノ浦海浜公園と名付けられているこの砂浜だが、地元の人々はここをずっと〝うしろの浜〟としか呼ばない。きっと、先人がこの地で生きていくことを決めた時、最初に降り立ったこの場所をバックボーンとして位置づけたからなのだろう。
その音は故郷を離れて頑張る者へのエールの音。
私の生きるBGM。
2015年4月26日 監督 坂本 力