1.トキの野生復帰事業
1981年に野生絶滅したトキを飼育下で増やし、佐渡島に定着させる「再導入」の取組を科学的見地から評価し、事業を順応的に管理することに努めています。
トキの繁殖成功要因の特定、生息選択性、遺伝的多様性と飼育収容力を考慮した飼育個体群管理手法の開発、飼育履歴と放鳥ごとの行動特性の関係性、ベイズ存続可能性分析、観光客がトキに及ぼす影響評価など多岐にわたる課題を解決してきました。
こうした科学的分析と多様な主体との連携によって順応的管理を進めた結果、トキの個体数を増加に導き、2019年1月にレッドリストにおいて野生絶滅からのランクダウンを実現しています。
2.アカモズの保護増殖事業
アカモズはスズメ目モズ科の鳥類であり、東アジアに広く分布します。そのうち亜種アカモズは東南アジアで越冬し、日本のみで繁殖します。かつては日本各地に広く生息していましたが、その繁殖分布は過去100年間で90.9%縮小したと推定されており(Kitazawa et al. 2022)、2022年時点において本州と北海道の一部地域で200羽程度の繁殖が確認されているのみです。
絶滅の危機に瀕しているアカモズを救うために、繁殖地における捕食者対策や普及啓発活動等によってアカモズの生存率と繁殖成功の向上を図るとともに、環境省による許可のもと、緊急避難的措置としての生息域外保全を行っています。野生下で部分捕食などによって放棄された卵を採卵し、豊橋総合動植物公園へ移送し、孵卵器で卵を温め、人工育雛するほか、傷病・衰弱個体の救助を行い、11羽を育てることに成功しました。現在は安定的な飼育個体群の確立と将来的な放鳥に向けた取組みを進めています。
〇【環境科学部】国内希少野生動植物種アカモズの人工育雛に成功しました https://www.uhe.ac.jp/info/ntf/230828001786.html
〇国内希少種アカモズの保全活動の経過について ~2年連続、世界2例目の人工育雛成功~
https://www.uhe.ac.jp/info/ntf/240810001933.html
3. ニューカレドニアにおける鳥類の保全と行動
ニューカレドニアの固有鳥類の保全生態学的研究と行動生態学的研究を実施しています。
特に絶滅の危惧に瀕しているカグーやオオミツスイについてはGIS分析を用いてその個体数・分布・環境選択性を推定し、重要な生息地を可視化することで保護の取組を促進しています。さらに現地における生態調査に基づいて具体の危機である外来哺乳類の影響、ニューカレドニアの超苦鉄質土壌が鳥類に及ぼす影響を評価しています。
4.キビタキ の生態研究
キ ビタキはフィリピン,ボルネオ,ハイナン,中国などの熱帯地域で越冬し,サハリンから南西諸島で繁殖する渡り鳥です。日本では亜種キビタキ F.n.narcissina が全国の森林に夏鳥として渡来し,リュウキュウキビタキF.n.owstoni が南西諸島に生息します。基礎生態の追跡から,形態形質や種間関係,社会性まで幅広く情報を収集し 網羅的な生態解析を行うことを目的としています。その他に、バードリサーチと共同でキビタキの音声、全国的な渡来の傾向などについて研究を行っています。
グループメンバー
森本元 (山階鳥類研究所)・高木憲太郎(バードリサーチ)・大久保香苗(日本野鳥の会)・佐々木礼佳(立教大・理)
協力者
小西広視,小島みずき,渡辺千夏,東郷なりさ,杉田あき,石江彬 ,小峰浩隆,高階あゆみ,谷 智子,齋藤仁志,脇坂綾,神庭友人, 服部裕史,井口楓 ,近藤明日香,福島佳子,村越悠太,篠崎瑞季,牛根菜々,林奈津美,土井寛大
〇当研究室で行っている卒業研究
・オオジシギとチュウジシギの渡り中継地における環境選択性
・鳥類の窓ガラス衝突防止に効果的なマーキングの検討
・アカモズの巣の保護に対して有効な捕食者対策の開発とその検証
・愛知県岡崎市の人工林広葉樹化プロセスにおける繁殖鳥類の変動
・Maximum Entropy Modelによるハヤブサの繁殖分布推定
・捕食者ガードによるアカモズの繁殖成績の向上
・小型GPSを用いたタマシギの環境選択の評価
・センサーカメラを用いたアカモズ繁殖地における捕食者の地域別密度分布評価
・ファウンダー導入時におけるアカモズ卵の移送手法の開発
・絶滅危惧鳥アカモズの巣材と巣構造
・飼育アカモズの行動に対する動物園来園者の影響
・アカモズの野生個体群補強へ:生餌給餌訓練による採餌能力向上の試み
・抱卵放棄卵を用いたヘッドスタートに向けたアカモズの飼育プロトコルの確立
・果樹栽培形態がアカモズの餌量に及ぼす影響
・アカモズの繁殖地におけるネコの分布と普及啓発活動によるネコの密度変化
・Maxentモデル用いた長野県におけるアカモズの繁殖分布推定
・小型GPSを用いたタマシギの空間利用の解析と繁殖行動の解明
・宍道湖における越冬カモ類の個体数変動とその要因
・野生下アカモズの繁殖失敗要因の解明と対策立案
・飼育アカモズと野生アカモズの繁殖行動の違いとその要因
・動物園来園者と繁殖地域住民のアカモズに対する意識の比較
・VHF発信器を用いたモズ・アカモズの放鳥後生存モニタリング技術の確立