research

<河谷研へ配属を検討されている学生の皆さんへ>

河谷研では学生の興味のあるテーマを一緒に研究していくスタイルを基本としています。現時点で興味のあるテーマが分からなければ、指導教員と一緒に話しながら探してみましょう。

・大気現象一般について興味のある人(大気の循環、大気の波、気候変動など)

・現象を数式で表せることに興味を抱く人(おお!式で表せるとは感動!って人)

・大気の力学的な現象に興味のある人(高低気圧の流れが中緯度で起こるは何故?とか)

・物理や化学を使って現象を科学的に理解できることにワクワクする人

・科学的な視点で誰かに物理現象を説明するのが好きな人(研究者はプレゼンテーション能力も鍛えられます!)

みたいな人は(上に当てはまらなくても少しでも何らかの興味があれば)、是非一度話を聞きに来てください。一見、難しそうに見えるかもしれませんが、基礎的な知識を身に着ければ分かるようになります。直接私と話してみたい方は、ZOOMも含めて対応しますのでご連絡ください。大学院の大気海洋物理学・気候力学コースでは、入学後の修士1年生の教育課程において初歩からきちんと学べるカリキュラムが取られています。北大理学部4年生の学生の皆さんで当研究室に配属した場合、個々の状況に応じて基礎から教育する方針を取っています。また博士課程からの入学、学位取得後のPDも受け入れています。

対流圏から中層大気(地表~高度80kmまで)の現象まで幅広く扱っています。最近では海洋と対流圏~中層大気のつながりも研究しています。以下に数例示します(更新が滞っていてちょっと古いですが)。

<これまでの私の研究対象の一例>

自身による様々な設定の気候モデル実験、地点・衛星観測データ及び再解析データ、世界中のマルチ気候モデルデータ(CMIP3/CMIP5/CMIP6, QBOiモデル群)を組み合わせた対流圏-成層圏-中間圏の研究をしてきました(※成層圏ー中間圏は中層大気と呼ばれます)。具体的な研究内容は以下の通りです。関連する論文は論文リストもご覧ください。

「赤道準2年振動(QBO)のメカニズム研究から長期気候変動の解明研究への発展」、「梅雨前線と太平洋高気圧」、「成層圏の有無が対流圏循環場・降水に与える影響」に関しては、本ページ下部で簡単に紹介しますので合わせてご覧いただければ幸いです。

<QBOについて>

QBOとは成層圏の東風と西風が約28ヶ月の周期で交代している現象です(図1参照)。QBOは最初に高度約50kmに現れ、時間とともに下方へ降り、高度約18km付近でほぼ消滅します。QBOの西風・東風位相の変化は、大気波動の伝播特性を変え、冬季成層圏極渦の変調を引き起こします。極渦の変化は、対流圏ジェット、中高緯度の地表面気圧配置にまで影響を与え、ストームトラックの分布を変化させます。例えば英国ではQBO西風位相時に、低気圧活動が活発で洪水が起きやすいことが知られています。最近ではQBO西風位相時に比べて、東風位相時にマッデン・ジュリアン振動(MJO)が活発で、MJO予報スキルが良いことが分かってきました。このようにQBOは対流圏-成層圏結合を引き起こし、広範囲の力学・化学過程に影響を及ぼす為、季節予報~気候変動を考える上で重要な気象現象の1つです(図2参照)。

図1. シンガポールのラジオゾンデで観測された東西風の時間ー高度断面図。赤が西風、青が東風を示す。

図2. 高度40hPaを基準としたQBO東風-西風位相時の東西風偏差(コンター)。QBOの影響は中高緯度の極渦、地表面気圧、熱帯対流、MJO活動など広範囲に及ぶ。太矢印は子午面循環。成層圏ではブリューワー・ドブソン循環(BDC)があり、QBO領域では上昇流。Baldwin et al. (2001)のPlate 2を改変。

<QBO駆動メカニズムについて>

QBOは大気波動によって駆動されています。熱帯の活発な積雲対流活動によって、東向きと西向きに進む大気波動が励起され、それぞれ東向き運動量と西向き運動量を上方へ運びます。それらの波が成層圏でつぶれることで、東向きの風(西風)と西向きの風(東風)が生成され、QBOが形成されています。

QBOは大気波動の中でも、小規模な大気重力波によって主に駆動されており、気候モデルで再現させるのが難しい気象現象の1つです。世界の殆どの研究機関では、非定常重力波パラメタリゼーションをモデルに組み込むことでQBOを再現しています。同パラメタリゼーションでは、重力波活動の時間変化や地理分布を考慮しない、励起される高度を固定、など様々な仮定が含まれています。実際の大気では対流圏循環場、対流活動、重力波が時空間に連動して変動する為、上述した仮定はモデル予測の不確実性を引き起こす要因となっています。そこで同パラメタリゼーションを組み込まず、重力波を陽に解像できる高解像度MIROC気候モデルを用いてQBOを再現させ、QBOと重力波に関する研究に取り組みました。

QBOメカニズム研究を行うにあたって、モデルで表現される降水や大気波動の振幅が、観測と類似している必要があります。目的にも依りますが、QBOが再現されるモデルでも、熱帯降水量が極端に多く、時空間変動も観測と乖離しているようでは困ります。モデルの降水スペクトル、熱帯域積雲システムの組織化、下部成層圏の重力波振幅、運動量フラックスの再現性を観測データと比較しながらモデルのチューニングを行いました。本実験データをCOSMICや地点観測データと比較したところ、モデルで表現される赤道波や内部重力波の卓越波数、周期、振幅、位相速度が、観測と極めてよく一致することを確認できました。

高解像度MIROC気候モデルを用いて、QBO駆動に対する赤道波・重力波・中緯度ロスビー波の寄与を、位相・高度方向・東西波数の違いまで含めて定量的に明らかにするとともに、重力波に適用可能な3次元波フラックスを用いて重力波・ケルビン波の伝播やwave forcingの経度依存性(図3参照)を詳細に示しました(Kawatani et al. 2010a,b)。

QBO研究の詳細を含めたQBOメカニズム研究については、気象学会の日本語雑誌、天気の解説記事で詳しく記述していますので、そちらをご参照ください。

解説はこちら→河谷芳雄,2012

図3. QBO西風シアー時における(a)ケルビン波及び(b)内部重力波に伴う3次元波フラックスの経度-高度断面図(10°S-10°N平均)。ベクトルが3次元波フラックスで、赤が西風加速、青が東風加速領域。コンターは東西風で間隔は5m/s。西風を実線、東風を破線、風速0m/sラインを太線で示す。下側の折れ線グラフは内部重力波及びケルビン波のスペクトル領域に相当するOLR分散の経度変化を示す。Kawatani et al. (2010b)のFig.6を改変。

<気候変動に伴うQBO変化について>

IPCC第4次評価報告書に記述が無く、未解明であった地球温暖化時のQBO変化を調べるMIROC気候モデル実験に取り組みました。その結果、温暖化すると成層圏Brewer-Dobson循環(BDC)に伴う赤道域上昇流が上部対流圏から下部成層圏にかけて特に強まることで、成層圏最下層までQBOが下り難くなり、高度70hPa付近のQBO振幅が著しく弱くなることが明らかになりました(図4a参照)。更に海面水温と二酸化炭素の影響を切り分ける理想実験を行い、海面水温変化の影響がより大きいことが分かりました(Kawatani et al. 2011, 2012)。これらの成果はIPCC第5次評価報告書に引用されました。

現在、世界中の主要な気候モデルのほぼ全てで、地球温暖化に伴ってBDCが強まると予測されています。しかしながらBDCの上昇流は0.3 mm/s程度と非常に弱い故に直接観測ができず、気候モデルの予測が正しいかどうかは確認できていません。そこで上記モデル研究をヒントに、1953-2012年の東西風地点観測データを用いてQBO振幅の経年変化を調べ、高度70hPaのQBO振幅がこの60年間で30%以上減少していることを発見しました。更にQBOを再現しているCMIP5モデルデータを集めて解析し、全てのモデルで地球温暖化に伴ってQBOが弱まり、赤道上昇流が強まっていることを確認しました(図4b参照)。温暖化を伴わないCMIP5コントロール実験ではこれらの変化は見られず、QBOと赤道上昇流の変化は地球温暖化が原因であることを裏付けました(Kawatani and Hamilton 2013)。

地球温暖化の新たなシグナルが、成層圏のQBOという現象に既に現れていることを発見するとともに、オゾン・水蒸気などの大気微量成分を全球に運ぶ極めて重要なBDCの強化を間接的ではありますが観測データから初めて立証し、気候モデル予測の正当性を示すことができました。

本研究の詳細はJAMSTECのプレスリリース記事、キッズ向けの記事があります。また概要を動画で見ることもできます。

詳細はこちら→JAMSTECプレスリリース「地球温暖化に伴う赤道準2年振動の弱化傾向を発見 -地球規模の流れの変化を立証する新たな観測的知見-」

詳細はこちら→知ろう!記者に発表した最新研究「成層圏の赤道域東西風が弱まっていた!地球温暖化のシグナルが成層圏の大気の流れにも現る!」

詳細はこちら→JAMSTECニュースハイライト2013

日本語版(you tube 9分3秒から:リンク

英語版 (you tube 9分3秒から:リンク

図4. (a) 現在気候及び将来気候における(上)QBOの時間-高度断面図と(下)QBOと赤道上昇流との関係。温暖化にともなって赤道上昇流が強まると、QBOは下部成層圏最下層(高度約70hPa)まで十分に下りられなくなり、振幅が弱くなる。(b)QBO振幅と上昇流の変化。(上)シンガポールの60年間に亘る東西風観測データから計算したQBO振幅、CMIP5モデルによる(中)QBO振幅の変化、(下)赤道上昇流の変化。全てのモデルで20-21世紀にかけてQBO振幅は弱まり、赤道上昇流は強まっている。 Kawatani and Hamilton (2013)のFig.S1及びFig.3を改変。

<梅雨前線と太平洋高気圧について>

MIROCモデルを2001年当時では高解像度であるT106L60にして、気候モデルで表現が難しいとされた梅雨前線の再現に成功しました(Kawatani and Takahashi 2003)。異なる解像度(T21L20, T42L20, T106L20, T106L60)、及び複数の積雲対流パラメタリゼーション(Arakawa-Schubert型, Kuo型, Moist convection型)での数値実験も行い、梅雨前線を特徴づける数100kmスケールの現象(下層ジェット、湿潤中立成層、相当温位の南北勾配等)を表現可能な水平解像度、及びフィリピン周辺の降水分布を適切に再現する物理過程が必要であることを示しました。一方で6月の梅雨前線は再現できたが、7月になるとその再現性が悪くなり、亜熱帯ジェットの季節進行や太平洋高気圧西部の再現性と関連していました。

再解析データERA-40を用いて、現実大気における夏期太平洋高気圧の平均構造・時空間変動を調べました(Kawatani et al. 2008,)。太平洋高気圧西部における年々変動と、周期30日以下の変動(月内変動)は、6-7-8月にかけて大きくなり、年々変動と月内変動との間に強い相関が見られました。太平洋高気圧の年々変動について、西部太平洋で西に張り出す年(西方伸長年)と東へ後退する年(東方後退年)に分けてコンポジット解析を行いました。両者で下部対流圏のPacific-Japanパターン、上部対流圏のWest Asia-Japanパターン、台風発生頻度、低緯度海面水温の東西勾配、梅雨前線帯のメソα擾乱活動等が異なることが分かりました。

以上の結果を基にしてCMIP3モデル群での夏期太陽高気圧の再現性評価を行いました(Kawatani and Ninomiya 2011)。CMIP3各モデルの太平洋高気圧の平均構造は6-7-8月になるにつれモデル間相違が大きくなっていました。CMIP3モデルで再現される8月の太平洋高気圧の気候平均構造(21年平均値)は、現実大気における西方伸長年型と東方後退年型に大別され、現実大気のある特徴的なモードを再現しやすい傾向にあることが分かりました。気候モデルにおける太平洋高気圧の再現性を高めるためには、インド洋~西太平洋上の海面水温勾配、西太平洋上での短周期擾乱と降水の再現性がキーであることを示しました。太平洋高気圧の平均構造と変動特性を理解する為に、理想的な気候モデル実験を行う必要があると考えています。

図5. (a)T106L60 MIROC気候モデルで再現された梅雨前線、(b)現実大気の8月における高度850hPaの高度場。気候値(影)と年々変動成分(コンター)、(c)同じくCMIP3マルチモデル平均。平均(影)とモデル間のバラつき(コンター)。現実大気では西部太平洋の太平洋高気圧が西方伸長する年と、東方後退する年に分けられるが、CMIP3モデルはどちらか一方を再現しやすい傾向にある。

<成層圏の有無が対流圏循環場・降水形成に与える影響について>

雲より高い場所にある成層圏は、対流圏の流れに影響を及ぼしているか?これまで成層圏を全て含むハイトップ、含まないロートップモデルによる研究例はありましたが、ハイトップとロートップでモデルの種類が異なる為、モデルの上端の影響がどの程度効いているのか、定量的な理解を得るには難しい面がありました。そこで、同一の力学・物理過程・パラメータ・空間解像度に設定したMIROC気候モデルを、成層圏をフルカバーする・しない設定にして実験し、成層圏が対流圏循環場や降水形成に与える影響を調べました。

成層圏を十分に表現しないモデルではブリューワー・ドブソン循環(BDC)をきちんと再現することができないため、①BDCに伴う成層圏極域下降流が弱くなる、②極域温度が低くなり③成層圏極渦が強くなり、直下の対流圏西風も強まり、対流圏傾圧波活動が北へシフトする、④地表付近の西風や地表面気圧や降水分布が変わる、ことが分かりました(Kawatani et al. 2019, JAS)。地球温暖化にともないBDCは強化される為、成層圏の表現の違いが温暖化予測結果にも影響を与える可能性があります。

図6. (a) 高度約50kmまでの緯度-高度方向の大気の流れ。緑色の大気層は対流圏、青色は成層圏、その境界は対流圏界面と呼ばれ、飛行機が飛んでいる高度に相当する。空気は上昇流がある場所では冷やされ、下降流がある場所では暖められる。(b) BD循環が弱い場合の模式図。①赤道から高緯度へ向かう成層圏の循環が弱くなり、②極域での下降流が弱くなり温度が下がる。③対流圏~成層圏の西風ジェットが強くなる影響が地表付近まで及び、傾圧波活動が変わる、④地表付近の西風が強まり、気圧は低緯度側で高く、高緯度側で低くなる。(c)北半球冬季における降水(カラー)と地表面気圧(等値線)についてロートップモデルからハイトップモデルを引いた差。高緯度で低気圧偏差、中緯度で高気圧偏差になり、降水分布も変わる。

<これまでに行ってきた具体的な研究内容>

・高解像度MIROC気候モデルを用いた赤道準2年振動(QBO)の駆動メカニズム

(Kawatani et al. 2010a, 2010b; Watanabe et al. 2018)

・MIROCモデル、CMIP5モデル及びゾンデ観測データを用いた気候変動に伴う赤道準2年振動(QBO)の変調

(Kawatani et al. 2011, 2012; Watanabe and Kawatani 2012, Kawatani and Hamilton 2013)

・気候モデルによる梅雨前線のシミュレーション

(Kawatani and Takahashi 2003)

・再解析データ及びCMIP3モデル群データを用いた夏期太平洋高気圧の平均・時空間変動の解析

(Kawatani et al. 2008; Kawatani and Ninomiya 2011)

・成層圏を含む・含まない気候モデル実験及び再解析データによる対流圏-成層圏結合の研究

(成層圏が対流圏大規模循環場、地表面気圧・降水分布へ与える影響等)

(Gray et al. 2017; Kawatani et al. 2019)

・地点観測、衛星観測及び気候モデルを用いた重力波、赤道波、大気潮汐の解析

(Kawatani et al. 2003, 2004, 2005, 2009; Dhaka et al. 2003; Alexander et al. 2008a, 2008b; Rao et al. 2012; Sakazaki et al. 2015)

・高解像度気候モデルを用いた中層大気波動、大循環場、輸送に関する研究

(Tomikawa et al. 2008; Sato et al. 2009, 2012; Miyazaki et al. 2010a, 2010b; Watanabe et al. 2015, Alexander et al. 2016)

・MLS衛星観測と気候モデルによる成層圏水蒸気の年々変動

(Kawatani et al. 2014)

・成層圏再解析比較国際プロジェクト(S-RIP)に関する研究

(Kawatani et al. 2016; Miyazaki et al. 2016)

・QBO気候モデル国際プロジェクトに関する研究

(Butchart et al. 2017)

・重力波国際プロジェクトに関する研究

(Alexander et al. 2010)

・雲解像モデルNICAMを用いた研究

(Kodama et al. 2015)