µシェブロンレーザー(µCLB)によるガラス基板上薄膜の単結晶帯成長とその半導体デバイス応用
これはガラス上の薄膜で単結晶帯を成長できる技術です。
今後、薄膜太陽電池や薄膜トランジスタなど、様々な応用に展開していきます。
現在単結晶帯成長できている薄膜材料
Si, Ge, Al, Cu2O, Au
更に開拓は続いてます...特に機能性膜で
Si薄膜の単結晶帯成長
一番早く単結晶帯成長を実現したのはSi膜です。世界に1台しかない私の自作装置で、2014年の山崎さんが卒研テーマで始め、2015年の石本さんの卒研テーマで単結晶帯成長が実現できました。最初は結晶方位が成長と共に回転しているし、単結晶帯両端には多結晶がついていたような欠陥だらけの単結晶でした。本当にものになるのか?という疑問はありました。まず取り組んだのが、結晶方位の回転のメカニズム解明と解決です。それまでもcwレーザーアニール法でこの現象は発見されていましたが、メカニズムが分かっていませんでした。われわれは回転速度が膜厚の逆数に比例することから、ラテラル成長の固化時の横方向膨張率が表面と下地界面で異なるために起こったとしました。そしてSi膜が対象構造となるようSi膜表面に200nm以上のSiO2膜を付けることで、一部の結晶方位で結晶方位回転を抑制することに成功しました。この結果、長さが1mm以上の(001)単結晶帯を実現することができました。また、単結晶Si帯では双晶欠陥が発生します。双晶は(111)で双晶核発生してできることから、双晶粒界両側で共通する(111)を特定することで、成長時に存在していたであろう(111)ファセットの位置を明らかにしました。この結果、結晶方位に応じて固液界面には様々な方向で(111)ファセットが存在していること、下地界面との傾斜が小さいの(111)ファセットで双晶核が発生しやすいこと、を明らかにしました。(001)単結晶帯成長では(111)とは55°を成しているので、双晶粒界が発生しづらい解釈になります。また、Si膜界面の品質は双晶粒界を減らす上で重要であることが言えます。SiO2キャップ膜を付けることで、(001)単結晶帯で回転を抑制できることがわかりましたが、その他の方向では相変わらず方位回転が起きていました。しかも方向はランダムでした。表裏面固化時膨張差はなくなっているので、この回転はSi結晶の自由エネルギーによるもので、これは結晶方位に依存するはずです。そこで次に取り組んだのが、結晶回転傾向を明らかにすることです(白川俊樹氏修士研究)。長さ60mmにも及ぶ単結晶Si帯を調べることで、SiO2/Si/SiO2構造のSi単結晶成長において、図に示す回転傾向が明らかになりました。これはすなわち、(001)<100>±5°がこの構造で唯一安定する成長方位で、最終的にはこの方向になることを示しています。また(001)結晶帯は原理的には双晶粒界は発生しませんが、現実には発生しており、この結果他の結晶方位が発生してしまい、(001)<100>の比率が減ってしまいます。我々は(001)結晶帯の双晶発生箇所を調べた所、微小孔またはパーティクル状のものが観察されました。おそらくはガスの噴出またはパーティクルなどによって双晶が誘起されたと推定され、完璧な(001)<100>結晶帯を実現するには、このような擾乱要因を減らすことが必要であることを示します。また現在得られている20本の(001)単結晶帯を図に示します。(001)制御が実現できています。
単結晶帯の応用展開
1.薄膜トランジスタ(TFT) 2.薄膜タンデム太陽電池
1.薄膜トランジスタ
液晶や有機ELディスプレイの画素スイッチング素子には薄膜トランジスタ(TFT)が使用されています。これまでの液晶ディスプレイでは、アモルファスSi(a-Si)膜がTFT材料として使われていましたが、ディスプレイの高精細化と伴い、更に有機ELディスプレイが電流駆動型であるため、これまでのa-Si TFTでは駆動力が不足する問題が出てきます。すでにスマートフォンに使われている300ppi(pixel per inch)以上のディスプレイでは、より高性能な多結晶Si(poly Si) TFTが使われています。TFTの電流駆動能力を示す指標に移動度がありますが、a-Si TFTが1cm2/Vsであるのに対してpoly-Si TFTは100cm2/Vsと高いのです。このpoly-Si膜は、レーザ溶融再結晶化法によって作製します。a-Si膜を線状のエキシマレーザでゆっくり走査することによって溶かし、結晶化させます。
大画面ディスプレイは現在もa-Si TFTが主流であるが、同様な理由により、今後はより移動度が大きいTFTが求められています。しかしエキシマレーザは高価なプロセスである上に、レーザビームの長さにも限界があり、現在最先端の第10世代基板には対応できません。
そこで近年では酸化物TFTが注目されています。代表がInGaZnO(IGZO)化合物です。膜形成が簡単で(スパッタ堆積法)、移動度も10cm2/Vs以上出せます。大型ディスプレイでは良い方式ですが、小中型ディスプレイの周辺駆動回路形成には移動度が小さすぎる問題が出てきます。またCMOS化できないのは省電力化に不利となります。
現在の小中型ディスプレイの精細度は400ppiです。この先どこまで進むのか?スマートフォンでヘッドマウントディスプレイのようにして3Dで目の前いっぱいに投影して使う事が提案されていますが、網膜限界に達するには3000ppiが必要とされています。ここまで来るとTFTのチャネル寸法は1µm以下になります。一方でpoly-Si膜の結晶粒の大きさは数百nmから数µmで、すなわち、チャネルを横切る結晶粒界はTFTによって0本、1本、2本だったりします。特に電流駆動型の有機ELディスプレイでは、輝度のムラを生じてしまいます。この問題には、Si膜の単結晶化が究極な解決法と言えます。
単結晶帯に形成したTFTの特性
図に得られたTFTの電流電圧特性を示す。スパッタ堆積のゲート絶縁膜を使用しているにもかかわらず、電界効果移動度が548cm2/Vs、S値が0.28V/dec, On/Off比が2.4E7と、世界トップレベルのTFT特性が得られました。