reading
by yukinori tanamachi, 2007
読書は私にとって子供時代から今に至るまでとても重要な存在であり続けています。今でもほとんど毎日どこかの書店か古本屋に立ち寄りおもしろい本はないか探しています。十代の頃、大学時代、そして現在どのように私が読書と関わってきたかを簡単に述べさせていただきたいと思います。
私が子供の頃、本というのは非常に身近な存在でした。というのも私の両親は書店を経営しており本は読みたいだけ読むことができたのです。当時私は本を買うという感覚はありませんでした。部屋を出て店の本棚にいけばたくさんあると思っていました。ずっと立ち読みをしていました。時には持ったまま部屋に戻ったこともありました。
当時はとにかくどんなものでも読んでみようという好奇心旺盛な子供でした。自然科学から人文系までいろんなものを読んだ記憶があります。今でも私の本棚に残っているのは日本の歴史の第一巻です。あの時は考古学にとても興味がありました。
中学•高校時代、特に大学受験生の頃は読書に割く時間がなくて困りました。そんなとき国語の先生がこんなアドバイスをしてくださいました。私たち受験生はなかなか読書に割く時間が取れない。だから受験勉強にも役立つような効率の良い読書をするべきだ。そのためには日頃目にする現代文(評論•小説など)の問題文をうまく使うとよい。入試問題を解く勉強をするためだけでなく、自分の知的視野を広げるためにも現代文の文章を使いなさいということでした。
現代文に出題されている文章は1冊の本の中の非常にまとまった部分でありそこには作者のイイタイコトが端的に出てきていることが多い。だから現代文に出されている問題文を多く読みまた整理することで何十冊文の読書をするのと同様の効果を出せるようにしなさいと先生はおっしゃっていました。先生はそのような論理のもとにテキストを編集しておられたので私は問題を解き本文を要約していくことで多くのことを学びました。当時先生から習ったことで今でも覚えているのは東洋と西洋、近代の超克、言語と精神の関係などです。
また先生は問題文の中で特に気に入ったものは原文の入っている本を購入して読みなさいといつも言っておられました。先生の言うことを守って私は受験生の時でも視野を広げていくことができました。こんな中で出会った作家で今でも好きなのは言語学者の鈴木孝夫が書いた「ことばと文化」(岩波新書)と梶井基次郎の小説です。鈴木の本は私の最終的な専攻となる言語学を選ぶきっかけとなったものです。梶井のものは「篔の話」や「桜の木の下には」といったものが今でも強く印象に残っています。ほんの1ページの長さにたくさんのものが詰め込まれています。私は長編小説を読む忍耐力がないのです。1ページくらいの短編、あるいはアフォリズム集のようなものを好んで読みます。カフカの寓話集や短編集を読んでみてください(岩波文庫)。ほんの2行しかない作品もあります。しかしそれがなんと豊かなことか。
また例の国語の先生の話になりますが、名言の多い方で書物の選び方のお話のとき、書物との出会いは男女の出会いのようなものでうまくいくときもいかないときもある。運命的なものだ。書店の本棚をさっとみて目に止まった本を選んでみるとよい。失敗を繰り返せ、という言葉を今でも覚えています。最近になってこの言葉の意味が分かったような気がします。
大学に入ってからは書物の乱読をしました。図書館に行っては手当たり次第本を手に取って気に入ったものを深く読むというのを繰り返しました。あの頃は本当に興味のある分野はまだなかったのでそれを探すという意味合いがありました。授業に出ている時間より図書館にいる時間の方が長かったですね。大学時代の読書で印象に残っているのは原書購読です。高校では英語の本を読むだけでしたが大学ではそれ以外にドイツ語、ラテン語の本を読みました。言語が変われば思考法も変わる、それがひいては文化の枠組みにも影響を与えるということがよくわかりました。でもこれも高校時代の読書(ことばと文化)から学んだことの再確認でした。十代後半の読書体験はその人の一生に影響を与えると信じています。
大学院に入る前くらいから英語で書かれた本の読書が大きな比重を占めるようになりました。大学院時代はアメリカにいたということもあり日本語で考えない、しゃべらない、読まないという時期がしばらく続きました。そんな風にしていると時々インターネットで日本語のニュースを読むと何とも言えない気持ちになったのを思い出します。あのとき日本語のすばらしさに目覚めました。
授業では先生がレポートを書くときに読書の重要性を説いておられました。もちろん学生間のディスカッションも大事ですがどれだけ良質のreferences(参考文献)を集めているかがよい論文の重要なファクターになるからできる限り多くの文献に目を通しなさいと言われました。そんな訳で向こうでも図書館に籠っていることが多かったです。あちらの大学図書館はほぼ年中無休で24時間空いています。コンビニみたいです。向こうでも本屋(古本屋も含む)めぐりをしましたが向こうの特徴は中規模以上の書店内にはかならず喫茶店(スターバックスのようなもの)があることです。書店の中の本は何でもそこに持ってきてコーヒーを飲みながら読むことができるのです。購入していなくてもです。読み終わった本はそこに置きっぱなしで店員が必死に売り場に戻していました。私はいつもきちんと読んだ本を売り場に戻していたら「そんなことはしなくていいんだよ」と何度も言われました。
向こうで読んだもので読書に関係あるものは、外国語として英語を勉強している人がいかに文章を読めるようになるかというものです。向こうではpleasure readingという考え方が流行していました。学校の教科書のような堅苦しいものではなく学習者が読んで喜び(pleasure)を感じることができる英文を読ませることから始めることで学習者の苦手意識を取り払うという教え方です。英語の長文読解に苦痛を感じている人はこのやり方を試してみるといいかもしれません。
Created by Yukinori Tanamachi, December 10, 2007