classroom
小学校で何らかの英語教育を受けている生徒が多いので、中学入学時点で英語を全く勉強したことがないという生徒は各クラス3分の1もいません。もちろん授業ではアルファベットの書き方や基礎的な発音のやり方から入っていきますが、文法の基本的なルールを教えながら授業を進めていきます。小学校で習っている生徒の大半は基本的な会話表現を機械的に覚えているだけで、その背後にある文法の基礎的な知識を持っていません。基本表現をたくさん暗記させるのはもちろん大切なことですが、最低限度の文法知識を中学1年生であっても教え、理解した上で英文を覚えてもらっています。
コミュニケーション重視で文法を軽視する傾向はますます強まっていますが、やはり語学は「理解が半分、慣れが半分」だと思います。まず文法規則を学んで理解した上で、ある分量の英文を音読・暗唱するように指導していくのが最善だと私は考えています。ただし、この文法についても再検討が必要だと考えています。昔のように「品詞や文型」から入っていく文法もよいと思うのですが、これからはもっと生きた英文の中で使える文法の指導体系を作っていくべきだと思うのです。伊藤和夫先生は、最後の著書の中で「立体的で動的(dynamic)な文法体系」を模索するべきだと言っておられますが、これはまさに現代の英語教員に課せられた宿題だと思っています。この点に関しては、Larsen-Freemanも同じことを著書の中で論じています。興味のある先生は是非読んでみてください。
最低限度の文法の知識を学習したあとの「慣れ」の部分として私が中学で実践しているのは「暗唱文」の活用です。これは既成のプリントを使うのではなく、授業で使用したテキスト、模試、プリントなどから教員が英語学習に必要だと思う英文を引き抜いて、英文を音読・暗唱しやすいように手直しをし、文法項目別に配列したオリジナルのプリントです。
B4サイズのプリントの左側に英文とごく簡単な語句・文法解説、右側に日本語訳というスタイルで、1枚に英文が25個載せられています。筑紫女学園中学校では、このスタイルで教えておられる先生が結構いらっしゃいます。私も先輩の先生に教えていただいたのが、このやり方を始めるきっかけでした。現在はこの英文をネイティブの先生に朗読していただいたものを録音して、LL教室でMDにダビングさせるか、インターネット経由でダウンロードすることで生徒が利用できるようにしています。生徒はここからCDを作成するなり、携帯音楽プレーヤーに入れるなりして利用しているようです。
このようにテキストなどで出てきた英文から暗唱文を選んでいくことの利点は、新しい英文ではなく生徒が授業で勉強した英文から暗唱できるということと、そこから試験に出題されると言うことで英語を音読・暗唱するモチベーションを維持できるところにあります。生徒は与えられたプリントから定期テストに出題されることを知っていますから、真剣に音読し覚えようとします。テスト前は、そのプリントを一心不乱に読んでいる生徒をよく見かけます。また、授業ではプリントの暗唱大会をするなどゲーム的な要素も組み込んで、なるべく生徒たちが積極的に取り組んでくれるように工夫しています。
また、このプリントの英文は注意深く配列されており、生徒がつまずくことなく文法項目を理解・確認しながら英文を覚えられるように作られています。私はここに一番神経を使ってプリントを作っています。
私は指導をする際に、中学校の英語は引き算、高校の英語は足し算だと思っています。高校では大学入試までに生徒が知っておくべき知識の総量がある程度決まっていますから、それに向かって生徒に学習させ、知識を積み上げていく、足し算の考えが必要です。それに対して、中学校では大きな英語の体系の中から中学生にとって必要なものは何か、中学生の発達段階を考えてどこまで知識を授けてよいのか、どれをあえて教えずに高校まで待つのか、という引き算の発想が必要だと思います。この取捨選択は生徒の学力レベルに応じて変わってきますから、各学校・各クラス・各生徒単位で微妙に変わってくると思います。先生方は大変だと思いますが、生徒の状況を知り、理解度に合わせた授業を組み立てるというのは、極めて当たり前のことですが、本当に重要なことだと思います。
参考文献
伊藤和夫著 「予備校の英語」 研究社 194ページ
Larsen-Freeman, D. (2003). Teaching Language: From Grammar to Grammaring. Heinle p. 24
Created by Yukinori Tanamachi, September10, 2008