第9回研究会 (2021/2/2)

以下の通り,第9回研究会を開催いたしました.

日時: 2021年2月2日 (火) 14:00~17:00

場所: Zoom によるオンライン開催

参加者: 26 名

[講演1]

講演者: 富安 亮子 氏(九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所)

題目: 有限個のフーリエ係数から元の波形を復元する数理の基盤開発

概要: サンプリング定理より、周波数域が有界なら、ある間隔以下のグリッド点ごとに観測されたフーリエ係数からsinc補間により完全な復元が可能である。しかし通常、データの個数は有限個で、状況はさらに制限される。この「打ち切りの問題」には広く窓関数が使用される。またcompressed sensingは、復元波形が疎なら、有限個に打ち切られたデータからl1ノルム最小化により波形を復元できる確率が非常に高いという定理が基盤にある。しかしこの定理で復元される波形はZ/pZ上の関数である。計測データの状況ではR^nまたは(R/Z)^n上のフーリエ変換と考えた方が近似がよいことも多い。

そこで、(R/Z)^n上のフーリエ変換(=フーリエ級数)の場合に、N点のフーリエ係数およびその観測誤差を得た状況を考え以下を示す。

(1) 復元波形をm個のグリッド点近傍における連続モデル(多項式など)で表し、各モデル関数のk個のパラメータを推定する問題は、可算無限次元l2ノルム最小化の理論を経て、未知変数k個の最小二乗法をm回実施する計算に帰着できる。

(2) ただし、k次正方行列の計算前に、観測値に依存しないN次正方行列の逆行列を1度だけ求めておく必要がある。このN次正方行列はCauchy行列に似たcondition numberの大きな行列で、Nが大きくなければ逆行列は数値的にも計算可能である。

数値計算の結果と、逆行列の厳密式に関わる結果も紹介する。

[講演2]

講演者: 河原 吉伸 氏(九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所)

題目: 非線形ダイナミクスの作用素論的データ解析とその応用

概要: 近年、力学系の作用素表現に基づく解析、特にクープマン作用素を用いた解析は、その汎用性や物理的概念とのつながり、また動的モード分解などの推定法の発展もあり多くの分野で注目を集めている。動的モード分解は,非線形性が内在する多次元時系列データから、固有の周期性と減衰率を持つモードへの分解を計算するデータ解析手法として、当初は流体力学分野で提案された。その後、力学系のクープマン作用素との関係を数理的に議論できることが明らかになり、最近では流体力学分野に限らず、脳科学や地球科学などの複数の科学領域への適用が進むと同時に、工学的応用も散見されるようになってきている。本講演では、上記のような一連の研究に関連して、力学系の作用素表現の推定とその利用について着目し、最近の話題を中心に紹介する。特に、機械学習分野でよく用いられる方法論に基づいた動的モード分解の拡張や、力学系上の計量の導出、予測モデルの学習への利用などについて述べる。この中で、我々が取り組んでいるものを中心に、いくつかの応用事例についてもふれる。