周期ゼミ大発生 2024年

2ブルードの同時発生

2024年、アメリカ東部で13年ゼミブルードXIX(19)と17年ゼミブルードXIII(13)が同時に発生する。

 

今回発生するブルードXIXは2011年(13年前)に羽化した13年ゼミの子孫で、イリノイ州中南部、ミズーリ州、アーカンソー州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、ケンタッキー州、テネシー州、アラバマ州、ジョージア州、サウスカロライナ州、ノースカロライナ州など、東南部の広い地域に発生する。一方、ブルードXIIIは17年ゼミで、イリノイ州北部、インディアナ州北西部、ウィスコンシン州南部、アイオワ州東部の、ブルードXIXより北の地域に発生する。前回は2007年(17年前)に発生した。

周期ゼミの3種群と7種の13年ゼミ・17年ゼミ

周期ゼミはマジシカダ属Magicicadaのセミ。Magicicadaはmagic(魔法)とcicada(セミ)を合わせた造語のようだ。つまり魔法蝉。同じ種群の13年ゼミと17年ゼミは、形態でも鳴き声でも区別できず、ただ発生周期(幼虫期間)が違うだけである。このため、生物学的に別種といえるのかは疑問視されている。曽田・藤澤(2018、現代化学)

2024年にブルードXIII、ブルードXIXが発生する地域

発生地域はJohn Cooley氏(私信)の資料に基づいて作成。緯度ごとのおよその発生開始時期(左)は2007年、2011年における吉村仁氏らの調査記録をもとにした。


周期ゼミの発生開始時期は南ほど早く、4月の中下旬からである。北では6月上旬〜中旬頃になる。成虫の寿命は4週間から6週間程度とされている。

ブルードXIXとブルードXIIIが同時に発生するのは1803年以来、221年ぶりのことである。特定の13年ゼミと17年ゼミのブルードが同時に発生するのは、発生間隔の最小公倍数が13×17=221なので、221年に一度なのである。同時発生と聞くと交雑の機会がいくらでもあるように思いがちだが、17年ゼミブルードXIIIは北、13年ゼミブルードXIXは南に分布し、発生地は基本的に離れており、両者が近接する地域はごく限られている。したがって、もし交雑の機会があるとしたら、近接した地域で同じ時期に発生したセミが、少し移動してたまたま同じ林で交配するといった状況であろう。

 

2つのブルードはイリノイ州内で分布を接している。具体的にどこで交雑の可能性があるかだが、アメリカのセミ愛好家のサイト(Cicada Mania)に以下のような記事がある。

Do these broods overlap? If they do, it’s in the Springfield, Illinois area. Springfield is a good place for your cicada sightseeing “basecamp”. (これらのブルードの発生は重なるだろうか。もしあるとすれば、イリノイ州のスプリングフィールドあたりだろう。そこはセミ観察の拠点として好都合である。)

https://www.cicadamania.com/cicadas/category/broods/brood-xiii/

 

スプリングフィールドは、シカゴからセントルイスの方(南南西)へ280kmほど行ったところにある。スプリングフィールドの北は17年ゼミ、南は13年ゼミの生息域だが、どれくらい接近して発生するかは過去の発生地点を見てみる必要がある。

 

コネチカット大学のJohn Cooley博士のホームページに過去の発生地点をマッピングした地図を見ることができる。


https://cicadas.uconn.edu/


ただしCooley博士によれば、スプリングフィールド付近での大規模な発生の重なりはありそうにないという。また、そもそも同じ種群の13年ゼミと17年ゼミの種は、発生周期(幼虫期間の長さ)で区別されているだけなので、仮に境界地域で見つけてもどちらの種なのかは判定不可能である。

 


今年の発生のガイドブック


Kritsky, Gene (2024) A Tale of Two Broods: The 2024 Emergence of Periodical Cicada Broods XIII and XIX. Ohio Biological Survey, Columbus, OH. 

今回同時発生するブルードをメインにした周期ゼミについての解説書。アマゾンで紙の本・Kindle版が入手できる。

13年ゼミと17年ゼミのブルードの同時発生スケジュール

ブルード番号の起点1893年から221年間(13と17の最小公倍数)に,合計36回の同時発生(黒丸と赤丸)があるが,そのうち分布が隣り合うブルードの同時発生(赤丸)は11回だけ.

ブルードXIIIとブルードXIXの同時発生は、前回は1803年であったと考えられる。

曽田・藤澤(2018、現代化学)を改変。

用語解説

13年ゼミ、17年ゼミ:1世代(卵から成虫まで)が13年、17年の周期ゼミMagicicada属を種にかかわらずこのように呼んでいる。学名がついた「種」としては、13年ゼミが4種、17年ゼミが3種いる。


ブルード(brood)は一定の世代時間(13年か17年)で成虫の発生を繰り返す周期ゼミの集合(年級群)で、発生年が重ならない同じ周期のブルードは、17年ゼミでは17個、13年ゼミでは13個ありうる。ブルード番号はローマ数字で表すならわしで、1893年を起点に17年ゼミはBrood I (1)からBrood XVII(17)、13年ゼミはBrood XVII (18)からBrood XXX (30)と決められている。しかし全てのブルードが実在するわけではなく、現存するのは17年ゼミが12ブルード(Brood I〜X, XIII, XIV)、13年ゼミが3ブルード(Brood XIX, XXII, XXIII)のみである。近年絶滅したブルードもあるが(Brood XI)、過去にすべてのブルードが存在したかどうかは分からない(多分、存在していない)。


ややこしいことに、それぞれのブルードという集合は1種の周期ゼミの個体群ではなく、13年ゼミでは4種、17年ゼミでは3種の、学名がついたセミを含んでいる。イリノイ州で分布を接するのは、デシム種群のM. septendecimM. neotredecim、カッシニ種群のM. cassiniM. tredecassini、デキュラ種群のM. septendeculaM. tredeculaである。接触地域での交雑可能な組み合わせは、デシム種群のM. neotredecimM. septendecim、カッシニ種群ではM. cassiniM. tredecassini、デキュラ種群ではM. tredeculaM. septendeculaである。


素数ゼミ:周期ゼミの1世代の年数がいずれも素数であることから、「素数ゼミ」とも呼ばれている。素数の周期は非素数の周期と同時発生する頻度が少なく、雑種崩壊を起こしにくいので、進化的に有利であるという「素数有利説」をもとに、氷河期において、北では17年ゼミ、南では13年ゼミが、非素数を含むいくつかの周期の個体群から選択されて生き残ったという仮説が提唱されている。しかし素数有利は、異なる周期の個体群が一斉にスタートするという特別な場合しか成り立たず、実際に有効な仮説とはみなされていない。ただ、境界を接する13年ゼミと17年ゼミは、両方が比較的大きい素数であるだけに、221年に1度しか交雑機会がない。このことは2つの周期の境界がほぼ同じ場所に長期間存続している理由かもしれない(といっても人間が観察している200年くらいの間だが)。もし頻繁に交雑が起こると、境界が移動したり、どちらかの周期が消えてしまったりするだろう。


(参考)周期ゼミの概要紹介


ほとんど0円大学

珍獣図鑑(11):17年に一度の大発生! 周期ゼミの遺伝子に仕掛けられた“時計”を探せ

https://hotozero.com/knowledge/animals011/


最新の周期ゼミ研究のレビュー

Simon C., Cooley JR, Karban R, Sota T (2022) Advances in the ecology and evolution of 13- and 17-year periodical cicadas. Annual Review of Entomology 67:457-482. http://arjournals.annualreviews.org/eprint/ZXSNGWJ5GJCKRKGMTCEC/full/10.1146/annurev-ento-072121-061108

リクエストいただければPDFお送りします。


 

生活史の制御に関する仮説

Sota T (2022) Life-cycle control of 13-year and 17-year periodical cicadas: a hypothesis and its implication in the evolutionary process. Ecological Research 37:686-700. https://doi.org/10.1111/1440-1703.12354

周期ゼミの生活史についての総説と生活史制御仮説(4年時計・4年ゲート・臨界体重仮説)の紹介。オープンアクセス。