研究 Research
研究 Research
論文2025
When and how do 17-year periodical cicada nymphs decide to emerge? A field test of the 4-year-gate hypothesis
Saito N, Yamamoto S, Kakishima S, Okuzaki Y, Rasmussen A, Haji D, Nomura S, Tanaka H, Itoh T, Yoshimura J, Simon C, Cooley JR, Kritsky G, Sota T (2025)
Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 292:20251306 https://doi.org/10.1098/rspb.2025.1306
2019年から2022年に行った周期ゼミの生活史制御仮説検証のための野外幼虫調査と遺伝子発現解析の結果を報告しました。
13年,17年の幼虫期をもつ周期ゼミは,それ以外の年数ではめったに羽化することはありません。ただし,17年ゼミが4年早く13年めに羽化する4年早期羽化など,4年ずれの羽化が知られています。どうも4年というのがマジックナンバーのようです。
実は彼らは羽化の1年め,つまり12年め,16年めに羽化することを決めています。4の倍数年に,羽化できるサイズ(臨界体重)に達したかどうかで翌年羽化するかどうかが決まります。17年ゼミでも,早く成長して12年めに臨界体重を超えると13年めに羽化します。しかし13年めから15年めに臨界体重を超えても翌年羽化しません。これは4の倍数年以外では,羽化の可否を判断するゲートが開いていないからです。これが今回検証しようとした「4年ゲート仮説」です。羽化を決めたかどうかは,眼が白から赤になることで分かります。
17年ゼミの11歳から16歳までの幼虫を秋に掘り出して調べたところ,予想通り12年めの一部の体重の重い個体と,16年めのほとんどの個体が赤眼になっていました。赤眼になると地上生活に備えて視覚が得られ成虫になる準備が始まりますが,越冬するため変態過程は春まで抑えられていることが遺伝子発現の解析から分かりました。
周期ゼミは,4年ごとに羽化できる体重に達したかどうかを判断し,翌年に羽化する。それによって,同い年で不揃いに育った個体がまとまって羽化する。このことが今回の研究で裏付けられました。
研究の背景 4年ゲート説とその野外検証はフユシャクガの研究で博士号を取得した山本哲史君(論文の第2著者)が2015年頃に考えついたものです。その後,私は山本君のアイデアをもとに周期ゼミの発生周期を包括的に説明する仕組みを考え(論文はこの下に紹介しています),それを検証するためのプロジェクトを立ち上げました。野外で幼虫を掘り出す調査は,科研費を取得した2019年から2022年の4年間に実施しました。2019年には日米の10数名が参加して大きな成果をあげることができましたが,翌年から新型コロナの流行で,日本から調査に行くことができなくなり,オハイオ州のGene Kritskyさんにお願いして2020年と2021年の調査を実施していただきました。最後の2022年の調査は日本から3名が行ってKritskyさんとともに調査しました。米国内での野外調査は,Kritskyさんほか,John Cooleyさん,Chris Simonさんらとの長年の協力関係で可能となりました。この協力関係を築いたのは2007年から周期ゼミのDNA解析用サンプル採集を始めた静岡大の吉村仁さんです。採集して固定した幼虫の分析は,2020年に修士課程に入学した齊藤奈美歩さんが中心になって行いました。幼虫の種の同定,RNA抽出,そして遺伝子発現データ解析などウェットからドライまで結構面倒な作業です。齊藤さんは野外調査にも行く気満々で入学したのですが,修士課程2年で就職しましたので,結局行くことが叶いませんでした。このように2019年の順調な滑り出しの後に,苦難の年が続いたわけですが,何とか奇跡的に11年から16年めの幼虫コホートのデータを得ることができ,論文出版にこぎつけることができました。論文の共著者の他にも,多くの方々に助けていただいて調査を実施することができ,心から感謝しています。
論文2025
Phylogenetic relationships of subfamily Patrobinae (Coleoptera: Carabidae) in Japan, with a focus on genus Apatrobus and the description of a new specie
Dejima T, Sota T (2025)
Entomological Science 28: e12606
https://doi.org/10.1111/ens.12606
ヌレチゴミムシ属Apatrobus全種の系統関係と他の日本産ヌレチゴミムシ亜科の属との系統関係を調べました.従来ヌレチゴミムシ属とされてきた2種をApenetretus属に移し,分子系統と形態分析に基づいてヌレチゴミムシ属の1新種を記載しました.
論文2024
Molecular phylogenetic relationships among lineages in the genus Carabus (Coleoptera: Carabidae) and radiation of the subgenus Apotomopterus
Sota T*, Liang HB, Pham HT, Lin CP, Hori M, Takami Y, Ikeda H (2024)
Zoological Journal of the Linnean Society 202, zlae125.
https://doi.org/10.1093/zoolinnean/zlae125
UCE(超保存的領域)配列データを用いて,オサムシ属Carabusの系統解析をしました。2022年のオサムシ亜科の解析の増補版です。高次系統群の関係を解析するとともに東アジアで多様化したトゲオサムシ属 Apotomopterusの系統分化について詳細な解析を行いました。
論文2024
ドロムシ上科の分子系統
Molecular phylogeny of old-world Dryopoidea beetles (Coleoptera: Polyphaga: Elateriformia) based on ultraconserved elements of DNA sequence data from Japanese taxa
Hayashi M, Kobayashi T, Yoshitomi H, Sota T (2024) Insect Systematics and Diversity 8(4): 5
UCE(超保存的領域)配列データを用いて,水生,半水生,陸生の種を含み多様な幼虫・成虫形態をもつドロムシ上科の系統関係を調べました。ナガハナノミ科,ヒラタドロムシ科の多系統性を示しました。
論文2024
マイマイカブリの巨頭型・挟頭型を分ける遺伝子
Odd-paired is involved in morphological divergence of snail-feeding beetles
Konuma J, Fujisawa T, Nishiyama T, Kasahara M, Shibata FT, Nozawa M, Shigenobu S, Toyoda A, Hasebe M, Sota T (2024) Molecular Biology and Evolution 41(6):msae110 https://doi.org/10.1093/molbev/msae110
小沼順二君が中心となって取り組んできたゲノム研究がついに論文となりました。マイマイカブリの全ゲノム配列(約1億8800万塩基対)を染色体レベルでアセンブルし,オーパ(opa; odd-paired)という保存的な遺伝子がカタツムリの食べ方の違いに関わる体形の違いに関係していることを明らかにしました。
周期ゼミ 2024年の2ブルード同時発生 [解説]
2023年の論文から
ハモグリバエにおけるコケ食の起源と多様化
Kato M, Yamamori L, Imada Y, Sota T (2023) Recent origin and diversification accompanied by repeated host shifts of thallus-mining flies (Diptera: Agromyzidae) on liverworts and hornworts. Proceedings of the Royal Society B 290: 20222347. DOI: 10.1098/rspb.2022.2347.
加藤真氏の研究。分子系統解析をお手伝いしました。
日本列島のフトミミズ科の起源と多様化
Sato C, Nendai N, Nagata N, Okuzaki Y, Ikeda H, Minamiya Y, Sota T. (2023)Origin and diversification of pheretimoid megascolecid earthworms in the Japanese Archipelago as revealed by mitogenomic phylogenetics. Molecular Phylogenetics and Evolution 182:107735. DOI: 10.1016/j.ympev.2023.107735
ミミズ食のオオオサムシ亜属の多様化研究の中で行った研究。形態分類が難しいミミズにDNAによる種分類で挑んだ佐藤千佳さんの修論研究を基にしています。
全ゲノムリシーケンスで明らかになったオオセンチコガネの色彩変異をともなう地理的集団分化
Araki Y, Sota T (2023) Whole-genome resequencing reveals recent divergence of geographic populations of the dung beetle Phelotrupes auratus with color variation. Ecology and Evolution 13:e9765. DOI:10.1002/ece3.9765.
荒木祥文君の博士論文の一部。近畿地方の赤,緑,瑠璃色の集団が分化したのは比較的最近だったという意外な推定結果。人間活動による生息地の分断化やシカなどの哺乳類(餌の糞を提供)の減少などが影響したと考えられます。
周期ゼミの生活史制御機構
どのように幼虫期間を13年・17年に制御しているのか、生活史のレビューと仮説の提唱
OPEN ACCESS
https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/1440-1703.12354
Sota T (2022) Life-cycle control of 13-year and 17-year periodical cicadas: a hypothesis and its implication in the evolutionary process. Ecological Research [published online]
こちらも御覧ください
周期ゼミ研究の最新レビュー
Simon C., Cooley JR, Karban R, Sota T (2022) Advances in the ecology and evolution of 13- and 17-year periodical cicadas. Annual Review of Entomology 67:457-482. http://arjournals.annualreviews.org/eprint/ZXSNGWJ5GJCKRKGMTCEC/full/10.1146/annurev-ento-072121-061108
Evolutionary Biology of Carabus ground Beetles -How Species Richness Increases
Springer, 2022
これまでのオオオサムシ亜属の研究をまとめた本を出版しました。
研究テーマ
種の多様性はどのように産み出されるのか
絶え間ない進化の中で,種はいかにして分かれ,また多種の共存が可能になるのでしょうか.適応と種分化,近縁な種の共存機構について,系統進化学や遺伝学を含めた多角的なアプローチで研究.
飛翔多型をもつ甲虫の全球的分散と種多様化
既知生物種の5分の1を占める甲虫類の種多様性は,中生代に放散して広く分散した各系統群が大陸移動により分断され多様化する過程と,大陸の分断後に飛翔や漂流により各大陸に移動分散したのちに放散する過程によりもたらされた.この研究では,後翅が退化した種を含み,系統群全体としては飛翔多型を持ちながら,汎世界的に分布する3つの甲虫系統群(オサムシ亜科、ハンミョウ科、ヒラタシデムシ亜科)を対象に,各大陸での移入と多様化の起源と、大陸間の系統分化年代を明らかにし,大陸の地史,系統群の移動分散過程と種の多様化の相互関係を解明する.また,後翅の退化による飛翔能力の喪失と種多様化の関係を検証.
交尾器形態の進化と種分化
体内受精をする動物の交尾器は,近縁種の間でも驚くほど多様で,また極端な形をするものもみられる.日本固有のオオオサムシ亜属では,雄交尾器と雌交尾器が鍵と鍵穴のように対応して進化していて,雌雄の交尾器の共進化を研究する上で,格好の材料を提供している.
オオオサムシ亜属の交尾器進化について,交尾器形質に作用する淘汰と,形態の種間差に関与する遺伝子に着目して研究.
陸貝食性オサムシの多様化
オサムシの食性は,大きく分けると昆虫食,ミミズ食,陸貝食(カタツムリ食)に分けられる.中でも陸貝食は,800種以上いるオサムシ亜族の約4割をしめている.陸貝食では,幼虫は陸貝だけを食べるが,成虫も繁殖のために陸貝を食べなければならない.成虫が陸貝を襲う方法は,殻を噛み砕くか,殻の中に頭を突っ込むかのいずれかである.2つの食べ方に対応して,しばしば頭部が肥大して噛み砕く力の強い巨頭型と,頭部が細長くなって頭を突っ込むのに都合のよい狭頭型の形態分化が見られる.
日本固有のマイマイカブリは,狭頭型の典型であるが,佐渡島に生息する亜種サドマイマイカブリだけは巨頭化している.この種の中の形態分化の遺伝的基盤について研究.また,中国やヨーロッパの陸貝が豊富な石灰岩地帯には,極端な巨頭型と狭頭型が分布し,両方が共に生息する場所もある.陸貝食の形態多様化と餌となる陸貝のファウナの関係について調査.
周期ゼミの進化
アメリカ東部には,17年または13年に一度大発生をするMagicicada属の周期ゼミが住んでいる.発生周期は,17年または13年の幼虫期の長さで決まっている.この属に は,Decim,Cassini,Deculaという3つの種群が含まれる.ひとつの場所には1つの年級群しかいない.これをブルードという.ブルード は,定義上,17年ゼミが17,13年ゼミが13あることになるが,現在発生しているのは,17年が12ブルード,13年ゼミが3ブルードだけである.各ブルードに は,異なる種群の複数の種が含まれていて,同じ場所で,2種または3種が同時に発生することが多い.
13年,17年という幼虫期の長さはどのように制御されているのか,そしてこのような長い幼虫期をもち,種間で同調した発生をする昆虫がどのように進化したのか,日米の周期ゼミ研究者と共同研究を進めている.
連絡先:曽田貞滋(京都大学名誉教授)
前職:京都大学 大学院理学研究科教授 (動物学教室 動物生態学研究室)
Contact: Teiji Sota, Prof. Emerit., Kyoto University
Email: sotateiji(at)gmail.com