予備知識 :高校程度の数学知識. たとえば, 松坂(著)数学読本1巻から5巻程度の知識があれば十分です. ただし、6章の代数学の基本定理のところは, この著者の集合・位相入門の位相の知識, 特にコンパクトや連続の知識があるほうが望ましい.
内容到達度 :大学で代数学を学ぶのに十分な内容を網羅しています. この本の最終目的をガロア理論の基本定理に設定しているため, それに必要のない内容, たとえば実閉体や実閉包などの重要な理論は取り扱われていません. 代数学を専門に学ぶにはさらに進んだ内容の本で学ぶ必要があります. 少し進んだ代数学の本として, 古い本では藤崎源二郎(著)「体とガロア理論」, 最近の本では雪江明彦先生の代数学1-3を読むといいでしょう.
読者対象 :高校数学程度の素養と現代数学に興味をもつ人. 代数学を体系的に, そして網羅的に学びたい人.
特徴 : 文章の記述に論理的ギャップが少なく, 数学の内容を論理式ではなく平易な文章で書いている. 本の内容と演習問題が教育的に配置されており, 前から順をおって理解し, 解くことができるようにされている.しかし, この著者の著作の中では最も論理的ギャップが多く, 演習問題も難しいものが多い割には解答は略解もしくはないものがある. 演習問題はとても多く, 読者が最初から全部解こうとするのは難しいだろう. その一方で, 演習問題を解いていないと先の内容がわからない場面に多く出会うことになるので, その場合は一旦戻って問題を解くとよい. 演習問題で最も難しいと感じたものを下に2つ挙げる.
1. 第5章§8問題3(対称式の基本定理)
2. 第5章§17問第8
特に2番目の問題は解くのに1ヶ月を要した.
第1章を具体的かつ初等的な数論にあてていて, 抽象代数に入っていけるように配慮されている. 2章は群論で, 最終目標はSylowの定理である. 3章を環・体論であるが, 1つの注意として, 準同型の定義に単位元を単位元にうつす, くわしくいうとR, R'を環とし, それらの単位元を1, 1'とするとき, 同型写像fの定義の条件として f(1)=1' となることが含まれているが, 別の本ではこの条件は除外されることもあるので, 別の本を読むときは注意が必要である. 第4章は線型代数の基本事項が扱われているが, 必要な知識は最小限度に抑えられているので, 線型代数を学ぶにはその他の本, たとえばこの著者の「線型代数入門」を読むとよい. なおジョルダンの標準形を, 代数系入門では構造定理で, 線型代数入門ではべき零変換を用いて証明しているので比較して読むと面白い. 4章は最も論理的ギャップを感じたので, その行間を埋める作業が大変であったことをここに記しておく. 第5章はガロア理論とその応用である. 個人的にはこの章が最も面白く感ぜられた. その理由の1つとして, ギリシャの3大難問のうちの2つ, Delos島の問題(立方体倍問題), 角の三等分問題を近代数学の力で解決することの見事さである. この面白さを感じるため, 是非とも読者は5章を読み終えてほしい. 6章は実数および複素数の構成, そして代数学の基本定理である. 上でも述べたが, 基本定理の証明には基礎的な位相の知識が求められており, この点でself-containde (自己完結)ではない. 代数学の基本定理を証明しているself-containedな本としては, たとえばこの著者の解析入門全6巻のうち4巻におさめられている .
読了期間 : 個人的な経験からいうと, 全演習を解くことを含めて1年半要しました.
この本を読む際に参考にした本 : 足立恒雄(著)「ガロア理論講義」, 松坂和夫(著)「数学序説」, 渡辺哲雄(著)「群論演習」, スチュアート(著)「明解ガロア理論」