圧電MEMS超音波トランスデューサ(pMUT)は,小型かつ低消費電力のレンジファインダーとして近年注目されており,ジェスチャーインターフェースやゲームコントローラの位置認識等への応用が期待されております。そして,より長距離でより正確な測距が可能なpMUTが求められております。これを実現するためには,pMUTに使われている圧電薄膜を高性能にする必要があります。では,どんな圧電薄膜が,pMUTの高性能につながるのでしょうか?
あらゆるセンサにおいて,信号雑音(SN)比は最も重要な性能の一つであり,高SN比を達成できる圧電薄膜が高性能といえます。そして,圧電薄膜の圧電定数と誘電率をそれぞれe31,f,εとしたとき,pMUTのS/N比は,機械ノイズが支配的な場合はe31,f2,電子回路ノイズが支配的な場合は(e31,f2/ε)2に比例します。実際にはこれらのノイズは混在するので,両性能指数の高い圧電薄膜を用いれば,pMUTは高性能化されます。我々の開発したc軸配向Pb(Mn,Nb)O3- Pb(Zr,Ti)O3 (PMnN-PZT)エピタキシャル薄膜(e31,f :-14.5 C/m2, 比誘電率εr: 200~300)の両性能指数は極めて高く(図1),超高性能pMUTレンジファインダーを創りだすことを約束しております。
そこで本研究では,これを用いたpMUTレンジファインダーを実際に試作し,その性能を評価しました。図2に,試作したpMUTレンジファインダーの概略図を示します。効率的な圧電駆動を実現するために,上部電極は2つに分けました。このデバイスの共振周波数,電気機械結合係数k2,機械的Qは,それぞれ約152kHz,6.4%,30でした。次に,このデバイスを2つ用意し,図3に示す実験系のもと,測距能を評価しました。送信側の上部電極の内側と外側には,それぞれ逆位相の駆動電圧を印可しました。一方,受信側は内側電極のみを使用し,チャージアンプで発生電荷を検出しました。SN比と測距距離の関係を図4に示します。閾値を12 dBとしたとき,1 Vp-pという小さな駆動電圧でも,最大測距距離2m以上を達成できました。デバイス構造や回路設計を最適化することで,さらなる高性能化が期待できます。このデバイスの素子は極めて小さいので,アレイ化による3Dイメージングや,ロボットやドローンに分散設置した衝突回避システムなどへの応用が期待されます。
引用:
第64回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,(2017),16p-411-6 吉田 慎哉,周 朕,田中 秀治
“MONOCRYSTALLINE PMNN-PZT THIN FILM ULTRASONIC RANGEFINDER WITH 2 METER RANGE AT 1 VOLT DRIVE”,
The proceedings of Transducers 2017, (2017) 167-170 Zhen Zhou, Shinya Yoshida, and Shuji Tanaka