近年,LSI上にDNAやタンパク質などの生体分子を検出する機能を設けた「LSIバイオセンサ」の開発が精力的に進められております。演算機能やアンプを集積化したLSIを用いることで,生体分子の電気的かつ高感度,高速の検出ができます。これまでの電流検出型LSIバイオセンサの作用電極には,プロセス適合性の問題から,AuやPtなどの貴金属電極が用いられてきました。しかし,これらの 電極の電位窓は比較的狭く,それによって測定対象物が制限されているという問題が生じていました。また,金属電極表面は,生体分子の吸着性が大きいといっ た問題も持っております。
そのような問題のない理想的な電極材料の一つとして『ダイヤモンド』が近年注目されております。しかし,高品質のダイヤモンドは通常800 °C以上といった高温環境下にて合成されるため,熱に弱いLSI上に直接形成することは不可能でした。そこで我々は,転写法を用いることで,LSIバイオセンサにダイヤモンド電極を集積化させることに成功しました。高温環境下にてダイヤモンド電極をシリコ ン基板上に形成し,樹脂接着層を介してそれをLSI基板上に低温で転写します。これによって,LSIにダメージを与えることなくダイヤモンド電極 を集積化できました。そして,試作したダイヤモンド電極集積化LSIバイオセンサアレイを用いてヒスタミンの酸化電流を検出することで,その拡散の様子を リアルタイムにイメージングすることに成功しました(図2,3)。これは,貴金属電極では達成できないことです。
本デバイスは,ヒスタミン神経などの生体組織からのヒスタミン放出のモニタリングや,細胞レベルでのアレルギー試験,ドラッグスクリーニングなど,様々な分野への応用が期待できます。
[引用]
[1] Hayasaka, T., Yoshida, S., et. al., (2015). Journal of Microelectromechanical Systems, 24(4), 958–967.
[2] 吉田 慎哉、井上久美、末永智一“ダイヤモンド集積化LSIによるバイオセンシング・イメージング” InterLab 110号 (2014) 24-29