縞枯れ更新林とは、一定の方向から吹く風によって、風下に面した樹木の一斉枯死とその後の一斉更新が繰り返されている林です。モミ属の森林にのみ見られ、地形や風向きなどの条件が揃うと枯れた樹木がきれいな帯上に並び、それが幾筋もできると縞状に枯れているように見えることからこう呼ばれます。
写真1 北八ヶ岳縞枯山の縞枯れ林
(以下の文章は東京大学秩父演習林のボランティア団体「しおじの会」の会報40号に掲載した文章を抜粋・改変したものです)
この縞枯れ現象が見られる場所として有名なのが、長野県北八ヶ岳の縞枯山です(写真1)。この山はその名が示す通り、まさに木が縞々に枯れて見え、最も綺麗な縞枯れ現象が見える山のひとつと言えます。実際には、北八ヶ岳の周辺の山々でも同じような縞枯れは起きていますし、小規模なものも含めれば、八甲田山、奥日光、秩父山地、中央アルプス、南アルプス、大峰山などの幅広い範囲で見られます。また、北アメリカ東海岸においても同様の現象が知られ、英語ではfir wave(モミの波)と呼ばれます。
この縞枯れが見られる場所には、ある一定の規則性があります。まず、シラビソやオオシラビソなどのモミ属の木が林を構成する亜高山帯の森林のみで見られます(これが英語で「“モミ”の波」と呼ばれる所以です)。特に、尾根付近にある亜高山帯のみで見られ、尾根から離れた亜高山帯では見られません。南西から南東の南よりの斜面で見られることが多く、基本的には風を主に受ける斜面であることが多いようです。このようなことから、縞枯れの形成には、地形と風が密接に関係していると考えられています。
現在、縞枯れは以下のように形成されると考えられています(図1)。まず、斜面の下の方で何らかの理由で木が枯れると、枯れた木の風下側(かつ斜面上側)の木は風上側の木がなくなったせいで風を強く受けることになります。そのため、風下側の木もまた風によるストレス(乾燥や凍結、物理的な損傷)によって枯れやすくなります。その結果、樹木の枯死が風下側に「伝染」するように広がります。この枯死の「伝染」は除々に幅を広げながら、一年間で平均数mほど風下側に移動します。一方で、枯死した木の下では、次々に新たな木が再生してきます。その結果、新たに枯死した部分だけが白く立ち枯れた林に見え、遠くからみると帯状に見えるのです。このように生じた複数の帯が、斜面上部に移動するにつれて結合し、除々に横並びになって(飛び出した部分はより枯れやすいため)、幅の広い枯死木帯が形成されると考えられています。この枯死木の「帯」が斜面下部で一定間隔にでき、徐々に斜面上方向に移動し(図2)、山の尾根付近で消滅するということが繰り返されているのです。多くの山では、せいぜいこの枯死木の「帯」が短いものが1-2本できるのみなのですが、おそらく山の形の関係で、縞枯山では、この「帯」が非常に長く、4-5本できるため、きれいに縞状に見えるのです。
このように、縞枯れは風による樹木の枯死とその後の再生の繰り返しによって、「縞」が移動しながらも同じような縞々な景観が維持されているのです。いつ訪れても同じような「縞」があるため、森に全く変化がないように思えてしまいますが、実際には森は小さな変化を繰り返しながら長い時間をかけて大きく動いているのです。
図1 枯死木帯の形成過程の模式図
図2 縞枯れ林の断面.
参照文献
Oshima Y, Kimura M, Iwaki H, et al. (1958) Ecological and physiological studies on the vegetation of Mt. Shimagare. Botanical Magazine, Tokyo 71:289–301.
Iwaki H, Totsuka T (1959) Ecological and physiological studies on the vegetation of Mt. Shimagare II. On the crescent-shaped “dead trees strips” in the Yatsugatake and the Chichibu mountains. Botanical Magazine, Tokyo 72:255–260.
Sprugel DG (1976) Dynamic structure of wave-regenerated Abies balsamea forests in the northeastern United States. J Ecol 64:889–911.
岡秀一 (1983) 縞枯れ現象の分布に関する再検討. 地学雑誌 92:1–16.
Kohyama T (1988) Etiology of “Shimagare” dieback and regeneration in subalpine Abies forests of Japan. GeoJournal 17:201–208.
上記のように縞枯れ林は、風による小規模な撹乱とその後の更新が繰り返されることで、常に様々な発達段階の林分が一定の割合で混在するため、局所的には変化しつつも全体としては一定の状態が保たれている「動的平衡状態」が維持されている生態系の例として取り上げられることがよくあります。しかし、縞枯山の縞枯れは、1959年の伊勢湾台風(「伊勢湾台風による大規模撹乱の影響」参照)の影響を強く受けており、今もその大規模撹乱からの回復途上であることがわかってきました(Suzuki 2016)
北八ヶ岳の縞枯れ林においては、シラビソとオオシラビソという2種のモミ属が共存しています。どちらも耐陰性が高い種ですが、両者を比較するとオオシラビソの方が耐陰性が高く、シラビソの方が明るい場所での成長がいいと考えられています。そのため、オオシラビソは林冠が小規模に開くようなギャップでの更新に有利で、シラビソは大きく林冠の開く縞枯れ型の更新に有利だと考えられていました。ところが、縞枯れ林内に多数設置した調査区の10年間の観測の結果、高さ1~2m程度の稚樹段階以降の林分ではシラビソとオオシラビソで優占度の変化はないこと、稚樹段階においては林冠が開ける前に形成された稚樹バンクの量に大きな空間的なばらつきがあり、稚樹バンクが多い場所ではオオシラビソが優占していることがわかりました(Suzuki et al. 2023)。つまり、稚樹段階での両者の割合がその後の発達段階を通じて継続されるため、シラビソとオオシラビソこのような稚樹バンクの量の空間的なばらつきが、縞枯れ更新林におけるシラビソとオオシラビソの共存に重要であると言えます。
この縞枯れ更新林では、一斉枯死をする地帯が徐々に風下に移動し、その後から次々に樹木が更新をするため、風下から風上に向かって順々に若い林から成熟した林が順序良く並んで分布するようになります。そのため、そのような様々な成長段階の林を比較することで、森林の長期的な成長の過程をおおよそ見ることができます。
この研究では、この縞枯れ林で、森林の構造(密度や胸高断面積合計)のバラツキが発達段階により、どのように 変化するかを、階層ベイズモデルという手法を用いて解析しました(Suzuki et al. 2009)。その結果、森林構造のバラツキを異なる空間スケールで明らかにするとともに、そのバラツキ の大きさが森林の発達に伴い変化すること、またスケールによってその変化の仕方が異なること、を明らかにしました。
近年、全国で問題となっているシカの個体密度の増加が、北八ヶ岳周辺でも同様に問題になっています。縞枯山の縞枯れ斜面においても2000年以降に増え始めています。これまでの研究から、縞枯れ林において、2002年に比べ2012年にシカによる樹皮剥ぎが急激に増え、斜面の下の方では6割近くの幹で樹皮が剥がれていることが明らかとなりました。(鈴木ら2015)