私は様々な森林の長期的生態系の長期的変化を調べています。そうすると、その変化のなかには近年の気候変動に起因するものではないかと考えられる変化も見られます。例えば、全国スケールの毎木調査データの解析によって、常緑広葉樹林と落葉広葉樹林の分布境界域付近の森林では、徐々に常緑広葉樹の割合が増えていることがわかっています(Suzuki et al. 2015, 「全国の樹木群集のパターンと動態」の項参照)。また、秩父山地(東京大学秩父演習林)の森林では、過去にバイオマスの増加速度が加速した後、近年減速に転じた可能性が示されています(Suzuki SN. 2021 , 「秩父山地の長期的森林動態」の項参照)。
北海道の針広混交林では、近年針葉樹の割合が減って広葉樹の割合が増えていることが報告されています。台風などの自然攪乱や伐採などの人為攪乱の影響も関係していると考えられますが、二酸化炭素濃度上昇も含む気候変動の影響が関係している可能性もあります。現在、北海道の針広混交林で広葉樹が増えていることの原因の解明に取り組んでいます(科学研究費補助金基盤C)。
北八ヶ岳の亜高山帯を中心に、亜高山帯の森林の研究を長期にわたって研究しています。
現在は、北海道内の風倒地に関する研究(Morimoto et al. 2019, Hotta et al. 2020)や、東京大学北海道演習林の針広混交林の動態に関わる研究(小川ら2021)に取り組んでいます。
森林の炭素蓄積の変化は、植物(主に樹木)の成長と枯死部分(落ち葉や枯れ木)およびそれに由来する物質の分解(微生物などの呼吸)の収支によって決まります。植物の成長については、非常に詳細な研究が行われているのに対し、分解については、今だ不明点が多いのが実情です。特に、森林の場合、樹木が生産した物質の半分以上は、その幹(根を含む)に投資され、その幹が生きた植物バイオマスの大半を占めるにも関わらず、その幹の分解の速度については、おおまかなことしかわかっていません。現在、枯死木の分解速度や分解に関わる生物群集についての研究に取り組んでいます。
多地点同時倒木モニタリングプロジェクト:PLIDE project
https://sites.google.com/view/maruta
東京大学秩父演習林は、約100年の歴史があり、100年以上にわたって、ほとんど人の手が加わっていない老齢林や老齢二次林が多く残されています。そのような森林で、長期にわたって森林の変化が調査されています。そのため、長い間人の手が加わっていない森林が長期的にどのように変化していくかを研究する好材料と言えます。一方で、近年、ニホンジカの密度が増加し、下層植生や樹木の更新に大きな影響を与えています。そのような秩父山地における長期的な森林動態についての研究に取り組んでいます。
研究例
様々な林齢の森林を30年以上継続測定したデータと、種ごとの平均葉面積比(Leaf mass area)のデータを組み合わせて、100年スケールでの遷移の過程で群集レベルでの葉面積比の平均が主に個体の加入によって変化していることを示しました。
Suzuki SN, Hirao T (2018) Recruitment drives successional changes in the community‐level leaf mass per area in a winter‐deciduous broadleaf forest. Journal of Vegetation Science 29 (4), 756-764
様々な林齢の森林を30年以上継続測定したデータの解析によって、同じ林齢の林のバイオマスが、過去に比べて現在の方が高くなっていることがわかりました。これは、森林の成長速度が加速したためだと考えられます。一方で、過去30年での森林の成長速度は減速傾向にあります。これらの結果は、30年前よりも以前に森林の加速が起きており、その後減速に転じた可能性を示唆しています。
Suzuki SN. (2021) Acceleration and deceleration of aboveground biomass accumulation rate in a temperate forest in central Japan. Forest Ecology and Management 479, 118550
環境省のプロジェクト「モニタリングサイト1000」森林・草原調査「モニタリングサイト1000」森林・草原調査のデータを活用し、全国の樹木群集のパターンや動態を解析しています。
例えば、全国の多くの樹種が、より気温の低い場所ほど新規加入(新たに測定対象となった個体)の率が高く、死亡率が低い傾向にありました。その結果、分布域のより気温の低い場所で個体数が増加し、気温の高い場所で減少する傾向がありました(Suzuki et al. 2015)。この種ごとの増減傾向は、樹木の生活史タイプ(常緑広葉樹、落葉広葉樹、針葉樹)の割合の変化にも影響し、常緑広葉樹林と落葉広葉樹林の境界域で、常緑広葉樹が増加し、落葉広葉樹が減少していました。これは、バイオーム(常緑広葉樹林・落葉広葉樹林)の分布が、徐々に寒い地域の方向にシフトしつつあることを示唆しています。
十勝平野はかつて広大な森林に覆われていましたが、1880年代からの農地開拓によりその大部分が急速に失われ、現在は小さく分断された森林が残されているのみです。残された森林群集においても、森林の連続性の低下(面積効果)や林縁部の増加による環境変化(林縁効果)のために、森林の種組成が変化し、結果として生物多様性の減少が懸念されています。この研究では、構成種の分布と動態、群集構造に及ぼす分断化の影響を明らかにし、森林の保全・管理に有用な情報を提供することを目指しています。( 紺野康夫博士(元帯広畜産大学)らとの共同研究)
これまでの解析によって、十勝平野の断片化された林の樹木群集は、林縁の影響を強く受け、林縁周辺の樹木の種組成は林内とは異なる種組成になっていました。その結果、林縁の影響を強く受ける面積の小さい林分では、一部の林内性樹木が見られず、林分単位で種組成が大きく変わっていることがわかりました(Suzuki et al. 2013)。
植物は光や土壌中の栄養塩などの資源をめぐって常に近隣の個体と競争しています。他の個体がすぐ近くにいると資源を奪い合うため、周りに多くの個体がいると成長が低下したり、死亡率が高くなったります。このような植物同士が及ぼし合う負の相互作用が、植物の個体群や群集の構造に与える影響はこれまで盛んに研究されてきました。一方で、植物同士にはしばしば一方が他方に(もしくはお互いに)有益な(正の)効果を与えることがあります。例えば、砂漠などでは、乾燥に強い低木などの下の日陰で他の植物が定着しやすくなることがあります。このように植物同士の正の相互作用と負の相互作用が同時に働くことで、複雑な群集を形作っています。
奈良公園には、シカが高密度で生息しており、奈良公園の植物はシカによって頻繁に被食されます。その中には、イラクサのように毒性の刺を持つことでシカに食べられにくい植物もいます。その毒のある刺(刺毛)のために、シカはイラクサを食べないだけではなく、イラクサのすぐ近くの植物も食べにくくなると考えられます。つまり、イラクサのおかけでその近くの植物は食べられにくくなるという正の効果があると考えらます。それと同時に、イラクサと近隣の植物の間には競争による負の効果も存在します。そのため、イラクサが総体として他の植物に与える影響(net effect)が正であるか負であるかは、正の効果と負の効果の相対的な強さによって変わります。この研究では、イラクサが他の植物に与える影響が、どのような条件で正や負になるかを調べることで、シカが高密度に生息している場所でイラクサが植物群集の構造に与える影響を調べています(RO Suzuki & SN Suzuki 2011, SN Suzuki & RO Suzuki 2011, RO Suzuki & SN Suzuki 2012)。(琉球大学 鈴木亮博士との共同研究)
2012年より、「地球環境再生プログラム~中部山岳域の環境変動の解明から環境資源再生をめざす大学間連携事業」に参画し、中部山岳域の生態系変動の解明に取り組んでいます。中部山岳域は3000m級の山々が数多くあり、非常に多用な地形・環境が広がっています。そのため、様々な生物が生息・生育しています。一方で、高山帯の生態系は気候変動に脆弱であると言われており、将来生態系の働きや生物群集が大きく変化することが懸念されています。この研究では、気候変動が中部山岳域の生態系に与える影響を解明し、その緩和策を探ることを目的にしています。この目的のために、中部山岳域をフィールドにする多くの科学者と連携し、多地点で生態系のモニタリングや、生態系の形成・動態に関わる要因の解明に取り組んでいます。