中京大学経済学部の深堀ゼミは労働経済学のゼミです。ゼミの募集・選考は2年次の春学期に行われますが、労働経済学Ⅰも2年次春学期に開講されたばかりで、労働経済学についてよくイメージできないために深堀ゼミを志望候補から外してしまうことも少なくないかと思います。そこで以下ではいくつか労働経済学で取り扱うテーマについて参考になるような図書を挙げたいと思います。比較的軽く読めるものに絞りました。
労働経済学全般
永野(2017)は入門書とはいえテキストなのであまり面白くないかもしれません。
労働経済学全般(※本の一部が労働経済分野に該当)
格差問題・家族の経済学
労働経済分野・周辺分野のルポタージュ
経済学的な解説・考察は弱いですが、問題意識醸成には有益です。
労働経済分野・周辺分野のデータ紹介
経済学的な解説・考察は詳しくされていませんが、問題意識醸成には有益です。
※入門レベルのミクロ経済学の知識とその他の専門用語の理解が必要ですが、初学者がイメージしにくいような労働経済の研究テーマについて認識を広げることができるでしょう。
※野球と計量経済学(または統計学)の知識が必要。
ちなみに、スポーツを労働経済学的に考えたものとしては、次のリンク先のエッセイが興味深いでしょう。「プロ野球と労働市場」「プロ野球監督の能力」「サッカーと労働」「大相撲の報酬制度に学ぶ」「ゴルフの経済学」「スーパースターの経済学」「企業がスポーツチームを持つべきか」「体育会系の能力」がそれに該当します。→『日本労働研究雑誌』2005年4月号(No.537)
※映画作品を例にした説明がされるため、取り扱う映画作品を前もって鑑賞していないと、読んでもイメージが十分に掴めず面白くないでしょう。
もはや図書ではなくなりますが、労働経済学者の講演動画がYouTubeにありますので、こちらで勉強してみてはいかがでしょうか(ゼミに入ったら本を読む習慣をつけてください)。講演内容は女性労働に関してです。ちなみに女性労働は労働経済学Ⅱで扱います。
以下では、中学生・高校生・大学1~2年生向けに、経済学の参考図書を挙げてみたいと思いますが、その前にこのリストを作成しようと思い立った動機を述べておきます。
これまで私は大学教員という立場で大学の新入生や高校生と接する機会が数多くありましたが、彼ら/彼女らに経済学に対するイメージを尋ねてみると「わからない(イメージが湧かない)」という答えも多くありましたが、それ以外では「お金儲けのための学問」「景気や株価を分析する学問」という答えが返ってくることがほとんどでした。前者は明らかな誤解、後者は偏見です。
経済学の裾野は幅広く、およそインセンティブと関わりがある事象はほとんど分析対象にすることが可能ですが、そうした応用分野の魅力は大学で経済学を学ぶまでは、知る機会が限られています。こうしたことが、経済学への先入観を招いているのではないかと考えています。
思い返してみると、私の中学・高校時代も、経済学の魅力を教えてくれる大人は近くにいませんでした。そう考えると、今も昔も、高校生は情報が少ない中で大学の学部選択を行っているのでしょうから、誤った認識に基づいて経済学を避けている人も多いのではないでしょうか。実に勿体ないことです。
そこで、中高生向けに「経済学はこういうことも扱うんだよ」という、経済学のパワフルな魅力が伝わるような図書を紹介してみようと思います。公民科目の課題図書や朝読書にも使えるでしょう。大学の1~2年生にもお薦めできます。
ただし、他人に薦める本は本来、相手の興味・関心や感性、普段の読書習慣、知識のレベルに合わせてカスタマイズされるべきものです。今回はそれができないので、「きっとこういう本が最大公約数的にマッチするはずだ」という独断と偏見で選びましたが、レビューサイトなども併せてご覧頂ければと思います。また、上記の動機から、経済学の入門テキストや経済ニュースの解説本はリストには含みません。これらは大きめの書店の経済コーナーに行けばすぐ見つけられるということや、テキストに書かれている体系的な経済学的知識は大学入学後に授業で学べるということもその理由です。
新書よりさらにライトな読み物です。絶版状態ですので図書館や中古市場で手に入れるしかありません。NHK Eテレの番組「オイコノミア」の書籍ですが、初学者向けの良質な経済学番組でした。さらに昔には「出社が楽しい経済学」という番組もNHKで放送されていました。こちらも書籍が出ていました。そろそろ経済学の番組復活を、とNHKに期待しています。
※中高生の中には「新書」の意味を知らず、「最近出版された本」(新刊書)のことだと思い込んでいる人も少なくないと思います。そうした意味で使うシーンもたまにありますが、多くの場合は違う意味で使われています。ググって意味を調べてください。
以上の3冊は労働経済学や行動経済学の視点をメインに現実の経済問題の解説がなされています。章や節が短く、章は互いに独立しているので、トピックが多く、またどこから読んでも良い作りになっています。そのため普段本を読まない人でも読みやすいと思います。実証研究の結果についても言及され、理論に留まらない知識を得られるのも特徴です。これらより分野を少し広く取っているのが下記ですが、複数の著者が分担執筆しているのでトピックごとに文章の雰囲気や内容の難しさが少し異なります。
以上の大竹文雄先生の一連の著作と比較してややライトなものが下記です。経済学の概念をキーワードごとに解説したものです。ミクロ経済学的なキーワードが多く取り扱われています。この本もどの章から読んでも大丈夫な作りになっています。
同様にミクロ経済学的なキーワードを扱ったもので、上記より少しレベルが高いのが下記です。
子供の学力・能力形成に関して、現実の政策的課題や身近な疑問を教育経済学の視点に立って快刀乱麻の筆致で解説したのが下記です。大変優秀な啓蒙書にもなっています。一般的な新書より平易かつエキサイティングに書かれており、中高生にも身近な話題なので、興味を持って読み進められると思います。
原著のままでも十分わかりやすいと思うのですが、漫画版(『まんがでわかる「学力」の経済学』)も刊行されていることを御紹介しておきます。漫画が入っていた方が理解しやすいという場合には便利でしょう。
経済学の実証分野ではデータ分析を行うので、統計学や計量経済学の学習も必要になります。統計やデータリテラシーの入門書として、下記を挙げます(後の方ほどやや難解です)。
因果推論の観点で計量経済学的手法を紹介したものが下記です。数式なしでこれ以上ないというほど平易に説明がなされています。データから因果関係を導き出そうとする実証分野の研究者が、どんなことに注意して分析しているのかがよく理解できます。こんな本が学生時代に欲しかった。
ここまで、本について紹介してきましたが、経済学部への進学を考えているならば、中学生や高校生の頃に日本経済新聞を(興味を引いた記事だけで構わないから)読むことを習慣化して経済に対する問題意識を養うことをお勧めします。日本経済新聞が難しすぎるという時は、その他の一般紙の経済記事を読んでみましょう。経済学はあくまでも分析ツールに過ぎませんから、自分の中に問題意識が無いと学んでも得られるものが少ないでしょう。どんな記事も退屈に感じるようなら、もしかすると経済学部はミスマッチで、進路の再考が必要なのかもしれません。
加えて、経済に関心がある人は、企業経営にも関心があることが多いでしょう。日本経済新聞や日経MJを読んだり、WBS(テレビ東京系列)を視聴するなどして、自分がより強い関心を持っているのが経済なのか、企業の経営(マネジメント・マーケティング・会計)なのかを見極めてみることも重要でしょう。経済やビジネスに関するニュースに触れていけば、自分の興味関心もはっきりしてきます。もし企業経営の方に関心があるなら、経済学部ではなく経営学部や商学部などへの進学の方が幸せな選択になりそうです。
ただし、数ある大学の中には、経営学部や商学部の名を冠していても、経営学分野だけでなく経済学分野も学部の大きな柱として重点的に教育しているところもあります(経済学のゼミが多くある等が特徴)。そうした大学で経済学や経営学を広く学ぶという選択肢もあります(かくいう私がそのタイプの進学でした)。各大学の違いを調べて、自分にとっての最良な進路をじっくり考えてみてください。もちろん、経済学だけを深く学びたいのなら、経済学部が最適です。経済学に特化しているぶん、カリキュラムも充実している可能性が高いですから。
金沢学院大学(前所属先)のKGフロントランナープログラムのプロジェクトとして開講していた「応用経済学チャレンジセミナー」(2016~2019年度)で教材として使用した文献です。
『経済セミナー』2016年12・2017年1月号 通巻 693号(【対談】神林 龍×樋口美雄「労働経済学と政策をつなぐ」)
エドワード・P・ラジアー,マイケル・ギブス(樋口美雄 監訳, 成松恭多 訳・杉本卓哉・藤波由剛 訳)(2017)『人事と組織の経済学・実践編』日本経済新聞出版社
デイビッド・ベサンコ, デイビッド・ドラノブ,マーク・シャンリー(奥村昭博・大林厚臣 監訳)(2002)『戦略の経済学』ダイヤモンド社
KGフロントランナープログラムについて補足説明しますが、私が金沢学院大学を退職した2020年3月以降の状況はわかりませんので、最新の情報は金沢学院大学にお問い合わせください。
このプログラムは金沢学院大学独自の少人数課外教育プログラムです。教員1名につき学部1~2年生を中心とする少人数の学生を担当して指導します。ゼミの1・2年生版とイメージして頂ければ実態に近いでしょう。内容は教員により様々です。原則として成績(GPA)が優秀な学生を対象としており、応募学生のみが参加できます。また受け入れる教員側も、プログラムの趣旨に賛同した意欲ある教員しか参加していません。丁寧な指導と教員との密なコミュニケーションが期待できますので、学習意欲のある金沢学院大生にはとてもおすすめです。指定図書などの教材購入費は発生するかもしれませんが、受講自体に料金は発生しません。参加しないのは勿体ないと思います。
ちなみに私はこのプログラムの企画段階からワーキンググループメンバーとして関わっており、退職時まで学部全体の幹事をしていました。「フロントランナー」という本プログラムのネーミング案をワーキンググループの会議で発言したのも私です。そのため今でも愛着と思い入れがあります。末永い活動継続と成果の結実を祈っています。
これまで授業で指定したテキスト・参考書の中から、使いやすかったものや印象に残っているものを紹介します。様々な授業での私の試行錯誤の記録ともいえます。
人事経済学
中京大学経済学部の2年次のゼミの輪読図書として1期生~3期生の3年間使用しました。
中京大学経済学部で「マクロ経済学入門」を担当した際に、授業範囲のトピックス(GDP、物価指数、45度線モデル、IS-LMモデル)の解説を丁寧に行っているテキストを探した結果、この本に行き付きました。初学者がケインズ経済学を勉強するには良い本だと思います。
「金融論入門の入門」に当たるテキストとして貴重な存在で、普通は省略されがちな初歩的な事柄についての、噛んで含めるような説明の分かりやすさは群を抜いています。経営系の学部で金融を初めて学ぶ学生向けのテキストとして使用していました。ただし、エッセンスを掴みやすいぶん、レベルは高く設定されていないので、これだけで大学の専門教育を完結できるわけではありません。
この本は有斐閣ストゥディアシリーズの一冊ですが、「初めの一冊」に適した本を探す際にまずはこのシリーズに初めに当たってみることにしています。
授業のレベル設定を少し引き上げ、川西・山崎(2013)から乗り換えて使用したテキストです。これもわかりやすいテキストで、問題が付いている点も使用のしやすさに一役買っています。
参考書に指定しました。他のテキストではほとんど見られない市場の公正化や制度的補完性に関する記述が充実しています。
国際経済学は入門テキストで易しいものがそこまで多くない印象です。そんな中でこのテキストは部分均衡分析の図による説明がシンプルで学生にも理解させやすいので、他のテキストと比較して使いやすかったです。