クメール遺跡は、現在のカンボジア周辺にあった王朝ですが、文化の伝播は、南インドからスリランカ島からインドネシアの島々を経てたどり着いたと言われています。そのため、インドの有名な神話などは、ヒンズー教や大乗仏教と共に伝来しクメールにも根付いたようです。
その中でも天地創生の神話でもある乳海撹拌は、アンコールワットの回廊にも大きく描写されており有名なものとなっています。
私は、クメール遺跡からインドのカジュラーホ遺跡および、エローラ石窟、アジャンタ石窟と探索してきました。そんな中で、この乳海撹拌は、天地創生の神話、宇宙の成り立ちのような神話と言われていますが、その神話ができたころの人々にとって、人と人が混じり合って子を授かるということが、とても神秘的であったのでそれが、新たに人が生まれるまでの行為=天地創生と結び付けて語られるようになったのではないか。と思うようになりました。
ヒンズー教では、リンガとヨーニを祀って信仰します。このリンガは、男性の性器。 ヨーニは、女性の性器を表わしています。また、リンガは、ヨーニの上に乗った状態で祀られていますが、これは、男性の性器が、女性の性器の中に入っている状態を表わしているそうで、我々はそれを子宮の中から見ているのだそうです。ですので今我々が目にしているものは実は子宮の中であるということなのだそうです。この世の世界は、子宮の中であるという世界観でしょうか。
現在では、細胞や、精子と卵子、X染色体、Y染色体、DNAなどと科学的に理解されるようになりましたがそれでも人が誕生するということは未だに神秘的なことであります。
それで、もう一度乳海撹拌が、どんな話であったかというと・・・。
乳海撹拌は、よく出てくる話でヒンズーの神々のお話。
インドラ神のした何げない行動に激怒した賢者に神々が呪いをかけられ能力を奪われてしまった。
そこへアスラ(阿修羅)が天に侵攻し、危機が訪れる。
インドラ神は、シヴァ神やブラフマー神に助けを求めたところビシュヌ神が、こう言ったそうだ。「不老不死の霊薬『アムリタ』を飲めばもとの力が蘇る。」
しかし、神だけでは、到底作れない作業であるという。
そこで、アスラにも半分与えるという条件で手伝ってもらい、乳海撹拌と言う壮大な作業がはじまる。
まず、曼荼羅山を回し、海を撹拌して乳海を作らなければならないという。
ビシュヌ神の指揮のもと曼荼羅山の下にビシュヌ神の化身である大亀『クールマ』を潜り込ませ、ガジュマルの木で大亀と曼荼羅山をしっかりと固定する。
それに、大蛇ナーガの王『ヴァースキ』を綱として巻き、神々とアスラ(阿修羅)たちが、曼荼羅山の頂上にいるブラフマー神の指揮に合わせ、両方から引き合う。
まるですりこぎの様に曼荼羅山は回転し、海に混ぜたあらゆる物と海に住む生物は、細かく裁断され乳海となっていく。
更に1000年もの月日が経つと乳海から初めは白象から宝石や泡に包まれた天女『アプサラ』など次々と生まれた。
そして最後に医神が『アムリタ』の入った壺を持って現れた。
アスラ(阿修羅)と神々はこれを奪い合うが、ビシュヌ神が、美女に化け、天女とともにアスラ(阿修羅)を誘惑し、その隙に神々が『アムリタ』を手中に収めた。
その後ラーフというアスラが、こっそりアムリタを飲んだのを太陽神と月神が、ビシュヌ神に告げ口をし、ラーフは首を切られ頭だけとなり、今でも太陽神と月神を追いかけ飲み込もうとしている。『日食と月食』は、ラーフのせいとのこと。
私はこう解釈しました。大亀は、男根の象徴。乳海は、愛駅や精液で満たされた膣内。アムリタは精子や卵子もしくは受精卵でしょうか。そして撹拌は、性交を表し、乳海から現れる白象や、宝石、泡に包まれたアプサラは、快楽を表わし、さながら神々とアスラは、現代でいうところの天使と悪魔という心の二面性でしょうか?