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資本主義はどこへ向かうのか?

―ピケティ『21世紀の資本』論争を超え、何を展望するか―

 

昨年(2015年)の公開研究会では「『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著)と現代資本主義 ― 格差拡大社会の分析と克服の道をさぐる」をテーマに、現代資本主義の矛盾の解明、税制改革、国際的な金融・資本統制など、現代資本主義に対する分析視覚や変革の可能性について幅広く議論しました。

今年度は、昨年のピケティ論争がまるで嘘のように潮を引いた後をふりかえりつつ、あらためて現代資本主義がどこへ向かおうとしているのか、その変革の契機や可能性はあるかについて、幅広く論じていくことにします。とくに、貨幣・コミュニケーション・地域の視点から現代資本主義の限界とオルタナティブの可能性、地球環境問題・エコロジー的制約の視点から現代資本主義はどう変わりうるのか、といった論点を柱に立てて、多角的に議論を深めます。(公開研究会2016年2/11)

・報告1「資本主義はどこへ向かうのか ― 貨幣・コミュニケーション・地域の視点から」

西部 忠(北海道大学大学院経済学研究科教授、進化経済学)

・報告2「資本主義が転換する契機とは ― 環境・開発レジーム形成の視点から」

古沢広祐(國學院大學経済学部教授、環境社会経済学)

・報告へのコメント1「逆流する資本主義から見えてくるもの」

伊藤 誠(東京大学名誉教授、理論経済学)

コメント2「社会に埋め込まれた経済(ポランニー)からの論点」

   室井 遙(東京大学大学院総合文化研究科博士課程、経済人類学)

 

・パネルディスカッション(総合討論):「 現代資本主義の矛盾克服の可能性を考える 」

  (パネラー:報告者、コメンテイター)

<<録画記録>>

*西部忠氏報告 https://www.youtube.com/watch?v=zuV6-Af4Wys

*古沢氏報告 https://www.youtube.com/watch?v=6_7Qmd9Q0gA

*伊藤/室井氏コメント https://www.youtube.com/watch?v=_rgV6Vbm5W0

*質疑回答コメント https://www.youtube.com/watch?v=0AYEolmv8Dk

<<概要紹介>>(映像アーカイブをご覧になる際のイントロとして概略紹介)

第1報告(西部、進化経済学)は、3つの柱から問題提起しています。導入は現代のグローバリゼーション(資本主義)の解説(多少とも専門理論や学説を下敷きに展開)、そして教育が投資(人的資本論)としてしか考えない風潮の歪みを論じています。次に脱工業化とサービス・情報化に移行した現代経済(情報・金融資本主義)の歪み、一元的マネー(貨幣)経済がもつ危うさを批判しつつ、交換を支える貨幣の再構築へ向けた方向性(地域通貨、多元的交換・コミュニティ形成ツール)が提示されました。

第2報告(古沢、環境社会経済学)では、資本主義を論じる視点・論点が多岐にわたることを踏まえ、ピケティの格差・不平等の分析が継続的に展開されている動きを紹介しました。それは大きな波紋を広げており、米国のサンダース旋風(民主党候補)に通じています。紆余曲折はあるものの、極点にまで達した新自由主義的資本主義(62人の富豪が世界人口36億人分の資産を保有)は調整局面にあり、偏狭なナショナリズムやファシズム的に傾斜するか、より公正で民主的な制度形成に向かうのか微妙な局面にある点にもふれました。方向性としては、旧来の国家制度だけではない多様な価値と政治形成、とくに新しい環境・開発レジーム形成が、企業の社会的責任を問い、協同・共生的な経済と社会形成の可能性につながっていく期待が示されました。

続くコメントとしては、とくに交換関係(貨幣)からの変革がはたして生産関係、生産様式につながるのか(伊藤、理論経済学)、貨幣と市場の意味性の回復への期待(室井、経済人類学)などといった論点などが述べられました。多数の参加者・聴衆から様々な意見やコメントが出されましたが、残念ながら時間切れの幕引きとなり、次回以降への期待として引き継がれることとなりました。今回は、資本主義の可変性や拡大増殖する力のダイナミズムを視野に入れつつ、その弱点と不安定性を超えていく契機を、どこに見出せるかに焦点をあてようとした点にあります。必ずしも明解な答えを提示できていませんが、「資本に転化しない貨幣」(交換様式)の実践的な試みの重要性、逆流(暴走)する資本主義を抑え込む公的(政治権力)な制度介入の方向とともに地球市民的な多様なレジーム形成の役割の重要性が、メッセージとしては示されているかと思います。

(研究会の様子) http://pr.kokugakuin.ac.jp/event_extramural/2016/02/11/173006/

<<外部リンクにて詳しい紹介がされております>>

http://www.blog-headline.jp/sustena/2016/02/post_118.html